2022年のコンサート
Index
- エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Jan 12, 2022)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ J:COMホール八王子 (Jan 21, 2022)
- 宮本浩次 @ 東京国際フォーラム・ホールA (Feb 14, 2022)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ さいたまスーパーアリーナ (Apr 16, 2022)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ さいたまスーパーアリーナ (Apr 17, 2022)
- 宮本浩次 @ 国立代々木競技場 第一体育館 (Jun 12, 2022)
- SONICMANIA @ 幕張メッセ (Aug 19, 2022)
- エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂 (Sep 25, 2022)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ 川口総合文化センター・リリア (Nov 10, 2022)
- ずっと真夜中でいいのに。 @ 東京ガーデンシアター (Dec 21, 2022)
エレファントカシマシ
新春ライブ2022/2022年1月12日(水)/日本武道館
二年ぶりにエレファントカシマシを生で観た! それも日本武道館で!
宮本浩次の全国四十七都道府県ツアーが年をまたいで絶賛開催中なので、次にエレカシが観られるのはそれが終わったあとだろうと思っていたのに、まさかこのタイミングで武道館をぶっこんでくるとは! しかもちゃんとチケットも取れた!
僕らの席は一階席(東G列)だったけれど、ステージのうしろの席まで客を入れて三百六十度を解放したこの日のステージ構成を考えると、決して悪い席ではなかった。ゲストの金原さんカルテットの姿もちゃんと確認できたし、その点ではかえってアリーナよりもよかったのではと思う。
時は新型コロナウィルスのオミクロン株が猛威を振るい始め、第六波突入が叫ばれ始めた直後だ。もうちょっと遅かったら中止の憂き目もあったかもしれないから、このタイミングでエレカシのライヴが観られたのは本当に幸運なことだった。
しかも今回はセットリストがふるっていた。こと武道館ライブということでいうと(個人的な意見としては)過去最高の内容だった。
エレカシの武道館はいつだって気合が入ったセットリストになるのが常だけれども、今回はその気合のベクトルがこれまでとはまったく違っていた。
――というのも、おそらくは去年、恒例の野音が行えなかったから。
三十二年の長きに渡って毎年夏から秋にかけて必ず立ってきた野音のステージに、エレカシは去年ついに立てずに終わってしまった。ファンである僕らでさえも無念なんだから、メンバーにとってはなおさらだったろう。
今回の武道館にはその無念がたっぷりと込められていたように思う。なんたって第一部はいつもならば野音でやっていることをそのまま武道館で再現したような内容だったから。そして本来ならば野音のレベルでやるべきことをだだっ広い武道館でやってみせたことが、この日のライヴをひとしお特別なものにしていた。
その特別さはもう一曲目の『うつらうつら』の時点で明らかだった。
だってふつうないでしょう、武道館であんなに薄暗いステージ?
大型モニターもなにもなし。三百六十度全席観客を入れているので、ステージうしろのスクリーンなどもなし。演出はただライティングのみ。しかも『うつらうつら』ではそのライティングも最小限という薄暗さ。なんなんだこのアングラ感は。
暗くてステージ上の宮本がなにやってんだかよくわからないという意味ではソロ公演の『夜明けのうた』に近いものがあったけれども、でもここではその空気感がまるで別物(二曲目が『奴隷天国』って時点でさらに雲泥の差)。宮本のソロが素敵な歌謡ショー的なものだとするならば、こちらはまるで昭和の場末のアングラ劇場のよう。これがライヴ初体験だって人はどう思ったことやら――って、他人事ながらちょっと心配になってしまうレベルだった。
でもこのアングラな感じって、エレカシが初めての武道館を三千席限定でやったときのそれと極めて近いものだった気がする。あのときはスタンドすべての空席がものすごい違和感を醸し出していたけれど、今回は反対に満員の客席がなんともいえない違和感を生み出していた。この人数が見守る中でこれをやる?――という。
後半のMCで宮本が「初めて観る人にも私たちの歴史を伝えたいと思った」みたいなことをいっていたけれど、今回は演出を最低限にすることで「あの頃のエレカシ」をみごとに再現していた気がする。少なくても三十三年前からエレカシを観てきた僕らにとってはこれぞ「#俺たちの宮本」ってステージだった。東西南北すべての席を埋めつくした観客が見下ろす武道館で、孤高の演奏を繰り広げるエレファントカシマシのパフォーマンスには、ここでしか見られない唯一無二の存在感があった。
なにはともあれ、序盤はとにかく見事なまでに「エレカシ創世記」からのセレクションで、最初の十曲のうち、ストリングスがついた『昔の侍』以外はすべてがエピック時代の曲だった。ひさしぶりに石くんのギターだけで演奏された『デーデ』とややゆっくりめの『星の砂』がつづけて演奏されたところなんかは本当に懐かしーって思った(初期はこの二曲がメドレー的に演奏されるのが定番だったので)。
ただ、すべてが昔どおりだったかというと、決してそうではないところが味噌だ。『いつものとおり』や『浮雲男』はリアルタイムではほとんど聴いた記憶がないから。そういう昔ならばレアだった曲がなにげなく含まれているところに、「あの頃」をいまの視線で振り返っているからこそって新鮮さがあった。
第一部の後半は「新しい曲」だと紹介された『風』(十八年前の曲なのに)から、がらりと印象を変えて、これぞいま現在のエレカシって演奏がつづく。『シグナル』『生命賛歌』(どちらもひさしぶりに聴けて嬉しかった!)とEMI時代の名曲を挟んだあと、『悲しみの果て』を聴かせ、ラストはエレカシ史上もっとも現在進行形な曲(だと僕が思っている)『旅立ちの朝』のアウトロでのハウリングが途切れた途端に、間髪入れずに『RAINBOW』をぶっ込んでくるという怒涛の展開で締め。これが最高でなくてなにが最高だって第一部だった。
【SET LIST】
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エレカシのライブが二部構成になってひさしいので、昨今は観るほうもそれをわきまえていて、第二部が始まるまでは座って静かに待つってのがすっかり定番化していたけれど、この日は宮本のソロ同様、第一部と第二部のあいだにアンコールを望む手拍子が湧きあがっていた。曲の終わりの拍手も早めに入るし、そういう観客のリアクションの変化にも、本当に新しいファンが増えたんだなってことを実感した。宮本のソロでも思ったことだけれど、僕はそういう新しいファンの人たちの素直なリアクションがけっこう好きだ。なんか初々しくていいなぁって思う。
第二部では一曲目の『ズレてる方がいい』から『so many people』までの九曲、金原千恵子さん率いる弦楽四重奏が出ずっぱりで、セットリストもそれにふさわしい華やかな選曲になっていた。途中に弦のつかない『ガストロンジャー』を挟みはしたけれど、その間も金原さんたちはステージにいた(観客と一緒になってノリノリだった)。
第一部の唯我独尊な世界観から一転、ここからはエレカシが売れた理由を証明するかのような多様でポップな楽曲をおおらかに響かせた。いまとなるとこの路線こそがエレカシの王道って思う人も多いのかもしれない(僕個人は第一部こそが至高ってファンだけれど)。ラストはバンドのメンバー六人だけで『四月の風』から『ファイティングマン』という流れだった。
そうそう、大事なことを書き忘れていた。この日のサポートは金原千恵子弦楽四重奏のほか、キーボードが細海魚さんで(『風』のオルガンが最高に染みた~)、そしてギターがなんとヒラマミキオだった!
お~、ミッキー復活~!!!! これが今回の武道館をさらに特別なものにしたいちばんのサプライズだった。
――とかいいつつ、かくいう僕は遠目に見たその人がミッキーであることに紹介されるまで気がつきませんでした。お粗末。
正確にいうと、質素なトレーナー姿でうしろ髪をちょんまげに結ったその姿を見て「もしや?」とは思ったんだけれど、僕らの席からだと顔まではわからなかったし、以前よりちょっぴりふっくらとしていたことや、ギターを弾く動作が意外とオーバーアクションだったことで「きっと別人だ」と思ってしまったんだった。最初からミッキーだと確信できていたら、もっともっと感動できたのに……。宮本にはさっさとメンバー紹介して欲しかったぜ(メンバー紹介は第二部の途中)。
まぁ、ミッキーの復帰は宮本にとっても特別だったんだろう。メンバー紹介では「帰ってきてくれました!」と紹介していたし、第二部の最後にはミッキーとだけ握手して帰っていった(魚さんは?――と思った)。
今回はそんな信頼すべきミッキーの存在や、ソロ活動で小林武史に「宮本くんギター下手だね」といわれたという影響もあってか、宮本はあまりギターを弾かなかった。で、その結果、曲のあたまで間違えてやり直すというエレカシのライヴではおなじみの風景が一度もなかった。最後の方で歌い出しに失敗した曲がひとつあった気がするけれど(どの曲か忘れた)、少なくても演奏しなおしはゼロ。演奏でミスらないエレカシってなにげに貴重だと思った。
オーラスのアンコールはたった一曲だけ。定番の真っ赤なライト一色に染め上げられた、いつも通り宮本の爆発的なボーカル・パフォーマンスが圧巻の『待つ男』!
いやぁ、これがまた冒頭の『うつらうつら』と双璧をなすアングラさですごかった。あの広さにあの薄暗い真っ赤なライティングはある意味猟奇的。まるで江戸川乱歩の世界。令和のこの時代になんてもの見せてくれるんだか。
その曲が終わったあと、宮本は挨拶もせず、振り向きもせずにステージをあとにした。全体的にMCも少なかったし、ソロでの愛想のよさとのギャップがすごい。なんでエレカシだとこうなの?――って思わずにいられない。まぁ、宮本の場合、その二面性もまた愛嬌って気がしなくもないけれど。
この日のライヴでなにより感銘を受けたのは、ただただそこには音楽しかなかったこと。派手な演出ひとつなしに、単に遠く離れたステージで十人編成のバンドが演奏して、ひとりのボーカリストがのたくりながら歌を歌っている。それだけでどんなに豪華な演出を施したライヴにも劣らぬ感動を与えてくれるのがすごい。これが最高でなければなんだろう?
