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  1. フランツ・フェルディナンド @ 東京国際フォーラム・ホールA (Nov 27, 2018)
  2. ポール・マッカートニー @ 東京ドーム (Nov 1, 2018)
  3. ザ・フラテリス @ WWW X (Oct 31, 2018)
  4. さユり @ Zepp Tokyo (Oct 19, 2018)
  5. 月を歩いている / n-buna
    and more...

フランツ・フェルディナンド

2018年11月27日/東京国際フォーラム・ホールA

Always Ascending

 ちょっとした運があって(というか、おそらく大人の事情で)チケットが手に入ったので、東京国際フォーラムで行われたフランツ・フェルディナンドの来日公演を観てきた。
 先月のフラテリスにつづき、グラスゴー出身の「フラ」で始まる名前のバンド──しかもファンとはいえないくらいしか聴いてない──を二ヶ月つづけて観ることになるという、なんとなく不思議な展開。
 まぁでも、フランツ・フェルディナンドはフジロックで何度もヘッドライナーをつとめているのもわかるなって。そういう素晴らしいステージだった。
 この日のライヴについては、まず前座について語っとかなきゃならない。
 最近はよほどの大物でないかぎり、来日公演にはオープニング・アクトがつくのがあたり前ってご時勢になっていて、今年に入って僕が観にいった洋楽アーティストの単独公演では、ポール・マッカートニーを除いてすべて前座があった。
 正直そのすべてが知らないバンドだったし(だから特に感想も書き残していない)、ライヴハウスだと見知らぬバンドのために一時間も余計に立ちっぱなしを強いられるのは嬉しくないのだけれど、この日は席のあるホールだったので、座って観られるから、まぁいいかと思っていたら──。
 ラッツ・オン・ラフツというそのオランダのバンドは、残念なことにあまりに音が悪かった。ギター二本で女性がベースのフォー・ピース・バンドで、演奏は初期のキュアーをもっとソリッドにハードにしたみたいな、僕は比較的好きなタイプのバンドだったんだけれど、とにかく音が悪かった。PAがホールの規模にあっていないのか、僕らがいた二階席の真ん中あたりだと、音量がでかいから音の分離が悪くて、ボーカルがなにを歌っているのか、ほとんどわからない。
 そういや、以前にここで東京事変を観たときにも、その音の悪さにがっかりしたっけねぇって。やはり東京国際フォーラムの二階席はロックには向かないんじゃないかと思って、残念な気持ちで真打ちの登場を待っていたのでしたが──。
 ところが驚いたことにフランツ・フェルディナンドの演奏にはそんな不満はまったく感じなかった。なぜって彼らの演奏は、ラッツ・オン・ラフツに比べて音が小さかったから。しかも一曲目はいきなり新譜収録のムード歌謡っぽいスロー・ナンバー。
 フランツってフジロックでグリーン・ステージのとりを飾るくらいのバンドだし、基本的にほとんどがダンス・チューンだから、でかい音とハードなビートでガンガンと突き上げてくるバンドだと思っていたので、これには驚いた。え、こんなに音が小さいの?って。
 でもすぐに、この会場ではそれが正解だとわかった。なまじ前のバンドのボーカルが埋没した大音量にへきえきとしたあとだったので、フランツの小さめな音量──でもだからこそ、フロントマンのアレックスのボーカルがはっきりと聞き取れる──はかえって好印象だった。
 もちろん、フェスのでかいステージを飾るときにはそれ相応の大音量を鳴らしているんだろう。でもこの会場ではこれくらいがベストだと思えば、その会場なりの音響で演奏してみせることができる。でもって音量の大小にかかわらず、しっかりオーディエンスを楽しませることができる。そういうところに、場数を踏んだライヴ・バンドならではの余裕と底力を感じた。

【SET LIST】
  1. > Slow Don't Kill Me Slow
  2. > Stand on the Horizon
  3. > Glimpse of Love
  4. > Walk Away
  5. > No You Girls
  6. > Evil Eye
  7. > The Dark of the Matinee
  8. > Do You Want To
  9. > Finally
  10. > Michael
  11. > Feel the Love Go
  12. > Take Me Out
  13. > Ulysses
    [Encore]
  14. > Always Ascending
  15. > Lazy Boy
  16. > Love Illumination
  17. > This Fire

