Coishikawa Scraps / Music

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最近の五本

  1. HARRY & THE BIRTHDAY @ SGCホール有明 (Jul. 17, 2026)
  2. I AM HERO / 宮本浩次
  3. 宮本浩次 @ ぴあアリーナMM (Jun. 12, 2026)
  4. 形藻土 / ずっと真夜中でいいのに。
  5. 二人称 / ヨルシカ
    and more...

HARRY & THE BIRTHDAY

TOUR 2026 "Gotta Move" FINAL/2026年7月17日(金)/SGCホール有明

 スライダーズが解散してから、はや四半世紀以上。いまごろになって初めてハリーのソロでのライブを観た。

 これまでハリーのライブで観たことがなかったのは、レコーディング作品にスライダーズのころほど惹かれなかったのに加え、途中からは作品がインディーズでしかリリースされなくなってしまい、手に取りにくくなったのが一因。作品をきちんとフォローできていないと、やはりライブって足を運びにくい。

 さらにはライヴの内容も弾き語りとか、ドラムだけとか変則的なものが多くて、絶対に観たいと思うほどではなかったので、観にゆくタイミングがつかめず、今日にいたるという感じだった。

 ここ数年はコンサート・チケットの高騰が著しくて、一枚一万円を超えるのがあたりまえになってきてしまい、僕自身の体力の衰えや腰痛や預金残高の少なさもあいまって、以前のように気楽には足を運びにくくくなってきてしまったので、もうこのままハリーのライブは一度も観ずに終わるのかもなぁと思っていた矢先に発表されたのが、以前に夏フェスで共演したThe Birthdayとのツアーだった。

 チバくんなきあともThe Birthdayとして活動をつづける三人の演奏をバックにしたハリーのライブが観られる!

 もしもこの先ハリーのライブを観るのがたった一度だけだとしたら、これ以上の機会はないのでは? これを観ずしてなにを観る――。

 そう思って先行チケットの抽選に申し込んだものの、豊洲PITでの東京公演は落選。二公演ゆくのは懐具合が厳しいので、日和ってZepp Hanedaは申し込まなかったのが失敗だったか……と思うもあとの祭り。残念だけれど、いままでちゃんとフォローしてこなかった自分が悪い。このまま一生ハリーのライブは観れずに終わるんだろうなって思っていたところへ、追加で発表されたのがこのツアーファイナルだった。

 会場は三月に開業したばかりのSGCホール有明。東京ガーデンシアターに似た造りのホールで、キャパは五千人とあちらよりは少ないものの、すでに東京で二公演を終えたあとの追加公演だ。さすがに今回はチケットが取れました。しかも一階席のステージ向かって左手の、前から十六列目という良席。スライダーズの復活ライブのときよりもステージが近い! まぁ、右手にいたフジイケンジだけは前の人に遮られてよく見えなかったけれど、あとの三人はしっかりと視野に収まっていた。

【SET LIST】
  1. Respectable Performer
  2. Nowhere to Run
  3. 雨ざらし
  4. 針と匙
  5. Whiskey Heads
  6. ALRIGHT
  7. On The Road Again
  8. Uh, Ah, Oh, Ah (HARD DRUNK MAMA)
  9. 壬生狂言
  10. Sweet Pain
  11. Gotta Move [新曲]
  12. You Can't Be Serious
  13. Naked Rhythm
  14. RUIN
  15. 世界の終わり
  16. ROLLしねえ
    [Encore]
  17. カレンダーガール
  18. Tokyoシャッフル
  19. Let's go down the street

 定刻を過ぎてしばらくして客電が落ち、五十年代のオールディーズらしきナンバーがSEで流れるなか、The Birthdayのメンバーが登場~。最後にハリーが出てきて、フジイケンジのギターのイントロからコンサートが始まる。

 一曲目は『Respectable Performer』――というタイトルなのを、サビにそのフレーズが出てきて知りました。ごめん、ハリーの履修が浅すぎた。

 でも馴染みの薄い曲でもなんの問題もなし。とにかくバンドの音がカッコいい~。

 キュウちゃんのドラムとヒライハルキのベースに引っぱられて、ハリーとフジイケンジのギターがノイジーに絡み合う。これこれこれ。こういう音が聴きたかったんだよ~って、まさに僕が望むギター・ロックの理想形。スライダーズとThe Birthdayってどちらも僕にとってはそういうバンドだったので、その両者のコラボは予想以上に最高だった。

 この一曲目ではハリーのボーカルがよく聴きとれないほど音もでかかった。二曲目以降はミキサーの調節がよくなったのか、はたまた単にそこまでギターをかき鳴らさない曲がつづいたからか、そんなこともなくなったけれど、でもとにかく一曲目はとにかく音がでかかった。でもって、それがとても気持ちよかった。

 かつてはエレカシのライヴ帰りには耳鳴りがして、相方の声がよく聞こえないなんてことがあった。最近はそういう経験がすっかりなくなったけれど、この夜はちょっとだけそのころに近いものがあった。やっぱロックはこういうのがいいよなあって思った。もうこの一曲目を聴いた時点で、この夜のライブが最高のものになるのを確信した。このバンドの音を二時間も浴びられるんだよ? これが最高でなければなんだろう?

