2008年2月の音楽

Index

  1. STARTING OVER / エレファントカシマシ
  2. orbital period / BUMP OF CHICKEN
  3. オーダーメイド / RADWIMPS

STARTING OVER

エレファントカシマシ / 2008 / CD

STARTING OVER

 わが人生最愛のバンド、エレファントカシマシの通算17枚目のスタジオ・レコーディング・アルバム。これがなんとも突っこみどころの多い、なかなか充実した作品に仕上がっている。
 まずは一曲め 『今はここが真ん中さ!』 のイントロで、おっと思う。いままでになく録音状態のいいダイナミックなギターのリフに続いて、パッパラッパーっとホーンがかぶさってくるゴージャスなアレンジがエレカシとしてはあきらかに新機軸。おおっ、今回のアルバムは違うと思わせる。
 ほかにも先行シングル 『笑顔の未来へ』 のようにストリングスをフィーチャーした曲があったり、 『俺たちの明日』 では Dr.キョンがオルガンを弾いていたりと、音作りはいつになく凝っている。印象的には小林武史プロデュースの 『ライフ』 に近い感触だけれど、バンドとしての力量があがった分、より安定感が増した感じ。プロデュースはこのところ懇意にしている蔦谷好位置が6曲、YANAGIMAN という人が4曲で、宮本の弾き語りの 『冬の朝』 のみノー・クレジット (ちなみにこの手のタイトルの曲が増えすぎて、区別がつかなくなっているのは僕だけですか)。アルバム通してひとりの人に任せるんじゃなく、曲によってプロデューサーを変えてみせたのも初めじゃないかと思う(【追記】ハズレ)。
 そのほか、ほとんどの曲にゲストでギタリストが参加しているのも目新しい。クレジットに Guitar tech やら Drum tech とクレジットされている人たちがいるのをみると、どうやら今さらその道のプロから演奏の指導も受けているみたいだし、これまでのエレカシは──というか宮本は──単一民族的な{かたくな}さで、自分たち四人だけの世界を守ってきた感があるので、こうして外部の人々の助けを借りて、よりいい音を目指そうという姿勢が出てきたのはよいことだと思う。
 その姿勢のおかげかどうかは定かじゃないけれど、結果として出てきた音は、とても素晴らしいものになった。ことサウンド面に関しては、おそらくこれまでのキャリアでの最高傑作といっていいと思う。ここまで完成度が高く、プロフェッショナルな印象のエレカシは、これまでに聴いたことがない。
 ただし彼らの場合、いままでは下手なところ、素人っぽいところに、いつまでたってもロックの原点を忘れませんとでもいった感触があって、それが魅力になっていたところもあるので、今回は完成度が高くなった分だけ、逆に一般的な音になってしまって、おもしろみが減ったという感がなきにしもあらず。
 楽曲の面では、先行シングル二枚の感触から想像していたとおり、『ココロに花を』 からのポニーキャニオン三部作に近い雰囲気の曲がそろっている。よくいえばポジティブな曲が多いし、悪くいえば歌詞が月並み。日常生活における怒りや鬱屈を、独特のセンスで真正面から歌う宮本を愛してきた僕のようなリスナーにとっては、ややもの足りない作品になっている。もとより僕は「僕」という一人称を使ってラブソングを歌う宮本には、ほとんど共感したことがないので、ここしばらく登場しなかったその手の楽曲が復活しているこのアルバムには、若干の不満をおぼえないではいられなかった。
 それでも、月日を重ねてきた成果か、『ココロに花を』 の頃にくらべると、そうしたありきたりなラブソングや、どうにもすわりが悪いポジティブなメッセージ全開の楽曲も、以前よりは自然体でやっている感じを受ける。それに今回は音響がとてもいいので、あまり好きではないタイプの曲も、それなりには聴けた。
 それに、なんだかんだケチをつけても、エレカシはエレカシ、宮本は宮本。コアとなる部分はやっぱり変わっていないじゃんと思わせることもしばしばだ。
 一番のいい例が、ラストナンバーの 『FLYER』。この曲、乗っかっている歌詞は、「あふれる熱き涙」なんて月並みなフレーズがならぶ、『ココロに花を』 以降に典型的なものだけれど、ことリズムパターンにおいては、初期のエレカシを彷彿{ほうふつ}させる無骨さがあって素晴らしい。これってちょっと時期がずれていたならば、おそらくもっととんがった歌詞がのって、『飛ぶ男』 というタイトルになっていたんじゃないだろうか。でも、それをいまの宮本のモードで書くと、こういうものになると。まあ、非常に力強い曲なので、これはこれでありかなと思った。
 もうひとつ、おもしろかったのが 『まぬけなJohnny』。初めてタイトルをみたときには、チバユウスケでもあるまいに、なにがジョニーだと思ったものだけれど、きちんと聴いてみたところ、その駄目男へ捧げるエレジーとでもいった詩の世界には、ある意味かつての 『珍奇男』 に通じるものがあると思った。正月のライブで宮本が語っていた言葉を借りるならば、主題は同じ。見てくれは違っても、どちらもあわれな道化者の歌だ。珍奇男が年をとって、いまやジョニーになったと──これって、ある意味じゃ、非常にリアリティがありやしないだろうか。正月公演で初めて聴いたときにはそれほどいいと思わなかったこの曲だけれど、スタジオ・バージョンではツイン・ギターの絡みがとてもかっこよく、あきらかに 『ジョニー・B・グッド』 へのオマージュだとわかるエンディング近くの滑稽なバックコーラスもおもしろくて、思いのほか気に入っている。
 ということで、変わった部分、変わらない部分、あれもこれも含めて、全部が全部、宮本印のエレカシの新作。若干の不満はあったりもするけれど、それでも今回もやっぱり好きでした。
(Feb 17, 2008)

