2024年のコンサート
Index
- ストリート・スライダーズ @ TACHIKAWA STAGE GARDEN (Mar 6, 2024)
- ストリート・スライダーズ @ 日比谷野外大音楽堂 (Apr. 6, 2024)
- エルヴィス・コステロ with スティーヴ・ナイーヴ @ すみだトリフォニーホール (Apr. 8, 2024)
- エルヴィス・コステロ with スティーヴ・ナイーヴ @ 浅草公会堂 (Apr. 12, 2024)
- BUMP OF CHICKEN @ 有明アリーナ (Apr. 25, 2024)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ Kアリーナ横浜 (May. 5, 2024)
- 宮本浩次 @ ぴあアリーナMM (Jun. 12, 2024)
- FUJI ROCK FESTIVAL '24 @ 苗場スキー場 (Jul. 28, 2024)
- BUMP OF CHICKEN @ ベルーナドーム (Sep. 7, 2024)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ 大宮ソニックシティ 大ホール (Oct. 9, 2024)
- 宮本浩次 @ 大宮ソニックシティ 大ホール (Nov. 1, 2024)
ストリート・スライダーズ
40th Anniversary Final THE STREET SLIDERS「Thank You!」/2024年3月6日(水)/TACHIKAWA STAGE GARDEN
スライダーズの四十周年ファイナル・ツアーの初日を、立川の真新しい初めてのホールで観た。
注目はなんといっても去年のツアーとはどう違うのか、だったわけだけれども――。
結論から言ってしまえば、それほど大きくは違わない。
基本的な構成はほぼ一緒で、部分的にちょっとした変更が加わった感じ。
でも、その変化がとても効果的だった。
なんたって一曲目が『SLIDER』だ。
あのイントロが鳴り響いた瞬間の高揚感は格別だった。鳥肌がたった。
そして二曲目が『おかかえ運転手にはなりたくない』。
スライダーズを代表するアッパーなオープニング・ナンバーのあとに、個人的に思い入れのある、決してメジャーとはいえないレア感たっぷりの珠玉のバラードを聴かせてもらえたんだから、もうたまらない。
このオープニングの二曲だけでもう大満足だった。
そのあとの『Angel Duster』と『Let's go down the street』は去年のツアーの流れをくむ選曲だったので、ここからは通常運転なのかと思ったら、その次にいきなり『のら犬にさえなれない』がくる。え、もうこの曲をやっちゃう?
『のら犬』はラストライブの締めの一曲だったし、去年のツアーでもアンコールで演奏されていたから、当然そういう特別な一曲だと思っていたので、こんなに早い時間帯に演奏されたのには意表を突かれた。
本編のラストが『TOKYO JUNK』だったのもそうだし、この日のライヴは去年のツアーを踏まえての微妙な曲順の入れ替えがとても効いていた。やっている曲はそう変わらないのに、流れの違いでここまで新鮮な印象になるのかと。
【SET LIST】
|
とはいえ、やっぱり去年は聴けなかった曲が聴けるのはうれしい。
『のら犬』のあとの『Dancin' Doll』と、ツアーでは聴けなかった『カメレオン』が終盤に演奏されたのが、オープニングと並んでこの日のポイントだった。やっぱライヴで聴く『カメレオン』は映える。
中盤の新曲二曲のあと、去年のツアーでは蘭丸とジェームズが日替わりでボーカルを取っていたコーナーが、今回は武道館と同じように二人とも歌ってくれたのもよかった。やっぱ『Thank You』と題したファイナルツアーだもんね。そうこなきゃって思った。どちらがいいとか考えなくて済むよう、二人とも歌ってくれたほうがうれしい。
話が前後してしまったけれど、そのあとが『カメレオン』で、そこからクライマックスの流れはこれまで同様の『So Heavy』に『Back to Back』、でもって今回は最後が『TOKYO JUNK』で締めという内容だった。この流れはもう盤石。文句なしにカッコいい。
で、本編を終えた時点で、前回のアンコール曲は二曲とも消化してしまっていたので、アンコールになにを聴かせてくれるのかもこの日の注目ポイントだった。
そしたらなんと、アンコールの一曲目が『いつか見たかげろう』とくる。
いやいや、レア過ぎでしょう? 解散前にもライヴでやったことなかったりしない? 最高のサプライズでした。
ここまできたらオーラスにも期待せずにいられない――という僕らオーディエンスの気持ちをはぐらかすように、「最後の曲です。『風の街に生まれ』」とハリーが紹介したときには、なんか一瞬場内がしゅんとした感じもおかしかった。え、やっぱそれ?――って。
まぁ、スライダーズって昔から微妙に期待をはぐらかすようなところがあったから、それも彼ららしいなって思った。
初めての立川ステージガーデンは、オールスタンディング対応のフロアに可動式のシートを並べた作りだったので、フロアに段差がなくて、一階席のうしろのほうはいささか見晴らしが悪かった。最近この手のホールが多いけれど、ライヴハウス規模で椅子を並べられても観にくくなるだけだから、正直やめてほしい。
(Apr. 6, 2024)
ストリート・スライダーズ
40th Anniversary Final Special GIG「enjoy the moment」/2024年4月6日(土)/日比谷野外大音楽堂
一年前に始まったストリート・スライダーズの四十周年記念ツアーもこの四月でもってついに終了。最終公演のNHKホールはチケットが取れなかったけれど、あとから追加で発表されたこの野音を観ることができた。
まぁ、立川でのファイナル・ツアー初日を観ているし、それからちょうど一ヵ月後の野音はちょっと贅沢じゃん?――と思いはしたんだけれど(年齢的にそろそろ老後の生活が視野に入ってきて、預金残高が心配になってきた)、でも野音は今年の秋から改築工事に入るそうなので、いまの会場でライヴが観られるのもあとわずか。
今秋エレカシがやったとしてもチケットが取れる気がしないので、もしかしたら今回が最後の機会になるかもしれないし……という口実で、思い切って申し込んだら、さくっとチケットが取れてしまいました。あらためて自分のチケット運のよさを確認。
まぁ、ファン層的に、僕と同じように一万円を超えるライヴにそんなに何度もいけないって中高年のファンが多そうだから、意外と競争率は低かったのかもしれない。
ということで、ゲート横に満開の桜が咲きほこる春の野音で、スライダーズを観てきた。なにげに四月に野音のライヴを観るのはこれが初めてだ。
【SET LIST】
|
「Special GIG」と銘打ったこの日のライヴ、スペシャルというわりには、一曲目の『SLIDER』から中盤までの流れは、一ヵ月前の立川とまったく一緒だった。
「スペシャル」なのはこの野音という会場でやること自体?――と思いつつ、でもまぁ、確かにこのロケーションはつくづくスペシャルだなぁと思った。
ほどよく傾斜のついた野音の観客席は視野が広くてとてもステージが観やすく、先月の立川とは雲泥の差だったし、なにより遮るものの何もない野外だから音の抜けがよい。快晴とまではいえないながら天気はよかったし、四月の陽気は暑くもなく寒くもなく、絶好の野外ライヴ日和。
こんなに気持ちがいい空の下でスライダーズの音を全身に浴びられる――これがスペシャルでなければ、なにがスペシャルだって話だ。
唯一惜しむらくは、ハリーの喉の調子がいまいちそうだったこと。風邪でも引いていたのか、序盤からところどころ声がかすれていた。これで最後まで大丈夫なの?――って心配になってしまった。
でもそんなハリーの喉の調子も(ライヴが進むにつれてアドレナリンが出たのか)徐々に気にならなくなってゆき、やがて中盤の新曲コーナー二曲を鳴らしたあと、この日のライヴの「スペシャル」の
まずはこれまでならば蘭丸かジェームズのボーカル・コーナーが始まるべきところで『カメレオン』を披露。
え、もしかしてきょうのメニューはふたりのボーカル・コーナーなし? それがスペシャルのゆえん?
――とか思っていると、その次の曲が、なんとジェームズ・ボーカルの『Rock On』、つづけて蘭丸の『ROCK'N ROLL SISTER』とくる。
いやいや、この局面であのふたりの曲目を変えてくるなんて、誰が思うかって話だ。
さらにつづけてサプライズがある。次の曲はなんと『Oh! 神様』!
しかも三人組のホーン・セクションつき!!