 一曲目こそスローなナンバーでゆるっと入ったけれど、それ以降は得意のダンス・チューンの連発でオーディエンスをダンス天国へと導いてゆく。フランツ・フェルディナンドの曲ってマイナー調のディスコ・ビートの金太郎飴状態なので、どの曲がどうしたとか関係なく、いったんその世界にはまれれば、文句なしの気持ちよさがある。
 やはりファースト収録の『Take Me Out』やセカンドの『Do You Want To』など、スペシャルな曲はあるけれど──僕がちゃんと認識していたのはその2曲くらいだった──それ以外の曲もほとんど同じテンションで気持ちよく聴ける。
 で、演出といえばスポットライトを多用したスタイリッシュなライティングくらいにもかかわらず、このバンドのステージには不思議な演劇っぽさがあるのがおもしろかった。アレックスの独特のステージ・アクション──うちの奥さんがカッコ悪いを連発してました(褒め言葉として)──のせいもあるのかもしれないけど、なんとなく短編映画をたてつづけに観ているような気分になるステージだった。フランツ・フェルディナンドってバンド名からしてすでに芝居がかっているので、もともとそういう志向性を持ったバンドなのかもしれない。
 まぁ、なんにしろ盛りあがりは文句なしでした。二階席の僕のまわりでも、白髪の人以外はほとんどが立っていた。この音楽を座ったまま聴くのは、ちょっともったいないだろうと思わせるものが確実にそこにはあった。
 極めつけは『Take Me Out』だったかで、一階席のオーディエンスがいっせいにどーっとステージに押し寄せた場面。固定席ありのホールが、そこからいきなり狂騒のライブハウス状態になった。二階席から見たその風景は圧巻でした。あんなの見たの初めてだったよ。あれが見られただけでもこの日のライヴに足を運んだ甲斐があると思った。
 まぁ、その『Take Me Out』が演奏されたのが、始まってからまだ一時間くらいのころだったので、ずいぶん早い時間にやっちゃうんだなと思ったら、その次の曲で本編が終わってしまったのもびっくりでしたが。おいおい、短すぎだろって思った。
 実際にはそのあとにアンコールが四曲もあって、終わってみれば予定の一時間半きっちりってステージではあったから、踊り呆けていた人たちはみんな大満足だったんでしょうが。でもやっぱ、エレカシとかの日本のバンドの三時間近いライヴを見慣れていると、海外のアーティストのステージって短いよなと思う。
 まぁなんにしろ、フランツ・フェルディナンドはよかった。再び単独公演に足を運ぶかと問われると微妙だけれど、次は幕張か苗場で観られたらいいなと思う。
(Dec. 09, 2018)

ポール・マッカートニー

プレッシュン・アップ・ジャパン・ツアー2018/2018年11月1日(木)/東京ドーム

Egypt Station

 サマソニでノエル・ギャラガーが『愛こそはすべて』を聴かせてくれたり、レキシが『ジ・エンド』をSEで流して退場したりするのを見たら、やはり観られるうちに一度くらい、うちの奥さんと一緒に元祖ビートルズのライヴを観ておくべきだろうって気がしてきたので、ポール・マッカートニーを観に東京ドームへ行ってきた。僕にとっては人生二度目の生ポール。
 平日なのに開演時間が六時半と早かったので、仕事を早引けして駆けつけてみれば、ライヴはなかなか始まらない。BGMにビートルズとポール・マッカートニー・ナンバーがかかり──開演前にアーティスト本人の音楽がかかっているってのもレジェンドならではだ──やがてそれが左右のモニターで縦スクロールする映像付きの演出になったりして、これはもしやもしやコンサートの一部なのかと思いながら待つことおよそ一時間。ようやライヴがスタートしたのは七時半近かったと思う。
 オープニング・ナンバーはビートルズの『A Hard Day's Night』。ビートルズではジョン・レノンがリード・ボーカルをとった曲で幕をあけるってのがふるっている。
 あとでセットリストを確認したら、およそ三分の二がビートルズ・ナンバーだった(アンコールなんて全曲ビートルズだ)。ジョンに捧げるといって、自身のソロの『Here Today』を歌ったり、ジョージの『Something』をウクレレでカバーしてみたり(途中からバンドが入ってくるこの曲のアレンジが最高だった)。いまやポール御大はメンバーの誰かれの曲とかは関係なく、史上最大のロック・バンドの生き残りとしての責任を一身でまっこうから引き受けようとしているみたいだった。
 バンドの音はスタジアムでやるには小さめ。バンドの中心メンバーは僕が十六年前に観たときとほとんど変わってないと思われるので、やはり御大の年齢もあってか、昔よりも控えめな音量になっている気がした。この演奏だとドームより両国国技館のほうが映えるだろうなって思った。金があればそっちで観たかったけれど、ちょっと思いたって出かけるには、三万円越えのチケットはさすがに……。