 ハリーとThe Birthdayのコラボってことで、どのバンドの曲をどんな比重でやるのかも要注目だったわけだけれど、セットリストの中心となったのはハリーのソロ・ナンバーで、それ以外は六曲だけだった。全部で十九曲だったから、約三分の一弱。

 ハリーはソロでもスライダーズの曲をやっている印象だったし、それなりにスライダーズの曲も聴けるだろうと思っていたのに、ほとんどやらなかったのは予想外。演奏されたスライダーズ・ナンバーはわずか三曲で、本編で演奏されたのは『On The Road Again』一曲だけだった。

 でもこの曲がいい。スライダーズの再結成ライブで必ずやるだろうと思っていたのに聴けずに終わったこの曲を、あえてこのツアーでやってくれたことが嬉しかった。それはアンコールの『Tokyoシャッフル』もしかり。いまさらこの曲をツイン・ギターのバンド・サウンドで聴けるのって、嬉し過ぎでしょう?

 本編の大半はハリーのソロ・ナンバーで、いまいち馴染みが薄かったとはいえ、知らない曲はひとつもなかったし、とにかくバンド・サウンドが最高なので、それだけで十分に楽しいところへきて、このツアーではコラボゆえのサプライズがいくつか用意されていた。これがまたたまらない。

 まずは冒頭からソロ・ナンバーをつづけたあと、六曲目に披露されたのが『ALRIGHT』。

 The Birthday初期のEP『プレスファクトリー』の収録曲で、オリジナル・アルバムには未収録のせいで、僕はサビにくるまでThe Birthdayの曲だって気がつかなかった。いまいち馴染みの薄いこのバラードを引っぱり出してくるあたりもふるっている。

 ちなみに「夢をみようぜBady」と歌うこのナンバー。僕にとっては、いやおうなく宮本を思い出させるこの歌詞に、なんで同じことを歌っても、チバくんやハリーのほうがカッコいいんだろうなぁって思いながら耳を傾けていた。

 この曲の次が前述した『On The Road Again』で、ここの流れはこの日の序盤のクライマックスだった。

 二つめのサプライズはライブの中盤に演奏された新曲『Gotta Move』。

 まさかこのツアーのために、ツアータイトルを使った新曲を用意しているなんて思わないじゃん。ミディアム・テンポのブルージーなナンバーで、一聴しただけで記憶に残るようなキャッチーな曲ではなかったから、もう一度聴かせてもらっても同じ曲だとわからない可能性大だけれど、それでもわざわざ新曲を用意してくれた心意気にぐっときた。

 そしてこの夜最大にして最高のサプライズが本編のラスト・ナンバー『Rollしねえ』の前に鳴らされたあの曲――。

 フジイケンジが弾き始めた高速ギターカッティングのイントロを聴いて耳を疑った。

 えっ?

 これって、まさか?

 ハリーのソロにこの曲に似ているイントロの曲ってあったっけ?

 そんなフジケンのギターに、ヒライのベースが加わり、キュウちゃんのドラムが鳴った瞬間に、戸惑いが確信にかわった。そしてぶわっと鳥肌がたった。

 『世界の終わり』だあああぁ~~!!!!

 いやいやいやいや。まさかこの曲をふたたび生で聴く日がこようとは……。

 それもハリーのボーカルで。

 チバくんはThe Birthdayではまったくミッシェルの曲を演奏してこなかったので、フジケンとヒライハルキがこの曲を演奏するのも、おそらく今回のツアーが初めてでしょう? キュウちゃんにとっても、プライベートはいざ知らず、公式ではミッシェルの解散ライブ以来ではないんだろうか。

 The Birthdayとのコラボでなぜこれ?――とは思ったけれど、おそらくハリーにとっては、いまは亡きチバユウスケに対する追悼の意味を込めたトリビュートだったんだろう。スライダーズのトリビュートに参加してくれた返礼として、チバくんの曲をカバーするならば、彼の最高傑作であるこの曲をぜひやりたいと思ったんだろうきっと。ハリーのその思いにミッシェルのオリジナル・メンバーであるキュウちゃんが賛同したからこそ実現したと思われる夢のような衝撃のトリビュート・ナンバーだった。