つづけて次が『BADな女』!――って、なにそのレア・ナンバー。
この期に及んで、まさかそんな曲を聴かせてもらおうとは……。
スライダーズでホーンといえば、なんといっても『天使たち』という印象なので、あのアルバムからの選曲が来るのを期待していたら、よりによって「なんでそれ?」と首をかしげたくなるような、とんでもなく意表をついた楽曲をもってきた。
なるほど、あらためてレコーディング音源を聴いたら、この曲にはちゃんとホーンがついていたけどさ。それにしても『Special Women』でも『Boys Jump the Midnight』でもなく、この曲を選ぶスライダーズって……。
ホーンの内訳はサックス二本(バリトンとテナー)とトロンボーン――だったと思う。たぶん(記憶力&知識不足)。
ホーンがあったからだろう、この日の本編の最後は『Back To Back』だった。
でもって、アンコールのメニューは『いつか見たかげろう』と『風の街に生まれ』という、ファイナル・ツアーと同じ構成に戻って幕。
いやまさか、この期に及んで『TOKYO JUNK』と『So Heavy』をセットリストから外してくるとは。僕にとってはこれが最後のスライダーズかもしれないのに、あの二曲が聴けないという……。
えぇ、そんなのあり?――
とまぁ、そんなところもスライダーズらしいっちゃあ、らしいなぁと思った。
という、なるほどスペシャルな野音の一夜でした。
それにしても野音でロックを聴くのって本当に気持ちいい。
もうこの会場とこれっきりでお別れだと思うと残念でならないよ。
新しくなる野音がいままでと同じくらい気持ちのいい場所であってくれることと、いずれはまたそこでスライダーズを観られる日がくることを願って――。
(May. 10, 2024)
エルヴィス・コステロ with スティーヴ・ナイーヴ
2024年4月8日(月)/すみだトリフォニーホール
エルヴィス・コステロ、八年ぶりの来日公演!――の東京の初日を観た。
今回のツアーはスティーヴ・ナイーヴとのふたりでのステージ。
海外ではインポスターズにチャーリー・セクストンを加えたスペシャルなメンツでツアーを回っているのに、なぜに日本だけバンドではないの?――と思ったら、今秋からのナイーヴとの欧州ツアーが決まっていた。
つまり、日本公演はそのツアーのこけら落とし――または予行練習――だったということ? そう考えると、ちょっぴり特別感が増して、得した気分になる。
スティーヴ・ナイーヴとふたりでのステージは、かつてバート・バカラックとの競作アルバム『Painted From Memory』のリリース時にも観ていて、去年あのアルバムの豪華盤が出たあとだから、今回もまた同じようなアコースティック・セットのステージになんだろうと思っていたら、ぜんぜん違った。
最近のコステロのソロ・ステージは単なる弾き語りではなく、アコギにフルアコ、エレキ等、さまざまなギターを使い分けたり、同期ものを駆使したりと、演奏形態の多様性がすごかったけれど、今回はそこにナイーヴのキーボードを加えた形。ふたりになったことで、より自由度が増したというか、表現力の幅が広がっていた。
そもそも一曲目の『When I Was Cruel No.2』からして打ち込み音源に乗せての演奏だった。スティーヴ・ナイーヴはこの曲で鍵盤ハーモニカを吹きながら、いきなり客席に降りていったりするし。ほんといろんな意味で自由。
ナイーヴ先生はステージに横向きで置かれたグランドピアノのほか、シンセサイザーやピアニカなど、いくつかの鍵盤楽器を使い分けていた。
まぁ、いずれにせよリズムセクションなしのふたりきりでの演奏がベースだから、大半はアコースティック向けのリアレンジが施されていて、「あれ、この曲ってなに?」と思うこともしばしばだった。二曲目の『Watch Your Step』はサビにくるまでその曲ってわからなかったし。四曲目ではタイトルのわからない曲まで飛び出す始末。
でもまぁ、あとでコステロのファンサイトで確認したら、その曲は未発表の新曲だったらしく、さいわいこの日に関しては知らない曲はそれだけだった(同じ週の金曜に観た追加公演はまた別)。
いやしかし、気がつけばライヴからひと月近くが過ぎてしまっているので、不覚にもすでにあれこれ記憶が曖昧になってしまっている。
とくにいいなと思ったのは『Clubland』(アウトロにスペシャルズの『Ghost Town』がつくバージョン)や『Beyond Belief』。どちらもアコースティック・セットらしからぬビート感があって、カッコよかった――気がする。
『Clubland』のあと間髪入れずに始まった『Don't Let Me Be Misunderstood』は始まったときの一部のオーディエンスが歓声をあげていた。全体的に年齢層がとても高かったので、やっぱ古くてなじみのあるカバー曲は盛り上がるっぽい。
新しめの曲は『Hey Clockface』と『Hetty O'Hara Confidential』くらいで、あとは往年の名曲ぞろいだったから、そういう意味では昔ながらのファンにとってはとてもよいセットリストだったと思う。
本編のラストがピアノだけをバックにした『I Still Have That Other Girl』と『She』の珠玉の名バラード二連発というのもナイーヴとのコラボならではだなぁと思った。そのちょっと前に『Still』もやっていたので、似た感じの『She』はやらないかと思っていたから、この曲がラストというのにも意外性があった。
まぁ、ラストといっても、そのあと裾に引っ込みかけたふたりは、姿を消すことなくすぐに戻ってきてアンコールが始まったので、そのあとの三曲をアンコールと呼ぶべきなのかもあやしいんだけれども。
【SET LIST】
|
アンコールでのサプライズは『Peace, Love And Understanding』でスティーヴ・ナイーヴがワンコーラス分、メイン・ボーカルをつとめたこと。途中でコーラスをつけた曲とかもあって、「あれ、この人って歌うんだっけ?」と思ったら、まさかそのあとでメインボーカルとしてその歌声を聴くことになろうとは。今回のツアーのいちばんのサプライズでした。
驚いたといえば、アンコールがわずか一回、三曲で終わってしまったのも意外だった。かつてのコステロ先生はダブル・アンコールとかあたりまえだったので、今回もそういうもんだと思っていたら、あっさりと客電がついたのには、え、もう終わり? と意表をつかれた。
でもまぁ、コステロ先生も気がつけば今年でもうそろそろ七十だもんねぇ。そう長い時間をステージで過ごせる年齢でもなくなったってことなのかもしれない。
今回は客席とのコミュニケーションが以前よりも疎な感じで、『Alison』などで合唱が起こらなかったりしたし、僕らは二階席ということもあり、最後まで座ったきりでスタンディング・オベーションもしなかったので、コステロ先生が気分的にどうだったのかわからないけれど、とりあえずファンとしてはとても楽しい二時間でした。
ちなみに会場のすみだトリフォニーホールは、村上春樹氏の『小澤征爾さんと、音楽について話をする』のなかで、世界の小沢さんが「日本にもいいホールが増えた」といって、名前を挙げていたホールで、一度は来てみたいと思っていたから、今回東京公演の会場にこのホールが選ばれたのは願ったり叶ったりだった。
なるほど、世界の小沢のお眼鏡にかなうだけあって音がよかった――気がした。
パイプオルガンもあったので、せっかくだからスティーヴ・ナイーヴが弾いてくれたらいいのにと思っていたら、翌日の公演では『Shipbuilding』で本当に弾いたそうだ。
いや残念。それはぜひ観たかった。
(May. 16, 2024)
エルヴィス・コステロ with スティーヴ・ナイーヴ
2024年4月12日(金)/浅草公会堂
エルヴィス・コステロ&スティーヴ・ナイーヴの追加公演。
スライダーズのときにも書いたように、そろそろ老後のたくわえが心配なので、さすがのコステロ先生の来日公演とはいえ、同じツアーを二度観る贅沢はいい加減ひかえるべきだろうと思って、すみだトリフォニーホールも一日しか申し込まなかったのだけれど、あとから発表されたこの追加公演は会場が浅草公会堂だという。
どこそれ?――って、いや浅草なんだろうけれど。そんなところでコンサート観たことない。あとで確認したら、四月のスケジュールは三味線コンクールとか、クラシックとか、アマチュア度の高い公演だらけ。その中にあってエルヴィス・コステロの名前だけが異彩を放っている。
まぁ、そういうことをいったら、トリフォニーホールだってレアだったので、今回はアコースティック・セットということで、あえてクラシック系のホールを選んだのかもしれない。で、この日は追加公演ゆえに、手配できるホールに限りがあって、普段は来日公演では使われないこのホールに白羽の矢が立ったということなのかなと思った。
僕は東京で生まれ育ったくせして、浅草には一度しか行ったことがなかったし、そんなレアなホールでコステロが観られるとなると、観ておいたほうがいい気になる。
トリフォニーホールではSS席のチケットが取れず、二階席のS席で観ることになったので、こちらはSS席(チケット一万五千円!)だけ申し込むことにした。それで取れなかったら諦めがつくし、取れたらいい席で観られるんだから、願ったり叶ったり。アコースティック・セットのライヴはできるだけステージの近くで観たほうが楽しめるって過去の経験からも知っているので。
さて、そんわけで運試しを兼ねて申し込んだチケットはあっさりと取れてしまい、今回はひさびさにうちの奥さんも一緒だったので、夫婦で合計三万円以上をつぎ込んで、浅草観光気分で出かけたコステロ&ナイーヴの2024年ジャパン・ツアーの最終公演。
【SET LIST】
|
コステロ公演の醍醐味である日替わりセットリストは今回も全開。全二十二曲中、十四曲が初日には演奏されなかった曲。でもこの日の選曲はマニアック度と長尺度が何割増しという印象だった。
この日のコステロ&ナイーヴはオープニングのSEに『Magnificent Hurt』のchelmicoリミックス・バージョンが流れる中で登場。あぁ、日本に来たんだから、当然この曲をかけるよねって思った。
で、そこから始まった一曲目の『Watching the Detective』からしてすでに長い。途中から『Shot with His Own Gun』へとなだれ込んで、そこからまた『Watching...』に戻ってくるというメドレーになっていて、いきなり最初から十分くらいあった感じ(体感)。
その後も『So Like Candy』とか『Old Battered Bird』(サビにくるまでわからなかった)とか、『Tokyo Storm Warning』とか、『I Want You』とか、重厚で長い曲が多め。
さらにはこの日も四曲目に未発表の新曲があったり、バカラック・コラボ盤のボーナス・ディスクに収録された『Look Up Again』や、トム・ウェイツのカバーだという『More Than Rain』が披露されたりと、前回より知名度が低い曲が多くて、「この曲なに?」と何度も思うことになった(お粗末)。
新しい曲も『Magnificent Hurt』『Unwanted Number』『The Man You Love To Hate』『The Whirlwind』『Farewall, OK』と前回より多めに演奏された。
八年ぶりのツアーなのだから、本来ならば初めて聴けたそれらの選曲を喜んでしかるべきなんだけれど、最近のアルバムは聴き込みが甘いので、そのうち半数はタイトルも収録アルバムもわからず。あぁ、駄目じゃん俺……って思わされることになった。
でもそんなマニア向けのセットリストだったからこそ、この日の席のよさはありがたかった。僕らの席は前から七列目、ステージ右手に配置されたナイーヴのグランドピアノの真正面。ふたりの演奏する姿がちゃんと見える距離だったので、なじみのない曲でも比較的楽しく観られた。今回が二階席だったらちょっときつかったかも。
初日との違いで印象的だったのは、ナイーヴが手のひらサイズの極小アコーディオンを弾いていたこと(なんの曲かは忘れました)。あと、この日はラストの『Alison』までを一気に演奏して、アンコールなしでさくっと終わった。
