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Recent Notes

  1. 『星の王子さま』 サン=テグジュペリ
  2. 『魔術の殺人』 アガサ・クリスティー
  3. 『羊と鋼の森』 宮下奈都
  4. 『木に登る王 三つの中篇小説』 スティーヴン・ミルハウザー
  5. 『ラヴクラフト全集7』 H・P・ラヴクラフト
    and more...

星の王子さま

サン=テグジュペリ/浅岡夢二・訳/ゴマブックス/Kindle

星の王子さま

 僕はあまり読書とは縁のない家庭で育ったので、子供のころに童話や児童文学をたしなんだ時期がまったくない。
 記憶にあるいちばん古い読書体験はシャーロック・ホームズや江戸川乱歩だし(最初から殺人事件)、そんな読書歴を持つ男が、それ以前にさかのぼって児童文学を読もうなんて思うはずもなく。大学時代に英米文学の基礎教養として『不思議の国のアリス』くらいは読んだけれど、結局、児童文学はそれが最初で最後くらいの勢い。
 ということで、いまごろになって生まれて初めて読みました、『星の王子さま』。理由はいつものパターンで、Kindle版がディスカウントで安かったから(百円とかだった)。
 でまぁ、傑作といわれるだけあって、それなりにおもしろかったけれども、やはり五十すぎの中年男では感じ入るにも限度があるなぁと。こういう作品でわざわざあらすじを書くのも興ざめだし、となると、これといって書くことがない。なぜこの電子書籍の挿絵はこんなに小さいんだろうと不思議に思うばかり。
 とりあえず、イノセンスとナンセンスとアイロニーたっぷりで、最後にちょっぴりペーソスが加わっているところが人気の秘訣とみました。
 ──って。あぁ、なんて身もふたもない。
(Feb. 13, 2019)

魔術の殺人

アガサ・クリスティー/田村隆一・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

魔術の殺人 (クリスティー文庫)

 ミス・マープルが女学生時代の友人の屋敷に滞在して、その家で巻き起こった殺人事件を解決する話。
 物語は「あの家でなにかよくないことが起こりそうだから、あなた助けに行ってあげてちょうだい」と別の友人から頼まれたマープルさんが、貧乏して生活に苦しんでいるという口実で、キャリイ・ルイズという旧友のもとに身をよせるところから始まる。でもって、クリスティーお得意のパターンで、全体の三分の一くらいかけて、その家の人間模様をじっくりと描いてゆく。
 やがてその家の主人が興奮した精神病患者の青年に書斎に閉じ込められて、拳銃を突きつけられるという事件が起こる。二発の銃弾が発射されるも、弾はそれて被害なし──のはずが、その最中に別の部屋で訪問客のひとりが射殺されていたことがわかる。
 密室での騒動の裏で殺人があったって時点で、読者としてはどうしたってその部屋にいたふたりを疑わずにはいられないわけだけれど、でもそのあとキャリイ・ルイズが毒殺されるのではと被害者が心配していたことがわかり、実際に砒素が見つかるにいたって、彼女の夫(密室にいた片方)が愛する妻を殺そうとするはずがないとマープルさんが断言する。
 あれ、じゃあ犯人は誰?――と思わされた時点で僕の負け。『魔術の殺人』なんてタイトルなのだから、そこに手品的なトリックがあることが明らかなのに──原題は『They Do It with Mirrors』で、意訳すると「彼らは手品に鏡を使う」──、僕にはそれが見抜けなかった。まぁ、「魔術」というほどのトリックではないので、やや名に偽りありな気がしちゃうけれど。
 僕自身はトリックを見抜けなかったのにこんなことをいうのもなんだけど、やはりクリスティーのミステリとしては平均的な印象なので、謎解きうんぬんよりはむしろマープルさんと旧友とのやりとりに漂う同窓会的な温かみがいちばんの読みどころかではないかと思います。
(Jan. 06, 2019)

羊と鋼の森

宮下奈都/文藝春秋/Kindle

羊と鋼の森 (文春文庫)

 天才調律師との偶然の出会いに触発され、みずからもピアノの調律師として生きてゆくことに決めた青年が、まわりの人々の薫陶を受けつつ成長してゆくさまを描いた青春小説。
 ピアノという楽器はフェルト(羊の毛)でできたハンマーでスチール(鋼)製の弦をたたいて音を出すのだそうで、北海道の山奥で生まれ育った主人公がそんな楽器を調律するという未知なる世界へと迷い込んでゆく──というのがタイトルの由来。
でもその内容とタイトルから『ピアノの森』を連想するなってのが無理な話だし、その点ややオリジナリティに欠ける印象を受けてしまった。
 物語的にも、ピアノとまったく縁のなかった主人公がたまたま調律師の仕事を間近で見たことから、ある日突然、調律師になろうと決心する冒頭や、仕事で出むいたお宅で才能あふれる女子高生の美人双子姉妹のと仲良くなるって展開などには、どうにも書き手の不自然な作為を感じてしまって、いまいち手放しで褒める気になれない。なんで日本の小説だとこういう感じ方をすることが多いのか、われながら不思議。
 でもつまらなかったかというとそんなことはなく。ピアノの調律師という職業に関するうんちくの数々にはとても興味深いものがあったし、なんだかんだいって、それなりに楽しく読むことができた。単にあまのじゃくな英米文学オタクの目線からすると、いろいろ無邪気すぎる印象があったというだけの話。
 ちなみにこの本を読んでみる気になったのは、本屋大賞を受賞したのを知っていたのに加えて(映画化されていたのは知らなかった)、よくあるパターンでKindleのディスカウントで安く買えたからなのだけれど、あとから聞いたら、うちの子が文庫本を持っていた。しまった、ただで読めたじゃん──。
 でもまぁ、では自分の積読を放っておいて、わざわざ娘の本を借りて読むかというと、そこまでの興味はなかったから、まぁよし。読書自体は適度に楽しかった。
(Jan. 05, 2019)

