2019年6月の音楽
Index
- ANTI ANTI GENERATION / RADWIMPS
- Look Now / Elvis Costello & The Imposters
- The Prophet Speaks / Van Morrison
ANTI ANTI GENERATION
RADWIMPS / 2018 / CD
また音楽の感想を書くのをなまけていたら、リリースからすでに半年以上がすぎてしまいました。
インディーズでのデビュー盤や『君の名は』のサントラを含めると通算十枚目となる、記念すべきRADWIMPSの最新アルバム。
今回の目玉はなんといっても去年の暮れに放送されて大きな感動を生んだNHKの人気企画『18祭』で披露した二曲、『万歳千唱』と『正解』が収録されていること。それも『正解』はあの番組でのバージョンがそのまま収録されている。
これはちょっと意外だった。僕は二曲とも新しくレコーディングしたオリジナル・バージョンが入っているものと思っていたので。
あの番組はとても感動的だったから、その音源をそのまま聴けるのは嬉しいのだけれど、でも正直いっちゃうと、『正解』については、僕は野田くんがひとりで歌うバージョンも聴いてみたかった。
反対に、どちらかというと『万歳千唱』は「18FES Ver.」で聴かせてもらえたほうが個人的には嬉しかった。ここでのアルバム・バージョン――桑原くんお得意のバグパイプ風のギターがフィーチャーされている――からはあの番組ほどのダイナミズムが感じられないので。
そういう意味では、この二曲に関しては、僕の好みとバンドの方向性が逆を向いてしまっている。その点はやや残念なところ。
このアルバムにはそのほかにも『カタルシスト』『洗脳』『Mountain Top』『サイハテアイニ』という先行シングル四曲が収録されている。アルバム全体の収録曲数が十七曲と多いので、新曲もたっぷりと聴けるのだけれど、それでもやはり知っている曲が多い分――しかもラストに三曲つづけて知っている曲が並んでいる分――過去のアルバムに比べると新鮮さが控えめ。
あと、今回は彼らの作品では初めてゲストが参加している。ONE OK ROCK の TAKA、あいみょん、ラッパーの Miyachi と SOIL & "PIMP" SESSIONS のトランペッター Tabu Zombie といったミュージシャンたちが参加した楽曲郡は、それぞれの個性を生かしたバラエティー豊かなもの。
なかでも『泣き出しそうだよ』でのあいみょんのボーカルが絶品だ。彼女にこんなソウルフルでセクシーな一面があるとは思わなかった。あいみょんの隠れた魅力を引き出した野田くんのプロデュース能力に感心した。
あと、サウンド面では野田くんのソロ・プロジェクト illion の影響がそのままラッドに派生していて、音作りが非常に多彩になっているのが今回の特徴。『君の名は』の流れを受けてオーケストラの使い方も堂に入っている。
でも、そうしたサウンド面での多様性に、個性豊かなゲスト陣、そして既存曲の多さ、これら三つがあいまった結果、このアルバムではこれまでになくRADWIMPSというバンドの個性が見えにくくなってしまっている気がする。まぁ、これがいまのラッドだってことなのかもしれないけれど。
あと、個人的に苦手というか、このアルバムの最大の弱点だと思うのが、野田くん自らがパパラッチされた経験を下敷きにした辛らつなラップ・ナンバー『PAPARAZZI ~* この物語はフィクションです~』、この曲がアルバムのど真ん中に据えてある点。
曲自体が嫌いなわけではなくて、この曲自体はものすごく個性的でインパクト大な傑作だと思うのだけれど、あまり何度も繰り返し聴きたくなるタイプの曲ではないので、それが寸劇をともなってアルバムのど真ん中に据えられている構成が、アルバム全体としての求心力を損なっている気がしてしかたない。できればこの曲はシングルかそのカップリングにしておいて欲しかった。
楽曲個々で見るならば、『そっけない』のピアノ中心の深みのあるの音響とかバンドとしては新機軸で否応なくぐっとくるし、アルバムの流れのなかで聴く『Mountain Top』のメロディーの美しさは息を呑むほどだ。あいみょんの『泣き出しそうだよ』や、とりを飾る『正解』を含めた、それらのバラード郡の素晴らしさが、僕にとっては今回のアルバムのクライマックスだった。
(Jun. 16, 2019)
Look Now
Elvis Costello / 2018 / CD
なまけていたらリリースから半年以上すぎてしまいましたシリーズその二はエルヴィス・コステロ&ザ・インポスターズの新譜。
これはひさびさにコステロ節の炸裂した良作。明るい旋律のメロディアスな楽曲だらけで、こういうコステロを聴かせてもらうのもすごいひさしぶりだ。
全体的なテイストは初期の名盤を思い出させるものながら、ときたま「あれ、これはバカラック?」と思わせる曲もある。で、クレジットを確認してみると、やはり三曲がバート・バカラックとの競作だったりする。あと、珍しいところではキャロル・キングとの競作曲も一曲ある。
インポスターズ名義のアルバムではあるけれど、目立っているのはデイヴィー・ファラガーのベースくらいで、バンド自体の押し出しは比較的控えめ。そのぶん、オーケストラが全面的に入っていたり、女性コーラス隊がフィーチャーされている曲がけっこうあったりと、単なるバンド・サウンドを超えた豊かな音作りがなされている。
いわば、四十年を超えるそのキャリアの中で培ってきた豊かな音楽性を、バンド仲間に多くのゲストも加えて、長年のファンが喜ぶような形であらためて作品にしてみましたみたいな? そんなファンとしてはこたえられない一枚。
(Jun. 16, 2019)
The Prophet Speaks
Van Morrison / 2018 / CD
「リリースから半年がすぎています」シリーズ第三弾は、去年の暮れにリリースされたヴァン・モリソンの最新作。
ここのところ異常に多作なヴァン・モリソン先生。去年は春先にジョーイ・デフランセスコというジャズマンとの競作でアルバム『You Drive Me Crazy』をリリースしたと思ったら、その年の暮れにはもう一枚、これをドロップしてきた。
さて内容はと思ったら、その音はびっくりするくらい前作と同じジャズ路線。それもそのはず、全曲にジョーイ・デフランセスコの名前がクレジットされている。プロデュースにも彼の名前がある。要するにデフランセスコ氏との競作・第二弾なわけだ。
なぜに前作の競作者と組んで、もう一枚べつにソロ名義のアルバムを作っているのかはわからない。前作が音響的には気に入っていたけれど、選曲に自分の趣味がじゅうぶんに反映できなかったから、もう一枚つくりたくなっちゃったとか? それともレーベルとの契約の問題?
ま、いずれにせよこのアルバムは前作との姉妹盤とでもいった位置づけの作品の模様。全十四曲のうち、ヴァン・モリソンのオリジナル曲が六曲で、あとはカバーという構成もこのところの何枚かと同じ。要するにヴァン・モリソン版・温故知新シリーズの第四弾といっていいと思う。
しかしまぁ、このところの四作すべてにいえることだけれど、オリジナルとカバーが混在しているのに、ぜんぜんその境目がわからない。みごとな統一感のあるアルバムに仕上がっているのがすごい。
内容はブルース多めで激渋なので、お気に入りはそんな中にあって、とてもかわいいオリジナル・ナンバー、最後から二番目の『Spirit Will Provide』。
どことなくユーモラスなジャケ写も好きです。
(Jun. 16, 2019)