2011年5月の音楽
Index
- Dye It Blonde / Smith Westerns
- Lisbon / The Walkmen
- National Ransom / Elvis Costello
Dye It Blonde
Smith Westerns / CD / 2011
シカゴ発の3人組バンド、スミス・ウエスタンズのセカンド・アルバム。
ぜんぜん知らないバンドだったけれど、Pitchfork で高評価を受けているのを見て、ネットで試聴してみたらよさそうだったので買ってみた。
そしたら、いざきちんと聴いてみて、びっくり。ネットで聴いたときには通信環境が悪いだけだと思っていたけれど、CDで聴いても、なんだかとても、もこもこしている。なんだ、この古めかしいこもった音は? とても21世紀のバンドに聞こえないぞ。メンバーは全員二十歳そこそこだという噂なのに、なんでこういう音が出てくるんだろう?
レニー・クラヴィッツやホワイト・ストライプス、リトル・バーリーなど、昔っぽい音を鳴らすアーティストはいままでもいたけれど、そういう人たちの場合、ヴィテージ・ロックやブルースへの憧憬から出発している点で、音の出自があきらかだった。
でもこの子たちの場合、根本的にそれとは方向性が違う。スミス・ウエスタンズの音はもっとチープで、それでいてキャッチーだ。
要するにブルース色というか、黒人音楽色がまったくないところが、先にあげた先達たちとは決定的に違っているのだと思う。60年代末から70年代初頭にかけての、ポップ・ミュージックとしてのロックの空気感が見事に再現されている。なんだこりゃ?……な、それでいて魅惑的な楽曲群。
あとで Wikipedia を調べてみたら、彼らのページのジャンルの欄には「グラム・ロック」と書いてあった(いまはもう違っているけれど、そのときは先頭に書いてあった)。なんでいまさらグラム……と思ったけれど、でもなるほど。2曲目のアウトロの感触とか、ラスト・ナンバーのギターのリフのわかりやすさとか、たしかにTレックスみたいだ。
とはいえ、ネットでちらりと見かけたバンドのたたずまいには、そんなグラム・ロックならではのけばけばしさは微塵もなかった。音の感触だけはグラムに通じるものがあるかもしれないけれど、あとはいまどきの平凡で繊細なインディー・ロック・バンドという感じ。そこんところのギャップがおもしろい。
まあでも、この音はグラムというよりは、どちらかというとビーチ・ボーイズやフィル・スペクターというほうが近い気がする。切ないメロディーがやたらキャッチーだし、白人ロックならではのポップ・センスが見事に凝縮した感じがする。今年前半でもっとも印象的な一枚だった。
(May 29, 2011)
Lisbon
The Walkmen / CD / 2010
ニューヨークとフィラデルフィアを拠点にしたインディー・バンド、ウォークメンの6枚目のアルバム。去年の秋ごろに出た作品だけれど、インパクトが強かったので、いまさらながら紹介(怠けすぎ)。
ウォークメンについては、そういう名前のバンドがあるのは、風の噂程度に知っていたけれど、これまで聴いたことがなかった。ふつうにバンド名だけだと、ふざけすぎな気がしていまいち聴く気にならない。
でもこれも Pitchfork の高評価とジャケットのデザインに引かれて、聴いてみたくなった。で、いざ聴いてみたら、とてもよかった。
ただ、それでいて、どこがいいんだか、僕にはうまく説明できない。決して斬新なことをしている風ではないし(それどころか、どっちかというとレトロなテイストがある)、それほど難しいこともしていない。それでいて、聞いたとたんに、おおっ、いいじゃないかと思ってしまう。でもどこが?──と考えてみていも、よくわからない。
あえて答えをみつけるとするならば、多分、音の隙間の作り方が絶妙なのだろうと思う。ギター・オリエントながら、あまり無駄なコードを鳴らさない。必要最小限の音数で、伝えるべきことを伝えてみせている感じ。伝統的なようでいて、どこかに新しい風を感じさせるのは、そのミニマルな構築美が、聴くものの快感を刺激するからかなぁと思ったりした。
……って、本当かどうかはわからない。でも同じようにジャケットに惹かれて買ったひとつ前のアルバム 『You & Me』 もよかったし、このバンドはいまさらながら、過去へさかのぼって最初からきちんとチェックせねばと思っている。
(May 29, 2011)
National Ransom
Elvis Costello / 2010 / CD
これもひとつ前のウォークメンと同じく、去年リリースされたエルヴィス・コステロの最新作。
今回はジャケットのデザインからして、前作 『Secret, Profane & Sugarcane』 の続編といった印象だけれど、内容もまさしくその通り。前作に引きつづき、T・ボーン・バーネットのプロデュースによる、フォーク&カントリー寄りの作品になっている。
とはいえ、前作が全編カントリー・タッチだったのに比べると、今回はややロック側に舵を切っている。少なくても、大半がドラム抜きだった前作とは違って、この曲では半分はドラムが入っているし。それだけでもカントリーが苦手な僕にとっては、断然とっつきやすい。まあ、前のも悪くはなかったんだけれど、やはりドラムが入っているほうが気分的に盛りあがる。
あと、今作の特徴はドラマ風の曲が多いこと。いや、べつに今回に限らず、このところコステロ先生が書く曲は、けっこうドラマ仕立てなのが多い気もするけれど。でも、3月の来日公演でも披露された 『Jammie Standing in the Rain』 とか、『A Slow Drag with Josephine』 とか、楽曲の雰囲気に加えて、タイトルに個人名が含まれているせいもあって、なんとなく舞台劇を思わせるところがあると思った。
僕のいちばんのお気に入りの曲は、『Dr. Watson, I Presume』。タイトルからしてシャーロック・ホームズを意識したんだろうこの曲も、そういや「ワトソン博士」って個人名入りだ。でも恥ずかしながら、歌詞の内容はよくわからない。
(May 29, 2011)