やっぱエレファントカシマシは――昔からの仲間たちと一緒の宮本浩次は――特別だってことを満員の武道館で知らしめた素晴らしき新春の一夜だった。
(Jan. 16, 2022)
ずっと真夜中でいいのに。
果羅火羅武~TOUR/2022年1月21日(金)/J:COMホール八王子
ずっと真夜中でいいのに。のライブを八王子で観た。
今回のツアーは「果羅火羅武~」(からからぶ~)という謎のキーワードのもと、ビジュアルは中華系のコンセプトで異国情緒を醸し出したもの。どうやら中国語圏の架空の国という設定らしい。
ステージ背景には上海か香港のようなネオンサインがあしらってあり、ブラーのドキュメンタリー『ニュー・ワールド・タワーズ』のビジュアルみたいだった(デーモンがうしろ姿で移っているやつ。僕はあれが大のお気に入り)。
右手の村☆ジュンのうしろにはピンボール――かと思ったらアーケード・ゲーム機だった――が二台配置されて、ゲームセンターぽくなっていた。左手にはアパートみたいなのがあり、オープニングではその窓が開いてトランペットとトロンボーンの管楽器奏者ふたりが登場。ホーンのソロ演奏を聴かせるという趣向。
この日のゲストはこのホーン奏者ふたり(メンバー紹介がなかったので名前は不明)と津軽三味線の小山豊さんだった。
しばらく前にギターの佐々木"コジロー"貴之くんが三味線をマスターしたというようなことを言っていたので、今回のツアーでは彼が三味線を弾くのかと思っていたら、今回も小山氏が参加していた。初登場は『居眠り遠征隊』で、そこからの三曲(か四曲)と、あとは後半戦の何曲かという感じ(集中力散漫で正確なところがはっきりせず)。
ちなみに今回はメンバーが全員やきやきヤンキーツアーに近いファンキーな髪形をしていて、小山さんも頭のてっぺんで髪をまとめたちょんまげスタイルだったので、幕張のときとイメージが違いすぎて、最初はその人だとわからなかった。世の中には三味線うまい人がたくさんいるなぁと思ったら、前回と同じ人だったという。
今回はゲストがその三人だけというのがポイントだった。珍しくオープン・リール・アンサンブルが不在だったので、彼らのもたらす浮遊感がないところにホーンが加わることにより、これまでよりファンキーな音作りになっていた気がする。ドラマーの人もなかなかパワフルだった。
話がやや飛んでしまった。オープニングに話を戻すと、ホーンの導入部のあと、ステージ中央に配された高さ三メートル以上の山型のお立ち台(?)のてっぺんに置いてあった巨大な
オープニング・ナンバーが『こんなこと騒動』だったのは、歌詞に「中華街」というツアーコンセプトにつながるキーワードが出てくるからなんだろうけれど、この曲がなんと今回は『低血ボルト』と『勘冴えて悔しいわ』とメドレーになっていた。一発目からメドレーかいっ。なぜにそんなにメドレーが好きなんだ。正直どの曲もフルコーラス聴かせてもらえがほうが嬉しいんですけど。頼むよ~。
まぁ、ライブのハイライトを飾ってもおかしくないそれらの楽曲をオープニングにメドレーで演奏してしまうところがすごいっちゃぁすごい。そのあとの『お勉強しといてよ』や『MILABO』もそう。序盤から選曲が惜しみなさすぎる。
ステージ中央にはまんまるな満月のようなものがあって、これがなにかと思ったら、大きな太極図(陰陽勾玉巴?)だった。なるほど、ここも中華風。でもこの太極図はカラフルに光ることもあって、見た目の印象はやはり満月のようだった。
そんな真んまるお月様のような太極図の前にスレンダーなACAねのシルエットが浮かび上がる(脚ほっそ)。いやぁ、このビジュアルが映えること映えること。この日のACAねは腰までとどくツインテールのウィッグをつけていたので、その姿はまるで初音ミクのよう。美少女アニメ好きなオタク青年たち垂涎。僕らの席は一階のステージ真正面だったので、そんなACAねの姿がどーんと視野に飛び込んできて最高だった。――まぁ、とはいえ全編シルエットだけで、どんな色の服を着ているかもわかりませんでしたが(あとでツイッターで胴回りに派手な刺繍が施してあるのを知ってびっくりした)。
【SET LIST】
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この日の演出面でもっとも印象的だったのは、『ばかじゃないのに』が始まる前に観客を座らせて、その曲を照明を落とした真っ暗なステージで、ピアノだけのアレンジでワンコーラス聴かせたところ。この時はステージ前方に飾ってあった蔓草の装飾が下がってきて、ステージがまるでシネスコ・サイズの映画のスクリーンみたいになったのも格好よかった。
そのひとつ前の『雲丹と栗』ではACAねが蒸籠のところでマリンバ(それともヴィブラフォン?)を弾いていたと思うのだけれど、なにぜステージが全体的に暗いのでよくわからず。前の週にエレカシを観たときには「こんな暗いステージで演奏するのエレカシくらいだろう」と思ったけれど、もしかしたらトータルではずとまよのほうが暗かったかもしれない。まぁ、なんたって「ずっと真夜中でいいのに」ですからね。暗いのも当然。
本編ラストの『あいつら全員同窓会』では、サビの最後でACAねが身体をくねくねっとさせてから飛び上がって、観客全員をジャンプするよう促していたのがおもしろかった(ACAねは「観客をジャンプさせる」を覚えた)。この先はこの曲がライヴのクライマックスのひとつとして定番になるんだろうなと思った。
そのほか、『眩しいDNAだけ』ではアパートの窓から空気砲が打たれ、『マリンブルーの庭園』ではACAねが扇風機でソロを奏で、アンコールの『サターン』では演奏やめてのディスコ・パートがあって、『脳裏上のクラッカー』ではメンバー各自のソロのパートがあってと。そういうのはだいたいいつもの定番って感じ――って、まだ三回しか観たことないのになにがいつもだって話だ。
そういやアンコールで出てきたACAねはツアーグッズのうにぐりブランケットをまとっていた(よく見えなかったけど形でわかった)。本編よりもアンコールで厚着になる人も珍しいから、暑くないのかなって思ったら、やはり暑かったらしく。一曲目の『秒針を噛む』が終わったあとで「ぽかぽかです」っていってた。綾波レイかいっ。
つづく『サターン』で蒸籠の山の頂上で演奏するACAねの姿は、まるで紅白歌合戦の小林幸子のようだった。ラストの『脳裏上のクラッカー』のソロ・パートで、ACAねが扇風機でもって、その曲のフレーズを弾いていたのもなにげに感動した。扇風機、ちゃんと楽器じゃーん。
そうそう、『脳裏上』ではソロ・パート明けのブレイクを挟んだあとのACAねのハイトーンがすごかった。歌が上手いとは思っていたけれど、そこまで出るのかよってびっくりするくらいの大声量。
作詞・作曲で唯一無二って個性を発揮していながら、ボーカリストとしても並々ならぬ才能を持っている。――おいおい、どこまで最強なんだ。
ライブでの演出もステージのみならず会場のすみずみまで――それこそ物販のレイアウトまで含めて遊び心満載だし。
いま現在の日本において――いや、世界中を探したって、ずとまよよりもおもしろいバンドはなかなかなかろうと思います。
さて、次は四月にさいたまスーパーアリーナ2デイズだっ。
(Jan. 23, 2022)
宮本浩次
TOUR 2021~2022 日本全国縦横無尽/2022年2月14日(月)/東京国際フォーラム・ホールA
宮本浩次がソロ・ツアーで全国四十七都道府県をまわると発表したときには少なからず驚いた。まさかそこまで本腰を入れてソロ活動に専念するとは思っていなかった。
しかもバンドは小林武史、名越由貴夫、玉田豊夢、キタダマキというメンバーで固定だという。エレカシの三十周年ツアーで四十七都道府県をまわったときには、少なくてもキーボードは途中で替わっていたので、今回は全公演同一メンバーというのがある意味いちばんのサプライズだった。
だってみなさん売れっ子ミュージシャンでしょう? 当然ほかの仕事だってあるだろうに(蹴鞠ちゃんこと玉田豊夢はレキシのレコーディングとか)。
ましてやバンマスは小林武史だよ?
よもや宮本がそんな偉大な先輩とともに日本全国津々浦々を駆け巡る日がこようとは夢にも思わなかった。まぁ、それだけ宮本が高い評価を受けているということなんだろうけど。いやはや、愛されてんねぇ。幸せそうでなにより。
ということで、去年の10月下から始まった『日本全国縦横無尽』ツアーの東京公演二日目を東京国際フォーラムで観た。皮切りの埼玉・川口から数えて、この日が通算22回目とのこと(多分)。時はバレンタイン・デー当日(あまり関係ない)。
【SET LIST】
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宮本といえば、前月に観たエレカシ新春ライヴでのパフォーマンスの記憶が新しいので、今回はエレカシとソロだとどう違うのかというのにも注目していた。
去年観た宮本バースデイ・ライヴはエレカシとはずいぶん印象が違っていたし、今回は比較対象が直近なこともあり、なおさらその違いを鮮明に感じるのではないかと思った。
ところがね。これが意外や意外、今回はそこまで極端な差は感じなかった。
いや、もちろんバンドの力量の差は歴然だし、ほぼ全編にわたって映像演出が施されているために、コンサートとしての印象はまったく違うんだけれど。
こと宮本浩次という人・個人のたちふるまいという点においては、去年のときよりもずいぶんとエレカシに近い感じになっていた。
やはりツアーでここまで二十公演以上を一緒に過ごしてきた影響が大きいんだろう。去年よりバンドに対する気兼ねや遠慮がなくなって、より自然体になった感じ。
三曲目の『stranger』での真っ赤なライトの使い方とか、ハードな曲調もあいまって否応なくエレカシを思い出させたし、その次の『異邦人』のアウトロで「イホウジン!!」と絶叫するあたりのアドリブとか、これぞ宮本って感じだった。
『君に会いたい』で「踊れ、おどれ、オ、ド、レ!」と観客を煽る姿は『奴隷天国』を彷彿とさせた。あれはたぶん観客に向かって「なに踊ってんだよ?」とすごんだという若かりし日の自分を意識してんだよね? いわばセルフ・パロディ?
