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Recent Notes

  1. 『ヒッコリー・ロードの殺人』 アガサ・クリスティー
  2. 『本当の翻訳の話をしよう』 村上春樹・柴田元幸
  3. 『蜘蛛の巣』 アガサ・クリスティー
  4. 『手掘り日本史』 司馬遼太郎
  5. 『今昔百鬼拾遺 天狗』 京極夏彦
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ヒッコリー・ロードの殺人

アガサ・クリスティー/高橋豊・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

ヒッコリー・ロードの殺人 (クリスティー文庫)

 なんかすごくひさしぶりのポアロもの。
 ポアロの秘書のミス・メロン(以前に出てきましたっけ?)の姉が寮母をつとめる学生寮で盗難や器物破損があいついでいると聞いたポアロが、そのお姉さん(ハバート夫人)をお茶に招いて詳しく話を聞いてみたところ、盗まれたもの――夜会靴の片方、ダイヤの指輪、電球、チョコレート、ホウ酸など――の一貫性のなさ、バラエティの豊かさに大喜び。おもしろそうだからと自らその学生寮へ出かけてゆくという話。
 というわけで、今回のポアロさんは若者ばかりを相手にすることになる。まあ、学生寮といいつつ、社会人も住んでいるし、ハバート夫人とか、寮の女性オーナーとか、警部とか、登場人物には若くない人もそれなりにいるけれど、とりあえず事件の中心となるのは若者たち。このポアロ・ミーツ・ヤングマンな構図がこの作品の醍醐味なのかなと思う。
 タイトルにもあるとおり、盗難から始まった事件は当然のように殺人事件へと発展して、さらにその背後には別の組織犯罪が……というような話になってゆく。その展開自体には意外性があるんだけれど、でもクリスティーの作品のつねで、そうやって犯罪組織がどうしたみたいな話になったとたんに、なぜだか妙に説得力がなくなる。クリスティーって組織犯罪に向かない人のような気がする。
 後半の謎解きは五月雨式で、謎がほつれてゆくように段階的に真相が明かされてゆく。そのためポアロの見せ場となる、関係者一同を集めての謎解きシーンはないけれど、いつもと違うその展開がけっこう新鮮でおもしろかった。
(Sep. 30, 2019)

本当の翻訳の話をしよう

村上春樹・柴田元幸/スイッチ・パブリッシング

本当の翻訳の話をしよう

 村上春樹と柴田元幸による翻訳についての対談集・第三弾。
 以前に出た『翻訳夜話』や『サリンジャー戦記 翻訳夜話2』と同じ趣旨の本だけれど、その二冊の出版社が文芸春秋だったのに対し、今回は柴田氏の主催する海外文芸誌『MONKEY』に掲載された対談が中心となっているため、出版社がその雑誌の発行元であるスイッチ・パブリッシングになっている。
 なので、『MONKEY』を読んでいない僕にとっては初めての話ばかり――かと思ったらそうでもない。村上柴田翻訳堂やチーヴァーの『巨大なラジオ/泳ぐ人』に収録されていた対談も収録されているので、およそ三分の一は再読だった。その点はちょっと残念(まあ、最近は記憶力ゼロなので、初めて読むも当然だったけど)。
 この本でもっとも印象的だったのは、対談に混じって一遍だけ柴田先生がひとりで行った講義の記録が収録されていること。明治時代の翻訳事情を紹介する意外な内容で、森田思軒(初めて知った)、黒岩涙香、二葉亭四迷ら、日本の翻訳黎明期を生きた翻訳家たちの偉業を紹介するその部分だけ、ほかとはあきらかにテイストが違う。僕にはその部分がこの本でもっとも興味深かった。
 あと、『翻訳夜話』と同じく、今回も村上・柴田両氏の翻訳合戦がある。しかも今回はチャンドラー、フィッツジェラルド、カポーティという、村上文学における最重要作家たちを取り上げているので必読です。
(Sep. 29, 2019)

蜘蛛の巣

アガサ・クリスティー/加藤恭平・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

蜘蛛の巣 (クリスティー文庫)

