2013年12月の音楽

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  1. あなたへ / エレファントカシマシ

あなたへ

エレファントカシマシ / 2013 / CD

あなたへ

 エレカシ、宮本難聴発症による一年の活動休止期間後、初となるシングル。
 正直なところ、はじめて聴いたときには、この『あなたへ』という曲が好きになれるか、僕は大いに疑問だった。なんたって「わたし」と「あなた」という、いままでの宮本の語彙にはほとんど登場しなかった代名詞が前面に出た、頭に「ど」がつくほどの直球のラブソングだ(と初めは思った)。それも微妙なメロディを持った、70年代フォークのような雰囲気のバラード。
 もとより宮本君の歌うラブソングにぴんときた覚えがほとんどない僕にとっては、敬遠するなってのが無理な楽曲だった。正直いって、歴代のエレカシのシングルのなかでも、もっとも「なんだこりゃ」な感が強かった。
 それでもこの曲が、何度か繰り返し聴いているうちに、だんだん気持ちよくなってくる。なにより、ひとことでラブソングと呼んでは済ませられない、そこに込められたメッセージの誠実さがひしと伝わってきて、これを悪く思えようはずがないって気分になった。
 微妙で難しいと思っていたメロディも、その微妙さに慣れてくると、なかなかいい曲に思えてきた。エレカシ史上に残る名曲とまでは思わないけれど、少なくても『愛と夢』のころの歌謡曲っぽいラブソングよりは何倍も切実に僕の胸に響く、意外な好作品だと思う。
 同時収録の『はてさてこの俺は』は、野音でも印象的だったコミカルな楽曲で、こちらは昔ながらの宮本節炸裂の一曲。達成感のない自らの人生を嘆きながら、「そこらの阿呆どもに比べれば、俺の方がいくらか気が利いているだろうが」なんて毒づいてみせるところが、昔からのファンとしてはとてもしっくりくる。3分半と短いくせに、やたらと凝った構成になっているところもおもしろい。3曲の中では、やっぱこれがいちばん好きだ。
 最後の『この円環{}のなかを』は、エレカシには珍しい、直球のブルース・ナンバー。珍しいというか、ここまでオーソドックスにスリー・コードのブルースを鳴らしてみせたのは、エレカシ史上初なんではないでしょうか。堂々巡りを嘆く歌詞もこれぞまさにブルースって内容だし、蔦谷くんのピアノが入って、RCっぽいブルース・ロックに仕上がっている。生で聴いたら気持ちよさそうだ。
 以上、バラエティに富んだ3曲。1曲目と3曲目の、オーソドックスなんだけれど、いままでにはないスタイルがとても効いていて新鮮な味わいのある、思いのほか、いいシングルだった。祝復活。
(Dec 08, 2013)