今回のツアーでのお気に入りは、二日ともに演奏されたモース・アリソンのカバー『Everybody's Crying Mercy』(『Kojak Variety』収録)とバカラック・コラボの珠玉のバラード『I Still Have That Other Girl』。
またの来日、お待ちしています。次は新しいアルバムももっとちゃんと聴き込んで、万全の態勢で臨みます。
(May. 18, 2024)
BUMP OF CHICKEN
BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック衛星2024/2024年4月25日(水)/有明アリーナ
「公転周期」を意味するアルバム『orbital period』を掲げて、メンバーたちが二十八歳になったときに行ったツアー『ホームシック衛星』が、結成二十八年目の今年、リバイバル公演として再現された。
「公転周期」は天体がほかの天体のまわりを一周する期間だということで、地球でいうと太陽のまわりを一周する期間――つまり365日とするのが一般的っぽいけれど、バンプの人たち(というか藤原くん?)はそれをカレンダーの並びが一巡する期間ととらえて、二十八年を特別視している(なるほど、僕が生まれた1966年と、それから二十八年後の1994年のカレンダーはまったく同じだった)。
『orbital period』というと、個人的に大好きな名曲『メーデー』と『カルマ』が収録されたアルバムなので、ツアーとなればその二曲が演奏されることは必至。観られることならば観たい。でも今回もチケット争奪戦は熾烈を極めた。
先行抽選、二次抽選でも外れ、一般なんてもちろん論外。それでも諦めずにリセールに申し込んでいたうちの奥さんの執念が届いて、ようやくチケットが手に入ったのは公演の数日前だった。諦めない心って大事だなぁと思った。
ということで、かつての公演――僕らが観たのはライブハウスツアーの『ホームシック衛星』ではなく、そのあとのアリーナツアー『ホームシップ衛星』だったけど――を観ておおいに感動して、そのあとに発表されたさいたまアリーナでの追加公演も「絶対観る!」とはりきっていたのに、チケットが取れずに涙したうちの奥さんにとっては、じつに十六年ぶりの大願成就。BUMP OF CHICKENのツアー『ホームシック衛星』を、今回は有明アリーナで観た。このホールでバンプを観るのは二年連続。
【SET LIST】
|
記憶力がざるなので十六年前の公演の内容をすっかり忘れていたけれど、かつての記録を見ると、『星の鳥』が流れるなかで曲のイメージを再現したCGアニメが映し出され、そのあとに28年の高速カウントアップがあって、カウントアップ終了とともにメンバーが登場して、一曲目の『メーデー』始まる――という流れは前回と一緒だったっぽい。
でも忘れていたからこそ、その演出がものすごく感動的。僕でも感動するんだから、うちの奥さんはさぞや……と思ってとなりを見たら、『メーデー』が始まったとたんに、彼女がぼろぼろと大粒の涙をこぼしていて驚いた。いやまさかそこまで……。
とにかくこの日の演出は凝っていて、全編にわたって宇宙空間や星空、惑星、人工衛星と、宇宙をテーマにした美麗なCG映像がスクリーンを彩っていた。わざわざ過去のライヴを再演することにしたのは、この演出がメンバーたちもお気に入りだったからなんだろうなと思った。
セットリストは十六年前とだいたい同じ流れで、部分的にブラッシュアップされていた。終盤にはそのころにはまだなかった『望遠のマーチ』や『ray』、『プレゼント』が演奏されたし、花道の先のサブステージで演奏された『東京賛歌』と『真っ赤な空を見ただろうか』などもそうだ。
それでも基本的には昔の曲中心。しかも、もともとが『orbital period』のお披露目ツアーだから、『ハンマーソングと痛みの塔』『ひとりごと』『飴玉の唄』『かさぶたぶたぶ』など、最近のツアーではめったにやらないレア・アンバーが目白押し。
まぁ、収録曲の多いアルバムだから、その一方で『プラネタリウム』『supernova』『涙のふるさと』など、比較的演奏されることの多い代表曲がはしょられていたのが逆に新鮮だった(前日はやっていたらしい)。
個人的にはほかの日のセットリストに含まれていた『arrows』や『銀河鉄道』が聴けなかったのは残念だったけれど(大好きなのです)、でもまぁ序盤に『ラフ・メイカー』と『アルエ』という初期の名曲二連発があったりしたし、まぁ、この日でよかったかなと……思わなくもない。そもそも観られただけでも僥倖だったわけだし。贅沢をいったら罰があたる。
なによりひさしぶりに『カルマ』が聴けたのがうれしかった。それで締めかと思ったら、今回はそのあとに『flyby』があったのも感動的。やっぱ『orbital period』のステージンのとりを飾るのは、この曲がふさわしい。
あと、この日は『花の名』あたりからの藤原くんの熱唱ぶりがすごかった。もともと歌のうまい人だけれど、こんなに熱い感情を込めて歌う人だっけ?――と思ってしまった。僕らが初めてBUMPのライヴを観てから、かれこれ十八年。その間に彼らも少しずつ変わってきていたんだなぁって思わせる藤原くんの熱唱だった。
アンコールは『ガラスのブルース』と『流星群』の二曲。オーラスがバラードでしっとりと終わるパターンは初めてで、それもまた味わい深かった。
BUMPのライブではすっかり定番となった光るリストバンド(PIXMOB)はこの日も配布されたけれど、以前にくらべるとベルトの質感がチープになっていて、光る場面も少ない印象だった。なくてもいいのでは?――とちょっと思った(ここだけの話)。
(May. 25, 2024)
ずっと真夜中でいいのに。
本格中華喫茶・愛のペガサス ~羅武の香辛龍~/2024年5月5日(日)/Kアリーナ横浜
ずとまよの『純喫茶・愛のペガサス』ツアーの〆は、一月に本編が終了してから四ヵ月ばかり間をあけて、五月のゴールデンウィークの終わりに開催された。
タイトルは『本格中華喫茶・愛のペガサス ~羅武の香辛龍~』。
あいかわらず意味不明だ。
でもずとまよ(ACAね)がすごいのは、そんな意味不明でわけわからんと思わせたタイトルにもきちんと意味があるところ。それもたっぷりと。
「本格中華喫茶」も「愛のペガサス」も「香辛龍」も、それだけだといったいなんのこっちゃなのだけれど、いざライヴを観ると、あぁなるほど――ってなる。
まず会場に入った時点で「中華」と「龍」が見まがうことないビジュアルとして目に飛び込んでくる。どーん。
ステージにはツアー告知ポスターで描かれた中華風の建築物に龍が絡みつくビジュアルが、立体のステージセットとして再現されていた。
去年の『叢雲のつるぎ』でもそうだったから、おそらく今回もそうくるだろうとは思っていたけれど、それにしても圧巻。2デイズのライヴのためだけにこんなもの作ってペイするのか心配になるレベル。
「中華」のゆえんは、今回のバンドの音にも反映されている。
オープニングを飾ったのは、二胡という中国の伝統楽器――演奏者は賈鵬芳(ジャー・パンファン)という中国の方とのこと――のソロ演奏。
これまでの特別公演には、三味線の小山氏が参加するのが恒例だったけれど、今回は中華というコンセプトのため、かわりにそのジャー氏が抜擢された形だった。
そんな二胡のソロからバンドの演奏が始まり、ようやくACAねが登場して披露されたこの日の一曲目は『袖のキルト』!
つづけて「気の抜けた中華街」という歌詞がある『こんなこと騒動』を挟んで、その次が『低血ボルト』!!
大好きなのにライヴではあまり聴く機会がなかった『袖のキルト』と『低血ボルト』を序盤で聴けて、もうそれだけで大満足。
さらには五曲目でツアーのラストナンバーだった『花一匁』が飛び出し、その次がずとまよ屈指のジャンプアップナンバー『脳裏上のクラッカー』という流れなんだからたまらない。序盤からはんぱない盛りあがり。
この日のセットリストはもしや史上最強では?――と思った。
うん、この時点では。
あれ、ちょっと違う?――と思ったのは、その何曲かあとに新曲『Blues in the Closet』――長編アニメ『好きでも嫌いなあまのじゃく』の挿入曲としてタイトルだけ発表されていたのに、それを見逃していた僕は、サビ前がすべてラップだったこともあり、最初は新曲ではなく誰かのカバーかと思った(でもサビのメロディを聴いて、あ、これはACAねの書いた曲だなと思った)――を挟んで、スペシャル企画コーナーに突入してからだった。
【SET LIST】
|
まずは『愛のペガサス』ツアーで恒例だったランチメニューのコーナー。
この日のABCの三択メニューがどんな料理名だったかは、年寄りの記憶力の衰えゆえ、かけらも覚えていないけれど、オーディエンスに選ばれて演奏されたのはCランチの『ハゼ馳せる果てまで』だった。
個人的に大好きな曲だし、それ自体はいいんだけれど、その曲とのトレードオフで演奏されずに終わったあとの二曲が、どうやら『お勉強しといてよ』と『MILABO』だったらしい。
マジ? その二曲がセットリストから外れるとかあり?
まぁ、名曲ぞろいのずとまよだから、いまとなるとその二曲をはずしてもまったく遜色ないセットリストになりはするんだけれども。いやでも。
いまだ個人的にはライブで聴きたいナンバーのベスト5に入る大好きな『お勉強しといてよ』が聴けなかったのは、どうにもこうにも残念だった。
この日のランチメニューの即席演奏のテーマは「師弟で営む喫茶店が地上げ屋にゆすられて、買収されかけた師匠を弟子が更生させる」みたいなやつ。ステージでは演奏に参加しないオープンリールの人たちが三文芝居を繰り広げていた(音のほうがどうだったかはすでに記憶の彼方)。
そのあとの花道の先に設営されたサブステージでの四曲が今回のハイライト――というか、この日限りのスペシャル企画。
まずは、七十年代のテレビアニメの予告編みたいなのが流れ――たぶんベテランの有名な声優さんにナレーションをお願いしたんでしょう――激レア香辛料、幻の五香粉(ウーシャンフェン)を買いにゆくという設定で、ACAねが羽の生えたペガサス風の原付に乗って登場する。それもワイヤーアクションで、右手の上のほうから空を飛んで降りてきて、ゆっくりとサブステージへ。
ここからはなんと、去年の十一月に一晩だけ開催されたACAねとオープンリールアンサンブルとのスペシャルユニット、スパイシーズの『恋のダビング -実録!幻の五香粉を求めて-』の再現コーナー。サブステージにはACAねひとりで、花道にメンバーが横並びになった状態で、『マリンブルーの庭園』と『君がいて水になる』の二曲が披露される。
そのあとでこの日のキーワード「本格中華」が本領発揮。なんとACAねがサブステージで炒飯を炒めはじめたのだった。
まぁ、つくっていた納豆キムチ炒飯が本格中華なのかは疑問の残るところだし、出来もやや疑問だったけれど(炒めが足りない感じ)、ステージでバンドの奏でるダンスビートをBGMに「卵投入~、チャーシュー投入~、塩コショウ~」と解説を加えながら炒飯をつくるACAねの姿にはなんともいえないおかしみがあった。
そして傑作だったのが調理の仕上げ。最後げに油を中華鍋に投入したACAねは、そこから「油、油、油~」と連呼したあと(どんだけ入れるんだ)、最後に「油、油、あぶら~、機械油!」と叫んで『機械油』を演奏し始めたのだった。
わははー。大笑い。
あまりにおかしくて演奏がどんなだったかよく覚えていないけれど、この日は小山さんがいなかったので、かわりにオープンリールの方々が大活躍していた。
そのあとにスパシーズのために書き上げたコミカルな『幻の五香粉』(生で聴くのは最初で最後だと思う)も披露してサブステージのコーナーは終了。ACAねはふたたび原付にまたがり、空を飛んで帰っていった。
この日の会場は去年オープンしたKアリーナ横浜で、テーマが中華だから横浜にしたのか、横浜でやることになったから中華がテーマになったのか、鶏が先か卵が先か、どちらだかはわからないけれど、いずれにせよ横浜という会場の選定までがライヴのコンセプトに沿っているのがすごい。
さらには中華の香辛料に五香粉を使うということで、一晩限りのスペシャル企画だったはずのスパイシーズまで組み込まれているという。なにこの構成力のすごさ?
