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  1. 「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」 / Tele
  2. Sketch / 幾田りら
  3. ヨルシカLIVE 2024「前世」 / ヨルシカ
  4. 宮本浩次 @ ぴあアリーナMM (Jun. 12, 2025)
  5. ずっと真夜中でいいのに。 @ 代々木第一体育館 (May. 18, 2025)
    and more...

「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」

Tele / 2025

「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」

 去年の君島大空につづいて、今年も蔦谷好位置が『EIGHT-JAM』で年間ベスト10に取り上げた曲にハマった。今年の一曲は Tele の『カルト』。

 Tele(テレ)は谷口喜多朗という2000年生まれの青年のソロプロジェクト(うちの子より若い!)。

 谷口クンはどことなく野田洋次郎を小ぶりにしたような見た目と声をしている。でもって、『カルト』はまさにラッド系列の饒舌でシニカルなロックナンバー。MVでは黒スーツに白シャツ姿で、あたかも宮本浩次みたいな暴れ方をしているし、これはもう完璧に俺の守備範囲でしょう?――と思って、そのほかの曲も聴いてみたんでしたが。

 ん、ちょっとちがうかも?

 そう思ってしまったのは、『カルト』みたいにアッパーなギターサウンド一本で勝負している曲がほとんどなかったから。

 よくいえば、バラエティに富んでいる。悪くいえば、これって芯が見えてこない。その辺はバンドではなくソロアーティストだからだろう。バンドという縛りがない分、あれもこれもと様々なスタイルをお試し中な感じ。全体的にはマイルドな曲が多くて、ちょっと期待していたのとは違った。

 僕が若き日の宮本や洋次郎やn-bunaに惹かれたのは、どの楽曲を聴いても彼らが感じている日々への苛立ちが歌詞にも音にもビートにも溢れださんばかりだったからだ。

 とにかく黙っていられないから歌う。叫ぶ。じっとしていられないから踊る。日々の憤りや憂鬱を振り払うには、激しいノイズとハードなビートとシニカルな言葉をぶつけるしかない。それが僕にとっての音楽だった。

 Teleの場合、『カルト』はまさにそういう曲なのだけれど、それ以外はそうでもない。歌詞は怒りと愛を並行で語っている印象で、ある程度の毒はあるけれど、前述の人たちほどの濃度じゃない。音もギターが目立つ曲が少ない。ストリングスが多用されていたり、ジャジーな曲があったりもする。

 そう、要するにロックよりもポップ寄りなんだった。最初にド直球の『カルト』で過度のロックを期待してしまったのが間違い。

 少年ジャンプに掲載されていたインタビューでは「教科書に載るような曲を書きたい」みたいなことを言っていたし、もとよりポップ寄りのメンタルな人なんだろう。いったんそういうアーティストなんだという事実を受け入れてからは、けっこう楽しく聴かせてもらっている。

 このアルバムはそんな Tele が満を持してリリースした二枚目のアルバム。レーベルはトイズファクトリーだから、これがのメジャー・デビュー・アルバム――なんでしょう、おそらく。でもなぜだかタワーレコードでしか売っていない。ほんとなぜ? いろいろ謎が多い。

 このアルバムをリリースしてから半年もたたないのに、すでにこのアルバムには未収録の新曲が二曲リリースされていたりするし、ずとまよやヨルシカと同様、CDシングルなんて出す気配もない。いまどきの若者って、CDの売上なんてどうでもいいと思っている感じが新鮮だ。

 アルバムの内容は2022年からコンスタントにリリースしてきた三年分の配信シングル15曲に新曲6曲を加えた怒涛の21曲入り。

 なにもCDの収録時間上限に達するほど曲が溜まるまで待たないで、もっとこまめにアルバムにまとめてもいいじゃんって思うけれど、でもこのアルバムはこの過剰なボリュームに意外と説得力がある。なんたって一時間二十分という再生時間の長さがまったく気にならない。楽曲のよさとバラエティ豊かなアレンジゆえだろう。新人でこれはちょっとすごいと思う。覚えられないほど長いアルバムタイトルからも伝わる言葉に対するこだわりも魅力のひとつだ。

