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Recent Notes

  1. 『白夜』 ドストエフスキー
  2. 『死者のあやまち』 アガサ・クリスティー
  3. 『ヒッコリー・ロードの殺人』 アガサ・クリスティー
  4. 『本当の翻訳の話をしよう』 村上春樹・柴田元幸
  5. 『蜘蛛の巣』 アガサ・クリスティー
    and more...

白夜

ドストエフスキー/小沼文彦・訳/角川文庫/Kindle

白夜 (角川文庫)

 なんだかドストエフスキーを読むのもひさしぶりだなぁと思って調べたら、最後に『白痴』を読んだのが九十六年のことだった。いやはや、じつに二十三年ぶり。
 僕は『罪と罰』と『カラマーゾフの兄弟』を世界最高の小説のうちのひとつだと思っているので、その作品を書いたドストエフスキーも当然特別視しているんだけれど、なぜかそれほど積極的に全作品を制覇しようって意欲がわかないのは、やはり時代が古いせいか、はたまたロシア語からの翻訳にあまり惹かれないためか。まあ、もともと英米文学メインで、それほど極端な読書家ってわけでもないのだから、ロシアの文豪を積極的に読まなくても特に不思議はない気はするけれど。
 それにドストエフスキーの作品に出てくる人たちって、どうにも言動が極端にデフォルメされている感じがして、いまいちとっつきづらさがある。ひさびさにこの人の作品を読んでみて、その独特さを懐かしく思った。この普通じゃない感じは、十九世紀の小説だからなのか、ロシア文学だからなのか、はたまたドストエフスキー独特の味なのか。僕にはそこんところがよくわからない。
 ほぼ全編が一組の男女の会話だけで成り立っているような印象のこの短い恋愛小説は、その恋の始まりから終わりまでがわずか四日間。唐突に燃え上がった恋の炎はあっという間にピークを迎えたと思ったら、あっけなくついえる。その間の主人公ふたりの自分本位な饒舌さがものすごい。なんでそうなるのさって、読んでいて唖然としてしまう。
 こういう小説って、現代では成り立たないよなぁと思う。でもその一方で、その過剰なまでに熱い語りっぷりは、一周まわって意外と現代的かもしれないなと思ったりもした。少なくてもこの作品に関していえば、なんとなくカズオ・イシグロあたりに通じるものがなくもないかなと思ったり。
(Nov. 30, 2019)

死者のあやまち

アガサ・クリスティー/田村隆一・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

死者のあやまち (クリスティー文庫)

 よる年波に負けて、すっかり本が読めなくなってしまって、このままだと十月は一冊も本を読まずに終わってしまいそうだったので、ならばクリスティーがつづくにしても読まないよりもましだろうということで読んだ一冊。
 クリスティーが連発になったのは、そういう理由だったけれど、その作品が、意外や、ふたたびポアロものだった。そろそろクリスティーも残り作品が少なくなってきたので、ここへきてポアロものが二冊もつづくとは思わなかった。
 物語は、ミステリ作家のオリヴァー夫人からの一方的な呼び出しを受けて、彼女が滞在中の屋敷へと出向いたポアロが、その屋敷で発生した殺人&失踪事件に頭を悩ませるという話。
 被災者は三人いるけれど、そのうち殺人であることが明確なのはひとり(しかも少女)のみで、あとは「殺されたに違いない」と「殺されたかもしれない」なので、いまいちミステリとしては地味な印象(現実世界では派手でない時点で良心的)。でもそれゆえか、まったく犯人の見当がつかない。そこがこの作品の長所かもしれない。
 ただその半面で、個々のキャラクターの描写が淡白なので、そのうちのひとりが犯人だといわれても、意外性がないのが欠点。ここまで犯人がわからないのに、わかった瞬間のインパクトもない作品もクリスティーにしては珍しい気がした。
 でもまぁ、もしかしたらそれは僕の読書力の衰えによるところも大きいのかなという気がしなくもない。ほんとうに本が読めねぇ……。
(Oct. 31, 2019)

ヒッコリー・ロードの殺人

アガサ・クリスティー/高橋豊・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

ヒッコリー・ロードの殺人 (クリスティー文庫)

