2011年1月の音楽

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  1. 悪魔のささやき ~そして、心に灯をともす旅~ / エレファントカシマシ

悪魔のささやき ~そして、心に火を灯す旅~

エレファントカシマシ / 2010 / CD+DVD

悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~

 エレカシ、通算19枚目となるスタジオ・レコーディング・アルバム……なのだけれど。
 世間的にはとても好評らしいし、先日の武道館ではこのアルバムの楽曲を中心に、素晴らしいライブを見せてもらったばかりだというのに、残念ながら僕はこのアルバムを素直に受け入れられずにいる。
 理由はその収録曲の内訳。
 なんたって全13曲のうち、6曲はシングルとそのカップリング曲だ。『朝』 というトラックは音楽ではなくSEだから、つまり残りは正味6曲ってことになる。これはアルバムの半分に過ぎない。
 さらにつっこむならば、その6曲のうち、3曲はクレジットが「all performance: 宮本浩次」となっている。つまり宮本のソロじゃん! もう一曲、『夜の道』 もギターの弾き語りなので、これも実質は宮本のソロ。
 つまりつまり。このアルバムにはエレカシの純然たる新曲と呼べる曲が、『moonlight magic』 と 『旅』の2曲だけしかないんだった。そりゃないでしょうよ。
 まあ、とりあえず宮本がひとりでやっている曲が入っているのは、よしとしよう。もともとがワンマン・バンドだし、かつての名盤 『good morning』 は全編ひとりで作ったようなものだって話なので、だとするならば、あのアルバムを溺愛する僕が、そのことを非難するのはフェアじゃない。
 それにしてもやっぱり、ベスト盤でもあるまいし、ニューアルバムの収録曲の半分が発表済みってのはなしだろう。新曲がわずか6曲というのはさびしすぎる。すべてのシングルを買って、なおかつそれを擦り切れるまで聴くようなファン(べつに僕のことじゃない)にとっては、喜びが半分ってことになってしまう。逆に、シングルは無視してアルバムだけフォローしているような遠巻きなファンは大喜び……って、それでいいのかいっ。
 このアルバムの場合、そんな内容に加え、通常盤のほかにジャケットのデザインとボーナスDVDが異なる初回限定盤を2種類、計3バージョンを発売した点も気に入らない。1枚で十分と思う通常のファンはいざ知らず、すべて揃えたいと思うコアなファンの心情を食いものにした、あごぎな商売としか思えない。そこまで稼ぎたいかっ!
 というか、そもそもこの2種類の初回限定盤については、新曲が6曲しかない──つまりダウンロードで新曲だけを買うと1,200円で済んでしまう──ことによる CDの売り上げ不振を補うための、苦肉の策って気もする。そんな風に商売っ気あふれるレコード会社の姿勢にも問題があるんだろうけれど、それ以前に、そういう新曲の少ないアルバムを作った宮本たちの責任も絶対にあると思う。
 ということで、そこんところがやたらと引っかかって、僕はこのアルバムを純粋に音楽的に評価できないでいる。
 個々の楽曲を見れば、『旅』 とか 『悪魔メフィスト』 とか、とても宮本らしくて、これぞエレカシって曲だと思うし、地味ながら 『九月の雨』 のシンプルなバンド・アレンジも、セカンドあたりを彷彿とさせて聞き逃せない(これを宮本がひとりで演奏しているってのもちょっとびっくりだ)。シングルとしてはどうかと思った 『いつか見た夢を』 なども、このアルバムのなかで聴くと、思いのほかしっくりくる。初回盤についてくるボーナス・ディスクのコットン・クラブ・ライヴも、単なるおまけとは思えないくらい見ごたえがある。
 そんな風にディテールに目をやると、とてもグレードの高いアルバムに思えてきたりもするんだけれど、とにかくその商業主義的な売り方のせいで、どうにもこうにも好意的になれないのだった。
 あぁ、収録曲がすべて新曲だったころが懐かしい。
(Jan 25, 2011)