まぁ、この日はランチコーナーも長かったし、バイクでの入退場やクッキングなど、音楽以外にたっぷりと時間をかけていたので、正直なところちょっと長すぎじゃん?――と思ってしまったところはある。レキシのライブを観たときと同じ感じ。おもしろいっちゃ、おもしろいんだけれど、俺はふつうにもっと音楽をたくさん聴かせてもらえたほうが嬉しいんだけどなぁって。
ということで、序盤の「今夜は最高!」な気分が、このコーナーのおかげですっかり沈静化しました。
それでもその後の『マイノリティ脈絡』から本編最後の『正義』まではキラーチューン連発で文句のつけようのない出来。『綺羅キラー』では途中までACAねのラップで聴かせたあと、途中からゲストでMori Caliopeが登場するというサプライズがあった。
『正義』のイントロがいつものピアニカではなく、二胡だったのもさすがだなと思った。もともとバイオリンもフィーチャーされているから、その曲を中華化する発想には至極納得。ツアー本編のセットリストにはなかったこの曲が最後なのにもグッときた。
アンコールは『ミラーチューン』で始まって、新曲『嘘じゃない』を初披露。そして最後は『暗く黒く』で締めという内容だった。
最後は陽性の曲でアッパーに締めるのがパターンが多かったから、せつない『暗く黒く』で終わるのも意外性があった。
あと、この曲の間奏ではスクリーンを使ったバンド紹介があった。去年は確か「ドラム」とか「ベース」とか、パート名しか紹介してくれなかったけれど、今回は(ニックネームではあったけれど)ちゃんとメンバー名を紹介してくれたのがよかった。まぁ、覚えられりゃしないんだが。
バンドは今回も大所帯。ギター、キーボード、ドラムが二人ずつ(メンバーはいつもの人たち)に弦楽四重奏にホーンにオープンリール三人組、さらには二胡というフルセットで、ホーンはふだんの三人にサックスが加わった四人編成だった。
そのメンバーを見たときには、おぉ、きょうは『ミラーチューン』の間奏のフレーズをオリジナル通りサックスで聴ける!――と盛りあがったにもかかわらず、いざアンコールでその曲が演奏されたときにはすっかりそのことを忘れていて、間奏がちゃんとサックスだったかどうか見落としました。だせぇ。
ライヴ終了後には秋からのツアー『やきやきヤンキーツアー2』の発表があり、一年後の五月にはそのツアーを締めくくるアリーナ公演が開催されることも告知された(来年の話にもほどがある。鬼大笑い)。今回は開場時と終演後のステージの写真撮影が許可されたし、最後までいろいろと盛りだくさんで楽しい一夜だった。
(Jun. 13, 2024)
宮本浩次
五周年記念 birthday Concert GO!/2024年6月12日(水)/ぴあアリーナMM
宮本浩次、五十八歳の誕生日。
今年もお誕生日会ライヴに参加してきた。チケット運はあいかわらず絶好調で、この日の席も特等席。アリーナ22列目という席番を見て「花道の横あたり?」とか思っていたら、横どころか花道の先に設けられたサブステージの目の前だった。
花道に向かって右手の角の対角線上のブロック。前から二列目の左隅で、前の女の子の背が低かったから、花道に宮本がやってくると、視界には遮るものがなにもない。
しかもこの日のコンサートで、宮本はいきなり花道に登場した。
客電が落ちて暗い中、静かにメンバーが出てきたので、さぁ主役はどこだと探していると、知らないうちに宮本が目の前にいた!――花道でスポットライトを浴びながら、黒いテロテロした生地のコート姿で『Woman "Wの悲劇"より』を歌い始める。
それを見てあわてて立ち上がる僕ら。
このところ宮本のライヴは前半は観客が座ったままのことが多かったので、女性にまざると背が高めの僕は立つのをためらって座ったままでいたんだった。
失敗した~。ちゃんと立って待っていれば、どうやって出てきたのか、わかったかもしれないのに。
一昨年の代々木体育館でも、オープニングで宮本がいきなり花道に登場したけれど、あのときは席が遠かったから、「あ、あんなところに」という感じだった。
それに対して今回は、その距離約三メートルくらい? いやぁ、度肝を抜かれました。僕の前にいた女性は感動のあまり泣いていたっぽかった。
オープニング・ナンバーが薬師丸ひろ子のカバーなのも意表をついていたけれど(まぁ現時点での最新シングルではあるんだけれど)、二曲目の『rain -愛だけを信じて-』にもサプライズがあった。
なんとサビで宮本が両手を広げてマイクを使っていないのに歌が聴こえてくる。
口パクかよっ!! なんじゃそら。
まさか宮本のステージで口パクを観る日がこようとは思ってもみなかった。
とくに音域がつらそうな曲でもないので、なんでこの曲が口パクだったのか、理由はわからない。その後も口パクの曲があったかどうかもわからない。そもそも宮本がわざとああいう態度をとってそのことを示さなかったら、気がつかなかった可能性も大だし(あまりに自然だったので。いまの技術ってすごい)。まさか口パクに思えただけで、じつはハンドマイクは飾りで、超小型ヘッドセットをつけてて、それで歌を拾っていたとか? いやいや、ないない。
まぁ、理由はどうあれ、口パクを使うには使うなりの理由があったんだろうし、ああしてわざと口パクであることをバラしたのは、宮本なりの誠意の表れだったのだろうと僕は信じる。
【SET LIST】
|
ということで、冒頭からサプライズ二連発で始まった今回のバースデイ・コンサート。
宮本のソロでのリリースが去年は『Woman "Wの悲劇"より』一曲だけだったし、事前になにも告知がなかったので、どんなライヴになるか、いまいち読めなかったのだけれど、開けてみれば、ソロ、カバー、エレカシのナンバーをバランスよく配置した、宮本浩次の集大成的内容だった。バンドは小林武、名越由貴夫、玉田豊夢、キタダマキ(帰ってきたキタダマキと紹介されていた)という縦横無尽ツアーのときの四人。
去年のステージでエレカシ・ナンバーを惜しげもなく披露していたのはひとりきりのステージでバンドの練習がいらないからかと思っていたけれど、縦横無尽バンドを従えた今年のステージでもおよそ半分近くがエレカシの曲だったのは、ちょっとしたサプライズだった。
宮本がソロでエレカシの曲をやることをよく思わない人もいるようだけれど、僕はオッケー。そもそもが宮本が書いた曲なわけだし。人の曲をカバーしまくっているいまの宮本ならば、エレカシの曲をソロでセルフカバーするのもありでしょう。エレカシとは違うバンドで聴くエレカシ・ナンバーはそれはそれで新鮮で楽しい。僕は宮本にはソロでもエレカシの曲をガンガンやって欲しい派です。
この日演奏されたエレカシ・ナンバーで意外性があったのは、第二部になって演奏された『おかみさん』と『OH YEAH!(ココロに花を)』。エレカシの代表曲と呼ぶにふさわしいほかの曲にまじってこの二曲が演奏されたのはレアでお得感たっぷりだった。とくに『おかみさん』のガリガリとしたラフなギターサウンドにはエレカシを彷彿とさせるものがあった。この日のマイ・フェイバリットはこの曲。
話が前後してしまったけれど、第一部の目玉は『みんなのうた』のコーナーで、宮本がこの番組のために歌った三曲――『はじめての僕デス』『風と共に』『passion』――をすべて聴かせるという企画だった。それも『はじめての僕デス』は幼いころの自分の写真をバックに当時のレコードの音源を流して、途中からそれにあわせて生歌を披露するというひとり時間差デュエット状態。
ワンコーラスだけだったけれど、宮本が『はじめての僕デス』を歌うのを生で聴くのなんて、これが最初で最後でしょう。大変レアな体験でした。まぁでも正直なところ、もう一度聴きたいとは思わないけど(どうせならばその分、ふつうの曲が聴きたい)。
あと第一部でおっと思ったのは『夜明けのうた』が明るい照明の下で歌われたこと。あの曲ってライヴの冒頭で暗い空が明るくなってゆく演出とともに披露されてきたイメージが強かったので、ふつうのライティングがかえって新鮮に感じられた。
第二部はバンドではなく打ち込みの『解き放て、我らが新時代』で始まり、以降は前述の『おかみさん』『ガストロンジャー』『OH YEAH!!(ココロに花を)』とつづく、ロック色の強い楽曲中心のアッパーな内容。あいだに『P.S. I love you』ほかソロのポップ・ナンバーが二曲挟まったので、個人的には若干テンションが下がってしまったけれど――できれば全編もっとゴリゴリのまま押し切って欲しかった――残念だったのはそれくらい。
そうそう、この第二部にもサプライズがあった。それは『俺たちの明日』で宮本が名越さんとキタダマキのふたりを引き連れて花道にやってきたこと。わずか数メートル先で名越さんのギターソロとキタダマキのベースプレイを拝めたのは眼福でした。
でもせっかくふたりが花道に出てきたのに、宮本はその後すぐにひとり花道を降りて、客席内を練り歩き始めてしまったので、観客がそちらの動向に気を取られて、あまり名越さんたちを見てなかったりしたのは、ちょいお気の毒でした。罪づくりな宮本浩次だった。
ということでその第二部は『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』(メンバー紹介つき)から『昇る太陽』『ハレルヤ』という宮本ソロの王道ともいう流れで終了。
さて、アンコールにはなにを聴かせてくれるのか――と楽しみに待っていたら、この日は『冬の花』一曲だけでおしまいだった。あらら。
ソロライヴ五周年記念と銘打っている以上、ソロ活動のデビュー曲であるこの曲をやらないはずはないと思っていたけれど、まさかその一曲で終わっちゃうとは……。
「この曲が本当に好きじゃないから、次の曲で立とうと思って座っていた」という我が奥さまは、次の曲がなく終わってしまったことで『虎に翼』のトラちゃんみたいに「スン…」ってなったと嘆いていた。
でもたぶんその「スン」の使い方は間違っていると思うよ。
(Jul. 13, 2024)
FUJI ROCK FESTIVAL '24
2024年7月28日(日)/苗場スキー場
これが人生最後のフジロック――。
ゆく前からそんなことを思っていたけれど、行ってみて本当にこれで最後にしようと思った。もう体力的に無理だ。一時間歩いただけで疲れ切ってしまう男には、一日ずっと野外で過ごすだなんて、それだけでもう限界を超えている。
しかも、この日みたいに雨が降ったりやんだりを繰り返す天候だと、横になって休むこともできないから、疲れはたまるばかり。序盤に無駄に歩き回ったせいで、最初のステージからもうすでに疲れて切っていたので、最後のほうは完全にエンプティ。とりのノエル・ギャラガーはまともに観れなかった。
チケットは高騰して一日券は二万五千円もするし、それに加えて往復のバス代が二万円。飲食の費用まで加えれば、ひとり五万円コース。夫婦ふたりで十万円越え。
これだけ出して、疲れや足の痛みのせいで、お目当てのライヴを満足に楽しめないなんて、酔狂にもほどがある。
ほんと、これが最後の夏フェスにしようと心に誓った。
もとより今年はフェスのはずれ年だったので、当初は観にゆくつもりはなかった。サマソニなんて観たいアーティストがひとつもない勢いだったし、フジロックは観たいアーティストがなくもないけれど、わざわざ苗場に行くほどではないレベルのバンドばかりだったから、今年の夏はフェスなしで静かに過ごせそうだと思っていたんだった。
それが一転して行く気になったのは、ひとえにずとまよの出演が決まったから。
だってグリーンステージだよ?
