2015年7月の音楽

Index

  1. My Love Is Cool / Wolf Alice
  2. The Other Side of Desire / Rickie Lee Jones
  3. The Monsanto Years / Neil Young & Promise of the Real

My Love Is Cool

Wolf Alice / 2015 / CD

My Love Is Cool

 ロンドンから現れたボーカル紅一点の新人バンド、ウルフ・アリスのデビュー・アルバム。
 僕が初めてこの人たちの音楽を聴いたのは、どうやらいまからおよそ一年ちょい前のことだけれど、バンド自体はそれ以前から注目を浴びていた。
 調べてみたら、ボーカルのエリー・ロズウェル嬢がジェイク・バグらと並んで、期待のルーキーとしてNMEの表紙を飾ったのが2013年10月のこと。
 当然それ以前にデビュー・シングルは出ていたんだろうから、要するに、そこからこのファースト・アルバムをリリースするまでに、じつに2年近くを費やしたことになる。
 なぜそんなに長いことかかったのか、理由は定かじゃないけれど、その伏線は当初からあった気がしている。というのも、これ以前の作品からは、いまいちこのバンドの独自色が見えにくかったから。
 このアルバムに先行して、彼女たちは2枚のシングルと2枚のEPをリリースしている。ところがその4作のカラーは、音楽的にもビジュアル的にも、まったく異なっていた。
 僕自身は2枚目のシングル『Bros』の90年代初頭を思い出させるキラキラとしたロック・サウンドに魅せられて彼女たちの音楽を聴き始めたのだけれど、それにつづく2枚のEPはまったくテイストが違って、より内省的な色が強かった。
 アートワークにしても、パグが交尾していたり、あどけない姉妹の写真を使ったり、女性のヌードを大胆にあしらったり、謎のイラストだったりと、てんでバラバラで、デビュー当時のオアシスのようなトータル・コンセプトはゼロ。ここまでビジュアルのイメージに統一性がないってのも珍しいと思った。
 とにかく音を聴いても目で見ても、バンドの確固たる個性というようなものが見えてこなかった。
 はてさて、ウルフ・アリスとはいったいどのようなバンドなのか──。
 満を持してリリースされたこのファースト・アルバムを聴けば、その答えがわかるかといえば、僕の答えは、やはりノーだ。
 あいかわらず、僕にはウルフ・アリスというバンドがよくわからない。
 いや、たんに音楽的なことでいえば、ここで鳴っている音楽は間違いなくロックだ。それもUKの典型的なオルタナティヴ・ロック。しかもギター・オリエンテッドなやつ(つまり僕の大好きなジャンル)。かわいい女性ボーカルをフィーチャーしたギター・ロックが好きな人はぜったいに聴いた方がいい。
 ただ、ひとことでロックとはいっても、そのスタイルは多岐にわたる。
 一曲目の『Turn to Dust』はいきなり静謐感の漂うスロー・ナンバーで、僕はこれを聴いてドーターを思い出した。つづくシングルの『Bros』はマッドチェスターなテイストのダンス・チューン(新録バージョンになってシングルのときのキラキラ感が薄れた)。アルバムのクライマックスともいうべき『Fluffy』(これもシングルの新録)では緩急のついたダイナミックなグランジ・サウンドを聴かせる。各楽曲の振幅の広さには、あたかもUKギター・ロックのジャンルを総括しているような印象さえある。
 ボーカルのエリー嬢にしても、少女のような透き通る声を聴かせる一方で、やんちゃでパンキッシュなシャウトを聴かせる歌もある。こういう両面が同居するボーカリストって、あまりいないと思う。技術的に難しいからではなく、そうすることでスタイルがぶれて、キャラが不明瞭になるから、ふつうはやらない気がする。趣味的にどちらかに偏るのが一般的だと思う。
 あれこれ思うに、彼女たちはいまだ自分たちのサウンドを見つけられていないんじゃないだろうか。それゆえの試行錯誤がこのアルバムの完成を遅らせたのではないかって気がする。そしてこのアルバムをリリースした時点でもなお、その状況は変わっていない印象を受ける。いまだ彼女たちは自分たちの進むべき方向性を模索しているように思える。
 ということで、ウルフ・アリスをひとことで表現するならば、僕がふさわしいと思う言葉は、ずばり「未完成」だ。
 ただし、それはあくまでもバンドとしての話。一個の作品としてこのデビュー・アルバムを聴くかぎり、その出来は決して未完成ではない──どころか、なかなか素晴らしい。少なくても演奏力や楽曲の出来にはまったく不満がない。これだけの作品を作ってなお、発展途上だとかいったら、かわいそうかもしれない。でも素直にそう感じちゃったんだからしかたない。出来映えは上々。だたし、このバンドならではの確固たる個性が見えないところ。そこが唯一の欠点だと思う。
 このバンドがこの先、どうなるのかはわからない。結局このファースト一枚だけであとは泣かず飛ばずに終わりそうな気もするし、試行錯誤の果てにさらなる傑作を作り上げる可能性だってなくはないだろう。
 いずれにせよ、そんな先行き不透明な不安定さも若きロック・バンドにとっては魅力のうちかなって思わせる。そんな素敵なデビュー・アルバム。
(Jul 31, 2015)

