2010年11月の音楽

Index

  1. The Fool / Warpaint
  2. I Speak Because I Can / Laura Marling
  3. Treats / Sleigh Bells

The Fool

Warpaint / 2010 / CD

The Fool

 ロサンジェルスから登場した女性4人組のギター・バンド、ウォーペイントのデビュー・アルバム。
 このバンドはほんといい。好きだ。好きすぎる。どこがそんなに特別なんだと聞かれても、うまく答えられないし、地味っちゃあ地味な気もするけれど、とにかくいい。問答無用に好き。こんなに最初からしっくりきたバンドって、めったにない。ロス出身といいながら、もろUKな暗めのギター・サウンドが最高につぼ。
 最初にアルバムを聴き始めた途端、一曲目のイントロのギターの音色だけで、こりゃいいアルバムに違いないと確信した。そしてそのまま聴きつづけるにつれて、その確信がどんどん強まるものだから、あまりに嬉しくて、思わずひとりでにやにやしてしまった(あぶないオヤジ)。もうその音のひとつひとつ、隅から隅までが気持ちいい。
 キュアーの初期のころを思い出させる、ほの暗くてクールなギター・サウンドを中心にして、絶妙に考え抜かれたバンド・アンサンブルに、アンニュイな女性たちのボーカルが乗っかったその音が、とにかく最高~。
 やっぱロックはギターだよギター。そこに可愛い女の子のボーカルがのっかりゃ、もう無敵。楽曲は比較的地味だけれど、逆にそのおかげで、いっくら聴いても聴き飽きない。ほんと、この一ヵ月ばかり、僕はこのアルバムばっかり繰りかえし聴いていた。
 今年の僕の洋楽のナンバーワン・アルバムはこれで決まりって一枚。こういうバンドと出会えると、ほんと音楽が好きでよかったと思う。
(Nov 30, 2010)

I Speak Because I Can

Laura Marling / 2010 / CD

I Speak Because I Can

 これは今年の春先にジャケ買いしたもの。ローラ・マーリングというUKの女性シンガーソングライターのセカンド・アルバム。
 僕はこの人のことをぜんぜん知らなかったのだけれど、リリース当時にあちらこちらで盛んに取りあげられていたこのジャケットが気に入って、結局、音も聴かずに入手したのだった。
 そして一聴してみて、びっくり。まるで先祖がえりしたかのような、トラディショナルなフォーク・ソングだったから。
 安直に形容すれば、アコギをかかえたフィオナ・アップルというか、トラディショナルなスザンナ・ヴェガみたいなイメージ。言葉数はそれほど多くないけれど、力の抜けたその歌いっぷりには、なんとなく美声の女性版ボブ・ディランとでもいった風情さえある。いまどきこんな音楽を、こんなに本格的にやる(やれる)人がいるとは思ってもみなかった。
 しかもあとから、彼女がまだ二十歳になったばかりだと知って、さらにびっくり。えーっ、マジですか? なんでハタチの女の子にこんなに成熟した歌が歌えちゃうの? まだ俺の半分も生きてないのに。早熟にもほどがある。カッコよすぎる。
 さかのぼって2年前に出たファースト・アルバムも聴いてみたら、そちらはまだ可愛げな曲とかもあって、これほどまで強いトラッド感はなかった。わずか2年足らずのあいだに、表現がどーんと渋くなったらしい。
 いったい、いまの時代にどういう人生を歩んだら、こんな本格感の漂うフォーク・ミュージックが生まれてくるんだろう。ある意味、神秘的。
 ウォーペイントと並んで、今年、もっとも気になった女性アーティストのひとり。
(Nov 30, 2010)

Treats

Sleigh Bells / 2010 / CD

Treats

 今年は個人的に女性ボーカルの当たり年だったので、つづけてもう一枚、女性ボーカルのアルバムを。
 今年M.I.A.のサポートを受けて、鳴り物入りでデビューした男女ユニット、スレイ・ベルズのデビュー・アルバム。
 前の2組の女性たちがとても抑制の効いた音を聴かせてくれていたのと対照的に、このグループの音はとことん享楽的だ。下世話なまでにポップでラウド。抑制なんて言葉とは、とんと縁がない。
 歪みまくったディストーション・ギターとシンセ。ドカンドカンと馬鹿でかい音でビートを刻むリズム・マシン。そしてコケティシュな女性ボーカルという組み合わせが、問答無用にキャッチー。ポップ・ミュージックの快楽原則に従って、ただひたすら気持ちのいい曲を作ってみたらこうなりましたって感じ。
 いわばファットボーイ・スリムのビートを単純化して、ジザメリのノイズを乗っけて、可愛くてセクシーな女の子ボーカルに歌わせてみました、みたいな感じ。80~90年代に音楽の洗礼を受けた身としては、この音は拒否できない。おもしろすぎる。
 ということで、リリース直後は大いに盛りあがったのだけれど、ウォーペイントの暗めの音ばかり聴いている現時点での僕の気分からすると、この音は過剰に躁的で、けたたましすぎる嫌いがなくもないというか……。
 たとえてみればこれは、暴力的なまでに甘いケーキようなアルバム。ずっと食べていたら簡単に飽きてしまうだろうけれど、それでも一度は味わってみる価値がある。
 新春早々の来日公演にもかなり興味あり。
(Nov 30, 2010)