先月の武道館での宮本はぶっきらぼうすぎて、新しいファンの人には嫌がる人もいそうだったけれど、この日はそんなふうに適度に乱暴なところがありつつも、ちゃんとファンサービスに徹していて、楽しみながらも自由にふるまっている感じが伝わってきて好印象だった。
ライブ本編は去年の単独公演をベースに若干アレンジを加えたもの。
オープニングこそ『光の世界』だったけれど、二曲目の『夜明けのうた』は真っ暗なステージで宮本がランタンを灯して夜明けをイメージさせる演出がそのままだったし、『きみに会いたい』での映像をまじえた小林さんとのかけあいとか、『shaning』でのザ・フーのロゴに宮本のシルエットをあしらったような――カッコつけてんだか笑わせようとしているんだかわからない――映像演出とか、『獣ゆく細道』での宮本のお色直しとか。そういうディテールはそのままだった。
今回はアルバム『縦横無尽』のお披露目ツアーだから、僕は勝手にぜんぜん違う内容になるものと思いこんでいたので、その点はやや拍子抜け。
でも考えてみれば、去年のライヴも『縦横無尽』と銘打っていたんでしたっけね。今回はあれの全国拡大版だったわけだ。うちの奥さんは最初からそのつもりいたらしいので、そうだと思っていなかった僕がばかだった。
でも今回のライヴでもっともエレカシとの違いを感じたのはこの部分だった。前回と同じような内容にものたりなさをおぼえた点。
エレカシだと同じライヴをつづけて観てからといって、つまらないと思った記憶がほとんどない(少なくても初期のころはともかく最近は)。何度も書いている気がするけれど、演奏力の不安定さゆえに、同じセットリストで演奏しても、毎回まったく同じにはならないから。いつ観てもどこかに破綻があるので、なんとなくはらはらした気分でいられる。それゆえに飽きがこない。いつでも新鮮。鮮度ばつぐん。
それに対して今度のバンドは演奏力が高くて安定感たっぷりなので、毎回おなじ精度の音楽を聴かせてくれる。演奏自体は素晴らしいんだけれど、わるい言い方をすれば代り映えがしない。楽曲も宮本のソロ曲は歌謡曲よりの曲が多いし、『ROMANCE』からの流れで今回も昭和歌謡のカバーが何曲か含まれている。
そんなセットリストを前回と同じ演出で見せられるとですね、あぁ、これは去年観たなって気分になって、残念ながら初めてのときほどには楽しめない。
エレカシ宮本のステージを観てそんな風に思ったことってこれまでほとんどなかったので――単に忘れているだけかもしれないけれど――そんな自分の感じ方の違いにエレカシとの違いをそこはかとなく感じた。
あと、オープニングの『光の世界』で宮本だけがスポットライトを浴びて、あとの人は暗い中で演奏しているところとか。そういうのがその後もけっこうあった。弾き語りならばともかく、バンド演奏のときに宮本だけがクローズアップされることってエレカシではあまりない印象なので――それこそ小林さんさえバッグバンドの一員という扱いであることに――あぁ、これは本当に宮本のソロ・コンサートなんだなぁと思った。
今回の僕らは席は一階席のうしろのほうで、ステージこそ近くなかったけれど、真正面だったので、スクリーンをつかった映像演出が隅々までつぶさに見えたのがとてもよかった。なかでも去年の白スーツから装いを改め、この日は黒スーツに赤シャツといういでたちで再登場した『獣ゆく細道』から『ロマンス』、『冬の花』への流れが絶品でした。宮本流・歌謡ショーの真骨頂って感じ。
とくにジャケットを脱いで真っ赤なシャツをはだけさせ、赤いライトをあびて花びら舞い散る下で歌った『冬の花』のパフォーマンスは最高に映えた。あまり好きな曲ではないんだけれど、この日に限ってはこの曲での宮本がもっとも格好よかった。
前回は本編のとりを飾った『sha・la・la・la』を今回は第一部のクライマックス――ラストの『浮世小路のblues』のひとつまえ――に持ってきたのにもグッときた。第一部でいちばん気分が盛り上がったのはこの曲と『獣ゆく細道』。
とはいえ、無駄に豪華な演出が笑えた『解き放て、我らが新時代』や、圧巻だった『Do you remeber』が今回はカットされているので、そのぶん去年より若干グレードダウンした感が否めなかった。――正直なところ、こと第一部に関しては。
印象が激変したのは第二部の後半だ。
『ガストロンジャー』などのエレカシ・ナンバーをつづけて聴かせたあたりは第一部のつづきって感じだったのだけれど、後半に入って『この道の先で』『十六夜の月』『rain -愛だけを信じて-』をつづけて演奏し、最後にシングルの『P.S. I love you』で締めてみせたエンディング、これがすごかった。
新譜のタイトル『縦横無尽』を名乗っているわりには、なまじそこまで新譜の曲が散発的で印象が薄かっただけに、最後の最後へきて、そのアルバムの中でももっとも明るくてポップな曲ばかりを選りすぐって並べてみせたのが強烈なインパクトを残した。
こんなポジティブで多幸感あふれる空間ってエレカシではこれまでになかった気がする。『桜の花、舞い上がる道を』などで単発的にぱーっと場内が明るくなるようなことはあれ、ここまでまとめて晴れやかな曲ばかりが鳴らされ、会場に明るい光が充ち溢れるような感覚はついぞ未経験だった。素直にすげーって思いました。
そのあとのアンコールが『木綿のハンカチーフ』と『東京協奏曲』と『ハレルヤ』ってのがまたいい。
『木綿のハンカチーフ』は宮本の歌姫カバーを代表する一曲であるにもかかわらず、去年はなぜだか演奏されなかったこの曲を、この日は小林武史のピアノ(+打ち込みのストリングス)だけという構成で入って、後半からドラムだけが加わるシングルのカップリング・バージョンで聴かせてくれた。つづくミスチル桜井とのデュエット・ナンバー『東京協奏曲』を宮本のソロ・ボーカルで聴かせたのと並んで、レア・アイテム感はんぱなし。でもって最後は宮本ソロワークスの白眉というべき『ハレルヤ』で締めとくる。このアンコールの締めくくり方がじつに素晴らしかった。
第二部の後半からアンコールまでの曲って、宮本ソロ楽曲の中でももっとも明るくてキャッチーな曲ばかりなので、絶対にこれらの曲を聴きたいと思っていた人がたくさんいたと思うわけですよ。それをさんざんじらしたあげくに、最後の最後にまとめて披露してみせたのが心憎い。かゆいところに手が届くというか。宮本らしからぬサービス精神を感じさせる小意気な演出だった。
ということで、終わりよければすべてよし。序盤のものたりなさはどこへやら。最後に大きな満足感を与えてくれたとてもいいコンサートだったと思う。
最後に蛇足で(まさに蛇足で)去年のステージでも思ったことをひとつ。
今回のバンドは前述のメンバー四人に宮本を加えた五人編成なのだけれど、ステージの上には彼らに加えてもう一人、右隅にぽつんと離れてPCを操作している人がいた。
例えば『木綿のハンカチーフ』なんかでは小林武史をサポートしてその人がストリングスのパートを鳴らしていたのだと思うのだけれど、スタッフという扱いなのか、メンバー紹介はなし。でも紹介はされないけれど、ずっとステージにはいるという。
ちょっと気になったので、その右隅の人は誰?――と聞いてみたら、吉田戦車のギャグみたいに「右隅の人などいない」とかいって怒られたりして。
そんなことを思って、ひとりくすっと笑っていました。
以上。おしまい。つまらなくてごめん。
(Feb. 23, 2022)
ずっと真夜中でいいのに。
Z FACTORY「鷹は飢えても踊り忘れず」[day1 "memory_limit = -1"]/2022年4月16日(土)/さいたまスーパーアリーナ
これまでに一度でもずとまよのライヴを観たことがあれば、さいたまスーパーアリーナのような大規模な会場でのライブが凄まじい内容になるのは想像に難くない(まさかお土産にハナマルキのずとまよ特製カップ味噌汁をもらうとは思わなかったけれど)。しかも、ただでさえすごいことになる予感たっぷりなのに、2デイズで内容を変えると予告されたら、そりゃ二日とも観ないわけにはいきますまい――。
ということで、いってまいりました。ずとまよ史上最大規模の二万人のオーディエンスを集めて行われたSSA公演の一日目。
今回のステージ・セットは「ZUTOMAYO FACTORY」と称しているだけあって、工場を模した大がかりなものだった。全体的に灰色のコンクリート打ちっぱなしなイメージで、注意を喚起する黄色と黒のストライプに「安全第一」とか「灰版電気工業(株)」とかの看板が配されている。上の方の煙突からは煙が出たり、ところどころ火の手があがったりしている。開演前はセットがグリーンのライトに照らされて浮き上がっていた。
定刻を五分ほど過ぎて昭明が落ちて、最初に登場したのはACAね――ではなく、Open Reel Emsambleの三人。
始まった最初のパフォーマンスはいきなり彼らによるオープンリール(と謎楽器?)による長尺のソロだった。その後も『機械油』のときにはツイン・ドラム+TVドラムのリズム隊三人によるソロから小山氏の津軽三味線のソロへとつづいてゆく演出があったし、今回のコンサートはずとまよの集大成ということで、バンド・メンバーに華を持たせるような演出が随所に見られた。――まぁ、そのおかげでいつもに増してマニアックな印象が強くなっていた感がなきにしもあらずだけれど。
オープン・リールのパフォーマンスが一段落したあと、右手上方に配置されたベルトコンベアから中央の煙突のついた設備になにか部品のようなものが運ばれていったと思ったら、その設備の壁をぶち破ってようやくACAねが登場~。
うちの奥さんいわく「部品が集まってACAねちゃんが完成した」という演出ではないかと。なるほど。あと、壁を壊して主人公が飛び出してくる演出を見て、四半世紀前のマイケル・ジャクソンの東京ドーム公演を思い出したそうです。まぁ、近いものがなくもない……のかな?