 ネットでは楽曲ごとのクレジットが見つからず、CDも買っていないから詳細はわからないけれども、Apple Musicのプロパティにあるクレジットだと、ほとんどの曲に「アレンジャー、作曲、作詞」として谷口喜多朗の名前がある。

 え、まじか? このアルバムってもしかしてセルフプロデュースなの? それでこの完成度はすごいな。あまりにバラエティ豊かだから、外部の力を借りまくっているのかと思っていた。もしかして、ものすごい才能の持ち主なのかも。

 『箱庭の灯』や『花筏』といったスローナンバーも素敵だけれど、お薦めはやっぱなんといっても『カルト』。この一曲だけで一年中踊っていられる。

(Aug. 31, 2025)

Sketch

幾田りら / 2023

Sketch (通常盤) - 幾田りら

 いまさらで恐縮ですが。

 これについては一度ちゃんと書いておきたかった。

 YOASOBIのikuraちゃんが「幾田りら」名義で2023年にリリースしたファースト・ソロ・アルバム。

 これを聴いてなにがびっくりしたかって。

 なにしろ曲がいい!

 全曲、彼女自身の作詞・作曲でこの完成度ってすごくないですか?

 ちょっと泣きが入ったメロディーラインに独自のセンスが感じられて、アルバム全体でもちゃんと統一感がある。

 YOASOBIという企画バンドにたまたま抜擢されて国民的人気を博したシンデレラガール――くらい女の子かと思っていたら、単に歌えるだけではなく、ここまで曲が書けるとは。もうびっくりだよ。

 まぁ、YOASOBIの場合、歌詞と音作りにAyaseの明確な世界観があるのに比べると、そうした面ではいまだ試行錯誤中って感があるけれど、最近の『百花繚乱』や『青春謳歌』などのコラボ曲を聴くと、歌詞の面でも新境地を感じさせるし、まだまだ成長の余地ありとみた。

 いずれにせよ、メロディーメイカーとして、これだけの曲が書ければ十分でしょう。『Answer』や『スパークル』などのアコースティックなバンドサウンドのバラードは、YOASOBIでは聴けないテイストで新鮮だし、YOASOBIのエレクトリックな音作りやアッパーなダンスチューンよりも、こちらのほうが好きという人だって一定数いるんじゃなかろうか?

 ――とか思っていたら、うちの子がまさにそうでした。YOASOBIは聴かないけど、幾田りらはけっこう聴いている、とのこと。灯台下暗し。

 いやでも、これだけのアルバムが作れる才能を持った女の子が、自らのエゴを内に秘めたまま、YOASOBIで他人の歌を歌うことを是とした、というところに、並々ならぬ音楽人生への意思を感じる。

 このアルバムのアートワークにしても、もっとニコニコした可愛い写真だって撮れただろうに、あえて笑顔を封印してみせたところに、「見た目は度外視で、音楽をよろしく!」というアーティストとしての矜持が滲み出ている――気がしないでもない。

 イクラちゃん、おとなしそうに見えて、意外としたたかかも。

(Jul. 25, 2025)

ヨルシカLIVE 2024「前世」

ヨルシカ /2025

ヨルシカ LIVE 2024「前世」(通常盤)(2枚組) [Blu-ray]

 ヨルシカが『前世』と題した映像作品をリリースするのはこれが二度目となる。

 最初の作品は2021年リリースの、八景島シーパラダイスで収録された無観客ライブをパッケージ化したもの。

 あれはあれでとても素敵な、個人的にも大好きな作品だけれども、あれがヨルシカにとって最初のフィジカルな映像作品となってしまったのは、n-buna(ナブナ)にとっては、いささか不本意なことだったのかもしれないなと、いまとなると思う。

 なぜって、あのライブは、ヨルシカがその後のステージで表現してきた「音楽と朗読でひとつの物語を語る」というライブフォーマットから逸脱しているから。

 シチュエーションが特殊で、映像としても美しく、ほかでは観られない唯一無二のライブ作品だとは思うけれど、でもヨルシカらしさが十分に出ていたかというと、そうは言い切れないのかなと。内容が音楽だけという意味では、一般的なコンサートと変わらないし、『前世』というタイトルに込められた本来の物語が十分に伝わらない。