フジロックのグリーンステージといえば、国内野外フェスの最高到達点だ。
しかもその最後から二番目だよ?
調べてみたら、過去十年にかぎっていえば、その時間帯にグリーンステージに立った国内アーティストは、エルレガーデン、サカナクション、コーネリアス、電気グルーヴの四組しかいない(国内アーティストしか出なかった2021年は除く)。
そこにずとまよが加わるというのがすごい。大抜擢。
もとより僕らがずとまよのライヴに魅せられたのは、五年前にYouTubeの配信で観たレッドマーキーでのステージが最初だったし、そのずとまよがついにグリーンステージまで昇り詰めるとなれば、観てみたいと思うのがファンのさが。
でもチケット高いしなぁ、どうしようかなぁとさんざん悩んだんだけれども、同じ日にうちの奥さんが大好きなジザメリが出る。チバユウスケのいないThe Birthdayも出るという。彼らがどんなステージをするつもりなのかも興味があったし、ほかにもノエル・ギャラガー、ライド、キム・ゴードン(ソニックユース)、キタニタツヤの名前がある。
これだけあれば観にいってもいいかもとさんざん迷ったあげく、最終的にはタイムテーブルが出た時点で観にゆくことに決めた。
まぁ、キタニタツヤはジザメリの裏、キム・ゴードンはライドとまるかぶりだったので、これらのアーティストは最初から観られなかったし、ずとまよのあとのライドは疲労困憊で観る気力が湧かなかった。ノエルもステージがまともに観られない距離で遠巻きにその音を聴いていた状態で、観たというのはおこがましい。
ということで、結果的にフルできちんと観たステージはわずか三つという。それどうなん?――と思ってしまうような今回のフジロックだった。
観たいアーティストが、タイムテーブルのせいならばともかく、自己責任で観られないなんて、音楽ファン失格でしょう?
やっぱ駄目だよ、大枚払って観にいったフェスで、好きなアーティスト見逃しちゃ。好きが疲れに負けるなんて。それはもう年寄りの証拠。ほんとにこれで夏フェスは引退だ。もうキュアーが来ても行かない。潔く諦める。
さて、そんなわけでこれが僕らにとってのフジロックの最終回。
移動は今回も日帰りバスツアーで、スケジュール表だと到着は十一時ということになっていた。
それだと11:00スタートのグリーンステージの一組目は観れないじゃんって思っていたんだけれど、実際にはバスが予定時間より早めに出発したこともあって、十時前には苗場に着いていた。新宿からサービスエリアでの休憩を含めて三時間ほど。苗場って思ったより近い。
ただ、せっかく早く着いたというのに、残念ながら観たいアーティストがない。
グリーンステージのトップバッターは今回も台湾のバンドだし――通りすがりに聴いたら、アジカンをハードにしたような印象で、あぁ、なるほどフジロックっぽいかもとは思った――そのほかにもこれといって観たいバンドがなかったので、とりあえず14時のThe Birthdayまではゆっくり休もうということになった。
でも性分的にそこでじっとしていられないのが僕の欠点。
腰痛持ちで痛み止めを飲んで参加していたうちの奥さんは無理はしないといって、レッドマーキーの前の雑木林にレジャーシートを敷いて横になっていたけれど、僕はせっかくだからほかのステージの様子も見てこようと、彼女を置いて会場内の散策に出かけた。
で、一時間くらいかけてグリーンステージ、ホワイトステージ、フィールド・オブ・ヘヴン、ジプシー・アバロンの四ステージの様子を眺め見つつ、会場の最果てまで歩いて戻った。
でもこれが大失敗。かつては平気で歩けたその距離も、コロナ禍のテレワークライフを経て、すっかり体力が激落ちした五十代後半のいまの僕には過剰だった。
行きはよいよい帰りはこわい。往路はともかく復路で股関節が痛み出す。足元はスニーカーではなくチェルシーブーツだし(天気予報が雨だったので長靴がわり)、足が痛くなるのも必然。奥さんのところまで帰りついた時点ですでにぐったりだった。
奥さんと合流したあと、The Birthdayのステージが始まるのを待つ時間に、一度グリーンステージへと戻って、芝生に腰を下ろし、ルーファス・ウェインライトのパフォーマンスを数曲だけ観た。
名前くらいしか知らない人だけれど(昔サンプル盤をもらって一枚聴いたことがある)、フジロックのサイトの紹介に「エルトン・ジョンから地球上で最も偉大なソングライターと呼ばれた」とあるのも納得。なるほど、歌がうまい。エルトン・ジョンっぽい堂々たるシンガーソングライターっぷり。
若いころはこういう人の音楽ってまったく聴かなかったけれど、その後エルトン・ジョンの代表作とかも何枚か齧ったし、いまとなるとこういうのはぜんぜんありだなと思った。ピアノとギターの弾き語りによる朗々とした歌声が苗場の風景に広がるのを風に吹かれながら聴いているのは、なんとも気持ちよかった。
その次、この日に本腰を入れて最初に観たステージが14:00からのレッドマーキーの WEEKEND LOVERS 2024 "with You"。
これはチバユウスケがROSSOのころに中村達也のソロプロジェクトLOSALIOSと始めたジョイントライヴのタイトルだそうで、今回はチバ君の追悼をかねて、そのイベントが11年ぶりに開催された。
ステージは最初の数曲がロザリオスで、その後にThe Birthdayの演奏があり、最後は両者のジョインで締め、という内容。
ロザリオスは、中村達也(ds)、TOKIE(b)、堀江博久(key/g)、加藤隆志(g)、會田茂一(g)というメンバー(フジロックの公式サイトからコピってきた)で、曲はすべてインスト。よどみないゴリゴリのロックサウンドがカッコよかった。でもって、最後はまさかのミッシェルの『CISCO』! 観客のシャウトがすごい。
カバーとはいえ、ミッシェル・ガン・エレファントの曲を生で聴くのは21年ぶりだ。さすがチバ君のトリビュート。熱すぎた。これが聴けただけでも苗場まで来た甲斐があるかもと思った。
あと、ベーシストが女性だなぁと思っていたら、なんと宮本ソロのバックも務めたことのあるTOKIEサンでした。おぉ。
つづくThe Birthdayは最初がインスト(オリジナル曲のチバ君のボーカル抜きバージョン)だったので、今回はゲストが出てくるまでは全曲歌なしのままかと思ったら、その曲の最後に藤井謙二が「お前の想像力が現実をひっくり返すんだ!」という歌詞をシャウトしてびっくりさせ、二曲目の『I SAW THE LIGHT』ではその藤井謙二がボーカルを取った(ほかのふたりも歌っていたのかもしれない)。
まぁ、もともとこの曲はサビしか歌詞がない半分インストみたいなもんだしなぁと思っていると、つづく『サイダー』は普通に歌つき。ワンコーラス目がベースのヒライハルキ、二番をキュウちゃんが歌った。
The Birthdayのメンバーが歌ったその二曲がどちらもチバくん逝去後にリリースした曲ってあたりにメンバーのそこはかとない配慮を感じた。誰もチバくんが生で歌うのを聴いたことがない曲だからこそ、自分たちの歌でも許してねという。
その次の曲ではゲストに僕の知らないラッパーを迎え(THA BLUE HERB の ILL-BOSSTINOという人とのこと。若そうに見えたけれど、もう五十代だった)、最後にロザリオスのメンバーとともに二人目のゲスト、Suchmosのヨンスが加わって、大盛りあがりでパーティーは幕となった。
演奏されたのは、最初のインストが『月光』(『サンバースト』収録)で、ゲストを迎えた二曲が『ハレルヤ』(『WATCH YOUR BLINDSIDE』収録)と『ローリン』(『NIGHT ON FOOL』収録)だそうだ。曲名もわからないあたりが The Birthday のファンを名乗れない証拠。
そんな男がいうのもなんだけれど、The Birthdayのパートではチバユウスケの不在がもたらす欠落感がどうしてもぬぐい切れなかった。ロザリオスが予想外にカッコよかった分、なおさら対比で失ったものの大きさを感じてしまった。僕でさえそうなのだから、コアなファンにとってはいかばかりかと思う。
ちなみにこのイベント、ライジングサンではゲストにHARRYが出演されることが発表されていたので、僕はこの日もHARRYが出るものと思い込んでいたから、出番なしで終わってしまって、なおさらがっくしでした。あぁ、HARRYの歌うバースデイ・ナンバーが聴きたかった……。
レッドマーキーでこのステージを観ている間、テントの外はどしゃ降りだった。でも終わったころにはすでに止んでいで、その後はそこまで激しく降ることはなかった。いちばん大降りの時間帯にテントの中にいられたのだから、僕らはやっぱりラッキーだ。
とはいえ、その後も雨は断続的に降ったり止んだり。本降りになる前にと思ってレインコートを着るとすぐに降りやんで、蒸し暑くて脱ぐとまた降り出す、みたいなのを一日じゅう繰り返していた。まったくうっとうしいったらない。この雨もフジロックはもうやめようと思った要因のひとつ。
でもまぁ、一日じゅうずっと雨降りだったら、さぞやつらかっただろうから、これくらいの雨で済んで運がよかったのかもしれない。
ホワイトステージへ向かう道すがら、グリーンステージにはクリープハイプが出演していて、尾崎世界観のエキセントリックなボーカルが緑の丘に響きわたっていた。
【The Jesus & Mary Chain】
|
The Birthdayのあと一時間ちょっと間があいて、その次がホワイトステージのザ・ジーザス&メリー・チェイン。
ジザメリというと、暗い照明にスポットライトなし、見えるのはシルエットだけという覆面バンド的なイメージだったけれども、この日のステージはいまだ明るい時間帯だったので、これまでになく全員の顔がよく見えた。