ということで、ステージ中央の巨大セット最上段に開いた穴から出てきたACAねは、その前にあったすべり台で中段くらいまで降りてきて、ようやく一曲目が始まる。
選曲は『眩しいDNAだけ』。あぁ、そうだよね。「工場の煙で止まりますのボタン」だもんね。一曲目は当然この曲だよなぁって思った。
今回もそのあとに『ヒューマノイド』と『勘冴えて悔しいわ』のメドレーを挟み――いつかは『勘冴えて』をフルコーラスで聴きたいです、ACAねさん――この日は四曲目で早くも『マイノリティ脈絡』が登場する。
これまではライヴのクライマックスを飾っていたこの曲を序盤にぶっ込んでくるとは気合入ってんなぁと思ったら、本人も張り切りすぎだと思ったのか、終わったあとで「最初から飛ばし過ぎました」みたいなこといってました。なんかもうなにをしても可愛い。
そのあと三年ぶりに『ハゼ馳せる果てまで』が聴けたのが個人的には嬉しかったし、新曲『違う曲にしようよ』から、三味線をフィーチャーしたずとまよライヴの影のMVP的存在『機械油』、オープン・リールとしゃもじ大活躍のサイケ音頭『彷徨い酔い温度』とつづく中盤も鉄板の出来。
ACAねさんの愛猫「真・しょうがストリングス」――「シン」は「新しい」ではなく「マコト」のほうだそうです――の自撮りビデオを紹介してからの新曲『夜中のキスミ』、必殺ダンス・チューン『MILABO』、あいかわらずボーカル・パフォーマンスが強烈な『脳裏上のクラッカー』で前半戦が終了。
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そのあとで観客を座らせ、ACAねがステージ左手の電話ボックスに閉じこもって、公衆電話(緑色のダイヤル式のやつ)の受話器をマイクがわりにして歌ってみせた『Dear. Mr「F」』――意外やこれがこの日の白眉だった。
周囲とうまくやりたいと思いながらも輪のなかに交じれなかったという切ない思春期の思い出を語ったあとのこの曲はむちゃくちゃ染みた。スタジオ版では村山☆潤のピアノだけだったけれど、この日はストリングスやドラムを加えた情感何割増しのアレンジで、ステージ左右のモニターは電話ボックスのガラス越しに歌うACAねの姿をクローズアップする。僕は年齢的に「エモい」って言葉が恥ずかしくて使えない世代だけれど、もしも若かったら間違いなく「エモい」を連発してるだろうなって思ってしまうような極上のパフォーマンスだった。
この日の僕らの席はアリーナの前から四列目の右隅で、目の前に右側のモニターがあったので、ACAねのアップ――ガラスが汚れていて顔が映らないようにしてある演出も気が効いている――が目の前に大写しで広がる分、情感の溢れっぷりがすごかった。いやぁ、まいりました。
そのあとに『正しくなれない』――前の曲で座ったまま誰も立たなくて、いまいち居心地が悪かった――を挟んて、そのあとに『お勉強しといてよ』、最新曲『ミラーチューン』、『あいつら全員同窓会』という究極のダンス・チューン三連発がきて、本編のラストは『秒針を噛む』で締めという内容。
『ミラーチューン』はライブで映えること間違いなしと思っていたけれど、予想にたがわず本当に最高だった。サキソフォンの間奏も当然ちゃんとあって、この曲のためだけに何度でもずとまよのライヴを観たいと思わせるレベルの史上最強のダンス・チューン。最新曲でそう思わせるあたりがほんとにすごい。
アンコールの一曲目はアコースティック・アレンジの『Ham』。この曲を聴かせてもらうのは個人的には初めてだった。
そのあと、コンサートのとりを飾ったのは定番中の定番、『サターン』と『正義』。『サターン』ではこの日は最後がカラオケではなく、最後までちゃんと演奏していた。オーラスの『正義』――ピアニカのイントロ部分が回を増すごとにどんどん長くなる気がする――ではモニターにメンバー名を英語表示してのメンバー紹介のソロ・パートがあった。
この日のバンドは、ずとまよの集大成にふさわしく、過去一の大所帯。僕が名前を認識しているのは、バンマスの村☆ジュン、ギターの佐々木コジロー貴之くん――いまさら彼がエレカシの『Easy Go』や2020年の野音に参加していたことを知って密かにショックを受けています(なぜ気づかない俺)――三味線の小山豊さん――彼だけ「さん」づけになってしまうのはおそらく三味線という楽器の持つ日本の伝統のせい――だけだけれど、そのほかベースがひとり、ドラムはなんとツイン、ホーンがトランペット、トロンボーン、サキソフォンの三人、弦は真鍋裕という人が率いるカルテット、そしてオープン・リールの三名。そこにACAねを加えた計十七名でのステージだった。
最後の曲が終わったあと、ACAねは工場セットの階段をいちばん上まで昇っていって、オープニングの時とは逆方向に進むベルトコンベアに乗って、「またね」と会場に手を振りながら姿を消していった。なんともコミカルで可愛い演出だった。
でも、どれだけ遊び心あふれる演出を施そうと、最後の曲が『正義』だというのが、ACAねが根の部分はとてもまじめな女の子だってことを証明していると思う。
若い女の子が『正義』というタイトルの曲を作ること自体が珍しいのに、それを毎回コンサートのクライマックスで大事に演奏しつづけている。――そんなアーティスト、ほかにいますか?
ロシアが現在進行形で戦争をしているいまだからこそ、そんなACAねのパフォーマンスには一本しっかりと芯の通ったくじけない意思を感じた。この二日間のライヴを観て、僕にとっても『正義』という歌がとても大切な曲になった。
いやぁ、しかしほんとこの日のコンサートはセットの豪華さも、セットリストもほぼ満点の出来だった。不満は『勘冴えて』がフルコーラス聴けたなかったことくらい。明日は違うことをやるというけれど、これ以上どこをどう変えられるっていうのさ?って思わずにいられなかった。
――ところがそんな疑問に、二日目のACAねは見事に答えてみせる。(つづく)
(Apr. 23, 2022)
ずっと真夜中でいいのに。
Z FACTORY「鷹は飢えても踊り忘れず」[day2 "ob_start"]/2022年4月17日(日)/さいたまスーパーアリーナ
一晩たったら昨日の工場は廃墟と化していました――。
百年が過ぎて、とうの昔に廃業したずとまよファクトリーは、蔦生い茂り、雑草がはびこる緑の遺跡と化していた。――そんな驚愕のシチュエーションに模様替えしたずとまよSSA公演の二日目。
なにせ昨日と違ってすでに工場が稼働していないので、ベルトコンベアは動かない。ボタンも押せない。
――ということでこの日は一曲目も前日とは違う。オープン・リールの人たちのパフォーマンスもなし。オープニングを飾ったのは、アコースティック・バージョンの『ばかじゃないのに』だった。グランドピアノでのソロのあと、ACAねが電話ボックスのなかでひっそりと歌い始めた(いつの間にそんなところに)。
このオープニングでピアノ・ソロを弾いていたのは村☆ジュンではなく、駅ピアノでずとまよを弾いて評判になったけいちゃんというユーチューバー。そういう人をさらっとゲストに呼んでステージにあげてしまう機動力がすごい。
この日の僕らの席は一階正面スタンドの前から二列目で、昨日と違ってステージは遠かったけれど、会場の全体を見渡せるので、また違った味わいがあった。
今回のツアーの新商品であるしゃもじ専用ライトのおかげで、会場全体に緑のライトがまたたく風景はなんともきれいだったし、そこにレーザーライトが乱れ飛ぶ景色は鮮烈の極み。前日の席ではステージ以外がほとんど視野に入らなかったので、二日目は全体が見張らせる席――しかもステージほぼ正面――だったおかげで、遠近両方をまったく違う感じで楽しめたのはとても贅沢な体験だった。
ただ、ステージ左右のモニターが大型ってほどには大きくなかったので、スタンドからだと細部がよく見えなかったのがたまにきず。おかげで冒頭のピアニストが村☆ジュンではないこともわからなかったし(アンコールのメンバー紹介で知った)、ACAねがいつから電話ボックスにいたのかもわからなかった。あれほど感動的だった『Dear. Mr「F」』も、この日は肝心の映像が遠すぎて前日のインパクトには及ばなかった。
――と、やや話が先走ってしまったけれど、そんなわけでこの日の公演は前日とは一曲目から違った。今回は「工場」というコンセプトだから『眩しいDNAだけ』がキー楽曲なのだろうだと思い込んでいたので(過去に観たずとまよライヴでは必ず演奏されていた)この曲がセットリストから外れたのには大いに意表をつかれた。
オープニングの『ばかじゃないのに』でもうひとつびっくりしたのが、曲の後半でACAねが泣いてしまったこと。緊張感マックスなライヴのオープニングで、いつもと違うピアノ中心のしっとりとしたアレンジで歌ったことで感極まってしまったのか、はたまた愛する人の死を連想させる、ずとまよでももっともセンシティヴな曲だから、実体験的にこみ上げてくるものがあったのか。確かなことはわからないけれど、後半のサビのあたりで歌が途切れてしまった。
両日とも――たぶんアンコールでのMCで――「5年前に路上ライヴをしていたころ、いずれたまアリでやれるくらいのアーティストになりたいと直感的に、そういう野望を抱きました」みたいなことを語っていたので、その夢が叶った目の前の風景に思わず感極まってしまったのかもしれない。
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つづく『低血ボルト』のパフォーマンスもその動揺を払いきれずに安定感を欠いていたけれど、そんなふうに不安定だったのは最初その二曲だけで、そのあとは調子を取り戻して、この日も素晴らしいステージを見せてくれました。
セットリストで前日と違ったのは、最初の二曲と、あとは『ハゼ馳せる果てまで』が『JK BOMBER』に、『夜中のキスミ』が『袖のキルト』に、『正しくなれない』が『暗く黒く』に入れ替わっていたところ。アンコールの一曲目も『Ham』ではなく『またね幻』だった。
しかしまぁ、よくも『袖のキルト』のようないい曲を一日目のセットリストから外すよなぁ。それでいったら『ばかじゃないのに』や『暗く黒く』もそうだけど。聴けなくてがっかりした人たくさんいたんじゃないでしょうか。
さいわい僕個人はこの二日間のライヴを両方を観たおかげで、これまでに生で聴いたことのなかった『Ham』と『またね幻』を聴けたし、新譜『伸び仕草懲りて暇乞い』の全曲と新曲『ミラーチューン』も聴けたので、ずとまよのカタログ全曲をライヴで体験したことになった(ほんとに?)。まぁ、正確にいうと『低血ボルト』(この日も短かった――よね?)はいまだフル・コーラス聴いたことないですけどね。いずれ聴ける日がくるといいなと思う。大好きなので。まぁ、基本的にずとまよは大好きな曲ばっかなんだが。
そのほかで前日と違った点は、ぼんぼんと炎があがるステージの演出が前日よりも大がかりだったこと、アンコールでACAねがベースボール・キャップをかぶっていたこと、『サターン』が弾き語りだったこと(アウトロからバンドが入った)、退場シーンではACAねが電話ボックスからすとんと奈落へと消えていったことなど。あれはきっと、どこでもドア的な電話ボックスで、ACAねが過去から未来にやってきたという設定だったんでしょう。おそらく。
まぁ、いずれにせよとても楽しい二日間でした。
終演後には秋からのツアー『テクノプア』の予告もあったし、「これからも面倒くさいことを追及していきたいです」みたいなことをいうACAねさんの創作意欲が衰えないかぎり、この深き深きずとまよ沼からはとうぶん抜け出せそうにない。
(Apr. 23, 2022)
宮本浩次
縦横無尽完結編 on birthday/2022年6月12日(日)/国立代々木競技場 第一体育館
全国四十七都道府県をまわり終えた宮本浩次が、自らの誕生日を祝って代々木第一体育館で行ったツーデイズの最終公演に行ってきた。
僕が観たのは宮本の誕生日である二日目。空が青く晴れ渡った快晴の日曜日に、原宿駅で降りて満員の代々木体育館のアリーナ席に着いた。まだマスクはしたままだけれど、なんだかようやく普通の日常が戻ってきた気がして、それだけでちょい感慨深かった。
今回のバンドでの宮本のライブを観るのはこれが三回目。最初がちょうど一年前の東京ガーデンシアターでのバースデイ・ライブで、次が今年二月のツアー東京公演。
東京国際フォーラムでは前年のバースデイ・ライブとあまり内容が違わなくて拍子抜けした、みたいなことを書いたけれど、今回はツアーの完結編と銘打っているだけあって、基本的なセットリストはツアーのままだった。オープニングの『光の世界』からラストの『ハレルヤ』まで(途中に三曲ばかり追加・変更はあったとはいえ)次になにが演奏されるかはほぼわかっている。
ソロとしては最大規模の公演だし、バースデイ・ライヴという煽り文句もあったから、ストリングスやホーンを入れた豪華なバンド編成もあるかと思っていたけれど、宮本はあくまでツアーで全国をまわった五人での演奏にこだわりがあったようで、そうした追加ミュージシャンもいなかった。
要するに前回と同じバンドが、前回とほぼ同じセットリストを、前回と同じように演奏するだけという。違うのは会場が広いことと、演出がこの会場向けのスペシャル・バージョンだったことくらい。前回のステージで新鮮さが足りないと思った僕なんかは、今回より新鮮さが薄れたぶん、盛り上がりを欠いてもおかしくない。
ところが、だ。
今回のライヴがこれまでの三回でいちばんよかった。
なぜって?――その理由は単純に会場が広いから。
広いからこそ花道がある。花道があるから宮本がその名のとおり縦横無尽に駆け回れる。広さを補うために左右にモニターがある。ソロだからモニターは遠慮なく宮本ひとりの表情を追いまくる。
これまでのツアーにはなかったこのふたつの舞台装置の効果が絶大だった。宮本浩次というやんちゃな五十六歳のアーティストの魅力が会場中に溢れかえっていた。
――もしかして、宮本浩次ってもはやこのキャパが最低限って規模のアーティストなのでは?
