Coishikawa Scraps / Movies

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最近の五本

  1. 海の上のピアニスト
  2. ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
  3. 秒速5センチメートル
  4. 天国と地獄 Highest 2 Lowest
  5. 劇場版 孤独のグルメ
    and more...

海の上のピアニスト

ジュゼッペ・トルナトーレ監督/ティム・ロス、プルイット・テイラー・ヴィンス/1999年/イタリア/Apple TV

海の上のピアニスト 通常版 (字幕版)

 うちの奥さんが大好きだというこの作品、なぜだか僕はこれまで観たことがなかった。『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレが監督を務めるイタリア映画だということで、英語以外の映画を敬遠しがちな僕はスルーしてしまっていたらしい。

 でもいざ観てみれば、イタリア映画とはいっても言語は英語だし、舞台となるのはほぼ全編アメリカへと向かう巨大客船の中だけで、普通にハリウッド映画を観るのと変わらなかった。うん、なかなかいい映画だった。

 英語のタイトルが『The Legend of 1900』なので、『1900年の伝説』と訳すような内容かと思ったら違う。「1900」(ナインティーン・ハンドレッド)が主人公の名前だなんて、誰が思うんだよって話だ。

 ティム・ロスが演じる主人公のフルネームは、ダニー・ブードマン・T・D・レモン・1900。客船で(移民の?)親に捨てられ、ボイラー係の船員、ダニー・ブートマンに拾われて、その名をいただく。「T・D・レモン」はゆりかごにあった名前(もしかしたら商品名?)。1900は拾われた年(つまり生まれた年)。

 戸籍を持たない1900はダニーを親として船の中で育ち、事故で養父を失ったのちも船から出ることなく成長してゆく。でもって独学でピアノを弾くようになり、天才的なスキルを発揮して、船の名物ピアニストとして人気を博するようになる。

 物語は彼と仲がよかったトランペット吹きのマックス(プルイット・テイラー・ヴィンス)が、老朽化して廃棄されたその船が爆破処分されることを知って、いまだに船にいるかもしれない1900のことを心配しつつ、在りし日の思い出を回顧する形で紐解かれてゆく。そこから生じるノスタルジックな感触には、なるほど『ニュー・シネマ・パラダイス』の監督の作品だなって思った。

 クライマックスで彼と1900が再会を果たすシーンには、村上春樹の『羊をめぐる冒険』を思い出させる、現実か幻想か定かではないファンタジー的な味わいがあるのも意外があってよかった。

 あとから配役を確認して知ったのだけれど、主人公に絡む黒人ふたりのうち、育ての親ダニーを演じるビル・ナンは『ドゥ・ザ・ライト・シング』のラジオ・ラヒーム、ジャズの生みの親だというジェリー・ロール・モートン役を演じているクラレンス・ウィリアムズ三世が『パープル・レイン』でプリンスの父親役だったそうだ。おー。

(Oct. 26, 2025)

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ

トッド・フィリップス監督/ホアキン・フェニックス、レディー・ガガ/2024年/アメリカ/WOWOW録画

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ

 素晴らしい出来だった『ジョーカー』の続編にしては、いやに評判が悪いなと思ったら、なるほど。これは駄目だ。

 いや、決して映画としての出来自体が悪いとは思わない。映像、演出ともに雰囲気があって、最後までちゃんと見せる。まぁ、冒頭にルーニーチューンのパロディ的なアニメを配した演出とか、作風に馴染まずに空回りしている感はあるけれど、でも決して失敗とまではいえない。

 ハーレイ・クイン役に抜擢されたレディー・ガガのいかれた感じもはまり役だったし、前作とは違うミュージカルというスタイルを選択して、彼女とジョーカーのラブロマンスを描いてみせたのも決して着想は悪くない。こういう映画があってもいいとは思う。

 ではなにが駄目かというと。

 物語の結末、ただそれに尽きる。

 前作では最後にジョーカーが刑務所に収監されて終わっている(忘れてたけど)。

となれば、この続編に期待するのは、彼がハーレイ・クインとともに、いかにしてその拘束を解き放って、ふたたび社会に飛び出して見せるか、これに尽きるでしょう?

