2018年5月の音楽
Index
- You're Driving Me Crazy / Van Morrison & Joey DeFrancesco
- Paradox / Neil Young + Promise Of The Real
- フラレガイガール / さユり
You're Driving Me Crazy
Van Morrison & Joey DeFrancesco / CD / 2018
またもや前作から半年たらずという短いインターバルで届けられたヴァン・モリソンの新譜。
今回はジョーイ・デフランチェスコという人との共作なので、さてどんなだろうと思ったら、この人がオルガン奏者にしてトランぺッターというジャズマンで、それゆえバンドの音はオルガンを中心としたジャズ系のもの。でもって選曲はカバーとモリソン氏の旧作のリメイクが半々といったところ。
ということで、要する前二作とほとんど同じ路線の、温故知新シリーズ第三弾って感じのアルバムだった。
サウンドがオルガン主体なので、全体的な印象はジョージ・フェイムとの共演作に近い。でもそれよりもっとジャズ寄り──というか、もろにジャズ(なんたってビルボードのジャズ・アルバム部門1位)。わざわざクレジットが共作になっているくらいだから、バンドの主導権を握っているのはジョーイさんなんでしょう(なんと僕より年下)。そのナチュラルな響きはとても心に優しい。ジョージ・フェイムとの相性もよかったし、ヴァン・モリソンの歌ってオルガンにとてもよくあう気がする。
なかでも個人的にもっとも好きなのは、かの名曲『Have I Told You Lately?』の新録バージョン。オリジナルではしっとりとしたバラードだったこの曲が、このアルバムではシャッフル・ビートのポップな仕上がりになっていて、オリジナルとはまた違った旨みがある。娘のシャナ・モリソン嬢とのデュエットってところも沁みます。
(May 27, 2018)
Paradox
Neil Young + Promise of The Real / CD / 2018
なんだかこのところ、この人とヴァン・モリソンの新譜ばっかり聴いている気がしますが。今回のニール・ヤングの新譜は同名映画のサントラ。
芸能情報にうとい僕が知らないうちに、ニール・ヤングは奥さんのペギーと三年ほど前に離婚してしまったそうで、現在は女優のダリル・ハンナと交際中だとかなんとか。
で、そのダリル・ハンナさんが監督を務めたNetflix制作のオリジナル映画のサントラがこれ。
まぁ、サントラといっても、抽象的な映画音楽っぽさはほとんどなくて、演奏はバンドの音そのまま。とはいっても、決して一本調子なものではなく、音作りはバラエティに富んでいて、あたかもギター・サウンドの見本市のような趣がある。そこがいい。
楽曲はニール・ヤングの過去の楽曲をプロミス・オブ・ザ・リアルとともに再録したものが中心で、『デッドマン』のようにインストだけではなく、歌ものもたっぷりと収録されている(ルーカス・ネルソンがボーカルの曲もある)。
曲の長さは長短まちまちで、映画の内容にそった1分ちょいの断片的なトラックがある一方、『Cowgirl Jam』というタイトルで『Cowgirl in the Sand』のインスト・バージョンが10分以上にわたって収録されていたりもする。そうした21曲にも及ぶ楽曲群がバラエティ豊かなギター・サウンドとあいまって、とても味わい深い作品に仕上がっている。
Netflixで公開されている映画も観てみたけれど、そちらはニール・ヤングとプロミス・オブ・ザ・リアルの面々が主演をつとめる風変わりな西部劇で、映像はパキっとした色使いが鮮やかでとても美しいけれど、内容はいまいちよくわからなかった。西部劇といいながら途中でバンドのライヴ・シーンがあったりするし、まるで長すぎるミュージック・ビデオを観ているみたいだった。
ということで、ダリル・ハンナさんには悪いけれど、僕個人はその映画を観ているよりも、このアルバムを聴いているほうがよほど楽しかった。
(May 27, 2018)
フラレガイガール
さユり / 2016 / CD+DVD / 初回生産限定盤A
RADWIMPSの野田洋次郎がさユりという新人アーティストに『フラレガイガール』という曲を提供したと聞いて、それではいっちょう聴いてみようかと思ってから、はや一年半。
そのときには名曲と思いつつも、Apple Musicで聴いただけで満足してしまい、CDを買うまでには到らなかったのに、いまさらそのシングルを買う気になったのは、初回限定盤AのボーナスDVDに収録されている、わずか7分ばかりのライヴ映像が観たかったから──なのですが。
いざ聴いてみたら、その映像うんぬん以前に、シングルの最後に収録されている『ルラ』という曲がとんでもない名曲で、そっちに全部持ってゆかれてしまった。
『ルラ』はシンデレラをモチーフにしたアッパーなポップ・チューンで、メロディ、歌詞、ビート感、音作りとすべてが満点の仕上がり。
楽曲自体はさユりのオリジナルではなくて、n-bunaというボカロP(ボーカロイドで曲を作っている人をそう呼ぶらしいです)の曲なのだけれど、その歌の描くイメージがさユりの世界観にどんぴしゃ。そしてその楽曲に彼女の歌声がベストマッチ。あまりにはまりすぎているので、まさかこれが他人の曲だとは思わなかった。
ボカロというからにはオリジナルは初音ミクみたいなやつなんでしょう。少なくても僕がそのバージョンをこれより気に入るとは思えないし(いずれちゃんと聴いてみようかとは思っている)、この曲に関してはこっちが世界最強と信じる。
とにかく、シンデレラをモチーフにして十代の少女のネガティヴな心情をぶつけた、切なくもユーモラスな歌詞が素晴らしい。「かぼちゃの馬車でも出せないとさ、舞踏会なんて行けないんだ」からの流れは絶品だし、「タリルタラ」やら「あっはっは」などといった、意味のないコミカルな言葉に絶妙なペーソスを込めて歌詞にのせるセンスも抜群だと思う。本当にこの歌詞は隅から隅まで素晴らしい。
かつてボブ・ディランの『風に吹かれて』を聴いたサム・クックが「この曲は黒人である自分が書くべきだった」と嫉妬したという話があるけれど、もしも僕が女の子だったら、同じように「なんでこの曲を書いたのが私じゃないんだろう」って残念に思ってしまいそうなくらい。
で、この曲の場合、単に歌詞がいいだけではなく、曲自体の出来も秀逸。どことなく和風な感触のあるダンサブルなメロディといい、転がるようなピアノが印象的なギター・サウンドといい、もうすべてが文句なし。そんな素晴らしい楽曲がさユりのあの強烈な声で歌われるんだから、その破壊力たるや唯一無二。ほかにたとえようがない。
すでに二年前のクレジットの楽曲だけれど、今年の僕にとってのナンバー・ワン・ソングはこれで決まりって一曲。あまりに好きすぎて、僕はわずか一週間のあいだにこの曲を五十回以上もリピートしてしまっている。たった一曲をそんなに何度もリピートしたのって、おそらく長い人生でも初めてだ。自分でもちょっと気持ち悪い。
しかしまぁ、『フラレガイガール』と『アノニマス』だけでも強力きわまりないのに、そこに『ルラ』が加わったこのシングルのポテンシャルたるや……。
僕の音楽人生史上、最強レベルのシングルがここにある。
(May 27, 2018)