 ということで、この名曲のあとに『Rollしねえ』を聴かせてもらって本編は終了。

 いまだ『世界の終わり』の余韻さめやらぬ中、最近のライブには珍しくずいぶんと待たされて始まったアンコールの一曲目は、The Birthdayの『カレンダーガール』。

 また意外な選曲を……。

 でもまぁ、チバくんの不在ゆえに、あえて王道をはずした、変化球的な選曲にならざるを得なかったのかもしれないとも思う。

 この曲ではワンコーラス目をハリーが歌ったあと、キュウちゃん、ヒライハルキ、フジケンの順でボーカルをまわして全員が歌うという趣向だった。チバくん抜きのライブでは三人ともボーカルを取っているようなので、そのことに対するハリーからの配慮だったのかなと思った。この曲に限らず、ハリーの歌に三人が持ち回りでコーラスをつけていたのも、このライブのよかった点。

 アンコールはそのあとに前述した『Tokyoシャッフル』があって、最後は『Let's go down the street』で締め。そうだよなぁ、スライダーズのトリビュートでThe Birthdayが演奏したこの曲は外せないよねって思いながら聴いてました。

 フジケンとキュウちゃんはハリーと十才違いだけれど、ヒライハルキとはちょうど二回り離れている。そのせいか、ハリーがThe Birthdayのメンバーを紹介する際の呼び方が、フジケン、ハルキ、クハラだったのも、なんかメンバー個々に対する距離感が伝わってきておもしろかった。年の離れた彼らと一緒に演奏するハリーがとても楽しそうだったのが、この夜もっとも印象的だったことかもしれない。

 あと、ハリーのファンはいかにもって人が多かった。会場へと向かう道すがら、あ、この人はハリー観にゆくんだろうなと思わせるファッションの人たち多数。会場内に長蛇の列ができているから、トイレか物販かと思ったら、列の先にあったのは喫煙ルームだったりするし。いまどき、あんなに喫煙者が多い集団も珍しかろう。

 なんにしろ、最近の宮本のライブは圧倒的に女性ばかりだし、ずとまよはもちろん若者中心なので、こういう年季の入ったロックファン大集合みたいなオーディエンス層って、かえって新鮮だった。

 いやぁ、でも本当にいいライブだった。ハリーのライブを観るのはこれが最初で最後になるかもと思っていたけれど、もしも彼らがふたたび一緒にツアーをする気になったら、そのときにはまた観にいきたくなってしまうこと必至だわ。

(Jul. 29, 2026)

I AM HERO

宮本浩次 / 2026

I AM HERO(通常盤)

 宮本浩次、四年半ぶりのオリジナルアルバム!――といわれて驚いた。いつの間にか、そんなに時間がたっていたとは。

 なるほど、『縦横無尽』は2021年の作品だ。翌年のミニアルバム『秋の日に』から数えても三年半。最近の邦楽のつねで、タイアップ曲が五月雨式に発表されているので、そこまで時間がたっているとは思わなかった。

 さて、カバー盤をのぞけば三枚目となる今回のソロ・アルバム。最大の特徴は、音作りにエレカシのころに通じる宮本らしいラフさが感じられることだと思う。

 小林武史の全面プロデュースで作った前作『縦横無尽』は、これぞプロというきっちりとしたサウンド・プロダクションの作品で、宮本絡みの作品では過去一の完成度の高さだった。でもそれゆえ「エレカシの宮本」っぽさは薄かった。これはエレカシではなく宮本のソロなんだという事実を、前作に増してよりはっきりと感じさせられる作品だった。

 ところが今回は違う。このアルバムにもプロデューサーとして小林さんの名前があるけれど、その数はあくまで半分。しかも小林さんの単独プロデュースは、収録曲のうちもっとも古いシングルの『close your eyes』とそのカップリングの『哀愁につつまれて』、その次の配信シングル『over the top』の三曲だけ。あとは宮本との共同プロデュースだ。

 要するに、いまだアルバムとしての方向性が定まらない時期の曲は、前作同様、小林さんに頼っていたけれど、途中からは方向転換して、より自由な姿勢で創作にいどんだ結果がこのアルバムなのだろうと思う。

 一曲目(アルバムのクレジットでは0曲目)の一分足らずの小曲『さあ、出かけよう!』は宮本のセルフ・プロデュースだし、その後の『かなりニュールネッサンスなnew dayよ!』や、『武蔵野』を思わせるグルーブ感をもつ『feel so fine』もそう。これらの曲の、エレカシに通じるちょっぴりラフな手作り感――風通しのよいいい加減さ――が、『Today -胸いっぱいの愛を-』みたいなウェルメイドなポップスと同居しているごった煮感が、僕にとってのこのアルバムの最大の魅力だった。

