2010年7月の音楽
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- 幸せよ、この指にとまれ / エレファントカシマシ
- HAPPY / BUMP OF CHICKEN
幸せよ、この指にとまれ
エレファントカシマシ / 2010 / CD [Single]
5月にリリースされたエレカシの最新シングル。この数ヶ月、音楽について書くのを怠けていたせいで、すっかり取りあげるのが遅くなってしまった。
この曲、ライヴで初めて聴いたときから、いい曲だなぁ、シングルにしたら売れそうだなぁ、と思っていたんだけれど、いざシングルとしてリリースされてみたら、意外とセールスはふるわなかった。僕にはどうもいまどきの売れ線ってやつがまるでわかっていないらしい。
でもまあ、なんにしろこれはいい曲だと思う。歌詞はややベタ過ぎる気がしないでもないけれど、それでもおおらかであかるくて前向きで、宮本のボーカルの伸びもよくて、聴いていて気持ちいい。ブリッジの部分でアレンジがドコドコとダイナミックになるところとか、いきなり語りが入るところとかも、いかにも宮本節って感じだし。ユニヴァーサル移籍以降のシングル曲では、僕はこれが一番好きかもしれない。
カップリングの 『赤き空よ!』 も似たような方向性の曲。これもいい曲だとは思うんだけれど(うちの奥さんは大好きらしい)、個人的には歌い出しのメロディが 『君の瞳に恋してる』 みたいなところが、いまいちしっくりこない。
なんにせよ、どちらの曲もこのごろのエレカシらしく、とても明るい。風通しがいいというか、自然体で明るい。ポニー・キャニオンのころのように「これで本当にいいのか?」と思わせるようなところがない。いまのエレカシがこれまでで一番好きとまではいえないけれど、それでもそういう開放感のあるところには好感が持てる。
初回限定盤についてくるライブCDは、全10曲入り45分というフル・アルバム並みのボリュームは嬉しい(価格も良心的だし)。ただ、残念なこともふたつほど。
ひとつはギターのボリュームが控えめなこと。思いきりボーカルが前に出たミックスで、宮本の歌が聴けりゃいいって人にはいいのかもしれないけれど、個人的にはもっとガーガーギターを鳴らして欲しかった。ま、近頃は生で聴いてもこれくらいのバランスのような気がしないでもないけれど。
もうひとつは──これについては誰もが同意見だと思うけれど──、全10曲が1トラックになってしまっていて、好きな曲だけ頭出しができないこと。どういうつもりでこういう仕様にしたんだか知らないけれど、選曲自体は3日間のダイジェストなんだから、わざわざ1トラックにまとめるこたぁないだろうよと思う。
(Jul 30, 2010)
HAPPY
BUMP OF CHICKEN / 2010 / CD [Single]
基本的に僕は軸足を洋楽においたロック・ファンだけれど、こういう歌と出会うと、やっぱり日本語のロックっていいなと思う。音楽は音楽ってだけで素晴らしいけれど、言葉がわかるとなおさら感動がいや増す。洋楽をこういう感じで聴けたらばなおさら幸せなのになぁ……と思う。
バンプ・オブ・チキンが4月に2週連続でリリースしたシングルの1枚目。このタイトル曲の場合、なまじ初めて聴いたときの印象がそれほどではなかったので、なおさら歌詞の大事さが身にしみる。曲としては安定感のあるグルーヴに乗ったミドル・テンポのロック・チューンで、このところの彼らの定番という感じ。正直なところ、最初はそれほどの名曲とは思わなかった。
ところが二回、三回と聞き返して、歌詞が耳に残るようになるに従い、印象はどんどんよくなっていった。この時代に生きるひとりの人間としての苦い思いを等身大の視点で描き出し、なおかつ、ささやかな希望を込めて歌った歌詞はあまりに素晴らしかった。あまりによくて、何度も繰り返し聴き直さずにはいられないくらいに。そして気がつけば、いまや僕の iTunes の再生回数のトップに躍り出ている。
じつは僕にとってのバンプ・オブ・チキンは、こういうパターンが多い。これまでも最初から「最高~!」と単純に盛りあがったことって、あまりない(ミドル・テンポの楽曲が多くなった 『ユグドラシル』 以降はとくに)。なんかちょっともの足りない?……とか思いながら、とりあえず聴き返しているうちに、藤原くんの歌詞の世界に妙に馴染んでしまって、いつの間にか夢中になっている──そんなパターンばかりだったりする。
もともと藤原基央という人の書く曲って、メロディが飛び抜けてキャッチーだったりはしないし(ファースト・ヒットの 『天体観測』 からしてそうだろう)、それでいてこれだけのポピュラリティを獲得しているってのは、そういう歌詞の素晴らしさや藤原くんの歌声とバンド・アンサンブルのよさなど、トータルでのバランスがとても優れているからだと思う。なまじメロディが凝りすぎていないから、飽きがこないというのもある気がする。
つづけてリリースされた 『魔法の料理 ~君から君へ~』 は、子供時代の思い出を鮮やかに描き出してみせたスロー・バラードで、こちらも同じようにメロディに派手さはないけれど、とても歌詞のグレードが高い(うちの奥さんはこっちのほうが好きだといっている)。藤原基央のソングライターとしての才能を再認識させられた、強力なシングル2連発だった。
(Jul 31, 2010)