 僕は最初にあれを観て、そのあとに『月光』を観ているから、ヨルシカが最初は普通のコンサートをしていて、途中から朗読を交えたスタイルに変わったような勘違いをしていたけれど、実際にはそうじゃない。

 僕らが映像作品として観ている『月光』は、実際には『月光 再演』のタイトルで開催された2022年のツアーのものであって、『月光』の「初演」は2019年。――それがヨルシカにとっての初のツアーだ。八景島の無観客ライブはそのあと。

 要するに、音楽と朗読でコンサートを物語化するというスタイルは、ヨルシカが本格的にライブツアーを始めた当初から現在に至るまで徹底されたトータルコンセプトであり、朗読なしの無観客ライブのフォーマットこそがイレギュラーだったわけだ。

 あれも本来ならば同じスタイルになるはずだったのに、新型コロナウィルスのパンデミックにより、無観客での開催を余儀なくされ、水族館というロケーションを最大限に活かすために――また配信限定という特殊な状況もあって――あえて朗読を絡めるのはやめたんだろう。で、結果として、予定していたツアー・タイトルだけが残ったと。

 いずれにせよ、『前世』と題してリリースされた最初の作品は、n-bunaが本来思い描いていたものとは別の内容になってしまった。

 では、n-bunaが『前世』というタイトルで描こうとした物語とはいったい?

 ――というのがようやく明らかになるのがこの作品。

 朗読+音楽というスタイルは『月光』と同じだけれども、ステージセットはより凝ったものになり、朗読のボリュームも増している――ような気がする。実際には同じなのかもしれないけれども、体感的には倍くらいあった気がする。

 ――いや、違うな。前回はあきらかに「詩」だったけれども、今回は散文調で、どちらかというと「短編小説」と呼んだほうが正しいだろうって内容だから(実際に初回限定盤の特典についてくる冊子も「朗読小説」と紹介されている)。朗読のボリュームは確実に増している。そして『月光』よりも明確な起承転結があって、最後にサプライズが待っている。

 『月光』とは違って朗読の語り手としてのn-bunaがフィーチャーされているし、そういう意味では『月光』よりも『月と猫のダンス』に近い印象だった。あちらでは俳優が演じていた物語パートを、n-bunaの語りだけで表現して見せた感じ。

 ということで、『月と猫のダンス』と同じで、これまた個性的なライブではあるものの、繰り返し見るのは厳しいなぁと思ったら、今回はそういう僕のようなリスナーのために、音楽パートと朗読パートを別々に観られるよう、ディスク2がついてきた。初回限定盤の特典かと思ったら、通常盤も二枚組。優しい!

 でもって、そのディスク2の再生時間を観たら、朗読パートが50分もある! ライブ全編が130分だから、じつに全体の40%弱が朗読。すんごいな。

 楽曲に目を向けると、『負け犬にアンコールはいらない』から始まり、序盤に初期のミニ・アルバム二枚の曲をたくさん演奏してくれているところが今作の醍醐味。あと、途中からはホーンやストリングスをフィーチャーして、アレンジがゴージャスになるところも重要。n-bunaのみならず、キタニタツヤがコーラスを担当する曲もあるし、曲によってニュアンスが変わるsuis(スイ)のボーカルや、これまでになくガーリーな衣装も要注目だ。

 そんな風に音楽パートだけでも語るべきことのたくさんある、見どころたっぷりのライブなのに、全体となると、やはり朗読パートのインパクトがすごくて、そちらに意識を持っていかれてしまう。いいんだか悪いんだか。

 そういや、n-bunaとsuisがそれぞれ左手の薬指に指輪をしているのも、暗黙の了解的なカミングアウトなのか、はたまた演劇的なライブゆえの演出か、真相がさだかじゃなくて、気になるところだ。

 まぁ、いずれにせよ素敵なライブフィルムでした。

 この文章を書くためにあれこれ考えていたら、東京公演がないからといって、秋からのツアー『盗作 再演』のチケットを取ろうともしなかったのが失敗に思えてきた。

(Jul. 19, 2025)