The Other Side Of Desire

Rickie Lee Jones / 2015 / CD

The Other Side of Desire

 リッキー・リー・ジョーンズ、前作『The Devil You Know』から3年ぶり、オリジナル・アルバムとしては6年ぶりの新作。──って、どちらも、もうそんなにたつのか。時間が流れるのがはやいこと、はやいこと……。
 内容的には、前々作『Balm in Galead』と同じ流れを汲んだ作品だと思う。アメリカの伝統的なポップ・ミュージックを、地に足をつけてしっとりと鳴らしてみましたって感じの味わい深い仕上がりになっている。
 気がつけば、リッキー・リー姉さんも、もう六十歳すぎ(ちょうど僕よりひとまわり上)。もはや、つべこべ難しいことはいわずに、気持ちのいい音を気持ちよく鳴らしていたいだけって、そんな心境なんではないでしょうか。
 最小限のバンド編成で奏でられる、優しく柔らかで温かみのある音作りがとにかく心に沁みる。涼やかな微風の吹く夕暮れどきの海辺を、砂を踏んでゆっくり歩いているような気持ちのいいアルバム。
 それにしても、一曲目『Jimmy Choos』の歌い出しの、いまだ少女のような声の響きにはちょっとびっくりした。知らなかったら、とても還暦すぎの女性の声だとは思わないんじゃなかろうか。この歌声の変わらなさもすごい。
(Jul 31, 2015)

The Monsanto Years

Neil Young & Promise Of The Real / 2015 / CD

The Monsanto Years

 ニール・ヤングがウィリー・ネルソンの息子が率いるバンド、ルーカス・ネルソン&プロミス・オブ・ザ・リアルをバックにして録音した最新作。
 息子の世代のバンドと組んで、いったいどんな音を聴かせてくれるのかと思っていたら、いきなりオープニング・ナンバーのイントロから、しゃらんしゃらんとクリアな、らしからぬエレクトリック・ギターの音色。こりゃいつもと違うぞと思っていると、そこにかぶさってくるのが、いつものノイジーなレスポール・サウンド。
 この新旧二世代のギター・サウンドの組み合わせがとてもいい。べつにルーカス君たちがとくべつ新しいことをやっているってわけではないんだけれど、速球一本槍なニール・ヤングのギター・サウンドに若者がちょっぴり違ったニュアンスを持ち込んできたのがとても効果的。いい感じの化学反応を引き起して、サウンド的にとても気持ちのいい作品に仕上がっている。
 ロック界で最も元気なお爺さんニール・ヤングは、この数年も絶えることなく次々と新作をリリースしてきているけれど、残念ながらあまりいいリスナーといえない僕にとっては、いささかとっつきにくい作品が多かった。
 2010年以降でいえば、『Americana』はサウンド的には好きだったのだけれど、カバー・アルバムってことで油断して、あまり聴かないでいるうちに、次の姉妹盤『Psychedelic Pill』が出てしまい、そちらはそちらで音響のよさは同じながら、一曲27分オーバーの曲から始まるCD2枚組で計9曲というロックらしからぬ過剰なボリュームゆえ、繰り返し聴けずに終わってしまった。
 つづく『A Letter Home』は特殊なレコーディング・ブースでの一発録りされたというその音質の悪さがどうにも好きになれず、一度しか聴かずに終わり。
 前作『Storytone』はアコギ弾き語りバージョンとオーケストラ・バージョンの2枚組という特殊なフォーマットゆえ、どちらを聴くべきか迷っているうちに、気がつけば過去の作品となってしまった。
 ということで、最近はどうにもうまく聴けないでいたニール・ヤング先生の作品だけに、今作はひさしぶりのヒットでした。まぁ、どれも個性的でおもしろい作品なのに、ちゃんと受け止められない僕がリスナーとして駄目なだけって話だけれど。
 あと、タイトルにある「モンサント」は、なんでも遺伝子組み換え食物の世界シェアが90%という大企業の名前だとのことで(当然そんなことは知らない)、今作はその会社やら、関連会社のスターバックスに抗議する内容らしい。非難する相手の名前を大々的にアルバム・タイトルに掲げて宣伝しちゃうってのもすごい。
 とはいえ、当然ながら、そういうメッセージ的な部分はまったくわかっていませんので、念のため。あくまでサウンド的にとても気持ちいいぞと。僕は情けなくもその程度のロック・リスナーです。
 まぁでも、スターバックスをやり玉にあげた曲のタイトルが『A Rock Star Bucks A Coffee Shop』ってのは──"buck"は米口語で「反抗[抵抗]する」の意味とのこと(研究社新英和辞典より)──ナイスだと思う。曲調が下手に強面なものにならず、どことなくコミカルなロックン・ロール・ナンバーに仕上がっているところもいい。プロテスト・ソングとしては出色の出来なのではないでしょうか。
(Jul 31, 2015)