【SET LIST】
  1. A Hard Day's Night
  2. Junior's Farm
  3. Can't Buy Me Love
  4. Letting Go
  5. Who Cares
  6. Got to Get You Into My Life
  7. Come On to Me
  8. Let Me Roll It
  9. I've Got a Feeling
  10. Let 'Em In
  11. My Valentine
  12. Nineteen Hundred and Eighty-Five
  13. Maybe I'm Amazed
  14. We Can Work It Out
  15. In Spite of All the Danger
  16. From Me to You
  17. Love Me Do
  18. Blackbird
  19. Here Today
  20. Queenie Eye
  21. Lady Madonna
  22. Eleanor Rigby
  23. Fuh You
  24. Being for the Benefit of Mr. Kite!
  25. Something
  26. Ob-La-Di, Ob-La-Da
  27. Band on the Run
  28. Back in the U.S.S.R.
  29. Let It Be
  30. Live and Let Die
  31. Hey Jude
    [Encore]
  32. I Saw Her Standing There
  33. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
  34. Helter Skelter
  35. Golden Slumbers
  36. Carry That Weight
  37. The End

 ポール・マッカートニーはファンの人もなんだかいつもと違っておもしろかった。僕の右隣にいた韓国人女性二人組はライヴが始まるなり、耳をつんざくような声で「キャーーーー!」ってものすごい歓声を上げ始めるし。こんな黄色い歓声、ビートルズの記録映像でしか聴いたことないぞって──あ、これってもろビートルズのライヴかって。そう思って苦笑いしてしまった(この人たちは歌も歌いまくりですごかった)。
 二つ前くらいの席にいたカップルは、ビートルズ・ナンバーになるといきなりハイテンションになって立ち上がり、サイリウム振ってノリノリなのに、ポールのソロ・ナンバーだといたっておとなしかった。なんで『Band on the Run』や『Live And Let Die』で盛り上がらないでいられるのか、俺にはそっちのほうが不思議だ。
 まぁ、とはいえ全体的に年齢層の高いオーディエンスが多かったので、一階席のなかほどにいた僕らの席のまわりは、ほとんどが座ったままだった。自分たちだけ立つのもちょっと気が引けたので、だいたいの時間は座ったままでいた。そこんところがやや残念で、不完全燃焼気味だった。まぁ、自業自得だけれど。
 ポール・マッカートニーを生で観て印象的なのは、この人がとても印象的なリフを生み出す名人だなってこと。メロディーメイカーとして優れた人なので、そのメロディーの美しさに気をとられがちだけれど、生で演奏を聴いていると、ダイナミックで気の効いたリフの連発にこそ強く惹かれる。そのへんはベーシストとしてキャリアをスタートしたがゆえなのかなと思った。単なるメロディーメイカーと思ってあなどっちゃいけない。ポール・マッカートニーのライヴには、これぞロックだってグルーヴがある。
 でもって、やはりビートルズ・ナンバー連発ってのもあって、観客が歌う、歌う。僕もあおられて、いつになく歌ったし、あの広いドームであれだけオーディエンスを歌わせるアーティストって、ポール・マッカートニーのほかにはいないんじゃないかと思う。なんともすごかったです。
 楽しみにしていたアンコールのアビー・ロード・メドレーも素晴らしかった。あのエンディングって、ロック・コンサート史上最大のカタルシスのひとつじゃないかとさえ思う。一度だけでも生で体験できて本当によかった。
 なんにしろ、七十六歳の老人にあそこまで元気な姿を見せられちゃケチのつけようがない。だてに半世紀以上にわたってビートルズの看板を背負ってきちゃいない。
 ポール・マッカートニーは老いてなおすごかった。
(Nov. 25, 2018)