 それがあの結末では……。

 監督がなにを書きたかったのか、さっぱりわからない。

 社会的弱者が悪の道に救いを見い出すという前作の不穏なテーマをさらに突き詰めて、どう決着をつけるかがポイントだったはずが、まるでさらなる罪悪を描くのにおびえて、ミュージカルに逃げたかのよう。なまじ映画としての出来自体は悪くないだけに、最後まで観てこんなに困惑させられた映画も珍しかった。

 まぁ、この作品って、ジョーカーが主役でなかったならば、それなりに好評を博したのではないかという気もする。

 間違いは『ジョーカー』の続編として作ってしまったこと。それが最大にして最悪のミステイクではと思います。

(Oct. 18, 2025)

秒速5センチメートル

新海誠・監督/声・水橋研二、近藤好美、花村怜美/2007年/日本/Amazon Prime

秒速5センチメートル

 同名の実写版映画が公開されたばかりの新海誠のオリジナル版アニメーション。

 この作品は『言の葉の庭』ともども過去に一度昔に観ているのだけれど、感想が残っていないのは、食事をしながら観たせいか、一時間しかない短さのせいで、書かなくていいと判断したのか……。どちらかだと思んだけれど、でも感想がなくて自分でがっかりした。せっかく観たんだから、書いとけよなぁ、俺……。

 で、最近公開された実写版が話題だし、どんな話だかほとんど忘れていたので、先月もう一度観て、今度はちゃんと感想を書こうと思ったにもかかわらず、なぜだかまた忘れていて、気がつけば一か月近くが過ぎていた。この映画にはなにかしら僕の記憶を遠ざける効果があるらしい。

 さて、オムニバス形式・全三話構成のこの作品。

 いざ観てみたら、中学生の遠恋カップルの初恋が春の大雪の夜に成就するまでを描いた一話目、さらなる距離がふたりを遠ざけたあと、高校生になってもなお一途に彼女を思いつづける男子に、そうとも知らず密かに想いをよせる別の女の子を主役にした二話目。ここまではぼんやりと記憶の断片があるのに、最後の第三話は悲しい結末を迎えたという印象以外にはまったく記憶に残っていなかった。

 でもそれがなぜかは観てみてよくわかった。

 三話目、ほとんどなにも起こんないじゃん!

 山崎まさよしのMVかってくらいの内容に驚いた。

 まぁ、そのあまりになにも起こらないせいで、単なるエンタメでは終わらない文学的な余韻が残る作品になっている気はするけれど、でも正直なところ、そんなエンディングは期待してなかったよ……。

 今回うちの奥さんが一緒に観たがらなかったのも納得だった。

 踏切でふたりがすれ違うあのシーン、あれを描いてしまった後悔が、新海誠をして、その後の『君の名は。』のエンディングに到らせた気がする。

 そういう意味でも、おそらく新海作品を語る上では欠かすことのできない一本。

(Oct. 16, 2025)

天国と地獄 Highest 2 Lowest

スパイク・リー監督/デンゼル・ワシントン、ジェフリー・ライト/2025年/アメリカ/Apple TV+

 Apple TV+オリジナルで配信公開されたスパイク・リーの最新作。

 エド・マクベインの『キングの身代金』が原作だと聞いて、なんでいまさらその小説を映像化?――と不思議に思っていたら、冒頭に黒澤明の『天国と地獄』にインスパイアされた、とあって、さらに「?」となった。

 あとから確認したら、黒澤明のその作品がエド・マクベイン原作なんすね。しかもiMDBではオールタイムのベスト100に入る名作。スパイク・リーは黒澤明をリスペクトしているようなので、その作品をリメイクするとなれば、献辞をつけるのも当然かと思った。黒澤版も観てみたくなった(原作は近々読む予定)。

 物語はかつては音楽業界を牛耳る勢いだったのに、いまは落ち目のレコード会社のCEO(デンゼル・ワシントン)が、会社の買収だなんだの資金繰りで苦労している最中に、息子を誘拐したという脅迫を受けるというもの。