宮本浩次

Birthday Concert 最高の日、最高の時/2025年6月12日(木)/ぴあアリーナMM

Today -胸いっぱいの愛を- / over the top (通常盤)

 ごめん、せっかくのお誕生会に遅刻した。

 宮本浩次、五十九回目の誕生日。ぴあアリーナMMで開催されたバースデーコンサート『最高の日、最高の時』(タイトルをいったら娘に笑われた)。

 会場の最寄り駅であるみなとみらいに開演の三十分前に着くようにうちを出たにもかかわらず、トラブルつづきで間に合わなかった。

 まずは、うちの奥さんが一ヵ月前に自転車で転んで膝の骨にひびが入ったので、いつもならば歩く最寄り駅までバスを使ったのが間違い。そのバスが渋滞で遅延して、乗るつもりだった電車に乗れなかった。これでおよそ10分のロス。

 で、次の便に乗ったら乗ったで、途中地下鉄のドアに荷物を挟まれて出発を遅らせる女性がいたりする。

 極めつけは、隣の駅で乗客どうしのトラブルがあって、非常停止ボタンが押されたとかいって、自由が丘で15分も待たされる始末。勘弁してくれ。喧嘩だか痴漢だか知らないけれど、まだ明るいうちから電車止めてんじゃないよ。

 結果「みなとみらい駅」に着いたのが開演時間ジャストだった。

 会場までは徒歩10分足らずだから、開演が押してくれれば間に合うかと思ったけれど、残念ながら間に合わず。急ぎ足でスマホのチケットを提示して館内に入ると、すでに演奏が始まっていた。閑散としたエントランスにいるのは男女ともに黒スーツのスタッフばかり。

 あわてて階段を上がる僕らの耳に聴こえてきたのは――『冬の花』。

 意表を突かれて、おぉっと思った。この曲で始まるのは史上初だし、何度も書いているように、僕ら夫婦はそろってこの曲が好きではないので、見逃した一曲目がこれってのは、不幸中の幸いだった(ひどい)。

 あと、今回もチケット運に恵まれて、席がよかった。ステージに近いという意味ではなく、席が見つけやすいという意味で。

 この日のチケットは二階席(ぴあアリーナはアリーナ席が一階扱いなので、実質一階相当)の一番後ろの隅だった。おかげでチケットに記載された入場口の扉を入るとすぐに席が見つかり、ほかのお客さんに迷惑をかけずに着席できた。

 でもって、ファースト・インプレッションもすごかった。

 扉を開いて場内に入った途端、どーんと目に飛び込んできたのは、赤い花びらが舞うステージと、スクリーンにドアップで映し出される宮本の姿。黒に赤い花柄の刺繍が入ったゴージャスなコート姿で、ステージの左右はカーテンが開いた状態になっている。このザ・歌謡ショーか、はたまた宝塚かといったビジュアルがインパクト大!

 まぁ、最初から観ていてもそれなりに感銘を受けたのかもしれないけれど、なまじ途中で入ってきて、いきなりこれを見せられたせいで、なおさら強烈だった。遅刻も意外と悪くないかもと思った(いや、遅れないに越したことなし)。

 さて、そんなわけで遅れて到着して、一曲目の途中から参加した宮本のお誕生日ライブ。

【SET LIST】
    [第一部]
  1. 冬の花
  2. ハロー人生!!
  3. TEKUMAKUMAYAKON
  4. 化粧
  5. 異邦人
  6. 夜明けのうた
  7. 今宵の月のように
  8. 悲しみの果て
  9. あなた
    [第二部]
  10. Woman "Wの悲劇"より
  11. ロマンス
  12. passion
  13. 昇る太陽
  14. ハレルヤ
  15. 俺たちの明日
  16. over the top
  17. close your eyes
  18. Fight! Fight! Fight!
  19. コール アンド レスポンス
  20. rain -愛だけを信じて-
  21. P.S. I love you
  22. Today -胸いっぱいの愛を-
  23. オレを生きる
    [Encore]
  24. サムライ
  25. 哀愁につつまれて

