Coishikawa Scraps / Books

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最近の五冊

  1. 『サバイバー』 チャック・パラニューク
  2. 『蘇えるスナイパー』 スティーヴン・ハンター
  3. 『小説の読み方、書き方、訳し方』柴田元幸・高橋源一郎
  4. 『村上朝日堂超短篇小説 夜のくもざる』 村上春樹
  5. 『マルドゥック・アノニマス11』 冲方丁
    and more...

サバイバー

チャック・パラニューク/池田真紀子・訳/ハヤカワ文庫NV

サバイバー〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)

 『ファイト・クラブ』の作者による長編第二作。

 帯にある「この作家の伝道のために生きています」という担当編集者の煽り文句につられて、『ファイト・クラブ』と一緒に買った本。

 これにつづく三作品(紙は絶版)も、Kindleのバーゲン期間に見つけてつい買ってしまったので、いまだ『ファイト・クラブ』も読まないうちから、僕のライブラリにはチャック・パラニュークの本が五冊もある状態だった。

 で、いざ読んでみれば、『ファイト・クラブ』は正直なところ、それほど好みではなく、つづくこの作品も冒頭からいまいち物語に入り込めなかったので、読んだことのない作家の本をいきなりまとめ買いしたのはまちがいだったかと、ちょっぴり後悔していたのだけれども。

 でも読み終えてみれば、これが意外とわるくなかった――というか、けっこうすごかった。『ファイト・クラブ』同様、僕にとっては共感のしにくい世界観ではあるけれど、小説としては好き嫌いを超越したパワフルさがある。

 物語は航空機をハイジャックした語り手が、乗客をすべて降ろして、操縦士も脱出させてひとりきりになったあと、自動操縦にした飛行機の燃料が切れて墜落するまでのあいだ、フライトレコーダーに吹き込んだ録音だという設定になっている。

 なぜ彼は飛行機をハイジャックして、ひとりで自殺しようとしているのか?

 カルト教団の生き残りとして数奇な人生を歩んだ彼が、その状況に至るまでの道のりが、残りのページを通して描かれてゆく。

 ハヤカワ文庫ではお馴染みの、登場人物の紹介ページにある名前はわずか四名。それもひとりとして本名とはいえない。

 たったそれだけの出自のあやしいキャラを動かして、四百ページ強のボリュームで描き出される物語のイメージは、そのディテールの曖昧さに反して、とても鮮烈だ。

 『ファイト・クラブ』につづけて、こういうパンチのある作品を書けるのだから、この人の作家としての力量は疑うまでもなさそうだ。

 まぁ、それでもやはり、作風の好き嫌いは別として――という断りはついてしまうのだけれど。

(Jul. 20, 2026)

蘇えるスナイパー

スティーヴン・ハンター/公手成幸・訳/扶桑社BOOKSミステリー/Kindle

蘇えるスナイパー(上) (扶桑社BOOKSミステリー) 蘇えるスナイパー(下) (扶桑社BOOKSミステリー)

 ボブ・リー・スワガーが老骨に鞭うって連続殺人事件の謎を追うシリーズ第六作。

 四人の元左翼運動家が殺される連続射殺事件が発生して、その容疑者として浮かび上がった伝説の元海軍スナイパーの自殺死体が見つかる。

 容疑者の自宅には犯行を裏付ける証拠が揃っていたが、あまりに都合のよいその状況をいぶかしんだニック・メンフィスは、ボブ・リーにスナイパーの立場から事件の調査を依頼する。

 ボブ・リーは射撃のまれにみる正確性から、犯人が使ったのは最新のコンピュータ制御のスコープであり、年老いた被疑者には扱えないシロモノであることを明らかにする。そして、罠にはめられて殺された同業者の汚名を晴らすべく、自ら事件の解決に乗り出してゆくことになる。

 ハンターの小説はいつだって銃などのトリビアがたっぷりだけれど、今回はとくにすごかった――ような気がする。最初のスコープやライフルの話とか、後半の拷問手法とか。そんなに親切丁寧に説明してくれなくてもいいんだけれどなって思ってしまった。