 おもしろいのは、すべての楽器を宮本がひとりで演奏している『生きているから』や、一曲目と対になったラストナンバーの『愛を抱きしめろ』――タイトルのせいでまったく期待していなかったら、セカンドラインの意外といい曲だった――が、それらの曲と同じような宮本主導の音作りでありながら、小林さんとの共同プロデュースになっていること。その辺に、自由を満喫しつつも、締めるところは締めて、しっかりとしたアルバムを作りたいという宮本の意志と、意外と冷静な状況判断がうかがえる。

 小林さんが絡まない残り半分の曲でも、基本的には宮本が主となり、そこに村☆ジュンや河野圭といった、過去につきあいがあった人たちの助けを借りながら、さらにはGiorgio Blaise Givvnという誰それ?って若手の協力もあおいで、バラエティに富んだ音を聞かせてくれている。

 演奏面もバンドのメンバーをほぼ固定していた前作とは違う。ドラムをRADWIMPSのトリビュートで共演した石若駿(King Gnuの常田大希の同級生らしい)や大御所・カースケさんにお願いしていたり、サザンでもお馴染みの山本卓夫氏や西村浩二氏、ずとまよとも共演している吉田宇宙ストリングスなどが参加していたりする。キーボードには同級生・奥野真哉の名前もある。

 結果として出てきた音は、前述した宮本主導のラフなロックンロールあり、『零地点Bomb』でのアッパーな打ち込みサウンドあり、Adoに提供した『風と私の物語』のセルフカバーのしっかりとしたストリングス・アレンジありと、これまでになく多彩だ。

 印象的には『宮本、独歩』に近いけれど、あれよりも宮本浩次という人の音楽的なパーソナリティがよりはっきりと刻み込まれた作品に仕上がっていると思う。

 まぁ、歌詞については、このところの常で、どうしてそう安直な英語ばっかり使うかなぁと残念に思うところはある。『I love 人生!』とか、『I AM HERO』とか、なにいってんのって思ってしまう。曲は好きなんだけれどなぁ……。

 でも、考えてみればこの人は、デビューしたときから「ベイビー、ファイティングマン!」って歌ってた人なんだよねぇ。「ファイティングマン」が年を取って「ヒーロー」に成長しただけで、じつはあまり変わってなかったりするというか、意外と原点回帰の意味合いがあったりするのかなとか思ったりした。

 あと『I AM HERO』ってタイトルに冠詞がついてないのが気持ち悪かったりするんだけれど、これもあえて冠詞を使わないことで、「俺はヒロ(ジ)だっ!」って、こっそり自分の名前を叫んでいたりするのかなって思ったりも……。

 いずれにせよ、ソロ・アルバムとしてはとても充実した出来映えだと思う。

 ただ残念なのは、宮本の軸足がすっかりソロに移ってしまったせいで、この先エレカシの新譜が聴ける日がくるのかが、すっかり不透明になってしまっていること。

 宮本さん、これはこれでとてもいい作品だと思う。でもやっぱり俺は一日でもはやくエレカシの新しいアルバムが聴きたい。

(Jul. 22, 2026)

宮本浩次

60周年記念公演 さあ、ドーンと行くぜ!/2026年6月12日(金)/ぴあアリーナMM

 宮本浩次、記念すべき六十歳の誕生日に開催されたバースデイ・コンサート。今年も無事にチケットが取れました。

 今年は遅刻もしなかったし、席もまあまあよし。花道を左手の真横から眺める一階スタンド席。最高とはいえないまでも、宮本の姿が肉眼で追える距離だから、十分にいい席だった。われらがチケット運、いまだ衰えず。

 さて、還暦を迎えた宮本が、六十代最初の一曲に選んだこの日のオープニング・ナンバーは『I love 人生!』。

 それもスタートはステージではなく楽屋から。あの曲のイントロのドラムループに乗せて、これからステージへ向かおうとする宮本の姿をカメラが追う映像がスクリーンに映し出される。まっすぐステージに向かわず、ところどころにおふざけを挟む、おちゃめな六十歳の一挙一動に湧く客席。

 ようやくステージの袖に到着ってところで映像は途切れ、いざ登場ってシーンでは、左右に配置された縦型のスクリーンに、この日の主役の全身像がドーンと映し出される。

 黒のスーツにダークレッドのシャツ。首にはシャツと同じ色のスパンコールのマフラー。でもって黒い中折帽をかぶり、帽子に上から手をあてて、ポーズを取っている。それを見て思いました。

 マイケル・ジャクソンかよっ!