 今回入場してすぐに――それこそステージを見るより先に――驚いたのは、PIXMOBを渡されたこと。まさかエレカシ関係でこの電光リストバンドをつける日がくるとは思わなかった。

 ただ、せっかくのPIXMOBだけれど、そこはさすが宮本、それほど活躍しない。第一部(九曲と短め)で光ったのは『テクマクマヤコン』だけだったと思う。それも控えめ(色は黄色)。

 第二部に入ってからは、一曲目の『Woman "W"の悲劇より』を筆頭に、大半の曲で光ってたので、あとから驚かそうと思って、最初はあえて温存してたのかもしれない。なかでは、青とピンクの二色のライティングに合わせて光った『ロマンス』と、フラッシュライトのように激しく点滅した新曲『over the top』が印象的だった。

 PIXMOBって、人やブロックごとに違う色やタイミングで光ったりするのを見て、(いちおうIT業界人の端くれなもので)いったいこれってどうやって制御してんのかなぁと、その技術的側面に思いを馳せて、肝心のライブへの意識がおろそかになったりするし、そもそも僕は腕をあげたり振ったりしない協調性のない客なので、つけてるだけ無駄な感もあって、もらうと毎回なんかごめんって気分になる。

 まぁ、今回は二階席だったので、アリーナ全体や左右のスタンドが視野に入ったこともあり、PIXMOBによる演出はとても綺麗で目に鮮やかだった。それもこの席でよかったと思った要因のひとつ。ステージから観た風景はさらに綺麗なんだろう。これはきっと来年の還暦記念のバースデイライブにも引き継がれるとみた。

 ちなみに、ほかのアーティストだと、終演後にもPIXMOBがランダムに点滅していて、帰り道が楽しげだったりするのに、宮本のPIXMOBは消灯したきり、まったく光らなかった。せっかく配ったんだし、これが初めてという人も多そうだったから、終わったあとに光らせてくれればいいのに……。

 バンドは小林武史、名越由貴夫、玉田豊夢、須藤優(ずっと「すどう」と濁るのだと思っていたら、濁らない「すとう」と紹介されていて、あ、そうなんだと思った)の四名。さらに今回はサプライズで、サックスの山本拓夫氏とトランペットの西村浩二氏が途中から登場した。

 あと、メンバー紹介では、僕が最初にこのバンドを観たときに疑問に思ったステージ隅の人(マニピュレーターの吉田さん?)の存在にもちらりと触れていた。

 山本・西村両氏は、新曲『Today -胸いっぱいの愛を-』のレコーディングに参加しているとのことなので、その流れなのだと思う。

 理由はどうあれ、これまでソロでは頑なに五人での演奏にこだわってきた宮本が、ほかのサポートメンバーを加える気になったのは、けっこう重要な心境の変化だと思った。いっそ還暦を迎える来年は、金原さんのストリングスなんかも加えて、さらに豪華なステージを見せてくれたら嬉しい。

 山本さんたちの登場は第二部の前半(たしか『passion』の前)、宮本が自らハッピーバースデーを歌うコーナーの伴奏からで、「ハッピーバースデー、ヒロジさ~ん」と自分で自分を祝福した宮本は、そのあと花道の先に用意されたバースデーケーキのろうそくを吹き消してみせた。さらには自撮り棒につけたスマホで記念写真を撮りまくる。『最高の日、最高の時』というタイトルからしてそうだけれど、自ら率先して自身の誕生日を祝うスタイル。終始楽しそうでなによりだ。

 ということで、PIXMOBとホーンセクションの導入が今回の二大サプライズだった。

 その他にも、おっと思うポイントがけっこうあった。

 二曲目で早くもエレカシの曲――それも『ハロー人生!!』と『テクマクマヤコン』というレア・ナンバー!――をかましてきたのにはびっくりしたし、第一部が九曲で、第二部が十四曲といういびつな構成や、第二部の序盤に『昇る太陽』と『ハレルヤ』という、これまでのライブでクライマックスを飾ってきたナンバーをさっさとやってしまう構成も意外性があった。