ザ・フラテリス

2018年10月31日(水)/WWW X

IN YOUR OWN SWEET TIME

 ハロウィンの夜に渋谷の喧騒の片隅でグラスゴー出身のスリー・ピース・バンド、ザ・フラテリスのライヴを観た。
 僕はフラテリスをデビューしたときから聴いているけれど、盛り上がったのはファーストだけで、それ以降はつかず離れず、タイトルがわかる曲は『Flathead』だけってリスナーなので、フェスならばともかく、ひとりだったら絶対に単独公演を観にゆこうとは思わないんだけれど、なぜか普段は新しい洋楽のバンドをほとんど聴かないうちの奥さんがサード・アルバムが出たころに突然このバンドにはまり、それ以来ライヴが観たい、ライヴが観たいを連発していたので、今回はつきあいで観にゆくことにした。
 そんなだから、正直なところ、それほど乗り気ではなくて、渋谷の狂騒にもうんざりしていたから、チケットを取ったことをちょっぴり後悔したりもしていたんだけれど、いざ観てみて、そのよさに驚いた。
 僕はフラテリスというバンドをシンガロングが売りの陽気なパーティー・バンドかと思っていたんだけれど、実際に観てみたら、そんな単純なバンドじゃなかった。
 まず印象的だったのは、フロントマンであるジョン・フラテリのミュージシャンとしての素養の高さ。
 この人はギターも歌もやたらと上手い。それも単に技術をひけらかすような上手さではなくて、自分の好きな音楽を鳴らすのに必要なだけの能力をたっぷりと持ち合わせていて、それを必要なときに必要なだけ引き出すことができる、とでもいった余裕しゃくしゃくなところがある。喉も裂けろとばかりに叫んだり、力任せにギターをかき鳴らしたりとか、そういうのが一切ない。どんなに盛り上がる曲でも、彼のたたずまいは常にかろやか。そこがとても意外だった。そしてそんな彼の姿勢にとても感銘を受けた。ある種の天才を感じた。

【SET LIST】
  1. Whistle for the Choir
  2. Impostors (Little by Little)
  3. Baby Don't You Lie to Me!
  4. Flathead
  5. Starcrossed Losers
  6. For the Girl
  7. Sugartown
  8. Everybody Knows You Cried Last Night
  9. I Am That
  10. Henrietta
  11. I've Been Blind
  12. Creepin Up the Backstairs
  13. She's Not Gone Yet But She's Leaving
  14. Ole Black 'n' Blue Eyes
  15. Stand Up Tragedy
  16. We Need Medicine
  17. Baby Fratelli
  18. A Heady Tale
    [Encore]
  19. Laughing Gas
  20. Chelsea Dagger
  21. Runaround Sue