 ただ、実際に誘拐されたのは彼の息子ではなくて、彼が家族ぐるみでつきあっている運転手(ジェフリー・ライト)の息子が間違って誘拐されてしまう。

 いかに親しいとはいえ、他人の子どもを救うために莫大な身代金を払えるか?――もとから金策で悩まされていた彼は、そんなジレンマをかかえて激しく悩むことになる。

 デンゼル・ワシントン演じる主人公をレコード会社のオーナーにしたのが、おそらく黒澤版との最大の違いなのだろうと思う。誘拐事件と絡めて、音楽ビジネスの裏側が描かれてゆくのがこの映画の特色だ。ラッパーのエイサップ・ロッキーが重要な役どころで出演しているし、音楽愛あふれるスパイク・リーらしいアレンジだと思う。

 ただ、その流れで最後にアイヤナ・リーという女性シンガーのパフォーマンスをフィーチャーしたのはどうかと思った。スパイク・リーにとっては推しのボーカリストなのかもしれないけれど、クライマックスのあとにそのパートがあることで、映画の印象がぼやけてしまった感がある。

 なかなか見ごたえのある映画だったので、その点がちょっと残念だった。

(Oct. 06, 2025)

劇場版 孤独のグルメ

松重豊・監督主演/杏、内田有紀、磯村勇斗/2025年/日本/Amazon Prime

劇映画 孤独のグルメ

 『孤独のグルメ』はおそらく全シーズン観ているのだけれど、ほとんどが食事をしたりつつ、ながら観してばかりなので、これまで文章を書こうと思ったことがなかった(きちんと観ていない作品については語らない主義)。

 この劇場版については一応映画ということでちゃんと観たから感想は書くけれど、でもこれが『孤独のグルメ』の通常版よりも素晴らしいと思う人はおそらくいないと思う。それなりにおもしろいけれど、僕らが『孤独のグルメ』という作品に期待しているのはコレジャナイ。

 松重氏が自ら監督を務めたこの映画の井之頭五郎さんは、仕事で訪れたパリで依頼人の老人から思い出の味を再現するための食材探しを依頼され、そのため足を運んだ長崎ではパドルボートで海を渡ろうとして遭難し、流れ着いた島の食品研究所の女性たちに助けられて韓国に密入国して、帰国後は隠遁していたラーメン屋の店主を説得して、思い出の味を再現してもらうことになる。

 さすがに映画だからといって五郎さんが世界を救ったりはしないけれど、それでもテレビの本編ではありえない事件のオンパレード。『孤独のグルメ』の魅力がさりげない日常性にあるとしたら、この劇場版はまったくさりげなくない。

 そもそもスーツを着たままパドルボート乗ったり、毒キノコにあたって泡を吹いて倒れたり、なにそれなギャグ満載だし。遠藤憲一が井之頭もどきの役で登場したり、世捨て人同然だったラーメン屋の頑固店主(オダギリジョー)がなぜだかあっさりといい人になっちゃったりもする。

 食べているのも本場フレンチ、ちゃんぽん、拾った貝ときのこで作った鍋、韓国料理が二種類、チャーハンにラーメンという内容で(もっとあったのかもしれないけれど、あとは忘れた)、最初のフレンチ以外は特別感がない。そのフレンチだって、わずか二品だけだし。どうせならばフルコースを楽しむ五郎さんが観てみたかったよ。そういうスペシャルさがよかった。

 まぁでも、そんな風に粗を探してつべこべいうのも野暮かもしれない。あの五郎さんがこんな冒険を……という普段とのギャップを笑って楽しむべき映画なんだろう。盟友クロマニョンズを主題歌に起用したのもその一部だろうし。適当なギャグをちりばめたその作風には『男はつらいよ』に通じるものを感じたりもした。

 とはいえ、ふだんから「ドラマはどうでもいいから、さっさと食事をしてくれないかなぁ」とか思って『孤独のグルメ』を観ている僕のようにな人間にとっては、そのドラマの部分こそがメインのこの劇場版が、本編よりも楽しいわけがないのだった。

 願わくば次は食事のシーンに全振りした映画版が観たい。

(Sep. 25, 2025)