orbital period

BUMP OF CHICKEN / 2007 / CD

orbital period

 カレンダーは何年かごとに一巡して、まったく同じ曜日の並びになる。二十八年というのは、確実にそうなる周期なのだそうだ。正確な理屈はよくわからないけれど、うるう年が四年に一度で、一週間は七日だから、四かける七で二十八という計算なんだろう。なんにせよ二十八歳になる年には、誰もが自分の生まれた年と同じ暦に再会するという。
 ということで、メンバー全員が二十八歳になったのを記念して(?)、「軌道周期」とやらを意味する英語のタイトルをつけてリリースされたバンプ・オブ・チキンのメジャー第三弾。
 前作から3年ぶりとなる待望の新作だけあって、恒例の隠しトラックをのぞいて全17曲と、ボリュームは満点。ただし、これがそのボリュームほどには聴きごたえの感じられない作品になっている。
 なんでだろうと思って、内訳をチェックしてみれば、そのうち6曲がシングルで── 『プラネタリウム』 なんてもう3年も前の曲だ──オープニングとエンディングは、タイトルこそ違うものの同じ曲の別バージョン。そのほかインストのインタールードが2曲あるから、歌ものの新曲は正味8曲しかない。しかもそのほとんどがスローなナンバーだったりする。
 ここしばらくのシングルはじっくりと聴かせるタイプのバラードが中心だったけれど、やはりこのアルバムでもそうした傾向は顕著だった。アッパーなのはシングルの 『メーデー』 と 『カルマ』 くらいで、新曲では 『才悩人応援歌』 が、かろうじてひっかかる程度。それにしたってスピード違反で捕まるような速度は出ていない。いまは歌うべき歌があるのだから、あえてスピードを殺してでも、それをきちんと伝えようということなんだろうか。そんなふうに思って聴かずとも、おのずからバンプ・オブ・チキンというバンドの真摯さは十分伝わってくる作品ではあるのだけれど……。
 ただね。やっぱり僕はもっと疾走感のあるバンプが聴きたい。やっぱり若きロック・バンドたるもの、アルバムの半分はアッパーな曲で勝負して欲しいと思う。
 それに 『ユグドラシル』 にしろ、このアルバムにしろ、スローなだけではなく、なんだか生真面目になりすぎてしまって、やんちゃさが感じられなくなっているのがさびしい。メンバーもそろそろ三十近いとはいえ、まだまだ老け込む年じゃない。 『かさぶたぶたぶ』 みたいな童話的なユーモアも悪くはないけれど、それよりも 『グローリアス・レボリューション』 のようなシニカルなユーモアを維持したまま、成熟した視線で世間を笑い飛ばすバンプが聴きたい。
(Feb 22, 2008)

オーダーメイド

RADWIMPS / 2008 / CD [Single]

オーダーメイド

 ラッドウィンプス、メジャー6枚目のシングル。
 僕が彼らの音楽を聴くようになってから、新しい作品がリリースされるのはこれが初めてだ。去年の夏以来、彼らの曲をどれだけたくさん聴いたかわからない──というか、いまだに飽きず日々聴きつづけている──僕としては、期待するなってほうが無理な話なのだけれど、やや肩透かしをくったことに、この新曲はスローナンバーだった。しかも曲調だけとったらば、これまでのシングルで、もっともおとなしい曲なんじゃないかという作品。正直いえば、いまはもっとアッパーな曲が聴きたかった。
 でもまあ、そうはいってもこのシングル、歌としてはとても個性的でおもしろい。野田くんはこの歌で、寓話的な体裁をとりつつ、真正面から神様(らしき誰かさん)と対話してみせている。コミカルに、ちょっぴりせつなく──あいかわらずユーモアとシリアスさが同居しているところがいい。ほんとにその「対話」の顛末が気になって、なんだかんだいいつつも、くり返し何度も聴きかえさずにはいられない。
 カップリングの 『グーの音』 はレッチリ風のナンバーで、歌詞が全編英語なのはやや残念なものの、曲自体はコンパクトにまとまっていて、非常にキャッチーだし、いや、ほんと何度でもいうけれど、僕はこのバンドが大好きだ。根が軟弱なロマンティストなものだから、のめり込み方に関しては、ある意味エレカシ以上かもしれないとさえ思う。そんな風に思わせる日本のバンドといまさらながら出会えたことに、われながらちょっと驚いている。
(Feb 22, 2008)