 ジョンさんは白いつば広の帽子にぴっちりとした黒いシャツ、ダメージド・ジーンズという格好で、白いピックガードにローズネックの真っ赤なテレキャスターを弾いていた。最初から最後までギターはこれ一本ってのも、なにかとギターを交換しまくる日本のアーティストばかり観ている身としては新鮮だった。
 そんな彼を支えるバンドのメンバー──ドラムとベースに、サポートのキーボードの四人組──も息はばっちり。オープニングを飾った『Whistle for the Choir』のようなおとなしめな曲はそれ相応に滑らかに可愛らしく、『Flathead』のようなジャンプアップ・ナンバーはそれにふさわしい音量でガンガン盛り上げてみせる。
 新譜のとりを飾る『I Am That』のようなインド風のサイケデリック・ナンバーもあるし、アンコールの『Laughing Gas』はジョンがギターの弾き語りでしっとりと聴かせる。オルガンの音色が印象的だったラストのカバー曲『Runaround Sue』もスピード感のあるアレンジがやたらとカッコよかった。とにかくその演奏は思いのほか多彩で、まるでUKロックの最良の部分を純粋培養したかのようだった。
 彼らの音楽には斬新な部分はほとんどないけれど、そのぶん、ロックの歴史をきちんと咀嚼してみずからの栄養とし、すくすくと育ってきたような純粋さがあった。僕の好きなアーティストでいうならば、エルヴィス・コステロに近い印象。ただしコステロ師匠のように様々なジャンルに手を出すことなく、ひたすらロックの王道を突き進んできた感がある。
 たまたま僕らはその翌日に東京ドームでポール・マッカートニーを観たのだけれど、フラテリスにはビートルズの時代から連綿とつらなるUKロックの遺伝子をきっちりと引き継いだ正統的なロック・バンドという印象があった。
 そんなバンドを定員五百名前後という小さなハコで観られるのだから、これが悪かろうはずがないでしょうって話で。翌日のマッカートニー氏もよかったけれど、あちらは広すぎて音がいまいちだったり、まわりの観客に気をとられて集中しきれない部分があったので、純粋に音楽を楽しんだという意味では、この日のほうが断然満足度が高かった。
 僕個人の趣味からすると、ジョン・フラテリのボーカルっていまいち好みではないので、これを観ていきなり夢中になったりはしないけれど──声質の好みは生理的なものなので、いかんともしがたいですよね──、それでもこの日のライヴには大いに感銘を受けた。フラテリス、すげぇって素直に思いました。
 いやぁ、いいもの見せてもらった。
(Nov. 25, 2018)

さユり

レイメイのすゝめ/2018年10月19日(金)/Zepp Tokyo

レイメイ(初回生産限定盤)(DVD付)(特典なし)

 サマソニの三十分のステージではもの足りず、Zepp Tokyoでの酸欠少女さユりの単独公演を観に行ってきた。
 自分の娘と同世代の女の子のライヴに足を運ぶのはちょっと気が引けたんだけれど、でも観たいんだからしょうがない。チケットも取れないだろうと思ってダメもとで抽選に応募したら、簡単に取れちゃうし。
 チケットはその後の一般発売でも購入できたので、僕が思っているほど人気はないのかと思っていたけれど、最終的にはソールドアウトしたとのことで、場内は若者でぎっしりだった。さユりのMCによると、収容人員は2,700らしい。
 そんなに売れてないと油断していたので、開演ぎりぎりに到着してみれば、すでに選択の自由がなく、うしろの隅のほうで観るのを余儀なくされ、しかもまわりの人たちがほとんど棒立ち状態だったので、なかなかきついものがあった。ちょっと身体を揺らすと、腕が触れたとなりの人が振り返ったりするし。モッシュに巻き込まれるのも嫌だけれど、まわりがまったく動かないのもきついもんだなと思いました。
 ライヴのオープニングは宇宙を描いたスペイシーなCG映像でもって始まった。すでにどんなだったか記憶があいまいだけれど、けっこう壮大なスケールのやつ。
 でもってライヴもその流れでダイナミックに始まるのかと思いきや、そうではなく。CGが終わってから一呼吸おいて、白いポンチョ姿で黄色いアコギをひっさげたさユりさんがスポットライトを浴びる。
 この日のステージで一曲目を飾ったのは、知らない弾き語りナンバーだった。ネットで調べたらところ、『夜明けの詩』という曲らしい。
 さユりは路上ライヴでキャリアをスタートさせた人だからか、あまり公式リリースうんぬんにはこだわりがないみたいだ。この日のセットリストにもこのオープニング・ナンバーや新曲の『レイメイ』を含め、未発表曲が四曲も含まれていた。
 二曲目の『来世で会おう』もワン・コーラス目は弾き語り。でもって、ここまでは演出らしい演出はゼロ。スポットライトだけがアコギをかき鳴らすさユりの姿を浮かび上がらせていた。もしや今回は弾き語りツアー?――って思ってしまったくらい。でもさすがにそんなことはない。
 『来世で会おう』の一番を歌い終わったところでバンドが入り、ここからいよいよこの日のライヴの本編に突入する。でもたぶん、この曲のときはライティングだけで、映像を使った演出はなかったと思う。
 「歌と映像がシンクロした2.5次元ワンマンライブツアー」と題した今回のツアー『レイメイのすゝめ』が本領を発揮しはじめたのは、その次の『アノニマス』から。サマソニでも設置されていたステージ全体を覆った透明なスクリーンに、アニメやCG、実写映像、歌詞の断片が映し出され、さユりの歌の世界をより色鮮やかに飾りたててゆく。
 スクリーンはステージ前方のそれだけではなく、背景のものも使われていて、その両方を使い分けることで、より立体的な3D効果を生み出していた。サマソニ同様、『オッドアイ』でのレーザー光線のみの演出も美しかった。

