誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち
スティーヴン・ウィット/関美和・訳/早川書房/Kindle
いまやすっかりあたりまえになったデジタル配信を中心とした音楽シーンがいかにして実現したかを三つの側面から紐解いてみせたノンフィクション。
ひとつめはMP3を開発した技術者たちの話。僕はこれを読むまで、iTunesのファイルフォーマットであるAACをアップルが開発したコーデックだと思いこんでいたので、それがじつはMP3を開発した技術者たちが、MP3の後継規格として開発したものだと知ってびっくりだった。AAC、王道中の王道じゃん。あと、なぜDVDの音声フォーマットにMPEG-2が採用されるまでの覇権争いの話――技術力が政治力に負けるの図――も勉強になった。
ふたつめは音楽業界がデジタル化の波にもまれる中で、いかに変わっていったかという話。このパートはユニヴァーサル・ミュージックというレコード会社の盛衰記といった内容になっている。ずっとYouTubeでよく見かけるVEVOってなんだろうと思っていたので、それがレコード会社主導で配信ビジネスから広告収入をあげるために生み出されたプラットフォームだとわかったのが有益だった。
最後の三つめは、音楽をMP3にリッピングしてネットにリークしていた海賊サイトの運営者たちの話。冒頭でこの本の作者が、若いころからそうした人たちによって無料で公開された音楽をダウンロードしまくっていて、音楽は無料で聴くのがあたりまえだと思っていたと語っているのを読んで、著作権を重視する僕としては、あ、これは読んじゃいけない本だったのでは?――と思ったりしたけれど、それでも内容はとても興味深いものだった。
この本では以上の三つのエピソードが同時並行して語られてゆく。技術的な話はコンピュータを仕事にしている身としては大変興味深かったし、音楽業界の裏話も洋楽ファンならば一読の価値があると思う。でもって海賊サイトにまつわる話には、ある種のクライム・ノベル的なおもしろさがある。
一粒で二度おいしい――じゃないけれど、これはそんな一冊で三ジャンルが一度に楽しめる良作。僕みたいに著作権法違反者への献金になるのでは……みたいなことを気にしないで済む人にはお薦めの一冊。
(Jul. 25, 2026)





