2012年8月の本

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  1. 『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔』 京極夏彦

ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔

京極夏彦/角川書店

ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔

 『ルー=ガルー 忌避すべき狼』の続編にして、『インクブス×スクブス』というサブタイトルがどうにも覚えられないシリーズ第二弾。
 この作品はチャプター三十二から始まる。前作が全三十一章だったから、まさにそのつづきという位置付け。いちおう話としてはこれ一冊で完結しているけれど、主要登場人物は前作と同じ少女たちだし、不破・{くぬぎ}の大人ふたりも引きつづきフィーチャーされているので、僕のように前作を忘れている人は先に読み直しておいた方がいい。そのほうが絶対に楽しい。
 今回の話の発端となるのは、前作のクライマックスで唐突に登場した来生律子ちゃん。ネットで読める京極氏のインタビューによると、彼女は最初から主要メンバーの一員として構想に入っていたそうなのだけれど、前作を読んだかぎりはチョイ役にしか思えなかったこの子が意外な趣味(と才能?)を持っていることが明かされるところから今回の物語は始まる。
 その趣味というのがバイクの修理。──とはいっても、この時代、ガソリンを燃料にして動く乗り物はもう現役として存在しない──という以前に、使用を禁止されている──ので、彼女はもちろんそれに乗るどころか、動かすこともできない。ただ趣味として、廃車になったバイクをもとの形に修復しているだけ……なのだけれど。
 そこはそれ。この物語には都築美緒という天才少女が控えている。ははー、こりゃあ、いずれ動くんだろうなぁと、前作を読んだ人ならば誰もが思う。そして前作ではカメ(ガメラ)で盛りあがっていた美緒ちゃんのマイ・ブームが、今回はバッタ(仮面ライダー)とくる。わはは~、笑わせてくれるぜ、京極氏。
 まぁ、とはいっても、彼女のバイクの話は単なる伏線で、物語の中心となるのはオカルト少女、佐倉雛子の家族にまつわる毒の話。で、その毒にからんで出てくる大手製薬会社の名前が神崎製薬。神崎?──っていうと、それはつまり『邪魅の滴』の?──あぁ、こっちの記憶も定かでない。でもやはり今回の話も、遠い過去で百鬼夜行シリーズにつながっているのは確からしい。
 要するにこのシリーズは、百鬼夜行シリーズの後日譚をバックボーンにしつつ、近未来を舞台に怪獣映画や特撮ヒーローものにオマージュを捧げた美少女アクション小説なわけだ。そりゃ楽しいですよ、僕らの世代にとっては。
 ……って。でもそれでいいのか? と思わなくもない。
 『忌避すべき狼』のときに書いたように、この小説が少女たちによる殺人を描いている点で、僕は京極夏彦という作家がすんなりこれをエンターテイメントとして終わらすはずがないと思っている。京極作品である以上、いずれ彼女たちには逃れられない運命として悲劇が降りかかるのだろうと。
 ところがこの第二作のラストは、そんな罪深き少女たちに謎の政府組織がお墨付きを与えるような形で終わっている。えー、なにそれ。チャーリーズ・エンジェル?
 いまだ河埜歩未の得体のしれない強さのわけも明らかにされていないし、このシリーズがどこへ向かってゆこうとしているのか、僕はこの本のエンディングを読んで、この先の展開が若干不安になった。
(Aug 19, 2012)