2009年7月の音楽

Index

  1. Farm / Dinosaur Jr.
  2. Bitte Orca / Dirty Projectors

Farm

Dinosaur Jr. / 2009 / CD

Farm (Dlx)

 2年前にリリースした10年ぶりの前作 『Beyond』 が各誌で絶賛されているので、ずっと気になっていたダイナソーJr、これはその次回作となる復活第2弾。前作はなんとなく思って見送ってしまったのだけれど、こちらはちょっぴり不気味な童話風のジャケットが気に入って、ついついジャケ買いしてしまった。
 なんでも今回の復活劇では、デビュー当時のオリジナル・メンバーが顔をそろえているのだそうで、輸入盤CDのシールには「オリジナル・メンバーでの5枚目」みたいなコメントが添えられていた。3作目の 『Bug』 のあとでメンバー交替があったらしい(その辺のことはなにも知らないやつ)。
 なんにしろ、僕個人がダイナソー・Jrの作品を聴くのは97年の 『Hand It Over』 以来12年ぶり(ただし、あいだにJ・マスキスのソロを一枚聴いている)。そしたらこれが、笑っちゃうくらいに変わっていなかった。
 たれ流される豪快なディストーション・ギター、難しいこと抜きでひたすらキャッチーなメロディ、やる気のなさそうなボーカル。前作 『Beyond』 もほぼ同時に入手して聴いたのだけれど、どちらも見事なまでに僕の思っているダイナソーJrのイメージ、そのまんま。特別なことはなにもやっていない気がするのに、ダイナソーJr以外のなにものでもないって思わせるところがすごい。しかも2枚つづけてとても出来がいい。同じアメリカのオルタナティヴ・ロックでも、グリズリー・ベアの繊細さとは対極にある、あけっぴろげなグランジの逆襲。
 轟音を鳴らすときのニール・ヤングにもっとも近い遺伝子を持ったバンドはこのダイナソーJrじゃないかと思う。年じゅう、こればっかだったら簡単に飽きてしまいそうだけれど、たまに聴くと、たまらなく気持ちいい。
(Jul 09, 2009)

Bitte Orca

Dirty Projectors / 2009 / CD

Bitte Orca (Ocrd)

 今年はなぜだかニューヨーク出身のバンドが、軒なみ高評価を受けている。これもそのうちのひとつで、ダーティー・プロジェクターズというグループの――調べてみたところではおそらく――通算4枚目のオリジナル・アルバム。いままで名前さえ知らなかったバンドだけれど、ところによってはグリズリー・ベアの最新作よりも高く評価している人がいたりするし、なによりもジャケットのデザインが気に入ったもので、音も聴かずにジャケ買いしてしまった。
 ジャケットにはメンバーの女の子ふたりがフィーチャーされているけれど、バンドの実態はデイヴィッド・ロングストレスという人が中心になってやっている流動的なユニットだとのことで、この人がどうやら、かなり独特の音楽性を持っている。
 基本となるのはコードよりも単音主体の、音数の少ないギター・サウンドで、いわゆるロックンロールっぽさは皆無の文系ロック。メロディにはところどころイスラム系かと思うような独特のテイストがあって、そこにジャケットを飾る女性たちによる、おおらかなコーラスが加わる。
 この女性コーラスの存在がこのアルバムの鍵だと思う。とにかくコーラスの使いかたがおもしろいのだった。単なる色づけのためにコーラスを加えたというレベルではなく、コーラス自体が演奏の一部として、なくてはならない存在感を放っている。ときおり混じる中東風のメロディに、彼女たちのいかにも白人ポップス的な陽性のコーラスワークが重なるところもおもしろい。おかげでついついメイン・ボーカルそっちのけで、女性コーラスに耳をすませてしまうなんて珍しいことになる。ジャケットに彼女たちがフィーチャーされているのは、このサウンド・コンセプトゆえなのではないかと思う。
 彼女たちがメイン・ボーカルをつとめる曲も、わずか2曲ながら収録されている。そのうちの片方、アルバム4曲目に収録されている 『Stillness in the Move』 は──アルバム全体のトーンからすると、かなりイレギュラーな印象のある音作りの──妙にエスニックなミディアムテンポのダンス・チューン。アルバム・トータルでは大好きとはまではいかないけれど、この曲だけはめちゃくちゃ好きです。今年の僕のベスト3に入る一曲。
(Jul 16, 2009)