 
【SET LIST】
  1. 夜明けの詩
  2. 来世で会おう
  3. アノニマス
  4. プルースト
  5. いくつもの絵画
  6. フラレガイガール
  7. オッドアイ
  8. 月と花束
  9. レイメイ
  10. よだかの詩
  11. 光と闇
  12. 平行線
  13. るーららるーらーるららるーらー
  14. ミカヅキ
  15. birthday song
  16. 十億年

 今回のツアータイトルにもなっているMY FIRST STORYというバンドとのコラボ曲『レイメイ』は、マイフェス(と呼ばれているらしい)のボーカル・パートをカラオケで聴かせて、さユりはさユりのパートだけを歌うというアレンジだった。せっかくのライヴなんだから、全編さユりのボーカルだけで歌ってもらえたほうが嬉しいんだけれどな──と思いながら聴いていた。そうするのが難しい理由があるんでしょうかね。フルで聴くのはその日が初めての曲だったので、そのへんはよくわからない。
 でもあの曲を「明るい曲です」と紹介するさユりの感覚って、ちょっと変わっていると思う。そりゃ勢いのある曲だし、暗くはないですけどね。あまり「明るい」という言葉が似合う曲って気はしなかった。
 彼女の歌はとても通りがよくて、期待通りの存在感。その声がバンドの音に埋もれず、ストレートに僕らへと突き刺さってくる。
 CSで放送されたフェスでの映像やYouTubeにある路上ライヴでの弾き語り映像なんかを観ると、ときによってはボーカルが不安定だったり、ギターをミスっていたりすることもあるけれど、この日のように凝った演出とバンドの演奏に支えられてのステージを生で観ているぶんにはまったく問題なし。非常に気持ちよかった。
 MCでの謙虚な言葉の選び方に人となりが滲み出していたのも印象的だった。2曲目を歌い終えたあとのこの日の第一声、「さゆりです。よろしくお願いします」とか、最初のMCでの、「Zepp Tokyo、2018年10月19日、『レイメイのすすめ』、よろしくお願いします」とか。その律儀で丁寧な言葉のはしはしから、いまという時間が二度とないこと、だからこそ、いまこの場所にいることをなにより大切に思っていることが真摯に伝わってくる。
 『レイメイ』でのMCでは「昔は夜明けが怖かった」と語り、でもいまは夜明けを怖がらずに歌えるようになった、みたいなことをとつとつと語っていた。ちなみにオープニングの『夜明けの詩』がまさに「夜明けが怖い」という歌詞みたいだから、一曲目があの曲だったのは今回のツアーの必然なんだろう。
 ライヴの最後はステージを絵画の額縁に見立てて、そこにMVの映像をあしらった『birthday song』から、オープニングのCGと対をなす宇宙規模の映像を使った『十億年』で幕。そしてなんとアンコールなし。
 アンコールのないライヴを観たのって、いつ以来だろう? とんと記憶にない。
 混んでいてステージが遠いうえに、映像が凝っているぶん、ステージが明るくなることがほとんどないので、バンドの編成──ドラム、ベース、ギター、キーボードの四人──がいまいちよくわからなかったりしたけれど、そのぶん、主役であるさユりの歌がくっきりと浮かび上がる、そういうコンサートだったと思う。そういや、さゆりはアコギしか弾かないのかと思っていたら、『平行線』ではエレキ(ストラトキャスター?)を弾いていて、おっと思った。まぁ、よく見えなかったから、弾きっぷりとかはよくわからないんだけれど。
 ライヴの内容とは関係ないところで気になったのは、曲と曲の間、観客がやたらと静かだったこと。昔のバンプなんかでも静かだなぁと思ったことがあるけれど、さユりのファンはもっと静か。
 アーティスト本人が歌っている途中で叫んだりするのはやめてくれと言っているそうなので、ファンの側にも遠慮があるのかもしれないけど、それにしたって、「次の曲は『birthday sing』です」って言われも「しーん」って。それはちょっとどうなの?って思ってしまった。次に大好きな曲が聴けるとわかったら、自然と歓声があがりそうなもんなのに。なぜあそこまで静かにしていられるのか、かえって不思議。
 そんなこというなら、自分で歓声あげりゃいいじゃんって? いやいや、それは五十代男性として、ちょっとどうかと思うんだよね。ねぇ? そこんところは、やはり同世代にお願いしたい。
 いやぁ、それにしても一時間半ちょいでもやっぱもの足りなかった。ぜひもう一度観直したい。せっかく凝った演出もあるんだし、もったいないので、ぜひとも映像作品としてのリリースをお願いしたい。よろしくお願いします。
(Oct. 28, 2018)

