2007年5月の音楽

Index

  1. Costello Music / The Fratellis
  2. Myths of the Near Future / Klaxons
  3. Traffic And Weather / Fountains Of Wayne
  4. The Deep Blue / Charlotte Hatherley

Costello Music

The Fratellis / 2007 / CD

Costello Music

 最近UKのロックシーンは妙に盛り上がっているみたいで、聞いたことのない名前のバンドが続々と出てきている。これもそのうちのひとつで、スコットランドはグラスゴー出身の三人組、ザ・フラテリスのファースト・アルバム。
 なんでもアルバム2曲目の "Flathead" が iPod のコマーシャルソングに使われて、注目を浴びたのだとか。サッカー以外ではテレビをほとんど観ない僕は、そのCMは一度も見たことがないのだけれど、曲のほうはラジオで聴いて、おっ、これは格好いいじゃないかと思った。
 それで調べてみれば、デビュー・アルバムのタイトルが 『コステロ・ミュージック』 などという。まあ、レトロなジャケット・アートからすると、命名の由来はエルヴィス・コステロではなくて、アボット&コステロとやらのほうなのかもしれないけれど、それでもエルヴィス・コステロのファンとしては、気を引かれずにはいられない。いっちょう聴いてみようかという気になった。
 で、いざ聴いてみたらば、これがいい。やっていることはオーソドックスだけれど、とにかく演奏に勢いがある。一音一音が力強くて、それでいてポップ。これくらい瑞々{みずみず}しい演奏を聴かせてもらえれば、ちょっとばかりルックスがむさくるしくてもオーケーだ。とても気に入った。
(May 09, 2007)

Myths of the Near Future

Klaxons / 2007 / CD

Myths of the Near Future

 これもUKのニューカマーで、ロンドン出身の三人組、クラクソンズのデビュー・アルバム。
 このバンドもやたらとよく名前を見かけるなと思っていた折に、輸入盤がとても安く売っていたので──なんたって iTune Store でダウンロードするよりも安かった──、聴いてみようかという気になった。ザ・フラテリスもそうだったのだけれど、最近、英米では新人アーティストのアルバムは、なるべく多くのリスナーをつかもうということで、あえて安く値段設定したものが多いみたいだ。
 それはともかく、このバンド。ザ・フラテリスが一聴したとたんに「おっ、これは」と思わせてくれたのに比べると、第一印象はあまりよくなかった。
 このアルバムの音響には、不思議な古めかしさがある。三人組といいながら、音作りはいわゆるスリーピース・バンドのものとは程遠い。中心となるのはベースとドラムなのだけれど、それ以外の音が渾然一体となっていて、どんな楽器が鳴っているんだか、いまひとつよくわからない。音のエッジが削れているというか、シャープさに欠ける印象で、基本的にはダンサブルな音楽であるにもかかわらず、あまりそういう印象を受けない。デジタル・レコーディングがあたりまえの時代の作品だというのに、妙に80年代的なレトロ感が漂っている。
 そんなレトロ感は、SFタッチのタイトルがついたドラマチックな楽曲群のせいで、いっそう強くなっている(なかにはアメリカ文学の奇才、トマス・ピンチョンの大作 『重力の虹』 をタイトルにした曲なんかもある)。ほぼ全編にあふれるファルセットのバックコーラスも胡散臭いし、なんだかB級SFカルト・ムービーをモチーフにしたコンセプト・アルバムみたいだ。深いんだか、浅いんだか、よくわからない。
 なんにしろ、音響的にあまりフレッシュさが感じられないその作風ゆえに、最初に聴いたときには、まるでいいと思わなかった。これは買って失敗だったかなと思った。ところがだ。
 二度、三度と聴き返すうちに、だんだん印象が変わってきた。メロディは思ったよりもフックがきいていてチャッチーだし、曖昧模糊とした音響も意外と悪くなくない。そして、なにより印象的なのは、UKオルタナらしい朴訥としたボーカルを支える、チープでおおげさなコーラスワーク。この下手上手さ加減は、妙にくせになる。
 はて、これはいったいなんだろうと思いつつ、繰りかえし聴くことになった。ほんと、全11曲36分という短さも手伝って、何度聴いたことか、わからない。第一印象に反して、すっかり、はまりまくっている。結果的に、聴いた回数はフラテリスよりもこっちのほうがぜんぜん多い。それでいて、いまだに僕はこの作品をどう評価していいんだか、わからないという、なんとも説明しにくい、不思議な魅力を持ったアルバムだった。
 ちなみにバンド名となっている Klaxon という単語は、車の「クラクション」のことだそうだ。どうせならばオアシスやポリスと同じように外来語扱いにしてしまって、「クラクションズ」と呼んだほうが、語呂がいい気がする。
(May 09, 2007)