ずとまよとは違って顔を隠しているわけではないんだから、なんら問題はないはずなのに、ふだんは見えなかった顔がよく見えることにそこはかとない背徳感があった。「見えすぎちゃってこまるわ」という昭和のCMのフレーズを頭のなかで何度もリフレインしていた(マスプロアンテナでしたっけ)。
二曲目――いきなり『Head On』!――でものすごい量のスモークが出たのも、やはり姿を隠したいがゆえ?――とか思ったけれど、野外ステージのスモークは、あっという間に風にさらわれてしまい、結局ステージは最後までくっきりはっきり見えっぱなしだったのが、なんかおかしかった。
考えてみれば、ジザメリを野外で観るのはこれが初めてだったので、このふつうに見えすぎちゃう状態がなかなか新鮮だった。
予習不足で今回もタイトルがわかったのは数曲。後半には女性ボーカル(二人)をゲストに呼んで一曲ずつ歌わせるコーナーがあって、二曲目の女性とはジム・リードが手をつないでふたりで見つめあったまま歌い、終わった後でキスして別れた。あれはなんだったんですかね? 彼女? 誰か説明してほしい。
女性といえば、ジザメリもベーシストが女の人だった。ノエルのバンドにも女性メンバーがいたし、ずとまよはいわずもがな。この日僕らが観たステージはすべて男女混合だった。そんなところにも時代の変化を感じるような、そうでもないような。
セットリストでは最後に『Darklands』と『Just Like Honey』という初期の名バラード二連発がきたのにレア感があった。
でも、個人的なクライマックスは当然いちばん最後の『Reverence』。この曲のイントロが思いきり長かったのは勘弁だったけど(三分以上あったと思う)。ただでさえ疲れているんだからやめて欲しい。引っ張りすぎ。
それでも、この曲での歴代のアルバムほかのアートワークをフラッシュバックで見せる演出はとてもカッコよかった。曲のよさを引き立ててあまりあった。大好きな曲を最高の演出で見られて大満足だった。
いまの僕の趣味からすると、裏でレッドマーキーに出演中のキタニタツヤを観たほうがいいんじゃないかと思ったりしていたんだけれど、これ一曲でやはり見るべきはジザメリだったと思わせてくれた。やはりこの曲に代表される90年代のグルーヴはなにごとにもかえがたい。
ジザメリのあと、ずとまよまで二時間近く空いていた。これといって観たいバンドもなかったし、もう疲れ切っていたので、そこからはグリーンステージに移動して腰をおろし、RAYEというUKの黒人女性のステージを遠まきに眺めながら、ずとまよの出番を待った。
僕は知らなかったけれど、この人はグリーンステージの後半に登場するだけあって、本国ではすごい人気らしく、音楽的にも古典的なブラック・ミュージックをベースにしたパワフルな歌を聴かせていた。アリシア・キーズあたりに通じる実力派って感じ。なにより本人が楽しそうなのがよかった。昔(ずとまよと出逢う前)の僕ならば大喜びして聴いていたかもしれない。
RAYEのステージが終わったあとは、モッシュピットに移動してずとまよの開演を待った。最近はモッシュは禁止っぽいから、いまはモッシュピットとは言わないのかもしれないけれど、ほかの呼び方がわからない。ステージ前の柵で囲われたブロック。
本当に疲れ切っていたので、近くで観るのは諦めて、ステージがよく見えるあたりの芝生に座って観てしまおうかとも思ったんだけれど、モッシュピットをのぞいてみたら、入口すぐの柵のところにちょうど二人分のスペースが空いていたので、これ幸いとそこに陣取り、柵にもたれて座ったまま開演を待つことにした。近くで見られるならば、それに越したことなし。
こうやってステージ前で開演を待つ時間もフェスのよさのひとつかもなぁとその時に思った。普段は見ることのない、バンドのメンバーが自ら楽器のセッティングをしている姿が見られるのがいい。WEEKEND LOVERSでもキュウちゃんや中村さんらが自らドラムのセッティングをして、バンド仲間と軽くセッションしてみせていた。
すとまよでもお馴染みのバンドの面々が目の前で自分の楽器を調整していた。ソロ公演では開演前にバンドのメンバーを見ることってまずないので、この臨場感は貴重だなぁって思いながら開演時間を待っていた。
【ずっと真夜中でいいのに。】
|
ずっと真夜中でいいのに。のステージは19:00から。予定時間は1時間10分。とり前だけあって、他のアーティストよりちょっとだけ長めだった。待っているあいだに陽が落ちて、あたりはもう真っ暗。
ステージはオープンリールとTVドラムのソロでスタートした。ずとまよファンにとってはお馴染みの風景だけれども、知らない人にとってはなにそれなオープニングだろう。いきなり攻めの姿勢がすごい。
主役のACAねは一足遅れて、あとから登場。片手に剣みたいなものを持っていたから、いきなり『残機』をやるのかと思ったらハズレ。一曲目は『眩しいDNAだけ』で、手に持っているのは細長いノズルのついた謎の工具(掃除機?)だった。フェスでも小道具が斜め上。
二曲目が五月のツアーファイナルでは聴けなかった『お勉強しといてよ』!
で、もうまわりはすごい盛りあがり。
ずとまよのファンってライヴ慣れしてない子が多くて、ソロ公演はいまいちお行儀がよすぎる印象なのだけれども、この日は外様のオーディエンスもたくさんいたので、乗りのよさがいつもと違っているのが新鮮だった。
最初のうちはすいていたモッシュピットも、曲が進むにつれて人が増えて、途中からはびっしり満員になった。ACAねが持ち込み自粛を唱えたからしゃもじを振っている人もあまりいなかったし、確実にいつものライヴとは違う盛りあがり方をするオーディエンスに混じって、慣れ親しんだずとまよナンバーを聴くのはとても楽しかった。
でも、いかんせん疲れていて、足も痛く、アドレナリンの興奮もそのマイナスを十分に緩和してくれない。大好きなずとまよを観ながら、あぁ、俺はもう本当にフェスは無理だと、この日何度目かの思いを新たにした。
この日のセットリストでよいなと思ったのは『上辺の私自身なんだよ』。シューゲイザーっぽい音作りのゆったりとしたグルーヴは苗場に集まった一部のオーディエンスに絶対に届くはず。さすがACAね、わかってんなぁと思った。
その次に演奏された新曲――後日『海馬成長痛』というタイトルが発表された――は、いまとなるとどんな曲か記憶が定かじゃないけれど、感触的にはいつも通りのずとまよナンバーって感じだった(つまり一聴した途端に名曲と思うタイプの曲ではないけれど、不思議と繰り返し聴き返さずにはいられず、聴き返すうちに絶対に好きになってしまうこと確実なするめ曲ということ)。
あとこの日の目玉はメンバーに津軽三味線の小山豊氏がいたこと。まさか本人が参加しているとは思わなかったから、三味線を弾く人がいるのを見て、佐々木コジロー? 三味線上手いなと思っていたら、あとでコジローくんではなく、ご本家だったことを知って驚いた。
わざわざ小山氏を引っ張り出してくるあたりにも、この日のステージに対するACAねの並々ならぬ本気度が伝わってくる。小雨混じりの夜の苗場で聴く『機械油』、最高でした。
そこから先は鉄板のダンスナンバー乱れ打ち。個人的に残念なのは『ミラーチューン』が聴けなかったことくらい(あの曲の陽気なグルーヴを苗場で浴びたかった)。
ラストナンバーにシリアスな『暗く黒く』を持ってきたのに意外性はあったけれど、この辺は『本格中華』の流れを汲んでいるんだろう。その曲でのメンバー紹介もツアーの流れと同じだったし。この日は個人名ではなく楽器名だけを紹介したのも、見慣れない楽器の多いずとまよゆえ、英断ではと思った。
その曲の前の長めのMCで感涙まじりにフジロックに対する特別な思いを語ったのも感動的だった(――まぁ、たどたどしいしゃべりにシャイなキャラがあらわになっていたので、ファンでない人にどう受け取られたのかはいささか気になる)。
フェスのステージは単独ライヴの半分のボリュームしかないし、わざわざ観にいかなくてもってファンも多いと思う。僕だっていつもならばそうだ。
でもこの日のライヴに関しては、フジロックのグリーンステージということで、やはり特別感がたっぷりだった。始まる前の待ち時間から、終わったあとの余韻まで。いつもの単独ライヴでは味わえない見どころがたっぷりとあった。
これを最後に夏フェスから引退するに悔いなし――。
そう思わせるに十分なステージだった。
最後に苗場で観たのがずとまよでよかった。
【Noel Gallagher’s High Flying Birds】
|
――といいつつ、この日の最後はずとまよではなく、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ。
まぁ、前述した通り、ずとまよで疲れ切ってしまったので、このバンドは観たというより、遠くから耳を傾けていたというほうが正しい。グリーンステージの入り口あたりの芝生にへたり込んで、遠くのスクリーンに映るノエルの姿を眺めていた。
ステージはまったく見えない場所だったし、樹木が視界を遮って、スクリーンも一部が隠れていた。途中からは雨が降り始めてしまい、レインコートを着て、座り込んだまま、雨に打たれていた。
ノエルのソロもオアシスも聴き込みが甘いので、曲名がわかったのはオアシスの数曲だけ。『Whatever』や『Little By Little』を聴いて、こういうオアシス・ナンバーも遠慮なくやっちゃうんだなと感心した。
あと、本編の最後がジョイ・ディヴィジョンの『Love Will Tear Us Apart』のカバーというのも意外性があっておかしかった。なぜその曲?