 『冬の花』も最初にやっちゃったし、このあとどうすんだと思ったら、ライブの後半は前日リリースされたばかりのニューシングルの二曲を含む、最近のシングル曲を中心とした内容。そこに加わるのがライブ初披露の『Fight! Fight! Fight!』(うちの奥さんからは歌詞がつまらなさすぎる宮本くんの曲ナンバーワンと酷評されている)と、エレカシ屈指の暴言ナンバー『コール アンド レスポンス』というのもびっくりだった。

 『Fight! Fight! Fight!』はタイトルや「I LOVE YOU」という歌詞を七十年代風のカラフルなグラフィックアート的レタリングで映し出した演出が、先月見たずとまよに通じるスタイルでおもしろかった(趣味のよしあしは問わない)。映像的な演出では『over the top』でのひし形が重なる幾何学的なやつも印象的だった。

 『コール アンド レスポンス』はイントロのギターリフこそハードだったけれど、それ以降は小林さんの電子ピアノの柔らかな音色が前に出た、角の取れたアレンジで、「死刑宣告だあ~」という過激な歌詞とのミスマッチがおもしろかった。

 演出でいちばんよかったのは『夜明けのうた』。夜明けの映像をバックに、昇りくる太陽の位置に配したスポットライトが、逆光となって宮本の影法師を浮かび上がらせる。花道に長く伸びる影がとても抒情的でカッコよかった。

 本編最後は『rain -愛だけを信じて-』に『P.S. I love you』と、最近の宮本のお気に入りソロ・ナンバーをつづけたあと、締めは意外や『Today -胸いっぱいの愛を-』――タイトルの時点で拒否反応を示してしまい、あまりちゃんと聴いていなかったんだけれど、ライブで聴くとさすがにいい曲だったりする――かと思わせておいて。

 そのあとにもう一曲ある。

 ステージが暗転したあと、しばらくして曲が始まる。スクリーンにはステージ裏を走り回りながら歌う宮本の姿。

 歌うはなんと、『オレを生きる』!!

 おぉ~!――って。素直に盛りあがれたら、よかったのだけれど。

 エレカシの『Wake Up』の最後に収録されたこのナンバー、あまりにレアすぎて、その存在を忘れてました。最後まで聞いて「あ、これはなにかのアルバムの最後の曲だ」と思ったけれど、それまでは「もしかして昔書いたお蔵入り曲でも引っ張り出してきたのか?」とか思ってしまうレベル。あぁ、ファン失格。

 いやでも、このエンディングはよかった。ステージ裏のスタッフをあいだを走り回っていた宮本は、そのままアリーナ席の右手最前列あたりから出てきて、左手まで移動して歌い終わったあと、深々とお辞儀をしてから姿を消した。キラキラしたライブの最後がこういうアングラ感のある曲と演出で締められたのにぐっときた。

 その後のアンコールは二曲で、最初は『サムライ』!

 この曲もサプライズあり。宮本はいつの間にか客席に紛れ込んでいて、女性客のとなりに座ったまま歌いだす姿がスクリーンに映し出された。近くにいた女性たち騒然。

 ちょっと前に藤井風が横浜スタジアムで同じことをやっていたけれど、まさかあの宮本まで同じようなことをするとは……。

 そういや『ハレルヤ』かなんかでも客席に降りて行っていたし、この日はけっこう積極的にオーディエンスとの交流をはかっていた。おそらく自分の誕生日を祝いに集まってくれた人たちに感謝の気持ちを伝えたいってことだったんだろう。

 とかいいつつ、通りすがりに手を出して触ってくる人たちにちょっと迷惑そうなしぐさもあったけれど。そこはまぁご愛敬。

 そのあとのアンコールの最後の曲は、シングル『close your eyes』のカップリング曲『哀愁につつまれて』……だったのだけれども。

 すみません。あまりに趣味じゃなかったもので、この曲の存在自体が記憶から抜け落ちていた。『サムライ』のあとだったし、これもてっきり誰かのカバーだと思って「終わったら「哀愁につつまれて」って歌詞でググって、誰の曲か調べなきゃ」とか思っていた。まさかオリジナル曲だったとは……。

 いやでも、エレカシの新春ライブでは、数少ない新曲である最新シングルのカップリング曲をはしょった宮本が、ソロライブの最後をそんなレアトラックで締めくくるとは思わないじゃん。いやはや、完璧にノーマークだった。