月を歩いている

n-buna / 2016 / CD

月を歩いている<初回生産限定盤>

 もう一枚、n-bunaの作品を。こちらは2年前にリリースされたボーカロイドのセカンド・アルバム(インディー盤も入れれば三枚目)。さユりのカバーした『ルラ』はこのアルバムに収録されている。
 シンデレラをモチーフにした『ルラ』を初めとして、この作品はすべての曲が童話や昔話をモチーフにしたコンセプト・アルバムとなっている。まずこの発想がキャッチーでいい。
 とりあげられているお話は、シンデレラ、狼少年、人魚姫、赤い靴、白雪姫、ラプンツェル、セロ弾きのゴーシュ、ヘンゼルとグレーテル、かぐや姫。あと、童話作家の歌が一曲と、初回限定盤の特典としてついてくるオリジナル童話のミニ絵本『カエルのはなし』のテーマ曲がボーナス・トラックとして収録されている。
 それとピアノ中心のインスト・ナンバーも五曲ある。ナブナのアルバムにはどれも必ずインスト・ナンバーが入っていて、それらがとてもいいアクセントになっている。
 素晴らしい詩を書く人だけれど、歌詞なしのインストでも十分聴かせるのだから、そのメロディー・メイカーとしての才能にも疑いなし。もちろん、打ち込みで音楽を作っているのだから、アレンジはすべてナブナ本人の手によるものだ。
 要するにナブナという人は、作詞・作曲・アレンジのすべてに秀でた、三拍子そろった恐ろしい才能の持ち主なわけです。
 なぜナブナがボカロで音楽活動を始めたのかは知らないけれど、これほどの才能の持ち主が、もしも歌が下手で自分では歌えないとか、人づきあいが嫌いでバンド活動ができないとかの理由でひきこもったまま、その才能をこの世に知らしめることができなかったとしたら、それはもったいないにもほどがある。
 僕は基本的に打ち込みよりも生演奏のほうが好きだから、人の声までが人工的に作られたボーカロイドにはこれまでまったく興味がなかったけれど、それでもボカロという表現手段があったからこそ、ナブナの才能が日の目を見ることができたとするのならば、ボカロの存在を肯定しないではいられいない。ナブナの音楽を聴いて、僕はいまの時代にボカロがあってよかったと思った。
 まぁ、正直なところ、ボカロだと歌詞がはっきりと聴き取れなくて、その歌の世界に浸りきれないので、どうせならこのアルバムをヨルシカでまるごとセルフ・カバーしてくれないかなと思ったりもするのだけれども。
 そうそう、公式サイトで公開されているナブナ本人による楽曲解説では、『白ゆき』について、「歌詞の「Snow White」は白雪姫の英題で、世に出した曲では初めて英単語を詩に使った気がする」なんて書いている。
 いわれてみれば、彼の歌詞はほぼ全編日本語だった。このご時勢にここまで英語を使わないアーティストって珍しいと思う(芸名はアルファベットだけど)。そこんところも僕がナブナを大いに気に入っている要因だったりする。
(Oct. 19, 2018)