あとでセットリストを確認したら、本編の途中からはその一曲をのぞいてすべてオアシス・ナンバーだった。ほんと遠慮なくてすごいな。
だってアンコールなんて『Stand By Me』と『Live Forever』と『Don't Look Back in Anger』だよ?(まぁ、最初の二曲はアコースティックセットだったけど)。オアシス・ファンだったら悶絶もんじゃなかろうか。
――いやもとい。そんなにオアシスの曲をやるくらいならば、さっさとオアシスを再結成してくれってファンのほうが多そうな気がする。
まぁ、なんにしろ、距離があって障害物も多かったので、音もいまいちで、音楽的なことはまったく語れない。ノエルを観たと語るのもおこがましいレベル。
ということで、今回のフジロックは実質的にずとまよがファイナルだった。
ノエルのステージが終わったのが午後十時半過ぎ。帰りのバスの出発は午前一時だったので、それまで二時間以上待たないと帰れない。仕方なくレッドマーキーの隣の飲食エリア――その名もオアシス――に移動して、しばらく時間をつぶした。
でもって、ちょっと早いけどもう移動しちゃおうと、そこからバス乗り場までゆこうにも、道には人があふれていて、なかなか前に進めない。徒歩で三十分くらいかかったんじゃなかろうか。なんで午前零時近くにこんなに歩かなきゃなんないんだよぉ……。
ようやくバスに乗れて、出発を待つあいだの安心感はなんともいえなかった。
いやぁ、今回のフジロックはマジつらかった。本当にほんと、夏フェスはこれが最後だ。わざわざ高い金を払ってつらい思いをするなんて馬鹿にもほどがある。
バイバイ、苗場。もう二度とこない。たぶん。
(Aug. 17, 2024)
BUMP OF CHICKEN
TOUR 2024 Sphery Rendezvous/2024年9月7日(土)/ベルーナドーム
BUMP OF CHICKENが新譜『Iris』のリリースにあわせて開始したドームツアーの初日。
場所はベルーナドームこと西武ドーム。僕がこのスタジアムでライヴを観るのは大学生のころのサザン以来――当時の最新シングルは『みんなのうた』――だから、これがじつに三十六年ぶりとかだ。当時はまだ屋根がなかったので、ドームになった西武球場でライヴを観るのはこれが初めて。
でもこのスタジアムは夏場に来るところじゃないね。
あっつ~い。密閉されてないくせに風通りが悪いので、熱気がこもってやたらと暑い。たぶんフジロックよりも汗をかいた。
帰りは帰りで唯一の帰宅手段である西武球場前駅が混みあって入場規制がかかり、ライヴ終演後に電車に乗れるまで、人ごみの中でつっ立ったまま一時間以上も待たされたし。こんな不快な思いばかりさせられるスタジアムには二度と来るもんかって思った。
さて、そんなふうに会場に対する愚痴ばかりで始まってしまったけれども、肝心のライヴ自体は文句なしだった。
新譜の曲を中心にしつつも、前回のツアー『ホームシップ衛星』から――「宇宙」というテーマつながりだから?――『飴玉の唄』『メーデー』『カルマ』などを組み込んだセットリストがとてもいい。なかでもひさしく聴けていなかった大好きな『カルマ』を、前回につづけて二回連続で聴けたのが個人的には胸熱だった。しかもアンコールの一曲目!
ステージには大きなリングが配置されていて、バンドセットはそのなかにこじんまりと収まっていた。
開演と同時にそのリングの縁が光を放ち、二曲目あたりで宙に浮かび上がる。
ステージにあるセットはそのリングのみといっていいほどシンプルなのに、それでいてやたらとドラマチックでカッコよかった。
あと、今回はステージ左右の大型スクリーンに、演奏するメンバーの姿が終始映し出されているのが印象的だった。
BUMPってあまりカメラに映りたがらないイメージがあって、前に観た東京ドームや春の『ホームシック衛星』でも、スクリーンの映像は演出のCG映像が中心ってイメージだったのだけれど(単なる僕の思い込み?)、この日は最初から藤原くんの姿がドーンとアップで映し出されていて、以降もカメラは絶えずメンバーの姿を追っていた。
美麗な映像演出もいいけれど、やっぱこうやってメンバーが演奏する姿がちゃんと見えたほうが、ライヴに来た!って気がして、気分が盛りあがるなぁって思った。
【SET LIST】
|
オープニングはニューアルバムと同じく『Sleep Walking Orchestra』で、前半戦は新譜の曲と過去曲を半々くらいにミックスした選曲。
新譜『Iris』の楽曲はどれも地味めなので、これが最高とまでの盛りあがりは特になかったけれど、なかではこの日初めて披露された『青の朔日』がよかった。Aメロはいかにも最近の曲って感じなのに、サビで言葉が前のめりに飛び跳ねるようなリズムになるところが、これぞ昔ながらの藤原節って感じでツボ。
前半最後の『飴玉の唄』のあとに「メーデー、メーデー」というSEがあって、『星の鳥』が流れるなかメンバーが花道へ移動して『メーデー』が始まる、という演出にもぐっときた。サブステージはアコースティックという印象を裏切って、この曲がふつうのバンド演奏だったのも二重丸。
つづく『レム』――タイトルを『同じドアをくぐれたら』だと勘違いしていた――では最初はアコースティックの演奏だったのに、間奏でいきなりラウドなロックサウンドになったのにびっくり(知らないうちに増川くんがアコギをエレキに持ち替えていた)。でもって最後はまたアコースティックに戻るという。選曲的にもアレンジ的にもこの日いちばんのレア曲だった。
そのあとサブステージでもう一曲『SOUVENIR』を演奏してから先、後半戦はほぼ新譜の曲のみ。例外は『天体観測』で、本編締めはその曲の次の『窓の中から』だった。BUMPってあまりコーラス合唱系の曲でラストを締める印象がなかったので、この曲を最後に持ってきたセットリストにも意外性があった。
アンコールは前述したとおり『カルマ』を聴かせてくれたあと、大ラスは『虹を待つ人』!――場内大合唱で幕となった。やっぱこの曲はライブで映える。いやはや、感動的でした。
ツアー初日ということで、今回もアンコール後のMCで藤原くんは「お見送りありがとう。いってきます!」といってステージを去っていった。
なにげに二年連続でツアーの初日を観れてる僕らって幸せ者かもしれない。
(Sep. 16, 2024)
ずっと真夜中でいいのに。
やきやきヤンキーツアー2 ~スナネコ建設の磨き仕上げ~/2024年10月9日/大宮ソニックシティ 大ホール
ずとまよのライブに定期的に足を運ぶようになって、唯一観逃したのが『やきやきヤンキーツアー』だった。
コロナ禍での開催だったので、スルーしてしまったのだけれど、あとで映像作品でその豪華なステージセットをみて、チケットを取らなかったことを後悔した。いまから振り返れば、あのツアーこそが、ずとまよのテーマパーク的なステージの出発点だった。
今回のツアーはその続編。四年たってヤンキーだったメンバーがみな職を得たという設定で、前回は荒れ果てたコンビニの風景だったステージは、就職先であるスナネコ建設という会社の工事現場へと姿を変えていた。メンバーのヘアスタイルは前回同様ヤンキー風(なのか?)だけれど、セットは工事現場だから、どちらかというと、たまありで観た『ZUTOMAYO FACTORY』に近い印象だった。
ステージ中央には高さ六メートルくらいありそうな巨大な三枚羽のサーキュレーター(扇風機?)が配置されている。回転軸の部分が丸いスクリーンになっていて、ここにさまざまな映像が映し出される一方、サーキュレーター全体にも電飾が配されていて、ずとまよのイニシャルの「Z」の文字が浮かび上がったりする。
これが今回の演出の中心だった。左手の上方にも曲名や歌詞が映し出される縦長の小さなスクリーンがあったけれど、メインは中央の扇風機。
そういう意味では映像的な演出は控えめだったけれど、なんたっていつも通りステージ全体の構造が凝っているので、地味な印象はまったくなかった。
ずとまよのライヴではACAねがどうやって登場するかも毎回見どころのひとつで、これまでも巨大蒸篭から出てきたり、自動販売機を蹴倒したり、ショーウィンドウがぐるりと回転して登場したりして、観客を沸かせていた。
今回のステージには、そういういかにもな登場ポイントが見当たらなかったので、はてどうやって出てくるのだろうと思っていたら、バンドメンバーふたりがステージ中央で暴走族っぽい大きなフラッグを広げてみせ、それをはらりと落とすとそこにACAねがいるという手品っぽい趣向だった。奈落とか使ってせり出してきたのかもしれないけれど、登場のしかたも比較程おとなしめ。
ACAねの衣装は暗くてシルエットしかわからなかった。ウエストが締まって、腰から下がふわったと広がったロングスカートで、一見お姫様っぽい、らしからぬ印象だった。なんかAdoっぽい?――とか思った。
でも後日SNSにあがった写真を見たら、へそ出しの派手派手なセーラー服で、あぁ……と納得。そうだよね。不良少女といえばロングスカートのセーラー服だわ。
バンドはドラムよっち&神谷、ベース二家本、ギター菰口、キーボード岸田、オープンリール吉田兄弟に、ホーン二名という編成――だったはず。個人名を特定できるメンバー紹介がなかったので、もしかしたら間違っているかもしれない。みなさん金髪をつんつん立てた似非ヤンキースタイルだった。
【SET LIST】
|
オープニングは『JK BOMBER』で、そこからの四曲はワンコーラスのみのメドレー。なかではひさびさの『ヒューマノイド』がいちばんの歓声を浴びていた。
この日の個人的なお気に入りポイントはその次に演奏された『馴れ合いサーブ』。ツーコーラス目にチャック・ベリー伝来のギターリフをフィーチャーした8ビートのロックンロール・アレンジが施されていて、おーっと思った。まさかずとまよのライヴで伝統のあのフレーズを聴くとは思わなかった。胸熱でした。
序盤はそのあとに『残機』『秒針を噛む』とつづくのだから、ほんと惜しみないにもほどがある。『秒針』での掛け合いは、五月のアリーナと同じく、序盤がしゃもじのクラップで、後半から合唱というスタイルだった。
今回のツアーはミニアルバム『虚仮の一念海馬に託す』のリリース前にスタートしているので、収録曲六曲のうち、未発表の二曲はどうするのか気になっていたのだけれど、結論からいえばその二曲を含めて、アルバム収録曲はすべて聴かせてもらえた。
そのうち最初に演奏されたのが、コンサートの中盤で「クズリという動物が気になっていて……」みたいなMCでの紹介で始まった『クズリ念』。ミニアルバムのトレーラーで使われている「孤独じゃなきゃ眠れない」という歌詞が――とくに「眠れない」を二度繰り返すところが――とても印象的で、脳裏にこびりついていた曲だったので、ようやくちゃんと聴けて嬉しかった。