 ということで、遅刻はするわ、曲は知らんわで、いまやファンを名乗るにはおこがましいかもと思ってしまった宮本くんの五十代最後のバースデイ・ライブでした。

 いろいろごめん。

 ばちがあたって来年のチケットは取れない気がする。

(Jun. 21, 2025)

ずっと真夜中でいいのに。

YAKI YAKI YANKEE TOUR 続「名巧は愚なるが如し」/2025年5月18日(日)/国立代々木競技場 第一体育館

 ずとまよ代々木公演2デイズの二日目にしてツアー最終日。

 二日連続だし、できれば前日とは反対サイドから観たかったのだけれど、あいにく席は昨日と同じ北側スタンド一階。それでも、この日はHブロックということで、三ブロックほどステージに近かった。

 そしたら、この違いが思いのほか、でかかった。視覚的にも音響的にも解像度が違った。ステージも右手のスクリーンも断然よく見えるし、音も俄然とはっきりしていた。演出で時折あがる炎の熱さもちょっとだけ伝わってきた。

 まぁ、前日は遠かった分、ステージ全体が見渡せて、ライティングの美しさが際立っていたのと比べると、この日は近づいた分、右手にいたストリングの人たちが機材に遮られてよく見えなかったし、ライティングもそれほど意識することがなかった。

 それでもやっぱり、肉眼でACAねの動きがちゃんと追えるのは嬉しい。それ以前に前日はなんだかよくわからなかったことがちゃんとわかるのがいい。

 たとえば、開会宣言でのテープカット。前日はなんかよくわからない紐が出てきたくらいのイメージだったのが、この日はちゃんと開会式のテープカットだってわかった。

 たとえば、サブステージへ向かう電飾バイクのうしろをついてゆく小さなメカうにぐり。前日は「なんかいる?」くらいのイメージだったリモコン操作のこのロボが、この日は目の前を通り過ぎてゆくのが肉眼で確認できた。

 たとえば、そのサブステージから本ステージに戻る前に、ACAねが背中につけたC字型の装着物。それがルナストーンを切り出して作ったルナモノリスというものだという説明がちゃんと聴きとれた。

 ステージ左手の隅にいたハープの人と佐々木コジローが前日はどこにいるのかさっぱりわからず、もしかしてコジローくんがハープを弾いているのかと思ったりしたんだけれど、この日は二人が別人なのがわかった。

 『お勉強しといてよ』のイントロ前に奈落からデコバイクが再登場した場面では、バイクにまたがっているのがトランペットの具志堅という人で、ACAねが乗っていたときには台座に固定されていたそのバイクが、この時にはふつうにタイヤで動いていること――なおかつ具志堅さんはそのバイクに乗ったまま、トランペットを吹いていたこと――がわかった。

 さらには、ラストナンバーの『眩しいDNAだけ』(ラストのACAねのロングトーンが圧巻だった)で、演奏の終わりにバーンと爆発音がさく裂した場面。前日はびっくりして跳ね上がってしまったけれど、この日は扇風機の中央にカウントダウンが表示されているのがわかったので、安心して爆発の瞬間を待てた。

 そのほか、『ミラーチューン』で最後のほうで転調ともに「パワーアップ!」とかいってミラーシューターを大きなやつに持ち替えるところとか、『クズリ念』でワンコーラス目をトランシーバーで歌っていたこととか、『クリームで会いにいけますか』のとき、前日は知らないうちに花道にいたうにぐりの着ぐるみが、花道のつけ根にある奈落から出入りしていたこととか。

 あと、『MILABO』のサビの「因果応報叱らないで」や、『お勉強しといてよ』の「乾かないや」というフレーズで、申し合わせたような大合唱が起こるのに感心していたら、ステージ上の小さなスクリーンに「SING」という文字が出ていることに途中で気がついたりとか。

 アンコールの終了後、奈落へ消えてゆくACAねは片手を高く掲げ、親指をたててグッドサインを作っていた。僕らが最後に見たのはそのグッドサインだった。

 そういう前日は遠くてよくわからなかったディテールの数々がこの日はわかった。基本的には同じ内容なのに、それだけで全体のイメージがよりくっきりとしてくる。やっぱライヴはステージが近いほうが楽しいなぁって思った。

