2010年10月の音楽

Index

  1. 明日への記憶 / エレファントカシマシ
  2. いつか見た夢を / エレファントカシマシ
  3. Mo Beauty / Alec Ounsworth

明日への記憶

エレファントカシマシ / 2010 / CD

明日への記憶

 エレカシが来月リリースの新譜 『悪魔のささやき ~そして、心に火を灯すたび~』 に先行して2ヶ月連続でリリースしたシングルの第一弾、『明日への記憶』。
 この曲、あいかわらずメロディ・センスは抜群だし、歌詞の方向性にも違和感はない。ストリングスをフィーチャーしたアレンジも 『サージェント・ペパー』 あたりのビートルズに通じる味があってカッコいい。つまり基本的な部分では文句はない。……ないはずなんだけれど、いまいち盛りあがれない。
 なぜだろう……と考えて行き着くのは、『明日への記憶』 というタイトルが象徴する、曖昧さというか、ありきたりさ。なんだか抽象的すぎてひっかかってこない感じ。かつてのように日常性をきちっと切りとっている感じがなくて、いまひとつ親近感が湧いてこないのだった。
 カップリングの 『歩く男』 もタイトルにひっかかる。エレカシについては、昔からタイトルに「男」とつく曲は特別だという思い込みがあるのだけれど、この曲からはまったくそういう特別さを感じない。最近よくあるタイプの明るい曲のひとつって感じ。
 そんなこと、普通ならばつべこべいうべきではないと思うけれど、仮にも 『歩く男』 なんて、とても宮本らしいどんぴしゃなタイトルをつけたからには、もっと後世に残るような名曲を期待しないではいられない。死ぬまで聴いても聴き飽きないような、そんな曲であってくれないことには。それこそ、エレカシにはそういう曲──二十年以上たっても、いまだに聴き飽きずにいる曲──がたくさんあるのだから。そう考えると、この曲はどうにも名前負けしている感がある。
 ということで、曲の出来がうんぬんの前に、このシングルは2曲ともタイトルでひっかかってしまって、素直に賞賛しきれなかった。まあ、とかいいつつ、ここ数日、僕の頭んなかでは 『明日への記憶』 が鳴りつづけているので──そういや、このごろは 『絆』 もけっこうかかる──、やっぱりいい曲ではあると思うんだけれど……(つづく)。
(Oct 29, 2010)

いつか見た夢を/彼女は買い物の帰り道

エレファントカシマシ / 2010 / CD

いつか見た夢を

  ということで、引きつづきエレカシの2ヶ月連続シングル第二弾、『いつか見た夢を』 なのだけれど。
 正直なところ、これってわざわざシングルに切るほどの曲じゃなくないですか? エレカシの楽曲レベルからすれば、『歩く男』 とおんなじくらいの出来だと思う。要するに、絶対に代表曲にはならないだろうって曲。
 かつてのシングル、『はじまりは今』 や 『夢のかけら』 がエレカシ自選集から漏れたように、これもいずれリリースされるだろうポリドール時代のベスト盤には収録されないで終わるんじゃないかという気がして仕方ない。それくらいの曲だと思う。
 まあ、もしかしたら、歌いだしの「いつか見た夢を正夢にしよう」というポジティブなメッセージが、いまの宮本にとっては非常に切実なのかもしれないけれど、あらゆることが低迷していて先行き不透明ないまの僕には、残念ながらそれを共有できないのだった。
 でも、このシングルに関しては、どちらかというとカップリングの 『彼女は買い物の帰り道』、これをリリースしたかったのかなという気がしなくもない。
 こちらはそのタイトルどおり、買い物の帰り道にふと自分の人生をふりかえって思いをはせるひとりの女性の内面を歌ったナンバー。宮本が女性を歌の主人公に据えたのは、エレカシ史上初。それだけでも、ある意味、快挙といえる。少なくてもデビュー以来ずっと「男」というキーワードにこだわってきた宮本が、女性を自分と同じ目線から歌ってみせたのは、間違いなく新境地だ。
 まあ、楽曲自体はそれほどキャッチーではないけれど、それでもギターのアルペジオから始まるイントロ部分からのアレンジやメロディーは妙に 『優しい川』 に似ていたりするし、途中から意表をついてツェッペリンばりのダイナミズムを感じさせるアレンジや、そのあとすっと引いて、ドラムのリムショットを生かした静かなアレンジになる部分などには、往年の名曲群を思い出させるものがある(なんだったっけ、これ?って感じ)。いわばエレカシ・サウンドの集大成と呼べそうな凝ったアレンジになっているのだった。これはかなりの力作。
 この曲に相当の手ごたえを感じていたものの、でもこれをシングルで切るのはちょっとなぁ……ってんで、『いつか見た夢を』 がA面として引っ張り出されたのかなと。いちおう両A面みたいな扱いになっているみたいだし、そんな気がしないでもないかなぁと思った。そんな今回のシングルだった。
(Oct 29, 2010)

Mo Beauty

Alec Ounsworth / 2009 / CD

Mo Beauty (Dig)

 クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーのボーカリスト、アレック・オウンズワースのファースト・ソロ・アルバム。
 バンドとくらべると、このソロは全体的にイメージがすっきりしている。あちらではバンドの音が妙に壊れた感じで(そこがなんとも魅力的だったんだけれど)、その中でこの人の声もよれよれとした印象を与えていたものだけれど(飲んだくれたトム・ヨークみたいだと思った)、このアルバムの彼にはそんな不健康なイメージはない。古い遊園地のお抱えバンドとでもいった感じの、懐かしくも良質なロックを聴かせてくれていて、とてもいい。
 バンドのいびつさをとっ払ってみて、あらためてわかったのは、僕が意外とこの人のボーカルが好きだったこと。ボーカル・スタイルというか、声そのものというか。地声なんだかファルセットなんだかよくわからない彼独特のかん高い声が不思議と気持ちいい。どことなくオールド・ファッションな音楽性とあわせて、だみ声じゃないやせっぽちのトム・ウェイツみたいなイメージもちょっぴりあると思う。
 ということで、これは僕が今年の洋楽でもっともよく聴いたアルバムのうちのひとつ。──とはいっても、リリースされたのはもう一年以上前なんだけれど。
(Oct 29, 2010)