木に登る王 三つの中篇小説

スティーヴン・ミルハウザー/柴田元幸・訳/白水社

木に登る王:三つの中篇小説

 よもやこの本一冊を読むのに二ヶ月半もかかるとは思ってもみなかった。
 それというのもこの本が読みにくかったからというわけではなく──まぁ、筆圧高いミルハウザーの中編集なので、決して読みやすくもないんだけれど──単に僕自身の読書力が衰えたがゆえ。
 最近は外出中の読書はKindleオンリーだし、平日の夜は音楽を聴いたり、ウェブを更新したりで、読書量はほぼゼロ──寝る前に電子書籍は読むけれど、1ページで眠くなって目を閉じてしまうこともしばしばだ。
 休日は休日で昼間はPCに向かって文章を書こうと思いつつ書けないまま時が過ぎてゆくばかり。夜は夜とて飲んだくれていて本を読むどころじゃなく、結果的にぜんぜん読書時間が取れない。
 あと、老眼が進んで裸眼じゃ本が読みにくくなったのも痛い。五十年メガネのない生活を送ってきたもんで、いまだ老眼鏡には慣れないし、あと眼精疲労だかなんだかで、夜になると目が疲れてしまって、本を読むのがつらい。
 ということで、気がつけば、この頃は紙の本をほとんど開かない生活が定着してしまって、わずか三百ページ足らずのこの本を読み終えるのに、二ヵ月半もかかるていたらくとなってしまった。いけません。来年は心を入れ替えて読書時間を増やす努力をしないと、積読が一生読み終わらない。
 この本自体はとてもよかった。ミルハウザーってこれまであまり恋愛小説を書いてきた印象がないんだけれど、この本に収録されている三編はどれも愛と性に関する話ばかりだ。しかもどれも不倫がらみ。
 夫に先立たれて屋敷を売りに出した中年女性が、内覧にきたお客さんに部屋を案内しつつ、思い出話を聞かせているうちに、次第に話のゆくえが怪しくなってゆく一編目の『復讐』(その内容にふさわしからぬタイトルがすごい)。
 性愛の達人ドン・ファンがイングランドで思わぬ片思いに苦しむ二作目の『ドン・ファンの冒険』。
 『トリスタンとイゾルデ』の物語をミルハウザーが独自の視点で語り直す表題作『木に登る王』。
 どれもが胸の中にしこりを残すようなセクシャルで切ない話ばかりで、この人の作品としてはけっこう新機軸な気がした。装丁も素敵だし、苦味は強いけれど、とてもいい本だった。
(Dec. 28, 2018)

ラヴクラフト全集7

P・H・ラヴクラフト/大瀧啓裕・訳/創元推理文庫/Kindle

ラヴクラフト全集 7

 だらだらと読みつづけてきたラヴクラフト全集もようやくこれにて完結。気がつけば第一巻を読んだのはもう四年も前の話だった。読書力の衰えがいちじるしくていけない──なんて話はまぁどうでもよく。
 ひとつ前の第六巻もそうだったけれど、今回も初期の作品を中心とした落穂拾い的な性格の本になっているため、ラヴクラフトの代名詞であるクトゥルー神話に分類できる作品はほぼゼロ。でもまったくのゼロだった前巻と比べると、今回はそれよりなお補遺的な性格が強いがゆえに、断片的な作品のなかにネクロノミコンの名前が出てきたりして、ほのかにクトゥルーの香りが漂っていた。
 まぁ、ほとんどクトゥルーが出てこないのこそさびしけれども、そこはラヴクラフト。初期の習作的な作品であっても、文体はすでに完成しきっている。逆に俗悪なモンスターが出てこないぶん、幻想文学としてはかえって後続の作品よりも文学性が高いんじゃないかって気がした(それゆえおもしろみが薄いわけだけれど)。その描写力に秀でた筆圧の高い文章には、たまたま同時進行で読んでいた──というか、いまだに読んでいる──スティーヴン・ミルハウザーのそれに近いものを感じた。
 この本を読んでいちばん感銘を受けたのは『夢書簡』と題した章に収録されている、知人にあてて自らが見た夢の内容を書いて聞かせた文章の数々。なかでも古代エジプトの一大叙事詩的な夢の内容をつまびらかに語っている書簡には愕然とした。なにをどうしたらあんな歴史書の内容みたいな夢を見られるんだか。もしも夢に見たというのが嘘で、実際には創作だったとしても、知人への手紙にわざわざそんなものを書いているって時点で、それはそれですごい話だし。僕なんかとは生きている世界が違いすぎる。
 いまさらながらラヴクラフトの天才っぷりに脱帽の最終巻だった。
(Dec. 25, 2018)