2012年8月の音楽
Index
- シュプレヒコール / RADWIMPS
- Swing Lo Magellan / Dirty Projectors
シュプレヒコール
RADWIMPS / CD / 2012
RADWIMPS、1年半ぶりのニューシングル。
今回のシングルは、やや微妙な仕上がりになっている。少なくても熱烈なファン以外の人には、ややとっつきにくいのではないかと思う。
タイトル・ナンバーの『シュプレヒコール』は、歌詞の内容的に、おそらくこれまでの野田くんの曲の中でも、もっとも抽象的でわかりにくい1曲だ。たんに僕の頭が悪いだけかもしれないけれど、少なくても僕には、彼がなにを言いたいのかがよくわからない。言いたいことがストレートに伝わってこない。なぜ『シュプレヒコール』というタイトルなのかも、よくわからない。
なもので、彼の歌と出会ってから常に感じ続けてきた、問答無用にその歌の世界に引きずり込むような言葉の魔力を、今回の曲からはあまり感じない。要するに中毒性が低い。その点で、若干もの足りなく感じてしまう感は否めない。まぁ、楽曲や音作りは勢いがあっていいと思うのだけれど。
さらに今回はカップリングも異彩を放っている。
2曲目の『独白』は坂本龍一を思わせるエスニックなピアノをフィーチャーしたバックトラックに乗せて、野田くんがバンドを始めたころの思い出や音楽への思い、さらにはバンドの仲間たちひとりひとりに対する愛を語るスポークン・ワード(トーキング・ブルース?)のナンバー。
RADWIMPSの作品ではあるけれど、歌われている内容のプライベートさと音作り(多分ギターは鳴ってない)からして、おそらく野田くんがひとりですべて手掛けているんじゃないかと思う。
とにかく、バンドの現在・過去・未来をストレートに語っている点で、ファンにとってはとても貴重な1曲だ。とくに終盤、T、S、Kとそれぞれイニシャルを並べて、バンド仲間へのエールを贈る部分は掛け値なしに感動的ではある。とはいえ、メロディがある普通の曲ではない上に、8分以上という長さなので、繰り返し何度も聴き返せるタイプの曲じゃない。
さらにボーナス・トラックとして収録された3曲目は、最近成長いちじるしい野田くんのピアノをフィーチャーしたアドリブのインスト・ファンク・ナンバー。
要するに、シングルらしい普通の歌ものは1曲目のみという。そういう、ある意味、実験的な内容になっている。
個々の曲のグレードはさすがの高さだし、それぞれ方向性がはっきりしていて、とても個性の際立った内容だと思うのだけれど、これで初めて RADWIMPS を聴くという人は、ちょっと戸惑ってしまうんじゃないだろうか。あまりコマーシャリズムは気にせずに、やりたいことをやりました、という感じの、けっこう強気なシングルだと思う。少なくても、僕自身がこの曲で彼らと出会っていたとしたら、いまのような深い思い入れを抱いたとは思えない。
とはいえ、現実問題として、僕は RADWIMPS に深く惚れこんでしまっているので、『シュプレヒコール』で野田くんがなにを言いたいかがわからないゆえに、何度も聴き返さざるを得なくなり、結果としてリピート率は、ここのところのシングルでは、『狭心症』についで高くなっているという。そんな作品。
(Aug 26, 2012)
Swing Lo Magellan
Dirty Projectors / CD / 2012
ダーティー・プロジェクターズの音楽のおもしろさは、ちょっと耳を傾ければ一聴でわかる、というたぐいのものではないと思う。少なくても「このアルバムのどこがそんなにすごいの?」と思う人がそれなりにいても不思議ではない。なぜって、かくいう僕自身が、前のアルバム『Bitte Orca』を最初に聴いたときに、いまいちそのよさがわからなかった口だから。
ということで、前作と同じ方向性にある今回のアルバムも、やはり一聴してこれってすげーって思うような作品だとは思えない。いきなりハンドクラップとアカペラのコーラスワークだけで始まるオープニングからして、やたらと音数は少ないし、全体的な音作りもきわめて手作り感が強いので、初めてこのバンドの音を聴く人にとっては、なにこれって作品のような気がする。
でも、それでいて、このバンドの音楽はやはり素晴らしいと思う。正直、先行配信された『Gun Has No Trigger』を聴いたときには、今回はあまりぱっとしないんじゃないかと思ったものだけれど、アルバム通して聴いてみたら、まったくそんなことはなかった。もう全編にあふれる音楽的なアイディアの豊富さでまったく聴き飽きさせない。例えれば、材料自体は平凡だけれど、細部まで手の込んだ芸術的な手工芸品のよう。
派手さこそないけれど、じっくり聴いていると、音楽をやっている側の喜びが聴いている側のこちらにもダイレクトに伝わってくるような充実感がある。ポップ・ミュージックには、まだまだたくさんの引き出しがあるんだって思わせてくれる、素晴らしいアルバム。ゆいいつ惜しむらくは、前作のジャケットを飾っていたショートカット美女、エンジェル・デラドゥーリアンがいつの間にか脱退してしまっていたことってくらいって作品。
いやしかし、エンジェルの脱退は惜しい……。
(Aug 26, 2012)