2008年1月の音楽
Index
- In Rainbows / Radiohead
- 笑顔の未来へ / エレファントカシマシ
In Rainbows
Radiohead / 2007 / CD
これ一枚で年末のUKロック界の話題を独占していた感のあるレディオヘッドの新作。
なるほど、これは前評判にたがわぬ素晴らしいアルバムだった。一発目の 『15 Step』 を聴き始めたとたん、ああ、こりゃすごいやと思ってしまった。ダウンロードのみで先行販売されたという話だったから、もっと打ち込み多用のデジタルなサウンドを想像していたら、意外とそうでもなく、逆に思いのほか生演奏の感触のある仕上がりになっている。
デジタル世代らしい緻密さを持ちあわせた生身のバンド・サウンド──要するにそれは、いままでレディオヘッドがやってきたことの延長線上なわけだけれど、今回はこれまでよりさらに密室的な印象が強く、完成度が高い。ここまできっちり精密に音を積みあげておきながら、それでいて人肌のぬくもりをも感じさせる音楽はなかなか作れない。リリースしたばかりだというのに、いきなり古典的ロック・アルバムの仲間入りをしてしまいそうな雰囲気がある。この完成度を前にしてケチをつけるのは、ちょっとむずかしい。
ただ、個人的に唯一不満に思うのは、メジャー・コードのアッパーな曲がひとつもない点。昔から暗い曲ばかりやっていたバンドならばともかく、レディオヘッドはそうじゃなかった。かつてはもっとあかるい曲もあったわけだから、ここ何枚かではそうした面がすっかり影をひそめてしまった点は、やはり残念だ。
いまの音楽性を維持してなお、もっとポップに弾けるレディオヘッドが聴いてみたい。
(Jan 19, 2008)
笑顔の未来へ [Single]
エレファントカシマシ / 2008 / CD
ユニヴァーサルに移籍して以来のエレカシをとりまく状況は、ポニーキャニオンに所属していた当初に似ている。テレビの出演やCMのタイアップが次々と決まり、そうした露出度の高さを意識してか、宮本も持ちまえの攻撃的なメッセージ性を抑えて、比較的わかりやすい、ポジティブでポップな楽曲を送り出している。
ポニーキャニオンのときには、それまでとの落差があまりにありすぎて、そんなエレカシを素直に受け入れられない部分があったのだけれど(その後 『ガストロンジャー』 のような曲をリリースすることになるわけだから、宮本自身にもそれなりの葛藤はあったのだと思う)、あの頃とくらべると、今回はわりと素直にその活躍を受けとめている。すべてが気に入っているわけではないけれど、とりあえずいまは、つべこべいわずに応援しようという気分がある。なんたって彼らはもうかれこれ二十年も活動を続けているわけだ。ここまでくれば、ただ普通に活動を続けているだけで十分賞賛に値する。存在自体に価値がある──エレカシもそろそろ、そういうレベルに近づきつつあるんじゃないかと思い始めている。
ということで、年末年始に 『ウコンの力』 のCMで、カラオケに興じる中年サラリーマンのみっともない映像とともに 『俺たちの明日』 をさんざん聴かされたり、CDのカップリングにカラオケ・バージョンが収録されていたりと、カッコわるいなあと思うようなところがいろいろあるにもかかわらず、僕はいまのエレカシを素直に応援している。
このシングルは元日リリースなんて企画がまずかったのか、テレビのタイアップがついているというわりには、あまり売れていないみたいだけれど(オリコンのウェブサイトで調べたら最高位47位)、それでも曲としては決してわるくないと思う。笑顔の未来へあなたをつれていくよなんて、大見得きって歌う宮本の姿は、なんともチャーミングだ。つい真似をして、おなじことを言ってみたくなるくらいに──いまの僕が言ったんじゃ、単なる大ぼらだけれども。
(Jan 19, 2008)