 あとで聞いたら、うちの奥さんもそう思ったらしい。まぁ、僕らの世代にとっては共通認識だろう。あのファッションとポーズを見て、マイケル・ジャクソンを思い出さない人のほうがおそらく少数派だ。

 いやしかし、宮本を見てマイケルかと思う日が訪れようとは……。

【SET LIST】
    【セットリスト】
    [第一部]
  1. I love 人生!
  2. 漂う人の性
  3. 悲しみの果て
  4. over the top
  5. 昇る太陽
  6. ジョニィへの伝言
  7. 哀愁につつまれて
  8. 飾りじゃないのよ涙は
  9. 風に吹かれて
  10. close your eyes
    [第二部]
  11. 夜明けのうた
  12. 愛を抱きしめろ
  13. はじめての僕デス
  14. 今宵の月のように
  15. ロマンス
  16. rain -愛だけを信じて-
  17. 俺たちの明日
  18. ハレルヤ
  19. Today -胸いっぱいの愛を-
  20. あなたのやさしさをオレは何に例えよう
  21. I AM HERO
    [Encore]
  22. 冬の花
  23. P.S. I love you
  24. RESTART

 この日は還暦祝いってことで、その後の衣装もずっと赤を基調にしていた。

 第二部では黒いロングシャツの脇腹あたりに縫いつけられた赤いシフォンのスカーフみたいなやつがひらひらと靡いていた。

 終始クラシックなデザインのものしか身につけない宮本にしては随分と珍しい衣装だなと思ったら、やっぱ着ていて落ちつかなかったのか、二曲ぐらいで着替えて、ふつうの黒の上下に戻ってたのがおかしかった。そのときもネクタイは赤だった。

 でもってアンコールは全身赤! 赤いスーツに赤いシャツ、赤いネクタイ。ただ靴だけが黒い(京極堂の憑き物落しの衣装と逆!――なんて思うのはエレカシファンで俺だけ?)。靴もエナメル製で、光を反射してぴっかぴかだった。

 さすが六十周年。いままでにないお色直し四回は――趣味のよしあしはよくわからないけれど――過去最高にレアだった。

 その一方で音楽自体に関しては、とてもオーソドックス。二曲目に『漂う人の性』を持ってきたときには、エレカシの曲を積極的に取り入れたキャリア総決算的なステージになることを期待したのだけれど、終わってみればレアだったのはそれとラストナンバーくらい。あ、あと「実は歌手デビュー五十周年です」という説明につづけて、縦型サイネージに映し出されたアニメの少年と並んで歌った『はじめての僕デス』くらい(ふたたびこの曲を生で聞くとは思わなかった。こうなると将来的にまだまだ聴く機会がありそうな……)。

 いずれにせよ、それらを除くと、あとはソロのド定番って感じだった。バースデイ・ライブでここまでスタンダードな宮本を感じるセットリストって逆にレアかもって思った。六十歳になった最強の自分を見せたいという意識の表れだったのかもしれない。

 バンドは小林武史、名越由貴夫、玉田豊夢、須藤優というお馴染みの面々。なので音作り的にもおなじみの安定感。宮本がアコギを弾く曲がいつもより多かった気がしたけれど、でも最初だけ弾いてあとは放り出しちゃうパターンがほとんどで、実質的には弾いてないも同然だった。ギターはもっとちゃんと弾いて欲しいぞ。

 新譜『I AM HERO』が出たばかりなので、そのアルバムに収録された新曲がどれだけ聴けるかも注目ポイントだったわけだけれども、初披露された新曲は『愛を抱きしめろ』一曲だけだった。公演終了後にアリーナ・ツアーのスケジュールが発表されたので、新曲はそちらで聴いてくださいってことだろう。

 ちなみにこの曲は第二部の二曲目(『夜明けのうた』の次)に演奏された。宮本には珍しいジャングル・ビート(それともセカンド・ライン? 違いがよくわからない)のこの曲のイントロが鳴った途端、座っていたうちの奥さんがすっと立ち上がった。最近は腰が悪くて率先して立ったりしないのに珍しいなと思ったら、本人曰く、あのイントロを聴いたら身体が勝手に反応しちゃったんだそうだ。ニューオリンズ愛あふれててすごいなって思いました。

 すごいといえば、『over the top』だったかの映像演出――割れたガラスの万華鏡みたいなやつが回転しながら大小様々なサイズで宮本の姿を映し出すやつ――もすごいと思った。さすがAI時代。リアルタイムであの映像を作る演算能力って、もやは理解の範囲外だ。プログラマとしての引退の日近し。