 なんかすごくひさしぶりのポアロもの。
 ポアロの秘書のミス・メロン(以前に出てきましたっけ?)の姉が寮母をつとめる学生寮で盗難や器物破損があいついでいると聞いたポアロが、そのお姉さん(ハバート夫人)をお茶に招いて詳しく話を聞いてみたところ、盗まれたもの――夜会靴の片方、ダイヤの指輪、電球、チョコレート、ホウ酸など――の一貫性のなさ、バラエティの豊かさに大喜び。おもしろそうだからと自らその学生寮へ出かけてゆくという話。
 というわけで、今回のポアロさんは若者ばかりを相手にすることになる。まあ、学生寮といいつつ、社会人も住んでいるし、ハバート夫人とか、寮の女性オーナーとか、警部とか、登場人物には若くない人もそれなりにいるけれど、とりあえず事件の中心となるのは若者たち。このポアロ・ミーツ・ヤングマンな構図がこの作品の醍醐味なのかなと思う。
 タイトルにもあるとおり、盗難から始まった事件は当然のように殺人事件へと発展して、さらにその背後には別の組織犯罪が……というような話になってゆく。その展開自体には意外性があるんだけれど、でもクリスティーの作品のつねで、そうやって犯罪組織がどうしたみたいな話になったとたんに、なぜだか妙に説得力がなくなる。クリスティーって組織犯罪に向かない人のような気がする。
 後半の謎解きは五月雨式で、謎がほつれてゆくように段階的に真相が明かされてゆく。そのためポアロの見せ場となる、関係者一同を集めての謎解きシーンはないけれど、いつもと違うその展開がけっこう新鮮でおもしろかった。
(Sep. 30, 2019)

本当の翻訳の話をしよう

村上春樹・柴田元幸/スイッチ・パブリッシング

本当の翻訳の話をしよう

 村上春樹と柴田元幸による翻訳についての対談集・第三弾。
 以前に出た『翻訳夜話』や『サリンジャー戦記 翻訳夜話2』と同じ趣旨の本だけれど、その二冊の出版社が文芸春秋だったのに対し、今回は柴田氏の主催する海外文芸誌『MONKEY』に掲載された対談が中心となっているため、出版社がその雑誌の発行元であるスイッチ・パブリッシングになっている。
 なので、『MONKEY』を読んでいない僕にとっては初めての話ばかり――かと思ったらそうでもない。村上柴田翻訳堂やチーヴァーの『巨大なラジオ/泳ぐ人』に収録されていた対談も収録されているので、およそ三分の一は再読だった。その点はちょっと残念(まあ、最近は記憶力ゼロなので、初めて読むも当然だったけど)。
 この本でもっとも印象的だったのは、対談に混じって一遍だけ柴田先生がひとりで行った講義の記録が収録されていること。明治時代の翻訳事情を紹介する意外な内容で、森田思軒(初めて知った)、黒岩涙香、二葉亭四迷ら、日本の翻訳黎明期を生きた翻訳家たちの偉業を紹介するその部分だけ、ほかとはあきらかにテイストが違う。僕にはその部分がこの本でもっとも興味深かった。
 あと、『翻訳夜話』と同じく、今回も村上・柴田両氏の翻訳合戦がある。しかも今回はチャンドラー、フィッツジェラルド、カポーティという、村上文学における最重要作家たちを取り上げているので必読です。
(Sep. 29, 2019)

蜘蛛の巣

アガサ・クリスティー/加藤恭平・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

蜘蛛の巣 (クリスティー文庫)

 クリスティーの戯曲・第四作目。地味なタイトルだから油断していたけれど、これがなかなか素晴らしい出来映えだったりする。
 舞台となるのは外交官邸宅の一室。「もしもある朝、書斎に降りてきて死体を見つけたら、わたくしはどうするか?」みたいなことを空想をするのが好きだと語っていたその屋敷の奥さまが、実際に自宅で死体を見つけてしまい、わけあってそれを隠さなきゃってことになってどたばたするコメディ・タッチの犯罪劇。
 死体をめぐって登場人物が右往左往するヒッチコックの『ハリーの災難』みたいな話なのかなと思って読んでいたら、途中で警察が出てきたところから物語が予想外の展開をみせる。しかも二転三転する。
 まあ、個人的には殺人犯人の設定がいまいちな気がしたけれど、この作品にはそれ以外の部分で十分すぎるくらいの意外性がある。舞台には詳しくないけど、この脚本、素人目には見事な出来映えなのではと思います。
 小説に限らず、こと脚本に関しても、これまでの四作品、どれもはずれなし。クリスティーって、じつは脚本家としてもすごいんじゃないだろうか。
(Aug. 31, 2019)