2018年2月の音楽

Index

  1. I Can Feel You Creep Into My Private Life / Tune-Yards
  2. The Official Body / Shopping

I Can Feel You Creep Into My Private Life

Tune-Yards / 2018 / CD

I can feel you creep into my private life [輸入盤CD](4AD0052CD)

 2018年に入ってからリリースされた新譜のうち、僕がもっとも盛りあがったのがこれ。ニューイングランド出身のメリル・ガーバスという女性によるソロ・プロジェクト、チューン・ヤーズの4thアルバム。
 僕がこのグループの名前を知ったのは、たぶんセカンド・アルバムのときで、そのころは「tUnE-yArDs」という奇妙な表記を使っていたこともあって、「なにこのバンド、名前読めない」と思ってスルーしてしまった。もしくは音は聴いてみたけれど、その時点ではぴんとこなかったか(記憶にない)。少なくても今回このアルバムを聴くまで、僕はこのバンドにまったく興味を持っていなかった。
 そんなバンドの音楽をこのタイミングで聴くことになったのは、この一月にまったく知っているバンドのリリースがなかったため。リリース・ラッシュも困るけれど、かといって新譜がぜんぜんないってのもつまらない。なのでメディアが取り上げている新譜のうちになにかおもしろい作品はないかと物色していて、ふと目についたのがこのアルバムだった。あ、このバンド知ってる(正しくは名前を見たことがある)と思って、じゃぁせっかくだから試しに聴いてみようということになったのだった(知らないバンドの新譜をフルで聴けるのがネットワーク時代のいいところ)。
 そしたらば、だ。
 これがよかった。すこぶるよかった。もう最初の一音めからよかった。一曲目のイントロで鳴る不協和音的なピアノのコード。その響きだけでもう、おっ、これはもしやと思わせるものがあった。そこから先はあっという間にどっぷり。
 安直に表現すれば、ベックやセイント・ヴィンセント、ダーティー・プロジェクターズあたりに通じる豊かな音楽性を持った女性が、打ち込み主体でアフリカン・ビートをフィーチャーしたオルタナティブなダンス・ミュージックをやっている感じ。音は打ち込みなんだろうけど、ダーティー・プロジェクターズの最新作のように密室的ではなくてなく、ダンサブルで開放的なところがいい。
 僕は民族音楽ってあまり得意じゃないけれど、彼女の場合はアフリカン・ビートが白人のセンスで中和されて、とても耳に馴染みやすい音になっている。昔ならばトーキング・ヘッズがやっていたことを、コンピュータの力を借りて現在進行形のソロ・ユニットでやっているとでもいった感じでしょうか。
 とにかく歌モノ主体で聴きやすいし、かなりポップだと思うんだけれど、それでいて下手にポップすぎない。絶妙なさじ加減のダンス・ミュージックとして最高に気持ちよく聴ける。あまりによかったので、旧譜を含めて全作品をCDで買わずにいられないほど気に入りました。
 あと、彼女の音楽ってあまり女性っぽくないところもおもしろいと思う。僕はこのアルバムを気に入って、そのプロフィールを調べるまで、このアルバムが女性の作品だってまったく気がつかないでいた。
 いわれてみれば、ほとんどが女性の声のようだけれど、女性にしては声が低めなこともあって、僕は黒人の男性ボーカルが参加しているのだと思っていた。なので、このバンドが女性のソロ・ユニットだと知ったときにはマジで驚きました。ここまで女性性を感じさせない音楽を作る女性ミュージシャンって珍しい気がする。そういう意味でも貴重な存在だと思う。
 というわけで、わずか一ヶ月でいきなり僕にとっての最注目アーティストのひとつとなったチューン・ヤーズ。今年はフジ・ロックで来日するらしいので、観にゆくべきか悩んでいる。
(Feb 25, 2018)

The Official Body

Shopping / 2018 / CD

THE OFFICIAL BODY

 もう一枚、これも一月のリリース閑散期に初めて聴いたアーティストの作品。ロンドンをベースに活動する男女混成のスリー・ピース・バンド、ショッピングのサード・アルバム。プールにワニのバルーンの影が浮かんだジャケ写に惹かれて聴いてみたらとてもよかった。
 僕はたくさん音楽を聴いているわりには音楽ジャンルの知識には乏しくて、ポストパンクといわれても「なにそれ?」ってリスナーなんだけれど、このバンドはポストパンクだといわれて、あぁ、なるほどと思った。
 単音のギター・リフとベース・ラインのフックで引っぱってゆく音数の少ないミニマムな演奏は、いやおうなく初期のキュアーを思い出させる。いや、実際にはほかにもっと似ているバンドがありそうな音だけれど、僕が熱心に聴いている音楽のなかではもっとも初期のキュアーに近い音。なるほど、こういうのをポストパンクっていうのかと思う。
 男女ボーカルのスリー・ピース・バンドというと、最近では The xx やサンフラワー・ビーンなんかも同じ構成だけれど、このバンドには The xx のような深い情感やダイナミズムはないし、サンフラワー・ビーンのようにフォトジェニックでもない。それどころかアーティスト写真を見ても、どの人が女性なのかよくわからない。
 そう書くと、見た目も音も地味な、あまり取り柄がないバンドみたいだけれど、でもこのバンドの場合はそういう飾りけのなさゆえの気持ちよさがある。ほんのちょっとシンセが入っている部分なんかもあるけれど、基本は三人の演奏だけ。ギターとベースとドラム、ただそれだけ。
 それが激しくコードをかき鳴らしたりせずに、単音を刻んで隙間の多いミニマリズムな演奏を聴かせる。そこには自然体のスリー・ピース・バンドだからこそのよさがある。特別にキャッチーな曲があるでもないけれど、僕はこのバンドの出している音がとても好きだ。
 まぁ、さかのぼって過去の二枚も聴いてみたら、そっちはさらにミニマルでインディーズっぽく、それに比べるとこの最新作はけっこうウェル・プロデュースな感もあって(プロデューサーはなんと元オレンジ・ジュースのエドウィン・コリンズとのこと。へぇ~)、あれ、もしかしたら旧譜のほうが好きかも……とか思ったりもしたけれど、まぁ、それはそれ。このアルバムはこれで、やはりいい作品だと思う。
 チューン・ヤーズと並んぶ、この一ヶ月の僕のフェイバリット・アルバム。
(Feb 27, 2018)