2009年06月の音楽
Index
- At War With The Mystics / The Flaming Lips
- ありあまる富 / 椎名林檎
- Veckatimest / Grizzly Bear
- The Eternal / Sonic Youth
At War With The Mystics
The Flaming Lips / 2006 / CD
さっそくサマーソニック09の予習、第1弾。
今年のサマソニ最終日のソニック・ステージのとりを飾るフレーミング・リップス。名前はなんとなく認識していたけれど、なぜだかこれまで一度も聴く機会がなかったこのオルタナ・バンドを、いまさらながら初めて聴いた。
その日のサマソニにはエレカシが出演するってんで、うちの奥さまのたっての希望で観に行くことにしたものの、ヘッドライナーはマリン・スタジアムがビヨンセ、マウンテン・ステージがリンプ・ビズキットで、僕はどちらもまったく聴いていない。
ビヨンセは黒人女性ボーカルとして現在もっともホットな存在だから、そのステージには関心がないでもないけれど、どちらかといえばそのふた組よりもフレーミング・リップスのほうが、イメージ的には僕の趣味には近そうだ。よし、それじゃこの機会に聴いてみようと思って、手始めに3年前のこのアルバムを入手してみたのだった。
そしたら、これが思いのほかいい。いかにもアメリカらしいテイストのオルタナティヴ・ロックに、Tレックスを思い出させるキッチュなポップさが加わって、新しいんだか古いんだかわからない、妙な味わいがある。一聴してこれだ~と盛りあがるタイプの音楽ではないけれど(少なくても僕にとってはそうじゃなかった。いままで僕のアンテナに引っかかってこなかったのもわかる)、お、わるくないじゃないかと思って繰り返し聴いているうちに、すっかり盛りあがってしまった。さすが、二十年以上のキャリアはだてじゃない。
ということで、この夏のサマソニで僕らのトリを飾るのは――ビヨンセにもまだちょっと未練はあるものの――、おそらくこのバンドで決定。となればもっとしっかり聴かないと思ってと、このところ昔のアルバムを次々と買い込んでは、とっかえひっかえしている。
(Jun 09, 2009)
ありあまる富
椎名林檎 / 2009 / CD [Single]
椎名林檎という人は、看護婦の制服を着て、『本能』 というきわどい歌を歌ってブレイクしたために、女性としてのセクシャリティを売りものにしたアーティストだというイメージを持っている人も多いんじゃないかと思う。実際に、個人名としては6年ぶりとなるこのシングルやニューアルバムのジャケットでも、彼女はもろ肌をさらして大衆を煽っている。
けれど、僕が彼女から受けるイメージはそんなセンセーショナルなものからは程遠い。きちんとその作品と向かいあってみれば、この人がそのパブリック・イメージに反して、とてもストイックで真面目な人だというのはすぐにわかると思う。
確かに彼女は自らの女性性をあからさまにさらけ出してみせるけれど、そこには性をもてあそぶ享楽的な要素はほとんどない。どちらかというと、女という
――というようなですね。もったいぶったことは書きたくなかったのに、ジャケットのセクシーさに動揺して、ついつい書いてしまった。まだまだ修行が足りません。でもせっかく書いたのを消すのもなんなので、この話は閑話休題として本題に。
『ありあまる富』――初めてこのタイトルを聞いたときには、ずいぶんとバブリーなすごいタイトルのシングルだなと思ったけれど、いざ聞いてみると、これが非常にストレートな生命賛歌になっている。あなたが生きていること、それ自体に計り知れないほどの価値(=ありあまる富)があるんですよと。そういう歌。ひとりの母としてわが子に向けたものか、はたまた親しい友人への励ましか。いずれにせよジャケットのセクシャリティとは無縁の、とても心温まる素晴らしい歌だった。
いや、要するに裸=エロティックなものという連想が卑俗なんであって、もしかしてここでのヌードは、母と子の──ひいては人と人との──素肌のふれあいという、きわめて親密な関係性を象徴しているのかなとも思ったりもする。とかいいつつ、カップリング曲はうって変わって、かなりシニカルですが。
