2013年10月の音楽

Index

  1. 五月の蝿/ラストバージン / RADWIMPS

五月の蝿/ラストバージン

RADWIMPS / 2013 / CD

五月の蝿 / ラストバージン

 RADWIMPS、今年2枚目のシングルは、非常に物議をかもしそうな血みどろで物騒なシロモノだった。
 昔から愛と憎しみは表裏一体。愛する者に裏切られたショックのあまり、「お前なんか死んでしまえ!」と叫んでしまう──そんな話は物語としては月並だ。でも、普通の人はそんな憎悪を衝動的に吐き出しこそすれ、何度も繰り返したりはしない。
 ところが野田洋次郎という人は、そんな醜い感情をわざわざ歌にしてしまう。それも単に「死ね!」というには飽きたらず、とことんエスカレートさせて。
 「僕は君を許さないよ」を連発する歌い出しからして辛辣なのに、それだけでは飽き足らず、死体になった君が見たいだの、はらわたで縄跳びしてやるだのと、病的なまでの憎悪をとことんむき出しにしてみせる。
 まぁ、最終的にこの曲は、母親となって悲しみのどん底を味わっている未来の彼女に彼が救いの手を差し伸べることにより、それまでの憎悪を愛に反転させる形で終わっているように見える。一見そこには救済があるようではあるんだけれど、それにしたって恋人の未来に悲しみを想定するところに、ある種の救いようのなさがにじんでいるように僕は思う。
 この曲がすごいと思うのは、世間の顰蹙{ひんしゅく}を覚悟の上で、そんな救いようのない憎悪を赤裸々に歌にしてさらけ出してみせる野田くんの姿勢。そしてそんなひどい内容にもかかわらず、その醜さをきちんと昇華してカタルシスを与えてくれる楽曲とアレンジの力強さ。ここまで共感できないのに、ここまで聴き返さずにいられない曲というのも珍しい。いってみれば、『狭心症』の異母兄弟とでもいった印象の一曲。それが『五月の蝿』。
 カップリングの『ラストバージン』は、それとは一転、十八番の運命の恋を真正面から歌った感動的な純愛バラード。両A面扱いながら、絶対に受けること間違いなしのこちらではなく、『五月の蝿』を前に持ってくるあたりが振るっている。
 さらにもう一曲、味噌汁's名義でのコミカルな新曲『にっぽんぽん』の計3曲。RADWIMPSというバンドのいいところも悪いところもたっぷりと込めましたって感じの、とても内容の濃いシングルだと思う。僕がもし今年のシングル・オブ・ザ・イヤーを選ぶとしたら、3曲の合わせ技でこれに決まり。
(Oct 29, 2013)