人間の証明
森村誠一/角川文庫/Kindle
母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね――
メディアミックスの嚆矢として、そんな詩とともに僕らの少年時代に一世を風靡した角川映画の原作ミステリ。これもKindleで安くなっていたので読んでみることにした作品。
同じく森村誠一原作の次回作『野生の証明』――こちらも近いうちに読む予定――は薬師丸ひろ子のデビュー作ってことで観ているけれど、こちらはそういう華がなかったせいか、観た記憶がない。少なくてもあの有名な詩の一節以外は記憶にない。殺される黒人役が松田優作なのかと思っていたくらい(殺されるのはジョー山中)。
なので物語をまったく知らないものだから、とても新鮮な気分で読めた。冒頭で発生した殺人事件をよそに、第二、第三のサブエピソードが語られてゆき、それが後半にひとつに収斂してゆくという展開が上手いなと思った。
まぁ、男女関係の描写とかには、いかにも昭和って感じの古さを感じるし、事件が探偵の推理ではなく、偶然の積み重ねで解決へ向かう展開も、本格推理的なサプライズを求める人にはもの足りないかもしれない。それでもその偶然の積み重ね(ご都合主義ともいう)の扱いがとても巧みだ。逆にトリッキーな推理がないからこそ、ご都合主義的な事実の発覚にも、ある種の現実味が感じられた。
まぁ、麦わら帽子とか、熊のぬいぐるみとか、西条八十の詩集とか、ラブホの本とか、いささか落とし物や忘れ物が多すぎる気がするけれども。
――いや、こうして並べてみると、ほんと多いな。
かつて松本清張の『砂の器』を読んだときに、そのご都合主義だらけの展開にあきれて、もうこの手の社会派ミステリは読まなくてもいいやと思ったものだけれど、この作品もその流れをくむ作品なんだろう。
推理の余地がないのならば、偶然に頼る以外にどんな方法が?
そんな開き直り(?)がちゃんと機能しておもしろい小説になっているのがいい。その上でちゃんと社会問題も提起してくる。文庫改訂版のおまけとして「作家生活五十周年記念」と銘打って収録されている短編が、ミステリではなく戦争小説だというあたりにも、森村誠一という人の作家としての矜持が表れている。
いま読んだらまた印象も違いそうだから、こんどまた機会があったら松村清張も読んでみようかなと思った。
(Aug. 12, 2026)