(Jun 09, 2009)
Veckatimest
Grizzly Bear / 2009 / CD
サマソニ09の予習その2、ニューヨークはブルックリン出身の4ピース・バンド、グリズリー・ベアーの3枚目。
最近、僕がもっとも多く聴いているアルバムは、おそらくこれ。これまで名前さえ知らなかったバンドだけれど、なんだか評判がいいので聴いてみたら、これが素晴らしかった。
安直な表現をさせてもらえば、アメリカン・フォーク・ロック版のレディオヘッド。印象はかなり地味ながら、その繊細な音の作り込みに対する重低音の効き具合がとてもいい。静かに始まる曲が多いけれど、ダイナミック・レンジが広いとでも言うんだろうか、どの曲にもほぼ必ずラウドに鳴り響く瞬間がある。軽いようでいて重い。繊細でかつダイナミック。相反する要素がうまくバランスをとって、極上のポップ・ミュージックとして鳴っている。
コーラス・ワークもかなり凝っているし、ライヴでこの音をどう再現してみせるのか、とても興味があるので、ぜひ生で観たいところなのだけれど、だにしかし。今年のサマソニではどうやら出番がエレカシとかぶっているようなので、観られない可能性大。でも、さんざん観ているエレカシはいっそのこと諦めて、今回はこっちを観ようかと思わせるくらいに魅力のある作品だったりする。
さてどうしようと思い悩む今日このごろ……。いや、やっぱりエレカシは裏切れないか。
(Jun 21, 2009)
The Eternal
Sonic Youth / 2009 / CD
サマソニの予習その3、アメリカン・オルタナティヴ・ロック界の重鎮、ソニック・ユースの新作。
恥ずかしながら僕はこのバンド、これまでまったく聴いてこなかった。聴いたことがないのではなく、以前に一度聴いて、「あ、これは俺には関係ないや」と思って、それっきりになってしまっていた。それがかれこれ20年近く前の話。
今回、サマソニに出演することだし、それがフレーミング・リップスのひとつ前となれば、聴く機会もありそうだと思って、わが家のCDラックで埃をかぶっていたアルバム 『Goo』 を引っぱり出してきて聴いてみた。そしたら、ば、だ。
うぉー、なんだこりゃ。すげー、カッコいい。これって僕の趣味のど真ん中じゃないですか。なんで昔の僕はこのバンド、自分の趣味じゃないなんて思ったんだろう? わけがわからない。
そこでしばし考えてみた。そして、はたと気がついた。
そうそう、考えてみたら僕はそのころ、ピクシーズも駄目だったんだ。R.E.M. さえ聴いていなかったんだ。ときはマッドチェスター真っ只中で、僕の関心がダンス・ビート寄りのUKオルタナティヴに偏っていたから、アメリカのオルタナティヴ・バンドはどうにも波長があわないような気がして、敬遠してしまっていた……ということなのだと思う。
けれどその後、何年かして、なにかのきっかけで僕は突然、ピクシーズに過剰に魅せられるようになる。その時点でソニック・ユースにも光をあてていれば、こんなもったいないことにならなかったのに……。ギター・オリエンテッドな男女混声のオルタナティヴ・バンドであるという両者の共通点、それだけでも、いまとなればこのバンドが僕の守備範囲なのはあきらかだ。そんなことにも思い至らない自分のバカさ加減を思い知る09年の梅雨のさなかだった。
なんにしろ、そんなわけで僕はこの頃、このバンドもやたらと聴いている。旧譜をぽつぽつと買い集めながら、出たばかりのこの最新作にも、しっかり楽しませてもらっている。昔の作品に比べると、いくぶん角がとれて丸くなった気もするけれど、でもこんな純度百パーセントのギター・サウンド、いったんその魅力を知ってしまったいまとなると、盛りあがらないでいられるわけがない。いまさらながら、こういうベテランの作品で新人バンドと出会ったかのように興奮できちゃうというのは、ある意味じゃとても幸せなことのような気もする。
僕にとってこの夏一番の事件は、このソニック・ユースの再発見かもしれない。
(Jun 23, 2009)