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宮本のいまの人気って、彼のボーカリストとしての破格の才能だけではなく、そのルックスや性格のエキセントリックさや誠実さ――つまり宮本の人的魅力――に負うところも多いと思うわけですよ。
そういう宮本の人間性に魅せられて会場に集まった新しいファン層――白髪の老人もぽつぽついてびっくりだよ――には、そんな宮本の一挙手一投足をモニターで追いながら、あの圧倒的な歌を浴びるように聴けるこの会場はベストな環境なのではと思った。
まぁ、小さなホールの最前列でその姿をじかに拝めればまた話は別なんだろうけれど。過半数のオーディエンスはそんな恩恵には預かれないわけで。
実際に観た過去二回のコンサートも僕らの席はスタンドで、宮本の表情まではわからない距離だった。
それに比べると今回はアリーナ席で、いちばんうしろの方だったけれど、それでもやはり臨場感が違った。やっぱアリーナで立って観るほうが参加しているって気がする(そういや去年のコンサートは最初から最後まで座ったままだった)。PAブースがすぐの席だったので、見晴らしも音質も良好。ステージの背景に映し出されるきらびやかな映像の前にいる宮本の姿を見ながら、左右のモニターに映し出される彼の表情も視野に収められる。なにげにそれが最高だった。
破綻がなくておもしろみに欠けるとか失礼なことを思っていたバンドも、この規模になってしまうと逆にその安定感が頼もしい。
そういう意味では、宮本浩次と縦横無尽バンドがその真価を発揮するには、まさにこの広さが必要だったのではないかと思った。
今回は会場の規模にあわせたサプライズがいくつかあった。
ひとつめは真っ暗になった場内にスポットライトが差したと思ったら、アリーナ中央にある花道のセンターに宮本がいきなり仁王立ちしていたオープニングの『光の世界』。
ふたつめは『shining』で花道を走ってきた宮本が大量のスモークに包まれてそのまま姿を消した演出(忍者か!)。
極めつけの三つめは『rain -愛だけを信じて-』で花道のセンターに雨を降らせた演出。最初はプロジェクションマッピングだと思って、すげー、ちゃんと雨が降っているように見えるって思っていたら、次第に宮本がびしょ濡れになってゆくのでびっくりしました。まじか、本当に水出てんじゃん!――あれ、近くの人は濡れないのかな? すごいね、いまの演出技術。
あと『冬の花』で赤い花びらが降ったり、『ハレルヤ』で金色の紙吹雪が打ち上ったりもしたけれど、でもそういうところを別にすると、全体的な演出はツアーのときより控えめな気がした。控えめというかギミック抜きというか。『きみに会いたい』での小林さんとのスキャット合戦もなくなっていたし、ツアーと一緒だって僕にわかったのは、『夜明けのうた』での夜明けのランタン演出と、『shining』でのザ・フー的なコミカル映像くらい。
前述の派手な演出もあくまでそれぞれの曲のテーマに沿ったものだったし、とにかく半年以上に及ぶツアーの締めくくりに、余計なギミックなしに、この五人での演奏を真摯に届けるんだって。そういう意思に貫かれているのが伝わってくる、とてもいいコンサートだった。ツアーではなぜかセットリストから外れていた『Just do it』もアンコールで聴かせてくれたし、アルバム『縦横無尽』の全曲を演奏してみせたという意味でも「完結編」というタイトルにふさわしかった。
前日も観たうちの奥さまの話によると、演出とセットリストは二日間とも同じだったそうで、前日はオープニングの『光の世界』で感極まって宮本が泣いてしまったとか、なにかの曲では花道の坂をごろごろと転がりあがったとか、よりレアなことが多かったみたいだけれど、でもまぁ、観るんならばやはり誕生日当日だよなぁ。メンバー紹介のソロでキタダマキがベースで『ハッピーバースデー』のメロディを奏でて宮本を感動させたのは二日目だけだったそうだし。あれもこの日の名場面のひとつでした。
そういや、第二部が始まるところで宮本がバースデイ・ケーキのろうそくを吹き消してからステージに飛び出してくる演出も前日すでにやっていたとか。二日つづけてろうそく吹き消す人もあまりいないと思うよ。あと、自分の誕生日に「みんな誕生日おめでとー!」って連発する人も。
まぁ、でもそういうおちゃめなところも人気の秘訣なんでしょう。
いずれにせよ、大団円と呼ぶにふさわしい、素晴らしいツアーの最終日だった。
さて、これを機に宮本がエレカシでの活動に戻るのか、それとも引きつづき並行してソロ活動も行ってゆくのか――。
今後の展開が読めないのもなかなかスリリングだ。
(Jun. 19, 2022)
SONICMANIA
2022年8月19日(金)/幕張メッセ
サマーソニックの前夜祭的オールナイトイベント、ソニックマニアに行ってきた。
いわゆる夏フェスに参加するのはじつに三年ぶり。
何度も書いている気がするけれど、僕は基本的に出不精なインドア人間で、ライヴ大好きってわけではないし、ひと晩中マスクをしたまま過ごすのも気が進まないので、ひとりだったら絶対に行っていないのだけれど、うちの奥さんがプライマル・スクリームのスクリーマデリカ再現ライブを観たいというので――でもって、オールナイトイベントにひとりで参加するのはさびしいというので――つきあいで行くことにした。
いやしかし、コロナ禍がおさまるまでは必要最低限のライブしかゆかないつもりだったのに、僕にとってはマストなエレカシ宮本とずとまよが盛んにライブをしてくれちゃうので、今年はこれがじつに七本目だ。これから先のチケットがまだ三枚あるので、今年はひさびさにライブを観た数が二桁に乗ることがすでに確定。いまだ新型コロナウィルス騒動は収まっていないけれど、僕個人の音楽生活はなし崩し的に例年並みに戻ってしまった気がする。
ということで、この日のトップバッターはマウンテン・ステージのカザビアン。
実際のオープニング・アクトはほかのステージのほかのバンドだったけれど、オールナイトなのに無理して本命のプライマルの前に疲れてしまっては仕方ないので、知らないバンドはスルーした。
若いころはせっかくフェスに参加するんだから、ひとつでも多く観ようと欲張ったものだけれど、まぁいいかと思ってスルーしてしまうあたりが若くない証拠。なんたっていまや夫婦あわせて百十歳。こういうイベントに参加するのは、そろそろ年寄りの冷や水って言葉がふさわしいのではと我がことながら思う。
カザビアンって不思議なバンドで、やっている音楽は90年代以降のUKロックのいいとこ取りをしたような感じで、基本的に僕の守備範囲だと思うのだけれど、なぜかわからないけれど聴く気にならない。この日の演奏を観ていても、オアシスやフランツ・フェルディナンドを思い出させる音で、これが人気を博するのはわかるよなぁとは思うのだけれど、不思議と僕個人は入れ込めないでいる。
ということで、もとより興味が薄いところへきて、この日はタイムテーブルの都合で最後までフルでは観られないことが決まっていたせいもあって、なおさら身が入らない。つぎのステージが始まる前に喉の渇きをいやしておきたかったので、冒頭のちょっとだけ観てからステージを離れてビールを買いにゆき、そのあとふたたび戻ってきて最後のほうの二、三曲だけ観た。――いや、観たというよりか、単にステージのみえるところに座っていたというのが正しい気がする。
ステージの背景には漢字のようで漢字ではない謎の象形文字があしらわれていたけれど、あれはなんだったんでしょうかね。
カザビアンの次はとなりのソニック・ステージに移ってCornelius。
コーネリアスといえば、去年の東京五輪で若いころのいじめ問題が再燃して小山田圭吾が活動休止に追い込まれたのが記憶に新しい。
今回のステージはフジロックで再始動した彼らの復帰ライブ後第二弾ということで、集まったオーディエンスは当然ファン中心ということもあり、会場は小山田くんの復帰を祝う温かい空気に包まれていた――ような気がした。
内容は今回も『Mellow Waves』のツアーを踏襲したもの。映像は四年前のソニマニで観たときと違っているぽかったので、細かいところでブラッシュアップされているんだろうけれど、それでも全体的な演出手法が同じだから、やや新鮮さに欠ける印象が否めなかった。
コーネリアスのステージって、全編に途切れなく映像が用意されているせいで、ライヴを観ているって印象が薄いのが難点のような気がする。演奏している小山田くんたちメンバーにスポットライトがあたらないというか。僕らの目はいやおうなくモニターに映る映像を追ってしまうので、演奏者が目立たない。結果、あまり楽器を演奏している姿が視野に入らないゆえに、生演奏の印象が薄くなる。
全編MVのように完成度の高い映像と生演奏を同期させるコンセプトは唯一無二でおもしろいのだけれど、それって要するにライヴというよりはMVの延長戦上にある印象だから、繰り返し観せられるとどうしても飽きがくる。その点、演出がほとんどなく、むきだしの歌声と生演奏があるだけゆえにまったく飽きることがないエレカシのライヴとは対極にある気がする。
今回はキーボードの堀江某氏が急遽出演できなくなったとかで三人編成だったけれど、メンバーがひとり欠けても特に問題なく演奏できてしまうってところも、いかに事前の作り込みの部分が大きなウエイトを占めているかという証拠のように思えた。
あと、個人的な意見としては、真ん中くらいで演奏された波の映像を使った五分近いインストナンバー、あれが余計。フルセットの単独公演ならばともかく、フェスのステージでやるにはちょい環境音楽っぽすぎて、観ていて疲れてしまった。あれを挟んだせいで、復帰を祝う祝祭気分に満ちていた会場の熱気がいくらか冷めた気がする。
以上、できれば復活を祝うハッピーな文章を書きたかったのに、批判めいた言葉ばかりになってしまって申し訳ない。不徳の致すところです。
それにしても、リッチな映像演出の陰に隠れてほとんど自身の存在をアピールしない小山田圭吾という人は、自己顕示欲が低いとても謙虚な人って印象なのに、そんな彼が若き日の過ちのせいで罪人のように嫌われバッシングを受けてしまったという事実は、ただただ不幸なことにしか思えない。
