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Recent Notes

  1. 『検察側の証人』 アガサ・クリスティー
  2. 『百器徒然袋 風』 京極夏彦
  3. 『百器徒然袋 雨』 京極夏彦
  4. 『今昔百鬼拾遺 鬼』 京極夏彦
  5. 『ポケットにライ麦を』 アガサ・クリスティー
    and more...

検察側の証人

アガサ・クリスティー/加藤恭平・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

検察側の証人 (クリスティー文庫)

 映画化もされているし、クリスティーの戯曲の中ではもっとも有名な作品ではないかと思うのですけど……。
 これを読んでなにに驚いたかって、自分の記憶力のなさ。何年か前に『死の猟犬』に収録された短編バージョンを読んでいるし、ビリー・ワイルダーが監督した映画版の『情婦』も観て、感想まで書いているのに、まったくどういう話か覚えていなかった。どうなってんだ、俺の記憶力。
 まぁ、弁護士が主人公だってことまでは忘れていなかったし、後半に謎の女性が登場したところで、あぁ、そうだったとミステリとしての肝の部分を思い出したので、さすがに記憶ゼロってこともなかったけれど、それにしても、そこまでの忘れっぷりに自分でも感心してしまった。年取ると忘却力がはんぱない。
 あまりに忘れていたので、つづけて短編を再読してみたところ、そちらは戯曲版とラストが違っていた。戯曲は短編よりも長い分、最後にもうひとひねりある。でもってその部分のせいで読後感がまるで違う。
 世の中広いから短編のさくっとした終わり方が好きだという人もいるのかもしれないけれど、やはり無情感あふれる戯曲版のほうがインパクトが大きかった。
(Jun. 10, 2019)

百鬼徒然袋 風

京極夏彦/講談社ノベルス

百器徒然袋 風 (講談社ノベルス)

 せっかくなのでその続編、『百器徒然袋 風』も再読した。こちらは二〇〇四年の刊行だから十五年前の作品。
 今回の榎木津は、『五徳猫』で過去の殺人事件を解決し、『雲外鏡』で似非霊感探偵の罠をやすやすと退け、『面霊気』では柴田財閥の因業親父をやっつけてみせる。
 二作目ともあって、語り手の某君の扱いは前作以上にぞんざいだ。一話目で『絡新婦の理』で織作家の家政婦だった奈美木セツと出会って、つい榎木津の関係者を名乗ったのが運のつき。二話目ではいきなりヤクザに拉致されて荒縄で縛り上げられ、最終話では京極堂から泥棒のコスプレをさせられてと、さんざんな目にあっている。
 でもそんな彼のフルネームがあきらかになる最後のページが意外と感動的。彼の名前自体はなにそれってくらいに平凡なんだけれど、その出し方がなんともうまい。すっとぼけた馬鹿話ばっかりずっと読んできて、最後の最後にほろりとさせられるとは思わなかった。
 やっぱ京極夏彦っていいよなと思いました。
(May. 31, 2019)

百鬼徒然袋 雨

京極夏彦/講談社ノベルス

百器徒然袋-雨 (講談社ノベルス)

 来月発売になる京極夏彦の最新作『今昔百鬼拾遺 天狗』にこの作品の登場人物が再登場するというので――でもって当然のごとく、僕にとっては「それは誰?」って感じだったので――ひさびさに再読しました。探偵・榎木津礼二郎が大暴れする百鬼夜行シリーズの中篇三本立てスピンオフの第一弾。
 収録作品は、家政婦を集団レイプした金持ちの馬鹿息子らに榎木津が鉄槌をくだす『鳴釜{なりかま}』、逃げ出した亀を探して{かめ}だらけの屋敷にたどり着く『瓶長{かめおさ}』、廃寺を改造した高級美食倶楽部に盗まれたヤマアラシを探しにゆく『山颪{やまおろし}』の三篇。
 この本の特徴のひとつは語りが本名不明の新キャラクターの一人称であること。とりたてて特徴のない平凡な語り手が、尋常ならざる薔薇十字探偵社の面々とかかわりになって、珍妙な事件に巻き込まれてゆく様がユーモアたっぷりに描かれている。
 なぜ語り手の名前が最終ページまでずっと伏せられているのかはわからないし、最後にあきらかにされる彼の名前(名字だけ)にしても、「いったいなぜそんな名前をあれほどまでに榎木津が間違えていたんだろう?」と不思議になってしまうほどに平凡なんだけれど、でもこの語り手の名前を隠すパターンはその後の『書楼弔堂』シリーズでも繰り返されているので、なんらかの深い意味なり、作者の思い入れがあるのかもしれない。それとも今作に関しては単に笑いをとるためだけ? よくわからない。
 なにはともあれ、語り手こそ初登場だけれど、その他は榎木津、京極堂はもとより、榎木津の下僕、増田くんと和寅を筆頭に、鳥口くんに木場修に待古庵に伊佐間屋まで出てくる、シリーズのファンにはこたえられない一冊。そういや、語り手が京極堂の奥さんにもてなしを受けたりするシーンもなにげにレアな気がする。
 それにしてもこの本、奥付をみたら今年でちょうど刊行から二十年目だった。よもやそんなに昔の本になっていようとは……。
(May. 31, 2019)

