2020年12月の音楽
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- Punisher / Phoebe Bridgers
Punisher
Phoebe Bridgers / CD, LP / 2020
ずとまよやヨルシカのおかげですっかり邦楽中心になってしまった僕の音楽生活だけれど、べつに洋楽を聴かなくなったわけではなくて、いまでも聴いている新譜の数でいえば圧倒的に洋楽のほうが多い。
ただ、再生回数が多いのは邦楽で、洋楽は一回聴いただけでおしまいって作品が大多数だったりする。わざわざ金を払ってCDを買っていたころとは違い、いまは膨大な作品がストリーミングで聴けてしまうので、一回聴いてぴんとこなかった作品はそれきりってことが増えた。
そんな中で今年もっともたくさん聴いた洋楽のアルバムがこれ。
LA出身のシンガーソングライター、フィービー・ブリッジャーズのセカンド・アルバム。2017年のデビュー・アルバムがよかったのでいずれ感想を書こうと思いつつ、書かずにいるうちにあっというまに時間が過ぎて、二枚目が出てしまった。
この子は柔らかで力の抜けたその歌声がとにかく素敵。ファーストはアコースティックな響きがその柔らかな印象をさらに強めていたけれど、このセカンドではその辺の魅力はそのままに、音作りの幅がさらに広がって全体的な深みが増している。
今作の音響面でとくに印象的なのが、リード・シングルの『Kyoto』と、ラスト・ナンバーの『I Know The End』。
『Kyoto』はその名の通り、2019年の来日ツアーでの思い出を歌った曲で――とはいっても、日本のことが歌われているのはファースト・コーラスだけだし、決していい思い出とはいえない感じの歌詞だけれど――初めて聴いたときには、それまでにない打ち込みっぽさの単調でチープなビート感に「新作は大丈夫なんだろうか?」と不安になったものだった。
ところが、この曲がなぜか繰り返し聴いているうちに癖になる。やや安直なのではと思ったその音作りも、アルバムのサウンド面での多彩さを引き立てる一因となって、もしや作品の魅力の一端を担っているのではと思う。サビを盛り立てる直線的なホーン・アレンジも効果的だし、いつもはアンニュイな女の子が少しだけ羽目を外してみた、みたいなところがとても魅力的な一曲。
ラストの『I Know The End』は、前半と後半で曲調ががらっと変わる、無理やり二曲を一曲にしたような構成の曲なのだけれど、これが最後はサージェント・ペパーか、はたまたジギー・スターダストかっていうドラマティックな終わり方をする。その余韻がすごい。全体的に静かなイメージだから、最後に予想外な盛り上がりがあることで、なんともいえない深い余韻が残る作品に仕上がっていると思う。
ファーストから引きつづき、全体的なメロディのよさは言わずもがな。英語が得意ではない僕には歌詞のよしあしは判断できないけれど、英米では作詞面でも高評価を受けているらしい。確かに歌詞カードを眺めていても、単純なラブソングはひとつもない感じで、じわりと情感が滲みだしてくるような微妙なニュアンスの歌ばかりのような気がする(まぁ、あくまでするだけだけど)。
ということで、魅惑の新鋭女性ボーカリストによる、音響面でも楽曲面でも充実の第二作目。出来映えのよさにジャケットの可愛さも手伝って、思わずCDとアナログ盤を両方買ってしまった。今年の僕の洋楽ナンバーワンはこれで決まりです。
(Dec. 13, 2020)