 でもそういう蘊蓄のくどさを除けば、今回も物語のおもしろさは衰え知らず。状況が二転三転する後半の展開は読みごたえ満点だった。

 なかでもスクープのためにニックを失脚させようとした新聞記者が自らの無知のせいで墓穴を掘る展開が痛快でよいです。

(Jul. 15, 2026)

小説の読み方、書き方、訳し方

柴田元幸・高橋源一郎/河出文庫

小説の読み方、書き方、訳し方 (河出文庫)

 翻訳家の柴田元幸と小説家の高橋源一郎が「小説とはなんぞや」について語り合った対談集。

 かたや日本におけるアメリカ文学の第一人者、かたや日本現代文学の魁的存在。そんなふたりがそれぞれの立場から、小説を訳すとはどういうことか、書くとはどういうことか、そしてどんな風に読むべきなのかということについて、それぞれの立場から語りあっている。

 柴田さんの専門は米文学だけれど、語られている海外文学は英米に限ったものではないし、日本文学はほとんどを知らない僕にとっては、高橋さんが語る作品のほとんどが未知の世界。それなりの量の本を読んできたつもりでいたけれど、僕くらいの読書量ではまったく本好きを名乗れないなぁと思わされた一冊だった。

 おもしろかったのは序章で柴田さんが語っている、自分は「適性とやりたいことがまったく合わない」という話(p.32)。

 適性試験の結果を見ると、事務能力が抜群だから、事務の仕事に就くべし、みたいな結果が出てくるのに、芸術にかかわる仕事がしたかった。結果として、文学作品を事務的に処理してゆく翻訳家という天職を得られて万々歳、みたいな話(意訳してます)。

 僕自身も音楽や文学に憧れながら、想像力が低すぎてまったくそちらの方面へ向かえず、適性にあったIT関係の仕事で糊口をしのいできた人間なので、すごく共感するものがあった。まぁ、比較するのもおこがましいけれど。

 いずれにせよ、自分の不勉強さを痛感させられた一冊。

 この頃は洋楽よりも邦楽のほうがおもしろいし、もしかして日本文学もいま読めば心に響く作品があるのかもしれないから、いずれこの本で紹介されている日本の作品をぼつぼつ読んでみようかなと思っている。

(Jul. 4, 2026)

村上朝日堂超短篇小説 夜のくもざる

村上春樹・安西水丸/新潮文庫/Kindle

村上朝日堂超短篇小説 夜のくもざる(新潮文庫)

 村上春樹という人の評価が賛否両論に分かれるのは――そして僕が春樹氏を無条件に受け入れられない理由は――こういう作品があるからなんだろうなぁって思うような一冊だった。

 『カンガルー日和』につづく二冊目の超短編小説集。

 とはいっても、こちらは安西水丸氏とのコラボで、連載誌の広告として掲載されたものとのことで、あちらよりももっと短い。

 僕が読んだ端末だと、小説本編は一話あたり三ページ足らず。『カンガルー日和』の表題作は九ページだから、一遍あたりのボリュームは三分の一。あちらが超短篇だとしたら、超々短篇って感じだ。

 さすがにそのページ数だと起承転結のある物語をつむぐのは難しいので、内容はワン・アイディアで笑いを誘うようなものが中心となっている。

 その内容がなぁ……。

 よくいえば無邪気でユーモラス。悪くいえば幼稚で馬鹿っぽい。

 単行本の刊行が1995年の六月だから、『ねじまき鳥クロニクル』と同時期の作品だ。すでに作家としての地位を確固たるものにしていた村上氏が、そのステータスからすると軽薄すぎる嫌いがあるこういう本を臆面もなく出しているという事実が、この人の評価を二分しているんじゃなかろうか。

 だって『ねじまき鳥クロニクル』を読んでファンになった人が、同じような作品を期待して表題作の『夜のくもざる』を始めとした動物がしゃべる系の話を読んだら、やっぱとまどうでしょう? なにこれって話になる。