 あと、アンコールの最後だったか、スクリーンに『I love 人生!』のアートワークを模した六十本の蝋燭が映し出されて、それを宮本がオーディエンスと一緒に吹き消す(ふりをする)というフレンドリーな余興があった。ステージを横から眺める形だったせいか、映像系の演出に関しては、印象に残っているのはそれくらい。

 物理的なステージセットだと、第二部の始まりの『夜明けのうた』で、花道のサブステージが一メートルくらい持ち上がったのがレアだった。最近のアーティストではありがちだけれど、宮本もいまやこういう演出しちゃうんだって思った。

 でも宮本さんの場合、複数のスポットライトに照らされたそのステージから、歌の途中で降りてしまう。無人のステージでマイクスタンドだけがスポットライトを浴びている風景は、なんかちょっと間違っている気がした。でもまぁそういう自由気ままなところも、らしいっちゃらしい。

 そういや、この日のライヴはいちばんステージに近い席が三万円もしたので(お土産に虎屋の羊羹がもらえたらしい)、そのことに対するお礼の意味を込めてか、宮本が客席に降りていって、花道のまわりを徘徊するシーンが二度三度あった。まぁ、前にもやっていた気はするけれど、今回はちょっと多めな気がした。

 前回、前々回はいまいちだったようなことを書いてしまったけれど、今回は最初から還暦祝いという特別な回だったので、こちらのご祝儀気分も手伝って、とくに不満に思うこともなく、楽しく観させてもらった。今回は『rain』の口パクにもつべこべいわない。

 でもって、なによりよかったのがラスト・ナンバー。

 アンコールで『冬の花』、『P.S. I love you』という、〆の定番中の定番って二曲を聴かせて、これで終わりかと思ったそのあとに。この日はもう一曲やってくれた。

 それがなんと――エレファントカシマシの『RESTART』~!!!!

 六十歳になったその日の最後に「再出発!」って歌って終わるというね。

 こんなカッコいい締め方ってある?

 やっぱ宮本浩次は六十になってもなお特別だと思わせてくれた最高の一曲だった。

 宮本、お誕生日おめでとう!

(Jun. 24, 2026)

形藻土

ずっと真夜中でいいのに。/ 2026

形藻土 (通常盤初回プレス)

 現時点でのわが最愛のバンド、ずっと真夜中でいいのに。待望の四枚目のフル・アルバム。

 この作品はこれまでとかなりイメージが違った。

 なによりまずは待ち望むこちら側の心持ちが違う。これまでは期待しかなかったけれど、今回は期待と不安が半々だった。

 それまでは毎年ミニ・アルバムとフル・アルバムを一年ごとに交互にリリースしてきたずとまよが、2025年はついに一枚もアルバムをリリースすることなく一年を終えた。

 万博ライブとかも含めて、精力的にライブ活動を行っていたので、単にアルバムを作るだけの時間の余裕がなかったのかもしれないけれど、なまじそれまで律義に毎年一枚ずつアルバムをリリースしてきていたので、そのインターバルが途切れたことには、若干の創作意欲の衰えが潜んでいるのではと心配になっていた。

 加えて、このアルバムの発表時のコメントには、「初となる10分超えの大作曲、コンセプトに沿ったインタールード等含め、改めて“アルバム”の再定義に拘った1枚」だという説明があった。

 これを読んで期待がワクワクと高まった人もいるんだろうけれど、僕は逆だった。

 要するにある種のコンセプト・アルバムってことでしょう?

 んー、大丈夫なの?

 ずとまよの場合、いまもむかしも個々の楽曲の出来が素晴らしいので、既存曲をアルバムの形にまとめただけでも十分傑作になるのは前作『沈香学』で証明済みなのだから、なにも余計な手間を加えなくてもよくない?――と思わずにいられなかった。

 さて、そんな過去一インターバルがあいたあとに、鳴り物入りの予告とともに届けられたこのアルバム。出来はどうかというと――。

 あぁ、なるほど。これは要するにACAねが最近のライヴでやっている方法論をそのままアルバムの形で表現した作品なのだろうと思う。

 ライヴでは序盤の曲をワンコーラスだけのメドレーにしてみたり、途中に余興があったり、インストパートを追加して長尺になる曲があったりするけれど、その方法論をアルバムの形で再現してみたらこういう形になりましたって、そういうアルバムなのだろうなと思った。作品の性格としては、とても腑に落ちた。

 収録曲は全18曲。トータルタイムは69分で、ボリューム的にはずとまよ史上最大。

 そのうち、このアルバムのマイ・フェイバリットである『TAIDADA』や『微熱魔』を含む6曲が既存曲(もしかしたらマスターとかミックスとか違っているのかもしれないけれど、少なくても僕にはわからない)。先行リリース的な立ち位置でリリースされた『メディアノーチェ』と『よもすがら』も含めるならば8曲。