その次の『Blues in the Closet』は日替わり三曲の即興アレンジコーナーで披露された。つまり今回のツアーで新譜の全曲を聴けるかどうかは時の運らしい。三曲のどれを演奏するかは、前回のような観客の多数決ではなく、ライフルみたいなやつでくす玉みたいなのを撃って決める企画だったので、演奏されない日もある模様。
この日の即興アレンジは「引きこもりで反抗期の息子が父親とともに船旅に出て、アフリカにたどり着いて、当地のリズムに煽られて踊りだす」みたいなやつ。ACAねのお気に入りだというオープンリールのふたりの寸劇がフィーチャーされていて失笑を買った。
その次がフジロックで初披露された『海馬成長痛』だから、ここは新曲三連発だったわけだ(気づいてなかった)。
つづく『彷徨い酔い温度』はいつものゆったりとした音頭調ではなく、サビの部分で突然スピードアップして、観客にしゃもじをぶんぶん振らせたり、また遅くなったりを繰り返す緩急自在なイレギュラー版。RADWIMPSのライブでの『おしゃかしゃま』に通じるものがあった。『馴れ合いサーブ』と並んで、ライブならではの個性を感じさせた一曲。
ライヴ終盤は『お勉強しといてよ』から始まり、新曲『TAIDADA』、『あいつら全員同窓会』、『勘冴えて悔しいわ』、『ミラーチューン』というダンスチューン連発の怒涛の展開でエンディングへ。
『ダンダダン』のエンディング曲の『TAIDADA』では、斜め前の女の子の動きがなんとなくあのアニメのターボババア(招き猫)っぽかったのが可愛かった。
でも、なんといってもこの日の個人的なクライマックスは、このパートで演奏された『勘冴えて悔しいわ』。五年前に初めてZepp Tokyoでこの曲を聴いて以来、二度目となるフル・バージョン! ようやくいままで省略されてきた二番が聴けて、思わずガッツポーズが出た。
アンコール一曲目の『虚仮にしてくれ』は、トレーラーのイントロ部分がこの曲だったのか!――という驚きこそあれ、どういう曲だったか、いまいち記憶にない。ずとまよには珍しくさわやかな印象の曲だなと思った。
つづく『嘘じゃない』で新譜をコンプリートして、最後は『正義』!――で終わりかと思ったら、違った。そのあとに『勘ぐれい』の「スナネコ建設エンディングバージョン」(タイトルは違う可能性大)があって幕。
なんで『勘ぐれい』がスナネコ建設のテーマ曲に選ばれているのかはまったくわからないけれど、今回も間違いなく楽しい二時間強でした。
(Oct. 24, 2024)
宮本浩次
ソロ活動5周年記念ツアー 今、俺の行きたい場所/2024年11月1日(金)/大宮ソニックシティ 大ホール
先月のずとまよにつづき、二ヵ月連続で大宮へライヴを観にいった。
この日は宮本浩次。会場は同じ大宮ソニックシティ。
つまり僕にとっての新旧の最重要アーティストを、二ヵ月つづけて同じホールで観るという珍しい体験だったわけだ。
おかげで両者のスタンスの違いが如実だった。
豪華ステージセットに、総勢十名の大所帯バンドを擁したずとまよに対して、宮本はいつもの五人編成で、これといったステージセットなし。演出は映像だけというシンプルさ。
まぁ、シンプルなのは結構だけれど、それでチケットが一万二千円(ずとまよの1.5倍!)というのは、いささかコスパが悪すぎるのでは。ホントこのところのコンサート・チケットの高騰っぷりときたら……。
これがまだエレカシだったら、ご祝儀気分で気持ちよく出せるんだけれども、宮本のソロはいかんせん聴きたい曲が少なくて、胸が高鳴らない。
今回のツアーは『今、俺の行きたい場所』と題して、宮本が行ってみたい場所を回るという企画で、ツアーの初日が北区王子の北とぴあだったから、最初はそちらの抽選に申し込んだのだけれど、宮本の地元凱旋公演ということで、当然人気が高くて落選。だったら無理して東京で観なくてもいいかと思って諦め、二度目の抽選はこの日の大宮に申し込んで、なんとかチケットをゲットした。
まぁ、文句をいいながら高い金を払って観にゆくくらいならば、いっそ見送ってしまったほうがいいんじゃないかって気がしなくもないんだけれど、でもかれこれ三十五年のつきあいだしなぁ……。そう思うと、そうそう無碍にもできない。
ということで、そこそこのチケット争奪戦を勝ち抜け、高いチケット代を払って観てきた宮本のソロツアー。場所は若き日に出演したというライヴハウス、大宮フリークスのあった大宮。
――いやしかし。行きたい場所へ行くのならば――しかもそれが若いころの思い出の土地ならば、なおさら長年の相棒である石くんたちといってくれたらいいのに……と思わずにいられない。いま一緒に旅をしたいのは小林さんたちってことなのか……。
さて、この日のバンドはメンバーがちょっとだけ過去と違った。小林武史、名越由貴夫のお二人はいつも通りながら、ベースが須藤優で、ドラムが椎野恭一という人。帽子をかぶった、ちょっと猫背気味の姿を見て、あ、きょうのドラマーは玉田豊夢じゃないんだと思った。
椎野さん、僕は存じ上げなかったけれど、山下久美子や布袋寅泰のバックを務めたりした六十四歳のベテラン・ドラマーとのことで、なるほど、玉田豊夢よりもタイトなロックンロールって感じのビート感だった。
【SET LIST】
|
ライヴは『きみに会いたい -Dance with you-』でスタート。いつもとアレンジが違っていた気がするけれど、すでに記憶がさだかでない。
主役の宮本は全身黒ずくめ。光沢のあるサテンのシャツのうえにコートを着て、中折れ帽をかぶっていた。
この日の宮本はその後に二度もお色直しをしていた。第二部では黒シャツに上下白のスーツ。でもって第三部――というか四曲だけだったのでアンコール?――では黒スーツに白シャツにネクタイという、定番スタイルに戻った。
選曲はオリジナルとカバー曲をバランスよく並べた、宮本ソロの集大成的なもの。半年前のバースデーコンサートではエレカシ・ナンバーが多かったけれど、この日はエレカシ控えめ、カバー曲多めだったこともあり、どちらかというと第二回『ロマンスの夜』の再演のようなイメージだった。
この一年はリリースがほとんどなくて、今回のツアーはなにをやるのかいまいちよくわからなかったこともあり、開演前にうちの奥さんから「きょうはロマンスの夜じゃないよね?」といわれて、「そんなわけないだろー」とか答えていたんだけれど、開けてみたら『ロマンスの夜』にきわめて近い印象だったという……。
そんなこの日のライヴで最初におー、と思ったのは、五曲目の『rain -愛だけを信じて-』(サブタイトルがこそばゆい)。
前回のぴあアリーナでは口パクを披露して「なんで?」と思わせたこの曲。この日もサビのボーカルが録音だったのだけれど、今回は宮本が自分のその声にあわせて、ファルセットや一音下の地声でコーラスを被せているのを聴いて、あぁそうなのかと思った。あれは主旋律を録音で聴かせて、コーラス部分を生で歌うという、へんてこりんなチャレンジが失敗した結果だったわけだ。なるほど、よくわかった。気分すっきり。
あと、なにげによかったのは、短めの第一部のラストが『P.S. I love you』だったこと。正直あまり愛着がない曲なので、後半の盛りあがりどころで歌われるより、序盤でさっさと歌ってくれたほうが嬉しい。――って、いささかひどい言いようだな。
まぁ、エレカシ・ファンである自分にとって、宮本ソロのいちばんの問題は、長いこと愛聴してきた膨大なエレカシ・ナンバーのライブラリーをそっちのけにして、最近の曲や好きでもない歌謡曲を聴かされてしまうことなので、エレカシを四曲のみに絞ったこの日の選曲は、いかんせん盛りあがりを欠くきらいが否めなかった。
そういやこの日の宮本は、ギターをほとんど弾かないにもかかわらず、歌うためだけにマイクスタンドを多用していたので、それが歌謡曲の多さとあいまって、なおいっそう歌謡ショーっぽい雰囲気を強めていた。
そんな中、いちばん盛りあがったのが本編の終わりのほうで演奏された、三年ぶりの『Do you remember?』。
歌謡曲多めのセットリストの中、終盤に演奏されたこの爆裂パンクナンバーは燦然と輝いていた。宮本が自らの限界に挑むようなボーカルも、その苦しげなところがむちゃくちゃ切実でカッコよかった。この曲が聴けただけでもこの日のライヴに足を運んだ甲斐があると思った。
この曲では小林さんが引っ込み、バックがギター・ベース・ドラムの三点セットになっていた。過去にも二度聴いているはずなのだけれど、じつはいままでもそうだったのかな?(だとしたら気がつかなかった) いずれにせよ、宮本の歌はこういう純然たるギターサウンドに乗っているのがいちばん好きだなぁと思いました。
小林さんといえば、この日は少なめだったMCのひとつで宮本が「小林さんはこのホールは初めてで」という話をしたときに、「このあいだの王子もすぐ近くだよね」みたいな会話があって、言外に(なんでこんな近くのマイナーな会場でつづけてライヴをやるんだか理解できない)という大御所・小林武史氏の心の声が聞こえてきそうでおかしかった。
今年唯一の新曲にしてこの日の目玉(といいつつ僕がすっかりその存在を忘れていた)『close your eyes』は第三部の一曲目に披露された。
この日、宮本が唯一ギター(アコギ)を弾いたのがこの曲で、弾き始めてワンフレーズくらいですぐに弾くのをやめたのに、その後もアコギの音が聴こえるから何事かと思ったら、名越さんが一緒にアコギ(のエフェクトをかけたエレキ?)を弾いていた。
宮本、それしか弾かないのならば、最初からギターなんか持たなければいいのにって思ってしまいました。ギターなしで歌手に専念したほうがよくない?
まぁなんにしろ、生で聴くこの新曲はなかなかよかったし、そこからマージ―ビートの『十六夜の月』を挟んで『ハレルヤ』(この日も安定のカッコよさ)、そして『冬の花』で締めという第三部(or 一回目アンコール)の展開も意外性があってよかった。
でもって、「ソロ活動5周年記念」をうたっているので、今回もラストはデビュー曲の『冬の花』だろうと思っていたから、ここで終わりではなく、もう一曲ダブル・アンコールがあったのが、この日最大のサプライズ。
え、このあとにいったいなにをやるのさ?――と思っていたら、再登場した宮本が最後に聴かせてくれたのが『夜明けのうた』だった。
あ~、これがあったか!
「ああ わたしも出掛けよう わたしの好きな町へ/会いにゆこう わたしの好きな人に」と歌うこの曲は、まさに今回のツアーのテーマ曲みたいなもんじゃん!
この歌を最後の最後に持ってきて、朝日の昇る映像とともにライヴを終えてみせたことに、僕はむちゃくちゃ感銘を受けた。
映像つきのアンコールって、エレカシ史上初では? こんなスタイリッシュな終わり方をする宮本浩次のライヴは初めてみた。
さんざん文句を言っていた男を、最後にはちゃんとこんな風に感動させてくれちゃうんだから、やっぱ宮本ってすごいよねって。今回もそう思いましたとさ。
(Nov. 13, 2024)