今昔百鬼拾遺 鬼

京極夏彦/講談社タイガ文庫

今昔百鬼拾遺 鬼 (講談社タイガ)

 京極夏彦の一年ぶりの新作は、ひさびさに百鬼夜行シリーズのスピンオフ。京極堂の妹・中善寺敦子と『絡新婦の理』で印象的な役どころを果たした女子中学生・呉美由紀ちゃんがコンビで殺人事件を解決する新シリーズで、講談社、角川書店、新潮社の出版大手三社から、それぞれ文庫オリジナル、三ヶ月連続で刊行されるという珍しい企画モノ。
 これ、文庫一冊で一話だから、ふつうに考えると長編小説ってことになるんだろうけれど、ボリューム的には三百ページ足らずで、おそらく『百鬼徒然袋』シリーズなどの一話分相当。それが三部作ということだから、つまり以前ならば三話まとめて一冊でリリースしていたものを、今回は三分冊にしたという企画なのだと思う。もしかしたらのちのち『今昔百鬼拾遺 某』とかいって一冊にまとまって再刊行されそうな気もする。三社が絡んでいるから、それは難しいんでしょうか?
 まぁ、そんなわけでこの作品、京極夏彦ひさびさの長編とはいっても、読み応え的には中篇相当。京極堂も榎木津も出てこないし、百鬼夜行シリーズ本編のような読みごたえは望むべくもない。
 とはいえ過度に期待しないで読むならば、京極夏彦ファンにとっては、こんな楽読み物はないわけで。少なくても僕は大いに楽しんだ。ひさしぶりに京極夏彦の新作を読んで、やっぱ俺はこの人が好きだなぁと思った。でもって、ついひさしぶりに旧作まで読み返してしまった。
 今回の作品が三社連動の変則的な企画になったのには、この一作目の性格が大きく影響しているのではないかと思う。なぜってこの作品は、百器夜行のスピンオフでありながら、なんと去年の秀作歴史小説『ヒトごろし』の後日談でもあるから。
 あの作品の出版社が新潮社だったことから、その続編ともいうべきドル箱の作品を講談社さんに独占させたんじゃ義理が立たないということで、それでは近年お世話になっている角川さんもまじえて、三社連動企画でいきましょうってことになったんじゃないかと思う(邪推?)。
 まぁ、なんにしろ京極堂の関係者にふたたび会えるのは嬉しい限りです。
 中善寺の兄貴や名探偵が絡んだ事件のような濃さこそないけれど、でも敦っちゃんが理性的な分析力で事件を解き明かして、最後に美由紀ちゃんがうら若き女学生ならではの爆発力で落としどころをつけてみせるというプチ憑き物落とし的な展開はなかなか楽しかった。
(May. 26, 2019)

ポケットにライ麦を

アガサ・クリスティー/宇野利泰・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

ポケットにライ麦を (クリスティー文庫)

 『ポケットにライ麦を』で始まるマザーグースになぞらえた連続殺人をミス・マープルが解決する、クリスティーならではの長編ミステリ。
 「クリスティーならでは」とか書いておいて、こんなことをいうのもなんだけれど、この作品の前半はいまいちクリスティーらしくない。
 まず最初の被害者である企業経営者がオフィスで死亡するシーンから始まるってのが、この人の作品としては珍しいパターンだと思う。それが遅効性の毒物による毒殺であったことから、警察は被害者が朝食時に毒を摂取したとみて家族への聞き込みを始め、その捜査中に第二、第三の被害者が出て……ってくらいでだいたい半分。
 要するに前半は警察の捜査のみって内容で、いまいち盛り上がりに欠けるのだった。ミステリとしてはありがちな構成だけれど、クリスティーにはそういうパターンってあまりない印象がある。ミステリとしてはふつうのことが普通に感じられない。そんなところにミステリ作家としてのクリスティーの独自性を感じた。
 この展開でどうやってミス・マープルが出てくるんだろうと思っていると、意外やマープルさんは自ら率先して事件に介入してくる。三番目の被害者がかつて自分のうちの家政婦だったのですといって。でもって事件がマザーグースになぞらえて行われていることを明らかにする。
 いざマープルさんが登場してからはこれぞクリスティーという味わいになる。でもって、そのクリスティーらしさゆえに、どういう事件かが比較的簡単にわかってしまったりもする。そこが個人的には残念な点。できればもうちょっと煙に巻かれていたかった。
(May. 12, 2019)