2022年6月の音楽

Index

  1. CAPRISONGS / FKA Twigs

CAPRISONGS

FKA Twigns / 2022

CAPRISONGS [Explicit]

 6月も今週一杯で、今年ももう半分が終わり。
 そんな2022年の上半期に、僕が洋楽でもっとも多く聴いたアルバムがこれ。UKの女性シンガー、FKA・トゥイグスの三枚目のフル・アルバム――ではなくミックステープ。
 ミックステープとはなんぞやが、いまいちよくわからないのだけれど、ウィキペディアを参考に考えると、リミックスなどで使用許諾を受けていない音源を使用した曲が含まれる作品のことという理解でいいんだろうか。
 このアルバムでいうと、彼女の過去の二枚とは違って、ゲストが何人も参加しているので、その部分の版権の問題で通常のアルバムとは区別されているのかもしれない。実際に通常の流通経路には乗らず、CDほかのフィジカル・メディアでは販売されていない(アマゾンでだけはなぜか売っているけど)。
 なので聴く方法は配信オンリー。音楽の視聴方法をCDだけに頼っているユーザーには聴けないという点では、ミックステープは新旧ユーザーをわけるリトマス試験のような役割を果たしている気がしなくもない。
 まぁ、そういう商業的な都合はともかく、作品自体は新曲ばかりを収録したトータル49分のアルバムだから、普段からストリーミングで音楽を聴いている僕らのようなリスナーにとっては通常の新譜となんら変わりなし。
 FKA・トゥイグスは2014年のデビュー・アルバム『LP1』から高い評価を受けていて、その翌年のフジロックで来日した際にも、ライブ・パフォーマンスが絶賛されていたので、僕も興味を持って聴いてみたけれど、残念ながら、なぜかそのときにはまったくぴんとこず。僕が彼女のファンになったのは二枚目の『Magdalene』からだった。
 こちらは素直にすごいと思った。でもって、そこからさかのぼって前述のファーストや過去のEPを聴きなおしてみたところ、どれも非常に完成度が高くてびっくり。とくに二枚目から作風が変わったとかでもないし、なぜに俺はファーストのときにこのよさに気がつかなかったんだと、自分で自分に驚いたという(わりとよくあるパターン)。まぁ、基本的にはスローな曲ばっかりだし、その頃の僕のモードにはあわなかったんだろうなぁと思うばかり。
 今回の作品については、ゲスト多数が参加したミックステープということもあってか、過去の二枚とはいささか性格が異なっている。
 旧作はどれもサウンド・デザインやコーラスワークが秀逸で、非常にストイックかつテンションの高い印象だったけれど、それに比べると今回はゲストが多いこともあって、随分とゆるいというか、これまでになくリラックスしたイメージが強い。
 ジャケットのデザインからして違いが顕著だ。自らの顔をマネキンのように見せかけたファースト、粘土人形のように加工したセカンドと、素顔を素のままにはさらさない匿名性がそのまま密室的な音作りに通じていた過去作と比べて、今回はあっけらかんと素顔をさらしている。
 結果として出てきたサウンドは、旧作と比べるとやや一般的な最近のR&Bって気がしなくもないけれど、でも僕にはこのリラックスした感じはそれはそれでとても魅力的だった。
 鈴が鳴るような彼女のソプラノ・ヴォイスは力みないがゆえに涼しげで、これからの暑い暑い夏にもぴったりな気がする。タイトルの『カプリソングス』も夏っぽいし、下期によほどの傑作のリリースがなければ、もしかしたらこれが今年の通年での洋楽フェイバリットになるかもしれない。
(Jun. 26, 2022)