 クリスティーの戯曲・第四作目。地味なタイトルだから油断していたけれど、これがなかなか素晴らしい出来映えだったりする。
 舞台となるのは外交官邸宅の一室。「もしもある朝、書斎に降りてきて死体を見つけたら、わたくしはどうするか?」みたいなことを空想をするのが好きだと語っていたその屋敷の奥さまが、実際に自宅で死体を見つけてしまい、わけあってそれを隠さなきゃってことになってどたばたするコメディ・タッチの犯罪劇。
 死体をめぐって登場人物が右往左往するヒッチコックの『ハリーの災難』みたいな話なのかなと思って読んでいたら、途中で警察が出てきたところから物語が予想外の展開をみせる。しかも二転三転する。
 まあ、個人的には殺人犯人の設定がいまいちな気がしたけれど、この作品にはそれ以外の部分で十分すぎるくらいの意外性がある。舞台には詳しくないけど、この脚本、素人目には見事な出来映えなのではと思います。
 小説に限らず、こと脚本に関しても、これまでの四作品、どれもはずれなし。クリスティーって、じつは脚本家としてもすごいんじゃないだろうか。
(Aug. 31, 2019)

手掘り日本史

司馬遼太郎/文春文庫/Kindle

手掘り日本史 (文春文庫)

 Amazon Primeで無料で読めたから読みました第二弾。
 司馬遼太郎が江藤文夫という人による質問に答えた「聞き書き」に自ら手直しを加えたというエッセイ風の対談集――または対談ベースのエッセイ集。
 この本はとてもよかった。「自分のことを語るのがヘタなのです」といいながら、自らの祖父の出自を語ってみせた冒頭からしてすでにおもしろい。その部分だけでも十分に歴史小説的な旨みに満ちている。
 読書力が落ちまくりで、一ヵ月半ちかくかけてだらだらと、とぎれとぎれに読んだ上に、読み終わってから半月がすぎてしまっているせいで、すでに記憶があいまいで、どんな風によかったかうまく言葉にできないのだけれど――なんでこのページ数でそんなにかかっちゃうかな?――でも読んでいてとても気持ちが豊かになる本だった。司馬先生すごい。
 細かなところでやけに印象に残っているのが、司馬先生が天皇陛下のことを「天皇さん」と呼んでいること。その言葉に込められているのが親しみなのか、揶揄なのか、はたまた反感なのか、僕には読み取れなかったけれど、でも少なくても無条件の尊敬の念ではないんだろうなと思う。最近の公の場ではほとんど目にすることのない表記だったので、とても印象的だった。
 なんにしろ、日韓関係がこじれているいまだからこそ、戦後の日本を代表する歴史小説家の残したつれづれの言葉にはとても身に浸みるものがあった。
 この本はいずれまた読み返してちゃんと感想を書きたい。
(Aug. 26, 2019)

今昔百鬼拾遺 天狗

京極夏彦/新潮文庫

今昔百鬼拾遺 天狗 (新潮文庫)

 百鬼夜行スピンオフの三部作、最後の一編。
 ここまで二作品で『鬼』=「怖い」、『河童』=「下品」ときて、今回のテーマは『天狗』=「傲慢」。まあ天狗ですから。鼻が高いわけです。
 ということで、高慢、傲慢、驕慢、尊大、居丈高……と各章ごとに類語辞典的なキーワードをちりばめつつ、今回のエピソードも語られてゆく。
 この作品は冒頭の設定がふるっている。なんたって『百器徒然袋 雨』の『鳴釜』で榎木津に政略結婚を破談にされた篠村美弥子さんが、なぜだか呉美由紀ちゃんと一緒にいて、しかも落とし穴にはまって出られなくなっているという謎のシチュエーション。
 で、前半はふたりがその状況にいたるまでの顛末を美由紀の回想シーンとして描いてゆくのだけれど、これにじつに半分のページ数を費やしている。つまりこの本の半分のあいだ、ふたりはずっと穴の中にいるという。なかなかすごいです。
 事件に関してはネタばれなしでうまく語れないので省略。クライマックスで中善寺の敦ちゃんが論理的に事件を解決して、美由紀が啖呵を切って落ちをつけるというパターンは前の二作と同様だけれど、今回は犯人の「傲慢」さが許しがたいものなので、それに鉄槌をくだす彼女たちの活躍がもっとも映える一品だったと思う。
 京極先生、もっとつづきが読みたいです。
(Jul. 23, 2019)