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最近の五本

  1. ザリガニの鳴くところ
  2. モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ
  3. ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男
  4. パレード
  5. 女王陛下のお気に入り
    and more...

ザリガニの鳴くところ

オリヴィア・ニューマン監督/デイジー・エドガー=ジョーンズ/2023年/アメリカ/Amazon Prime

 原作を読み終えた翌日に映画を観た。
 アメリカ南部の湿地帯を舞台に、殺人の容疑で逮捕された女性の孤独な半生と、彼女の罪の有無を問う公判のゆくえを追うミステリ映画。
 原作では殺人事件の捜査の進捗と主人公カイア(デイジー・エドガー=ジョーンズ)の成長を描くシーケンスが交互に描かれていて、彼女が逮捕されるのは物語が後半になってからだったけれど、この映画版ではそれを思い切りよく書き換えて、冒頭で殺人事件が起こってから彼女が逮捕されるまでを一気に描いて、その後に彼女の幼少期からの物語を語るという構成になっている。
 おかげで基本的な物語は同じなのに、小説と映画ではずいぶんと感触が異なる。
 どちらがいいという話ではなく、どちらにもそれぞれに違ったよさがあるのが新鮮だった。
 アカデミー賞には脚本家に与えられる賞が脚本賞と脚色賞の二種類あって、映画オリジナルの物語が脚本賞、原作つきの脚本が脚色賞と区別されているけれど、なるほど、これはまさに脚色賞にふさわしい仕事だなぁと思った。まぁ、この作品がノミネートされたわけではないけれども。
 小説で描かれたアメリカ南部の湿地帯の風景や動植物をハイビジョン時代ならではのビビッドな映像で楽しめるのもこの映画の大きな魅力だ。
 食うものも食えず、着のみ着のままで赤貧生活を送っていた小説の主人公のイメージからすると、映画の彼女はちょっと小ぎれいすぎる気がするけれど、でもまぁ、そこはあくまで映画ということで。あまりリアリスティックに描かないのが正解なんだろう。
 おかげでこの映画はヒロインも風景に負けず劣らず美しかった。
(Apr. 14, 2024)

モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ

アンナ・サワイ、渡部蓮/2023~2024年/アメリカ/Apple TV+

 モンスター・ヴァース・シリーズ初の連続テレビ・ドラマ。
 劇場版最新作の『ゴジラ×コング 新たなる帝国』はまったく観る気になれないので(なんでゴジラとコングが駆けっこしているんだよぉ)、モンスター・ヴァースもそろそろ観るのをやめようと思っているのだけれど、これは主要キャラに日本人がいたり、日本が舞台の一部になっているようだし、なにより連続ドラマでゴジラをいかに描いてみせるのかに興味を惹かれたので、観ておくことにした。
 舞台となるのはサンフランシスコほか世界中の大都市をゴジラが襲ったあとの世界。
 ゴジラの襲撃を受けた日は「Gデイ」と呼ばれ、ここでは日常的に怪獣の襲撃を想定した避難訓練が行われている。見慣れた東京の街中に「ゴジラ注意」みたいな交通標識が掲げられているビジュアルがおもしろい。
 物語はお互いの存在を知らずに育ったケイト(話題作『SHOGUN 将軍』にも出演中のアンナ・サワイ)とケンタロウ(演じる渡部蓮はなんと渡部篤郎とRICAKOの息子さんだそうだ)という腹違いの姉弟が、ケンタロウのガールフレンドのメイ(キアシー・クレモンズ)とともに、失踪した父親が残した謎を探ってゆくうちに、ゴジラをめぐる陰謀に巻き込まれてゆくというもの。
 このメイン・ストーリーと並行して、タイトルでもあるゴジラ対策本部的な秘密組織『モナーク』発足の歴史が、1950~60年代を舞台に描かれるのが、本作のより重要なポイントだ。
 でもって、そちらのシーケンスの主要人物のひとり、リー・ショウを演じているのが、カート・ラッセルの息子さんのワイアット・ラッセルで、生き延びて年をとった彼の老後を演じているのが、父親のカート・ラッセルという。
 この画期的な親子共演が見事。さすがに親子だけあって、よく似ているから、役者の引継ぎにまったく違和感なし。このキャスティングの妙が本作の魅力のひとつ。
 彼とともにモナークの発足にかかわる女性生物学者の役を、山本真理という日本生まれの女優さんが演じているのも日本人としては見逃せないところだ。
 もちろん、ゴジラやそのほかのモンスターも一話に一回くらいの感じで出てくる。テレビドラマとは思えない完成度で描かれるゴジラの雄姿こそが、やはり本作のいちばんの見どころでしょう。
 というころで、いろいろと見どころは多いし、物語もおもしろいと思うのだけれど、残りあと二話というところで『ゴジラvsコング』で描かれた異世界への扉が開かれてしまい、「あぁ、またそっちのほうへいっちゃうのか……」とがっかりした。
 でも、そのあとの最終話で驚きの大どんでん返しがあって、ちゃんと盛り返してくれてよかった。最終的には満足のゆく出来でした。
 まぁ、とはいえ、当然のように続編ありきの終わり方をしているにもかかわらず、ここで終わってつづきを観れなくても後悔はしないかなと思う。
(Apr. 14, 2024)

ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男

ジョージ・C・ウルフ監督/コールマン・ドミンゴ、アムル・アミーン/2023年/アメリカ/Netflix

 60年代のアメリカ、公民権運動のさなかに、百万人を超える人たちが集結したワシントン大行進を企画・運営した黒人社会運動家、バイヤード・ラスティンの半生を描く伝記映画。
 ワシントン大行進というと、僕の知っているところだと、スパイク・リーの『ゲット・オン・ザ・バス』や、リチャード・パワーズの『われらが歌う時』でも描かれていたけれど、この映画はその実現に至る裏事情を取り上げている。
 ラスティンは黒人であると同時に同性愛者でもある。彼の同性愛者としての(いささか乱れた)恋愛事情を、社会運動家としての活動と並行して赤裸々に描いているのもこの映画の特徴だ。ポリコレが叫ばれる現代を象徴するような作品だと思う。
 様々な面で差別を受けながら、肌の色を超えて多くの人たちが団結しあい、世紀の一大イベントを実現させてゆくまでを辿るこの映画はそれゆえになかなか感動的。
 監督は『マ・レイニーのブラックボトム』のジョージ・C・ウルフで、主役のコールマン・ドミンゴはその作品につづく出演だった(まったく記憶にない)。彼やキング牧師役のアムル・アミーンという俳優さんはあまりメジャーじゃないけれど(僕が知らないだけ?)、脇役にはコメディアンのクリス・ロック(去年のアカデミー賞でウィル・スミスに殴られていた人)や、ジェフリー・ライトが出演している。
 クリス・ロックがまったく笑いのない、黒人グループのいちばん偉い人の役を演じているのが、なんかいい感じで新鮮だった。
(Apr. 13, 2024)

パレード

藤井道人・監督/長澤まさみ、坂口健太郎/2024年/日本/Netflix

 野田洋次郎が、RADWIMPSではなく、初めて個人名義でサウンドトラックを手掛けた映画。『余命10年』の藤井道人監督とのコラボ第二弾。
 『余命10年』では若くして余命宣告をされた女性の人生最後の日々を描いた藤井道人が、今回の作品で描くのは死後の世界だ。
 震災で津波にのまれ、幼い息子と生き別れになった長澤まさみ演じる主人公が、行方不明になった息子の安否を案ずるあまり(霊魂となって?)この世に留まった、という設定のもと、同じようになんらかの心残りがあって成仏できないでいる人々――坂口健太郎、横浜流星、リリー・フランキー、寺島しのぶ、田中哲司、森七菜ら――と彼女が出逢って、ともに過ごし始めることになる。
 彼らは自分をこの世につなぎとめている理由と向き合い、それぞれの形で未練を断ち切って、ひとりひとりと姿を消してゆく。
 タイトルの『パレード』はこの世界の人々が、満月の夜に、探し人を見つけ出すため等の理由で、一斉に町へと繰り出して、行進を始めることにちなむ。
 死者の大行列という意味では、ある種、百鬼夜行的。別に妖怪が混じっていたりするわけではないけれど、夜中に大勢の人たちが灯をともしながら同じ方向へ向かい、黙々と歩いている景色には黙示録的なインパクトがある。月並みだけれど『デスノート』を思い出した(どうせならばダンテの『神曲』とかに例えたい)。作品自体は終始おだかやで温かな感触なのに、その部分だけには独特な迫力があった。
 あと、映画のキービジュアルにもある、観覧車のとなりにさびれた感じの野外バーカウンターがあって、仲間たちがそこでいつもつどっているという、現実ではありそうでないシチュエーションが映画ならではの味わいでよかった。
(Mar. 17, 2024)

女王陛下のお気に入り

ヨルゴス・ランティモス監督/オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ/2018年/イギリス、アイルランド、アメリカ/Netflix

女王陛下のお気に入り (字幕版)

 ウィキペディアを見たら、この映画が「歴史コメディ映画」だと紹介されていた。
 え、これってコメディ? いったいどこに笑える要素が。
 ――あ、もしかして冒頭でエマ・ストーンが馬車から転げ落ちて泥まみれになったり、途中で貴族の男たちが裸で悪ふざけたりしているシーンがあったけれど、あれは笑う場面?
 いやいや、それはちょっと高度すぎなのでは。
 まぁ、ウディ・アレンによくあるタイプの、苦笑を誘う系のブラック・コメディだとするならば、もしかしたらそうなのかもしれないけれど。
 いずれにせよ、僕にはこの映画はまったく笑えませんでした。
 内容は十八世紀のイングランドの宮廷を舞台に、オリヴィア・コールマンという女優さん演じるアン王女と、彼女の幼馴染としての寵愛をいいことに宮廷を牛耳るレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)、そのサラの従妹として宮廷での仕事をもらいながら、サラを裏切ってアン女王に取り入ろうとするアビゲイル(エマ・ストーン)、この三人のあいだで繰り広げられる愛憎劇を描いてゆく。
 この三人以外にも登場人物は出てくるけれど、男はみんな変なかつらをかぶっていて見分けがつきにくく、いまいち印象に残らないせいで、まるで彼女たち三人だけで成り立っているような印象の作品だった。
 物語は史実に基づいているようだけれど、彼女たち三人が同性愛の三角関係にあったという部分はおそらく創作なんでしょう。実際にそんな事実があったとしても、当時の歴史書にそんなことが書いてあるとも思えない。
 まぁ、いずれにせよ、美女ふたりが小太り女王の寵愛を奪い合ったあげく、誰ひとり幸せになれずに終わってしまうので、いまいち後味はよくなかった。
(Mar. 2, 2024)