【SET LIST】
  1. 虚仮にしてくれ (Short ver.)
  2. 嘘じゃない
  3. 秒針を噛む
  4. 消えてしまいそうです
  5. ミラーチューン
  6. 勘ぐれい (ヤンキーver.)
  7. 馴れ合いサーブ
  8. 残機
  9. 形 [新曲]
  10. 上辺の私自身なんだよ (Acoustic ver.)
  11. クズリ念 (Acoustic ver.)
  12. ろんりねす (フラメンコよさこいver.)
  13. 微熱魔
  14. 胸の煙
  15. 海馬成長痛
  16. MILABO
  17. シェードの埃は延長
  18. お勉強しといてよ
  19. TAIDADA
  20. 暗く黒く
    [Encore]
  21. クリームで会いにいけますか
  22. あいつら全員同窓会
  23. 眩しいDNAだけ

 二日つづけて観てよかったことのもうひとつは、演出の違いが楽しめたこと。

 日替わりメニューの選曲とアレンジが違うのは当然として、その前のルナストーンにまつわる余興の内容が違っていたり、ライヴ後の告知が違っていたりする。

 日替わりメニューでは、この日のルーレットも前日と同じブルーが止まったのに、選曲は『ろんりねす』(ヤンキー表記は『孤独寝巣』)で、アレンジはよさこいフラメンコ風だった(でも後半の合いの手はソーラン節だった)。

 ルナストーンのくだりでは、ACAねの通信相手を務めていたのが、前日と同じブラウン博士ではなく、HARU1987こと吉田悠だった。また、この日はパーカッションの神谷氏も登場。まずはブルースクリーンのせいで着ているツナギが消えて、顔だけが浮いている状態になって笑わせる。さらに前日はルナストーンに大きな石の模型を使っていたのに、今回は宙に浮くその顔をルナストーンだといって、さらなる爆笑を誘っていた。

 前日はこのルナストーンのパートから日替わり曲のコーナーまで、正直ちょっと長すぎやしないかと思ってしまったけれど(おそらくその部分の三曲だけで三十分くらい費やしている)、二日目のこの日は流れが把握できていた上にギャグが倍増していたこともあって、ずっと笑って観ていられた。

 終演後の告知もまるで違った。マリマリマリーは登場せず、ツアー最終日ということで、これまでに発表したことのおさらい的な内容に変更になっていた。そして最後には「アルバム曲も作ってます」という報告あり!

 そういや、前日は終演後に出口で配られた『コズミックどろ団子ツアー』の告知ポストカードを、この日は入場の際にもらった。

 そんな風にツアーの進行にあわせて、演出も運営もちょっとずつやり方を変えてゆく。今回も会場周辺は文化祭のようだったし、そうやってお客さんを少しでも楽しませようとする創意工夫が見て取れるのも、ずとまよライブの魅力のひとつだ。

 演奏についてもそう。TVドラムのイントロを聴くと、次は『お勉強しといてよ』だと思うよう習慣づけられている僕らに、この日は『勘ぐれい』や『海馬成長痛』をかまして意表をついてきた(逆に『お勉強しといてよ』のイントロにはTVドラムのソロがなかった)。そういうところもいい。

 あれとかこれとか当然演奏されると思っていた名曲群をあえてセットリストから外してくる姿勢も含めて――まぁ、そこは嬉しいわけではないけれど(『花一匁』聴きたかった……)――同じことはそうそうつづけませんよって。そういう予定調和を嫌う姿勢が素晴らしい。

 コンサートチケットの高騰がすさまじくて、最近はすっかり洋楽のライブにいけなくなってしまったけれど――ここ一年くらいのあいだに、トム・ヨーク、PJハーヴィー、ベックなど、悩んだあげくにスルーしたライブがたくさんある――こういうコンサートをやってくれている限り、今後どれだけチケットが高くなっても、ずとまよのライヴには通いつづけないではいられないよなって思った。

(Jun. 03, 2025)