さて、そんなコーネリアスの次は、三十分ほどの休憩をはさんで、同じソニック・ステージで電気グルーヴを観た。
電気グルーヴについてはいつも同じ感想になってしまう。
とにかくすごい。ひたすらパワフル。
何曲か演奏したあと――たぶん三曲目に演奏された『Shangri-La』のあと?――石野卓球が最初のMCで発した、
「こんばんわ、どうだ、カッコいいだろう! 電気グルーヴです!」
という言葉が、まさにそのままで異議なしだった。
ほんと、電気グルーヴはカッコいい。見た目はむさい二人組(失礼)が、問答無用のダンス・ビートをガンガン鳴らして、フロアを揺るがし続けている風景はひたすら壮観。ことダンス・ミュージックとしての機能性において、日本で彼らと肩を並べられるバンドはほかにないんじゃなかろうか。
次のプライマル・スクリームとタイムテーブルが重なっていたので、すぐに退出できるよう僕らは出口の近くで観ていたのだけれど、移動しようとその場所を離れてみると、通路の部分まで人が溢れていた。
ピエール瀧がコカイン所持で逮捕されて活動停止の期間もあったし、去年のフジロックで電グルが復活してからもライヴの機会は限られていたら、当然注目も高かったのだと思う。この日の電気グルーヴにはソニック・ステージはいささか狭すぎる印象だった。
ということで、その次が本日のメインイベント、プライマル・スクリームによる名盤『Screamadelica』再現ライヴ。
あらためて確認してみて、僕らがプライマルのライヴを観るのが十三年ぶりだという事実にびっくりした。
なぜにそんなに長いこと観てなかったんだろうと思ったら、前回の来日は2016年でうちの娘の大学受験の年、その前が2013年で高校受験の年だった。どうやら学費が心配で節約生活を強いられていて、ライヴどころじゃなかったらしい。なんかすごくわかりやすくて笑ってしまった。
ちなみに前回から六年ぶりの今回は、娘の大学院卒業の年だったりします。なぜだか我が家の節目にやってくるボビー・ギレスピーだった。
ということで十三年ぶりに観たプライマル・スクリーム。
前回観たときにはまだマニがいたはずなので(記憶があやしい)、その後に加入したシモーネ・バトラーという女の子がベースを弾くプライマルを観るのはこれが初めてだった。彼女が加入したのが2012年だそうだから、もう十年もこのメンツでやってんすね。いやぁ、光陰矢の如しだわ。
バンドは彼女を含めた5人編成で、コーラス等のサポート・メンバーはなし。『Loaded』などの女性コーラスのパートは録音だった。30周年記念と銘打っているくらだから、もっと大人数で華やかにやってくれるのかと思っていたので、最少人数だったことにはやや拍子抜けした。
Blu-rayで観られる二十周年のスクリーマデリカ再現ライヴは序盤にヒットパレード・コーナーがあって、そのあとアルバムの再現に突入するという構成だったけれど、今回はフェスのステージということで時間が限られているせいもあってか、最初から『スクリーマデリカ』のみで勝負ってセットリストだった。
いや、正しくはアルバム全曲+アルバム未収録のEPカップリングナンバー『Screamadelica』を加えたセットリストで、これぞまさしくスクリーマデリカ完全版と呼ぶにふさわしい内容。
――で、このライブを観て思ったこと。
『Screamadelica』ってアルバム、けっこう地味でない?
『Movin' On Up』『Come Together』『Damaged』『Loaded』の四曲は超キャッチーだけれど、それ以外だと思いのほかスローな曲、暗めの曲が多い。
『Higher Then The Sun』も世間では人気みたいで、このアルバムの代表曲のひとつなのかもしれないけれど、僕は特に好きではないので(基本昔は明るい曲ばかりが好きだったのです)、アルバム全体をまとめて再現されると、いやー、地味だわって思わずにいられなかった(身も蓋もない)。
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でも、そう感じたのはきっと俺だけはないよね?――と思ったのは、アルバム最後の曲として『Loaded』が演奏されたあと、間髪入れずに『Rocks』が始まったときのオーディエンスの熱狂がはんぱなかったから。
いやぁ、あれはすごかった。この夜のクライマックスは間違いなくあの瞬間。
あまりの盛り上がりように、みんな、もしかしてアルバム『Screamadelica』を単体で再現されるより、『Rocks』なんかを含めた名曲ヒット・メドレーをやってくれたほうが嬉しいのでは?――と思ってしまいました。いや、少なくても僕個人は絶対にそうなので。
まぁ、とはいえ、先にあげた好きな楽曲群はよかった。
特に『Damaged』は珠玉の名バラードだなぁって、ひさびさに生で聴いてあらためて思った。九十年代にあれほど往年のストーンズっぽい名バラードを書いたアーティストはほかにいないのではと思う。ミック・ジャガーにもキース・リチャーズにも書けまい(というか実際に書いていない)。『スクリーマデリカ』のようにダークでサイケデリックなアルバムのなかに、ああいう時代を超越した珠玉の名バラードをさらっと入れてしまえるボビー・ギレスピーのメロディーメイカーとしての才能がすごい。
そういや、この夜のボビーは『スクリーマデリカ』のジャケットデザインをそのままプリントしたド派手な真っ赤なスーツ姿でした。ああいうのを着ちゃうセンスもぶっ飛んでいる。決して歌が上手い人ではないけれど、ああいうセンスも含めた素っ頓狂な人どなりがやっぱおもしろいなぁって思った。
個人的には最後は『Loaded』できっちり締めて、アルバムの曲だけで終わったほうが美しかったのではと思うのだけれど、でも蛇足ともいうべき『Rocks』でのフロアの尋常ならざる盛り上がりを体感してしまうと、やはりあれはライヴとしてはあってしかるべきだよなぁと思わずにいられない。
翌日のサマソニ最終日のステージ――そちらもWOWOWのライブ配信でフルで観た――では、マウンテン・ステージのとりとして、この日より長く時間が与えられていたこともあり、アンコールでさらに三曲多く演奏されたけれど、そちらは『Loaded』がアンコール扱いになっていたため、『スクリーマデリカ』の再現度が若干下がっていた印象だったし、なによりソニマニでの『Rocks』の熱狂は、残り時間の関係で、まさかやってくれるとは思わなかったところであのイントロが鳴り響いたからこそだと思うので、そういう意味でサマソニではなくソニマニでプライマルを観れたのはラッキーだと思った。
――ってまぁ、今年はサマソニのチケットが早々に売り切れてしまったので、サマソニ本編は観たくても観れなかったんだけれども。
なんにしろ、この夜のライヴを観て思ったのは、プライマル・スクリームには生で聴きたい曲がまだほかにもたくさんあるってこと。次に彼らが来日するころには娘も就職して学費の心配はまったくなくなっているはずなので、これから先の来日公演は逃すことなく観に行こうと心に誓った。
――あ、でもフジロックに来たらNGかもです。苗場までゆくパワーはもうなさそうだって、うちの奥さんがいっているので。僕としても異存なし。
プライマルのあと、今年のソニマニのとりを飾ったのはマウンテン・ステージのCreepy Nuts。
――とはいっても、プライマルのステージを一時間半、立ったまま観たあとですでに疲れ切っていたし、Creepy Nutsは最新アルバムを一度だけ聴いたくらいで、まったく馴染みがなかったので、無理して観なくてもいいやって思って、この夜最後のビールを飲んでひと休みしたあと、途中から移動して、最後の何曲かだけ観た。それもフロアのうしろの方で座ったままだった。
Creepy Nuts、なんかとても真面目そうで熱い青年たちでした(もしかしてそう見えるだけで実は悪いやつらという可能性も)。一曲ごとにMCで語る内容がなんかすごく若さを感じさせた。フロアに坐って聴いていると音響が悪くて、R-指定のラップが超高速なこともあり、なにを歌っているまったくかわからなかったのが、やや残念だった。
あと、僕らのような畑違いのオーディエンスが多かったせいか、集客はいまいちな感じだった。持ち歌が少ないのか、定刻を待たずにアンコールなしで終わってしまったし、クリエイティヴマンとしてはいまが旬の彼らに華を持たせたかったのかもしれないけれど、できれば彼らと電気グルーヴは逆にして欲しかった。
ということで、今年のソニマニは以上の五バンドを観て終了。
ステージは四つあったけれど、うち二つは訪れることもなく終わってしまった。若いころならば、絶対すべてのステージを確認くらいはしに行ったところなのに。こういうところにも自分の年を感じる。
それにしても、新型コロナウィルスの第七波の真っ最中に開催された今回のソニマニは、みごとに無法地帯だった。ちまたでは過去最大の陽性者数を記録しているというのに、そんなの嘘みたいにふるまう人多数。酒を飲むためにマスクを外した若者たちが、ステージを移動するために、平気で身体をぶつけて通り過ぎてゆく。
プライマルのステージが始まる前に、お笑いタレントらしきMCの人が「声出しは控えてくださいね」みたいな注意をしているのに、ボビーは客席にマイクを向けて歌えって要求したりもするし。興行主とアーティストの間でぜんぜん意思の疎通が取れてないじゃん。アーティストにきちんと了承を得れないくらいならば、余計な注意なんてしないほうがマシでしょう。そんなの偽善的すぎる。それのどこがロックだ。
とにかく、本当にこの夜は感染対策もなにもあったもんじゃないじゃんって感じだった。これでクラスターが出なかったら、そのほうが不思議だろうってレベル。過去二年間我慢してきたのはなんだったんだか。
もしかしてワクチン打ってない俺は参加しちゃいけなかったのでは?――と思ったりしたけれど、結局その後もとくに問題なく無症状のままだから結果オーライ。そんな今年のソニマニだった。
(Sep. 03, 2022)
エレファントカシマシ
2022年9月25日(日)/日比谷野外大音楽堂
四年ぶりに野音でエレカシを観た!