 中には『夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について』みたいな味わいのある短篇もあるけれど、それはほんの一握りで、あとはナンセンスなものばかりだ。

 そういう村上さんを「おもしろい」「かわいい」と受け入れられる人を世間ではハルキストと呼ぶんだろう。残念ながら僕はそういう読者ではないので、うーんって感じになってしまう。

 とくに引っかかったのが『激しい雨が降ろうとしている』という作品のなかの一節。

 「これは小説ではなくて、ほんとうにあった話」と断って始まるこのエッセイの中で、春樹氏は若いころの自分について、「議会制民主主義に対して不信感を抱いており、一度も投票したことがない」と書いている。

 以前のエッセイでは子供はいらないっていっていたし、村上春樹という人が基本的に社会とは最低限しかかかわらないという姿勢を貫いているのは知っている。

 それは仕方ない。子供をつくらなかろうと、選挙にいかなかろうと、それは個人の自由だ。他人が口出しをすべきことではないと思う。人に迷惑をかけないかぎり、なにをするのも自由だ。僕だってゆかずに済むならば選挙になんかいきたくない。

 でも誰ひとり子供をつくらず、選挙にいかなくなったら、国は滅びるわけですよ?

 子供がひとりも生まれない国では、国民全員が年老いたあとに働き手がゼロになって、社会が回らなくなる。誰も選挙にいかない国では、立候補した悪人が独裁者になって、戦争を始めるかもしれない。

 僕らがいまのこの平和な日常を維持できているのは、ふつうに子供をつくり、選挙にゆく人たちがいてくれるからだ。

 村上氏の言説からは、そういうあたりまえのことに対する認識が感じられない。その一方でこの本に載っているようなナンセンスなユーモアをまき散らしている姿勢をみると、どうにも尊敬できないよなって気になる。

 選挙にゆかなくても、子供をつくらなくてもいいけれど、つべこべいわずに黙っていればよくないですか?

 「議会制民主主義に対して不信感を抱いており」なんてエクスキューズはいらない。金はいくらでもあるのだろうから、議会制民主主義に不信感を持っているのならば、議会制民主主義がない国を探して移住すればいい。そうもせずに日本でのほほんと暮らしながら「選挙には行きません」なんてのは単に無責任なだけだ。

 この本は英語に翻訳されていないようだけれど、もしも翻訳されて世界中の目に触れるようになった日には、村上春樹がノーベル賞を取ることは金輪際ないだろうなって思った。

(Jun. 27, 2026)

マルドゥック・アノニマス11

冲方丁/ハヤカワ文庫JA/Kindle

マルドゥック・アノニマス 11 (ハヤカワ文庫JA)

 前作から一年ぶり――といいつつ、遅ればせながらの読者の僕にとってはもうちょい短い――となる最新刊は、ラスティによるホテル籠城事件の決着編。

 序盤からゴリゴリと派手なバトルシーンが延々とつづくので、今回はただひたすらバトルあるのみ!――って展開で最後まで押し切るかと思ったらば、だ。

 ある程度ページ数を残して事件に決着がつき、謎の新キャラエド・ゴーリーの意外な正体があきらかになって、ようやく一段落……と思ったあとに。

 しばしのインターバルを挟み、もうひと波乱ある。

 オフィスとクインテットが同時にシザースの襲撃を受け、仲間がばたばたと倒れる緊急事態が発生。

 さらにシザースは、ノーマ・オクトーバーとの結婚を前提にしたおつきあいのため、彼女のウィルスに感染させられて人事不省となったハンターの拉致へと動き出す。

 この窮地を抜け出すため、バジルはバロットへの緊急コールを発動。

 かくして再び――ではなくみたび?――オフィスとクインテットとの共闘による戦いが始まる。今度の敵はシザース!

 なかなか終わりの見えなかったこの物語にも、ようやく真のクライマックスが近づいてきた感じがする。

 つづきはまた来年かぁ……。

(Jun. 16, 2026)