 さらに配信シングルとは微妙にアレンジが違う『クリームで会いにいけますか』に、スタジオライブテイクとして再録された『またね幻』と『クズリ念』を加えた計11曲が既存曲ということになる。

 つまりアルバムとともに初お目見えとなった新曲は7曲。

 ――とはいっても、そのうち『間人間』(まにんげん)、『アンチモン』、『蟹しゃぶふぁんく』の3曲が現在進行形のツアーで披露済み。

 『間人間』は改めて聴くとこれぞずとまよって楽曲だけれど、『アンチモン』は鼻歌に語呂合わせで歌詞を乗せたようなインスト寄りのクールなダンスチューン(サビのフレーズが電気グルーヴっぽくて癖になる)で、ずとまよ的には新機軸。

 『蟹しゃぶふぁんく』は、アルバムの冒頭を飾る『地球存在しない説』、『ultyra魂』(ウルトラたましい)と並ぶ、ワンコーラスのみ、一分台の短い曲。新曲には違いないけれど、音響的にもラフな音作りで、これをもってずとまよのフルスペックが発揮されているとはいい難い。

 残すところはあと二曲。そのうちの一曲『不死身の訓練』は『ultra魂』が唐突に終わったあとすぐに始まるので、ユーモラスなタイトルもあいまって、その二曲で一曲という印象の、これまた余興感のある仕上がり。

 最後に控える10分越えの『lowmotion aglae』は、『アンチモン』の姉妹編みたいな音遊び感覚全開の前半と、これまでにない昭和レトロなメロディと抒情的な歌詞をもつ後半、まったく性格の違う曲をふたつ――いや、あいだに朗読パートもあるので三つ?――つなぎあわせたような大曲。アルバムを象徴する一曲ではあるけれど、いかんせん長いからリピート率は低くなりがち。

 以上、曲の長さもまちまちで、音作りもバラエティに富んだこれらの楽曲を収録するにあたって、ACAねはその曲順にも入念に気を使ったのがわかる。今回のアルバムにはシャッフルで聴くことを許さない雰囲気がある。

 これまでのアルバムは大半が配信曲だったこともあり、シャッフルして聴いてもさほど印象が変わらなかったけれども、これは違う。下手にシャッフルすると、1分の曲がつづいたあとに10分の曲がかかったりして、やたらとバランスが悪いことになる。

 『形藻土』というアルバムはこの順番で聴いてこそ『形藻土』足りえる――そういうアルバムに仕上がっている。

 そういう意味では、これぞ《ずとまよ》のアルバムの最新進化形――と、自信を持ってお届けされたアルバムなのだろう。そう思う――思うのだけれども。

 でもね。

 やっぱ僕にはこのアルバム、過去の三枚ほどではないように思えてしまう。

 要するに今回のアルバムに収録された新曲のうち、ふつうの曲って『間人間』一曲しかないわけです。『よもすがら』を加えても二曲。

 これまでの三枚のアルバムはそれこそ捨て駒なし、全曲シングルカット可能ってレベルの作品だったと思うのだけれど、今回は違う。楽曲の出来映えの問題ではなく、長かったり短かったりライブ音源だったするがゆえに、これはシングルとしては出せないよねぇって曲がかなりある。

 一分台の曲はどれも紛うことなき《ずとまよ》印だけれど、短くてそれ一曲だけで聴くにはどうしたってもの足りないし、『アンチモン』や『lowmotion algae』みたいな曲はイレギュラーなイメージが強い。いや、どちらも好きなんだけれども。少なくてもこれがずとまよのマイ・フェイバリットとはいえない。

 そういうバラエティ豊かな曲があることでアルバムとしての個性が生まれているのは確かだとしても、でもそのせいでアルバム自体の完成度は下がってしまっている感が否めない。デビュー当時の曲である『またね幻』のライブテイクが入っていることもあって、なんかふつうのアルバムというよりはコンピレーションを聴いているような気分になっちゃうんだよねぇ……。

 あと、大好きな『クズリ念』がオリジナルのアレンジではなく、バラードのライブテイクに変更されてしまっているのも個人的には痛かった。バラード版が感動的なのは否定しないけれど、僕はオリジナルのほうが好きなもので、それがこのアルバムに収録されなかったのは残念でしかない。

 ということで、このアルバムはこれまでのずとまよのアルバムではもっとも満足度が低かった。べつに嫌いなわけではないけれど、過去の作品ほどには盛りあがり切れない。アルバムとして通しで聴かないと座りが悪いせいで、再生回数がこれまでの作品よりも少なくなるのは間違いない気もする。