僕個人にとっては四年ぶりだけれど、エレカシにとっても二年ぶりの野音。
噂ではチケットの抽選には何万人という応募があったらしい。
野音は立ち見も込みで約三千席だそうだから、仮に三万人の応募があったとすると、当選確率は十分の一。つまりエレカシの野音はいまや十年に一度観られたら運がいいというレベルのレア・コンテンツになってしまっているということだ。
そんなん、もうチケット取れるはずないじゃん!――と思って、最初からまったく期待していなかったから、今年はあっさり取れてしまってびっくり。しかも夫婦そろって(席は当然別々)。一つ屋根の下で暮らしている人たちで、この夜一緒にエレカシを観れた人ってどれだけいるんだろう。どんだけラッキーなんだ、俺たち。
まぁ、この先もこのラッキー運とハッピー運がそう長くつづくとも思えないので、ふたりで一緒に野音でエレカシを観るのもこれが最後かもしれないという覚悟で拝見してきました。2022年のエレカシ野音。
半年以上にわたって宮本がソロで大活躍してきたあとなので、今回の野音はどういう風にソロとの差別化をはかるんだろうと思っていたら、その回答はいたって単純だった。宮本がギターを弾くこと。
ソロではまったくといっていいほどギターを弾かなかった宮本が、この日は大半の曲でギターを弾いていた。弾かなかったのはアンコールとあと数曲という印象。
ロック歌手として、頼れるメンバーにバックを任せてスポットライトを浴びていたソロからバンドに戻るにあたり、宮本はみずからバンド・サウンドの一翼を担うことでその違いを鮮明にさせた。基本的にやっている音楽はそう変わらないはずなのに、ここまでバンドとソロで音の感触が違う人も珍しいんじゃないだろうか。
サウンドの完成度でいえばソロのほうが圧倒的に高いんだけれど、宮本の乱暴なへたうまギターが加わったエレカシのバンド・サウンドは、ここでしかあり得ない唯一無二の存在感で日比谷の夜空に鳴り響いていた。
あと、ギターということでいえば、今年の野音で個人的にいちばんのポイントは、サポートのギタリストが佐々木"コジロー"貴之くんだったこと。
ずとまよのライヴですっかりお馴染みになった彼のプレーをエレカシでも――それもよりによって野音で観られようとは!
同じ週の週末からずとまよのツアーが始まるので、コジローくんはそちらに出るものと思い込んでいたから、まさか野音で彼に会えるとは思っていなかった(今回はずとまよのツアーには不参加みたいだけれど)。
考えてみれば、佐々木くんは二年前の野音(Blu-rayで観た)でもギターを弾いているので、この日のセットリストの過半数はそのときにプレイ済みだから、お願いするにはうってつけだったのかもと、あとから思ったりした。
とはいえ、ずとまよで彼がどれだけ上手いギタリストか知っている僕からすると、エレカシに彼を加えるのはいささかもったいない感がなきにしもあらず。とくにエピック時代の曲中心だった前半は出番が少なくて手持ち無沙汰っぽかった。あぁ、なんて佐々木貴之の無駄遣い……とか思いながら観てました。
でも、ステージに近い彼の対面の席で観ていたうちの奥さんによると、コジローくんは終始楽しげでニコニコ嬉しそうだったそうだ。本人が大喜びならばきっとオーケーなんでしょう。今後とも末永くなかよくしていただければと思います。
それにしても彼ってもう三十八歳なのか。もっと若いのかと思っていた。
まぁ、ということで、エレカシの四人に佐々木貴之と、野音といえばすっかりこの人って感じになっている細海魚さんを加えた六人編成でのエレカシ野音2022。
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僕の席はCブロックの右手、うしろから数えたほうが近い席で、ステージは遠目だったからメンバーの表情とかまではわからなかったけれど、それでも野音の規模ならば、どこで観ても快適。とくに今回はチケットがファンクラブでも取れないくらいだから、観客の大部分が女性で、僕の視野に入る男性はほんの数人という状況だった。
あまりに女性ばかりで、自分がそこにいるのが場違いな感じだったけれど、でもおかげでとても視野が広いっ! 僕は特別背が高いわけではないけれど、それでも日本人女性の平均に比べれば十センチ以上は高いので、ステージまでなにも遮るものがなくて、非常に観やすかった。
オープニングナンバーの個人予想は『夢のちまた』か『おはようこんちにちわ』、はたまた『俺の道』――だったのだけれど、宮本が選んだ一曲目は『過ぎゆく日々』だった。予想外の極み。しかも一曲目から男椅子にすわっての演奏。
まぁ、でも考えてみれば、宮本が椅子にすわったままギターを弾いて歌うというスタイルは、宮本のソロではあり得ないエレカシならではの光景なので、この曲を一曲目に選んだのはすごく考えられた賢い選択だったように思う。
この曲を始めとして、第一部には個人的にもっとも愛着のあるエピックとEMI時代の曲がこれでもかと並んでいた。なかには『ふわふわ』とか『偶成』とか『I don't know たゆまずに』とか、うわー、いつ以来だろうってレア・ナンバーも含まれていた。これだから野音はたまらない。
『珍奇男』で途中でアコギをエレキに持ち替えるのに失敗して、演奏がいったん止まってしまったあたりも安心のエレカシ印。ああいうときって最初からやり直したりすることもあるけれど、この日はライヴ配信されていたからか、途中からそのまま演奏を再開したりしていた。
そういえば、「あなたたちに捧げます」みたいなことをいって始めたから、『悲しみの果て』かと思ったら、『なぜだか、俺は祈ってゐた』だったのも、なにげに感動的だった。この曲って本当にいい曲だよねぇ……。しみじみ。
あと、この曲だったと思うけれど、石くんのギターソロがよかった。ひさびさに石くんカッコいいって思いました。
第二部の最初が『東京の空』ってのも今回の最重要ポイント。第一部は懐古的・内省的な曲が多かったから、第二部は一転して明るいサービス・メニューになるかと思っていたのに、いきなりエレカシ史上もっとも長くて重い文学的な曲を持ってくるという。さすが、これでこそ俺たちの宮本。
第二部はそのあとちゃんと明るめの曲をたくさんやって、最後は『so many people』で締めて本編終了。
この時点で『今宵の月のように』も『ガストロンジャー』もやっていなかったから、アンコールはそれらの曲を含めてたっぷりやるつもりなのかと思ったら、そんなことなし。どちらもこの夜は披露されなかった。なにげにこの二曲がそろって外れるのってレアな気がする。
でも、今回の野音のアンコールは過去最高のサービス・メニューだった。
だって、いまや野音での定番中の定番と呼べる『星の降るような夜に』と『友達がいるのさ』が二曲つづけて演奏されるなんて、野音でこれ以上の演出はあり得ないでしょう? この二曲のメドレーを今後とも野音の定番にして欲しいくらい。
そしてそのあとつづけて『ファイティングマン』を演奏して今年の野音は終了。
アンコールの締めは『花男』か『待つ男』の印象が強いけれど、この日はエレカシの野音復活を祝う意味で、『ファイティングマン』で締めるのがふさわしかった。
あと、この三曲は宮本がハンドマイクだったので、佐々木くんの存在が際立っていた。この夜いちばん音がきれーでした。ガチャガチャと取っ散らかったエレカシらしい演奏をたっぷりと聴かせたあと、宮本の歌がくっきりと浮かび上がってくる、すっきりとクリアなギター・サウンドで最後を締めたのには、なんともいえない高揚感があった。
不幸にも去年で野音の連続公演記録が切れてしまって、再出発となる今回の野音だから気合入りまくりですんごく濃い内容になるかと思っていたけれど、全二十五曲で二時間半とちょいというのは、エレカシにしては予想外にあっさりめな気がした。
でも、すでにメンバー全員五十代後半ですもんねぇ。これくらいがちょうどいい匙加減なのかもしれない。いままでのボリュームが可能過ぎただけで。あまり無理をせずに、末永く活動をつづけてください。心からお願いします。
日没前に始まって、次第にステージが暗くなってゆき、終わるころにはすっかり真っ暗。見上げれば樹影の先の夜空にそびえるビルの灯り。曲間のあいまには虫の鳴く声が聞こえる――。そんな野音でエレカシを観る喜びはなにごとにもかえがたい。
あらためてそう思った早秋の一夜。
(Oct. 02, 2022)
ずっと真夜中でいいのに。
GAME CENTER TOUR『テクノプア』/2022年11月10日(木)/川口総合文化センター・リリア メインホール
九月末に神奈川からスタートしたずとまよの最新ツアー『テクノプア』。全二十六公演のうち、十三回目の公演を埼玉県の川口で観た。この日でちょうどツアーの半分を消化した計算になる。
毎回豪華なずとまよのステージセットだけれど、今回は『やきやきヤンキーツアー』のコンセプトをコンビニからゲームセンターに変更してグレードアップした感じ。
ステージ向かって右手にゲームセンター『テクノプア』の母屋があって、屋上にはニコちゃんマークのアドバルーンが上がり、「レトロゲーム高価買取」という縦書きの垂れ幕が下がっている。この文言がライブがスタートにあわせて「川口店OPEN」に変わり、終演後には「新規会員募集中」に変わっていた。こんなところまで遊び心全開。
ステージ左手は(60インチくらい?の)液晶モニターがあったこと以外、どんなだったか、いまいちよく覚えていない(困った記憶力だ)。印象的だったのは電柱が立っていて、そのシルエットが背景の夜空に浮かび上がり、電線が左右にぶらんと垂れていたこと。この電線に電飾が配されていて、ライブのスタートとともにネオンのようにひかり輝き、なにかの曲では流れ星が流れる演出にも使われていた。僕が過去に見たなかで世界一カッコいい電線だった。
もうひとつのずとまよライブの名物がACAねのおもしろおかしい登場シーン。この日はステージ中央に自動販売機が二台設置されていると思ったら、その前面が観音開きに開いて、残ったドリンクのフレームを蹴倒して出てきました。毎回ちゃんと笑わせてくれて素晴らしい。
ステージが暗いので、ACAねがどんな格好をしているのか、わからないのは毎度のことだけれど、この日はどんな髪形をしているかもよくわからなかった。髪がつんつん立ったショートのウィッグをつけてた? 違うかな。なんかぼさぼさな感じでした。
今回のツアーではバンドメンバーが流動的で、この日は村☆ジュンがいなかった。メンバーで名前がわかったのはギターの佐々木コジローくんとOpen Reel Emsumbleのふたりだけ。といいつつ、佐々木くんもかつらをかぶった似非ヤンキー・スタイルだったので、途中で名前が呼ばれるまではその人とわからなかった。
アンコールの『あいつら全員同窓会』でメンバー紹介のコーナーがあったのに、モニターの表示は「ベース」とか「ドラム」とか、パート名だけで、個人名が出ないし。そこはちゃんと名前を教えて欲しかったですよ。