Traffic And Weather

Fountains Of Wayne / 2007 / CD

Traffic & Weather

 ニューヨークを拠点に活動する4人組バンド、ファウンテインズ・オブ・ウェインの4枚目。
 最近、中心人物のひとり、アダム・シュレシンジャーが映画 『ラブソングができるまで』 のソングライティングを手がけたことで注目を集めているらしいこのバンド。僕はつい最近まで、そんなことはおろか、このバンドの存在さえ知らなかった。たまたまフジロックに出るというので名前を見かけ、ラジオでかかっていた "Someone To Love" のキャッチーさに引かれて、その曲が収録された最新アルバムを聴いてみようという気になったのだった。なので思わぬところで話題になっていて、ちょっとびっくり。
 このバンド、デビューは96年だから、もう十年選手ということになる。そんなに長いこと知らないでいたバンドを、いまごろになって聴こうと思うのは、けっこう珍しいパターンだったりする。
 でも、このアルバムを聴いてみて、なぜいままで気にも留めていなかったか、とりあえず納得した。少なくてもこの作品に関する限り、音作りがやたらと平均的だ。あまりにありふれていて、演奏面ではほとんど刺激を受けない。昔からこの調子だったとするならば、ラジオでかかっていたとしても、さらりと聴き流してしまってなんの不思議もない。僕の妻からも「すごい普通のバンドだね~」と言われてしまっていた。
 でもね。それでもこの人たち、わざわざ映画のサントラを任されるだけあって、メロディのセンスはなかなかのものだ。それもビートルズから地続きのポップセンスが感じられて、部分的にはかなりエルヴィス・コステロに近いメロディを聴かせてくれる。ほんと、タイトルトラックや6曲目など、もろにコステロ節って感じだ。おかげさまで非常にツボにハマった。音は平凡なんだけどなあとか思いつつ、気持ちよくて何度となくリプレイしてしまっている。
 11曲目の 『ホテル・マジェスティック』 なんかもおもしろい。タイトルといい、ひねりのないシンセのイントロといい、たたずまいはまるでサザンのよう。でもってサビのメロディはオトゥールズみたいという、これまた僕の趣味からすると、聴いていて思わす照れ笑いが浮かんでしまうような曲なのだった。
 ということで、なんだかんだケチをつけながらも、このアルバムは最近のヘビー・ローテーションのうちの一枚となっている。
 ちなみにこのバンドのバンド名は、ニュージャージーにある有名な園芸装飾品店(?)の名前を拝借したものなのだそうだ。実は僕はつい最近、テレビドラマの 『ザ・ソプラノズ』 で、その店を見たばっかりだったりする。トニー・ソプラノがたまにガーデニング・グッズを買いにゆく店──シーズン3の第5話で、トニーにスピード違反切符を切った警察官が副業のアルバイトをしている店──が、どうやらそれらしい。新しいバンドを聴くようになったのと時を同じくして、そのバンド名の由来となった店が登場するドラマを観るというのは、なんとも不思議なめぐりあわせだと思う。
(May 17, 2007)

The Deep Blue

Charlotte Hatherley / 2007 / CD

The Deep Blue

 元アッシュのギタリスト、シャーロット・ハザリー嬢のソロ第二弾。
 ジャケ買いしたファーストとは違って、この二枚目は言っちゃなんだけれど、ジャケットがいまいち。もしもこれが一枚目だったらば買ってないと思う。
 でもって音のほうも、いきなりムード歌謡みたいなインスト・ナンバーで始まってしまう。女の子らしい元気なオルタナティヴ・ロックで僕を魅了した一枚目とはずいぶんとムードが違う。2曲目もスローなナンバーだし、こりゃあ、いきなり方向転換して、僕には無縁のほうへ行っちゃったのかと、最初はちょっと不安になった。
 でも、そんな心配は取り越し苦労。3曲目からは、前作と同じような元気な曲も登場するようになり、最後まで聴く頃には、すっかり満足していた。全体的にゆっくりめの曲が増えたかなと思うし、エコーの深い、こもった感じの音響処理には、若干すっきりしない気分にさせられたりするけれど、それでもまあよし。こういう風に適度に散らかったオルタナティヴな音で、良質なギター・ロックを聴かせてくれる女の子の存在はとても貴重だ。これまた最近のお気に入りの一枚。
(May 17, 2007)