2010年9月の音楽

Index

  1. マニフェスト / RADWIMPS
  2. 携帯電話 / RADWIMPS
  3. きみのためにつよくなりたい / サンボマスター
  4. GO / Jonsi

マニフェスト

RADWIMPS / 2010 / CD Single

マニフェスト

 「僕が総理大臣になったら」──という時事的フレーズを連発しながら、いつもどおりの恋愛至上主義にのっとった野田節炸裂のおかしな公約を並べてみせる、キャッチーなロック・ナンバー。
 まあ、自分のうちから彼女のうちまで電車を走らせてみたり、彼女の両親に国民栄誉賞を送ったり、国旗を彼女のあの形にしてみたりと、「なに言ってんの、きみ」って言いたくなるようなふざけた歌ではあるんだけれど。
 それでも「君のこと苦しめるすべてのものを苦しめよう」「最後はこの国から追い出そう」と歌う野田ヨージローは、じつはとてもマジなのではないかと思う。少なくても僕は、そんな風に「愛する国民をすべての苦しみから解き放とう」と思ってくれる政治家がいてくれたら、どんなにいいかと思う。きっと沖縄だっていまみたいなことにはならなかっただろう。ふまじめな中にもそういう真摯な思いがちゃんと透けて見えるところがこの曲のいいところだ。
 カップリングの 『やどかり』 もいい。「おならが恥ずかしくなったのはいつからだろう」という歌い出しはちょっとどうかと思うけれど、それでも「せめて今は持って行こう。抱えきれないほど持っておこう」と歌うサビのメッセージには共感せずにいられない。実際、かかえきれないくらいのものに囲まれて、こういう歌に励まされてなんとか生きている僕にとっては、まさしくどんぴしゃの歌だから。
(Sep 16, 2010)

携帯電話

RADWIMPS / CD / 2010

携帯電話

 『マニフェスト』 と2枚同時リリースされたシングルのもう一枚。
 タイトル・ナンバーは、携帯電話のいいところ悪いところを考察しつつ、「君」から電話がかかってこないことのさびしさを歌った、かわいくもせつない一曲。第一印象は 『マニフェスト』 のほうが強力だけれど、こっちもこっちでじわりとくる。最終的にはこちらの方に共感して胸を熱くする若い子が多そうな気がする。
 カップリングの 『ハイパーベンチレイション』 は 『へっくしゅん』 や 『グーの音』 の系統につらなる英語・日本語混合のミクスチャー・ロック・ナンバー。
 野田くんは帰国子女だという噂だけれど、そのわりには最近の彼の発音ってすごい日本語英語だったりする。でも僕はそこがけっこう好きだなと、この曲を聴きながら思った。なまじ英語っぽい発音じゃないからこそ、逆にきちんと身についている感じがする。英語が日本語とわけへだてなく、自然体で使われている感じがする。そこに好感が持てる。
 あまり日本人が歌う英語の曲って好きじゃないのだけれど、ラッドウィンプスの場合、そんなだからか、例外的に英語でも好きな曲がたくさんある。『セツナレンサ』 とかこれとか。まあ、1曲とおして英語だけって曲はあまりなくて、途中から日本語になったりするからかもしれないけれど。
 なんにしろ、今回のシングル2枚、計4曲の中で、もっともダンサブルで盛りあがるのはこのカップリング曲だ。
(Sep 16, 2010)

きみのためにつよくなりたい

サンボマスター / CD / 2010

きみのためにつよくなりたい

 今年、僕がこれまでにもっともたくさん聴いた日本のロック・アルバムがこれ。サンボマスターの5枚目のアルバムは、僕にとっては彼らの過去最高傑作だった。
 正直いうと、僕は当初、このアルバムを買うのをやめようかと思っていた。過去の4枚にしてもそれほど聴き込んではいないし、なんとなくこのまま惰性でつきあっているのもどうかと思い始めていたので。
 でもこのジャケットを見て、気が変わった。そのイラストがあまりに傑作だったから。
 巨大な女の子を前にして、楽器を手に呆然と立ちすくサンボマスターの三人。あまりに大きな「君」の存在と、あまりにもちっぽけな僕ら。
 『ソラニン』 の作者である浅野いにお氏の手によるそのイラストはサンボマスターの歌の世界をとても見事に表現している。ちょっぴり不気味なところも含めて、これはほんと最高だと思う。こんなもの見せられちゃ、そのまま見過ごすわけにはいかない。
 果たして手に入れたアルバムは、そのジャケットに負けず劣らず素晴らしい出来だった。
 そもそも 『きみのためにつよくなりたい』というタイトルがいい。それだけでなんとなく涙腺が緩みそうになる。
 収録されている曲も、ほんといい曲ばっかり。山口隆という人はもとよりいい曲を書く人ではあるけれど、今回はいつも以上に直球のラブソングが多くて、それがずばりと決まっている感じがする。以前の作品にはちょっと暑苦しすぎやしないかと思わせる部分があったりしたけれど、今回はオープニングにスローバラードを持ってきたり、『世界をかえさせておくれよ』 に伊藤歩という女の子をゲスト・ボーカルで迎え入れたりと、緩急のつけ具合が絶妙で、そういう暑苦しさがない。あいかわらず熱いけれど、決して暑苦しくはない。
 まっすぐなラブソングが多い一方で、「I hate the world」と憎しみもさらけ出してみせることも忘れない点も含め、もうなにからなにまで素晴らしい。これまでに積み上げてきたキャリアが見事に実を結んだ傑作だと思う。
 いやぁ、しかしあぶない。これを聴き逃していたら人生の大損だった。まだ年内にエレカシのアルバムが控えていたりするけれど、今年の僕の国内ナンバーワン・アルバムはおそらくこれで決まりだろうって気がしている。
(Sep 27, 2010)

Go

Jonsi / CD / 2010

Go

 シガー・ロスのボーカリスト、ヨンシーのソロ・アルバム。
 ひとつ前のサンボマスターをジャケットに惹かれて買うことにしたの対照的に、こちらはあぶなくジャケットのせいで買い損ねそうになった。幻想的な闘牛士(?)とでもいった感じのジャケットがあまりに趣味じゃなかったものだから。そもそも、シガー・ロスの最新作に感動はしたものの、いまだ過去までさかのぼっては聴けていないし、そんなやつがわざわざメンバーのソロ・アルバムを聴くのもどうなんだとも思った。
 でもとりあえず先行予約でやたらと安く買えてしまったので(円高バンザイ)、あとあと後悔するよりは聴いておくべきだろうと思って入手した。
 そしたらこれが素晴らしい。1、2曲目のアッパーでポジティブでパーカッシブな音に、一発でノックアウト。まあ、全体的に見るとスローな曲のほうが多い印象だけれど、それでも丁寧に作りこまれた手作り感のあるサウンドは繊細で美しく、そしてときに激しく、とても魅力的。うちの奥さんに「女の人だと思った」と言わしめたほどのヨンシーの美しいファルセット・ボイスを引き立てて余りある。
 いやはやホント、これも聴き逃さなくってよかった。サマソニの素晴らしいステージを観たあとだから、なおさらそう思う。あのライヴとの合わせ技ということでいうならば、今年の洋楽ではこれがナンバーワンかもしれない。
 こうなると、さっさとシガー・ロスの旧譜もどうにかしないといけないって気になる。
(Sep 28, 2010)