ということで、この日のバンドはドラム、ベース、ギター、キーボードに、管楽器がふたり、オープンリールふたり、そしてACAねの九人編成。
そういや、ずとまよのファンって、いまいちライブ慣れしていないというか、ライブずれしていないというか、おとなしめな人が多くて、いつもバンドメンバーが出てきても座ったままで、主役のACAねが登場して初めて立つという感じなのだけれど、この日もその点は一緒ながら、開演を待つあいだにBGMでかかっていた曲にあわせて、しゃもじの手拍子が巻き起こったのにはびっくりした。おかげで開演前から場内はアンコール待ちな雰囲気に。大半がしゃもじを持っているからの珍事。たぶんずとまよのライブでしかあり得ないのではと思います。
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ライブは背中に電飾を装備したOpen Reel Emsumbleのふたりによるコミカルなパフォーマンスでスタート。つづいてドラム・ソロなんかがあってから、ようやくACAねが自動販売機から出てきた。
オープニング・ナンバーは『マイノリティ脈絡』。ライブのクライマックスを飾れるテンションを持ったこの曲から始まるのだから、当然ライヴは最初から大盛り上がり。
二曲目が『はう"ぁ』から始まる三曲メドレーで、その次が『MILABO』(『秒針を噛む』もこの日は前半)という惜しみなさだった。
今回のツアーの特別企画・其の一がつぎの『猫リセット』で、ここではACAねがゲームセンター『テクノプア』についての口上をウグイス譲のようなナレーションで読み上げてみせた。歌はワンコーラスだけで、後半に8ビットのゲーム・サウンドを使ったインスト・コーナーがフィーチャーされていた。
『テクノプア』にまつわるナレーションはその後も後半とアンコールで二度ほどあった。YouTubeなどの配信ではいまだにたどたどしいACAねちゃんだけれど、ライブでのMCは以前よりも断然はきはきしていて、まったく問題なし。あぁ、ちゃんと成長してんねぇって思った。
本ツアーで初公開となった『夏枯れ』からの数曲は、ACAねがゲームセンターの屋上にあがって――ライブで主役がはしごを昇る姿を見たのって初めてな気がする――そこに配置されたドーム状のセット――なんだかよくわからなかったけれど、ザクの角みたいのが生えていたから、モビルスーツの頭とかかもしれない――で鉄琴を弾いたり、ガチャを回したり。『彷徨い酔い温度』は演奏はほぼ全部カラオケで、メンバーも何人かそこへ登って、ACAねのまわりでわちゃわちゃしていた。
ギターがコジローくんだとわかったのは、この曲で彼がバイオリンを弾いていたから。バイオリン弾けるギタリストなんてそんなにいないだろうから、あ、きょうもコジローくんなのかと思いました。
このパートで披露された今回のツアーの目玉企画のひとつが、ガチャガチャをまわして出た曲をその日の気分のアレンジで演奏するというもの。
最初に出たカプセルは『ニャンキャット』とかなんとかいう曲で、「にゃんにゃんにゃにゃーん」とかアカペラで三十秒くらい歌って即終了。
次が『正しくなれない』で、こちらはコジローくんに「怠惰な感じ始まって徐々に元気になる少年のようなアレンジで」みたいなリクエスト(うろ覚えなので間違っている可能性大)を出しての演奏だった。
屋上から降りてからは、新曲『消えてしまいそうです』を含めた代表曲で盛り上げ、本編の最後はギターを弾きつつ『お勉強しといてよ』で締め。ACAねは歌う前にあまりタイトルを紹介することってないので、この曲のときに『お勉強しといてよ』のタイトルを力強く口にしていたのが妙に新鮮だった。
アンコールでは誰かが舞台のしもてから派手な電飾を施されたデコチャリを運転して出てきたと思ったら、それがまさかのACAねだった。ステージにチャリが出てくるあたりも、やはり今回はヤンキーツアーからの流れを踏襲している感じだった。
アンコール一曲目の『Dear Mr「F」』はピアノだけの演奏で始まって、後半からドラムが入るアレンジ。キーボードが村☆ジュンではないこともあって、いつもとはまた違った印象だった。うちの奥さんもいっていたけれど、電子ピアノでも弾く人によって印象が変わるのってけっこう不思議な感じだ。
アンコール二曲目がこの日のライヴで個人的にもっとも楽しみにしていた、最新曲にしてアニメ『チェンソーマン』のエンディングテーマ『残機』。本編でやらなかったので、もしもやらないで終わってしまったらどうしようと、ちょっとはらはらした。この曲ではメンバー全員、肩のあたりにつけた風船ふたつが頭上でふわふわしてました。
いやしかし、『残機』にしろ、『ミラーチューン』にしろ、そしてこの日のラスト・ナンバー『あいつら全員同窓会』にしろ、この一年ちょいのあいだにリリースされた新曲がどれも強烈にダンサブルで最強すぎる。
ゲームセンターの外壁に「強」の文字が電飾で飾ってあったけれど、本当にいまのずとまよって最強だと思う。もう毎回楽しくてしょうがない。
(Nov. 13, 2022)
ずっと真夜中でいいのに。
GAME CENTER TOUR『テクノプア』/2022年12月21日(水)/東京ガーデンシアター
ずとまよの『テクノプア』二回目。今回はツアー最終日ひとつ前の公演を東京ガーデンシアターで観た。
なにも同じツアーを二度も観なくたっていいじゃんって思うのだけれど、片方だけ応募して抽選に外れると嫌だったので、複数申し込んだら両方とも取れてしまいました。別口で申し込んだうちの奥さんの分も取れてしまったので、この日は夫婦で別行動。僕はうちの子――ずとまよファンではないけれど、親があまりに夢中なのでちょい興味ありらしい――と一緒に観ることになった。
僕らの席はアリーナだったけれど――チケットに「2Fアリーナ」とあるので二階席だと思い込んでいたら、「2F」はライブハウスの入っているビルの二階という意味で、実質は一階相当だった――ガーデンシアターのアリーナ席って、オールスタンディングにも対応した可動式シートだということで、フロアの前と後ろで高低差がないせいで、うしろのほうの席だと前の人が邪魔でステージがよく見えなかった。
ふつうに座席に座った状態だとステージがちゃんと見えないなんて、設計ミスじゃなかろうか。オールスタンディングならば観やすい位置に移動もできるけれど、席があったのではそういうわけにはいかないし。こんなことならば、アリーナよりバルコニーのほうがよかったなって思ってしまった。
ということで、席がアリーナのうしろの方だったのに加えて、ずとまよファンは若い男の子が多いため、うちの子(身長は日本人女性の平均)は残念ながらほとんどステージが観えなかったそうだ。なんかわるいことをした。ずとまよといえばステージ装飾の豪華さも楽しみのひとつなのに。親として残念無念。
まぁ、かくいう僕自身もこの距離だとステージでなにが起こっているかはいまいちよくわからないので、今回はひたすら音楽そのものを楽しむだけに徹した感じだった。
ライヴのセットリストは前回の川口とほぼ一緒。唯一の違いは中盤のガチャを引いて選曲をランダムに決めるコーナーで、この日は『ろんりねす』を引いたあと、つづけてもう一度ガチャをまわして『正しくなれない』を出して、この二曲をメドレーで聴かせるというサプライズがあった。
調べてみたら、どうやらガチャ枠がメドレーだったのは今回の東京二公演だけ(翌日は『Ham』と『蹴っ飛ばした毛布』だったらしい)。しかもこの日のアレンジはこの時期ならではのクリスマス仕様。ジングルベルがシャンシャン鳴って、いつもはシリアスな『正しくなれない』が楽しげなホリデー気分のアレンジになっていた。これが観れただけでも同じツアーに二度足を運んだ甲斐ありだ。
今回もうひとつ重要だったのが、キーボードがバンマスの村山☆ジュンだったこと(彼とコジローくんとオープンリールの吉田兄弟以外のメンバーはあいかわらずわからない。ACAねがツイッターでツアーメンバーを紹介していたけれど、全員ニックネームなうえに各パート二名ずつなので誰が誰やら)。エレカシのファンとしてはキーボードが彼だとやっぱり嬉しい。
村☆ジュンといえば、『正義』でのピアニカのイントロが回を追うごとに長くなっていて、正直いささか食傷気味なのだけれど、この日はそこで終わったばかりのカタールW杯の番組のジングルを奏でていたらしい。
――らしい、なんて書くのは僕がそれに気がつかなかったからで、なんかしつこく同じフレーズを繰り返しているけれど、これってなんだろうとか思ってしまった。一ヶ月間毎晩のように聴いていたはずなのに。不覚すぎる。
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ライヴ自体とは関係のないところで驚いたのは、そのガチャ枠のふたつ前の『夏枯れ』が始まるまでのインターバルで、まわりの観客がいきなり全員座ってしまったこと。バラードが始まったとかじゃないよ? 次の演奏が始まるまでの待ち時間だよ? その次はしゃもじ大活躍の『彷徨い酔い温度』じゃん! 曲順を知ってか知らずかわからないけれど、そのタイミングで座る?
ずとまよのファンって基本的に腰が重すぎる嫌いがある。ガチャ枠でACAねに「座ってください」といわれて座ったあと、その次の『消えてしまいそうです』では、モニターに「STAND UP」という文字が出るまで立たないし。そもそもオープニングでも毎回ACAねが登場するまで立たないし。どんだけ足腰弱いんだ、若者たち。いま日本でいちばん踊れるバンドの生演奏を観ているんだから、もうちょっとはっちゃけて欲しい。
まぁ、そんなこというなら、お前が率先して立てよって話なんですけどね。すでに四捨五入すると還暦っておじさんが率先してうしろの若者たちの視野をふさぐのもなぁって思ってしまう。どうにも遠慮が勝ってしまう。そのへん俺もやっぱ平均的な日本人だよなぁって思う。
そういえば、アンコールの『Dear Mr「F」』では途中から咳が止まらなくなってしまって難儀した(これが新型コロナ感染後初のおでかけだった)。それまではなんともなかったのに、この日いちばん静かなこの曲のときになぜ……。すでに感染の心配はないはずだけれど、まわりの人にはそんなことはわからない。となりに迷惑がかからないよう、途中からは抑え込もうと必至で、曲を楽しむどころじゃなかった。名曲なのに。残念。
まぁ、そんなわけで今回もいろいろありましたが、ずとまよのライヴはやっぱり楽しかった。娘と一緒だからあまり恥ずかしい思いをさせないようおとなしく観ようと思っていたのに、やっぱ聴いているとじっとしていられなくて、結局ノリノリでステップを踏んでしまった。
ほんとこんなに踊れるバンドめったにないと思う。ダンス好きな人にはぜひ一度ずとまよのライヴを体験してみていただきたいと思います。すんごい気持ちいいです。絶賛お薦め中。
(Dec. 29, 2022)