 ファンになってはや七年。ライブに違和感を覚えることが増えてきたと思ったら、ついに新譜もこういう受け取り方をする日がきちゃったかぁって……。

 僕はこのアルバムを繰り返し聴きながら、なんともいえない気分になっている。

 でもまぁ、ヨルシカが『二人称』でアルバムの存在意義を問うたのとほぼ時を同じくして、ずとまよがこういうコンセプチュアルなアルバムをリリースしたのは、事象としてはとても興味深いことだと思う。そんな一枚。

(Apr. 29, 2026)

二人称

ヨルシカ / 2026

二人称

 ヨルシカ三年ぶりの新作は、前代未聞な同名の書簡型小説と連動したデジタル配信アルバム。

 配信がスタートしたのは書籍の発売日の翌週だったので、n-bunaとしてはまずは本を読んでから音楽を聴いて欲しかったんだろうけれど、僕はこちらを先に聴いてしまったので、文章もこっちが先。

 内容は小説の主人公の少年が書いた詩に音楽をつけたというコンセプトで、内訳は各種のタイアップでリリース済みの曲が十曲に、このアルバムが初披露となる新曲が九曲。加えて「先生との対話」という小説のコンセプトに合致する『ヒッチコック』の再録バージョンと、最初と最後にインストナンバーがあって計二十二曲。トータルタイムは八十二分。

 つまりCDにするとなると一枚に収まらず二枚組になってしまう。中途半端なところで分けるとアルバムのトータルコンセプトが損なわれるってことでCDで出さないのか、はたまたこの作品の歌詞はCDの歌詞カードではなく書籍版を買って読むべしというメッセージとしてCDを出さないのか……。

 理由はさだかではないけれど、とにかくこの新作を聴きたい人はサブスクに加入するか、デジタル版をダウンロードするしかない。

 まぁ、前作の『幻燈』は画集を買ったうえでスマホでストリーミングしないと全曲聴けなかったわけだから、今回はサブスクかダウンロードで全曲聴けるってだけでも、ちょっとだけ敷居が低くなった気がしなくない。

 いずれにせよ、はなからCDを売ってランキングの順位に一喜一憂しようって気がないあたりが新世代だ。もはやCDを買って音楽を聴くというライフスタイル――僕の親しい友人らはいまだにCDでしか音楽を聴かない――は旧態依然だといわんばかりのヨルシカさんだった。

 このアルバムを聴いて驚くのはその統一感。過半数がタイアップとして五月雨式にリリースされてきた曲なのに、歌詞の世界観といい、音作りといい、見事に一本筋が通っていて、全体としてアルバムとしてのまとまりが半端ない。

 それもそのはず。なんとn-bunaは三年前の時点でこのアルバムのコンセプトを決めて、以降はその着想に沿う形で、このアルバムに収録することを前提にすべての曲を制作してきたんだという。

 つまり『葬送のフリーレン』の主題歌の『晴る』も、『チ。―地球の運動について―』に提供した『アポリア』と『へび』も、みんなこのアルバムに向けての序曲に過ぎなかったと。

 そんなことある? 恐れ入谷の鬼子母神。

 音響で印象的なのは、以前に比べてロックっぽくないこと。

 変拍子の曲があったり、ボサノバがあったり。そもそもギターが一歩うしろにさがって裏方に徹しているような曲も多い。かわりにホーンや鍵盤、パーカッションが目立つ音作りになっている。ギター主体の曲もニュートラルな弦の響きを大切にしたようなアルペジオやカッティングが中心で、かつてのようなディストーションサウンドはほとんど聴こえてこない。

 そんな全体的な音楽性の変化にあわせるように、曲ごとにニュアンスを変えるsuisさんの見事なボーカルも聴きどころだ。多様性の化身のような彼女のボーカルに重ねて、n-bunaのコーラスあり、多重録音した彼女のコーラスありと、全体的にメインボーカル以外の声が聴こえてくる――ひとりで歌ってるんじゃないんだぜって――曲が多いのも『二人称』というコンセプトを意識した結果なのかなと思った。

 いずれにせよ、歌詞も音もデビューしたころと比べると格段に表現の幅が広がり、成熟度が増している。こんな風に意識的に着々と変化し、成長してゆくバンドはなかなかないと思う。まぁ、初期のころのやんちゃな感じがなくなってしまったのをいささか淋しく思う気持ちもあるんだけれども……。

 ヨルシカがこの先どうなってゆくにせよ、こういう素晴らしいバンドの成長をファンとして見守れる幸せに感謝したい。

(Mar. 29, 2026)