2006年9月の音楽
Index
- Fast Man Raider Man / Frank Black
- My People Were Fair... / Tyrannosaurus Rex
- The River In Reverse / Elvis Costello & Allen Toussaint
- Songs And Other Things / Tom Verlaine
- Greatest Hits Vol.3 / Billy Joel
- Riot City Blues / Primal Scream
- The Eraser / Thom Yorke
Fast Man Raider Man
Frank Black / 2006
前作『Honeycomb』から一年もしないでリリースされたフランク・ブラックの新作は、その前作をバージョンアップしたような内容になっている。前作と同じベテラン・ミュージシャンを起用しつつ、そこにさらにメンバーを加えてパワーアップ、その分ボリュームも倍になったので2枚組にしてみました、みたいな作品。前作が気に入った人ならば、間違いなく気に入る出来だと思う。少なくても似たようなパターンで2枚同時リリースされた『Black Letter Days』と『Devil's Workshop』よりは断然こちらの方がいいと僕個人は思った。
すっかりオルタナティブなんて言葉とは無縁な感じで、オールドファッションなロックを鳴らしつづけているこの頃のフランク・ブラックだけれど、これくらい気持ちよい音楽を提供してくれるならば、ジャンル分なんてどうでもいいかなと思う。去年に引き続き、これも僕の今年のベスト5に入る好盤だ。
(Sep 03, 2006)
My People Were Fair and Had Sky in Their Hair... But Now They're Content to Wear Stars
Tyrannosaurus Rex / 1968,2005
ティラノザウルス・レックス名義で発表されたTレックスのデビュー・アルバム。これはそのオリジナル・モノラル・バージョンとステレオ・バージョンを一緒に収録して、さらにいくつかのボーナス・トラックまで収録したリマスター盤。セカンドの『Prophets Seers & Sages The Angels Of Our Ages』も同時に入手したので、これでティラノザウルス・レックスのアルバムもひと通りそろったことになる。まともに聴いちゃいないけれど。
このファーストからすでにマーク・ボランらしさは全開だ。けれどやはりボランのアコギ+ボーカルとスティーヴ・ペリグリン・トゥック(『指輪物語』とは関係ないのかな?)のボンゴだけという小編成では、彼の音楽の華やかさは十分に発揮しきれていない感じがする。その点ではTレックスのブレイクが、Tレックスと名前を変えてバンド編成になって以降だったのは必然だと思う。
この2枚と一緒にアルバム『T. Rex』のリマスター盤も再購入した。初期のアコースティック路線から『Electric Warrior』以降の明快なロック・サウンドへ向かう過渡期にあるそのアルバムこそ、世間の評価はそれほど高くないのかもしれないけれど、僕にとっては間違いなくTレックスの最高傑作だ。
(Sep 03, 2006)
The River In Reverse
Elvis Costello & Allen Toussaint / 2006
ハリケーン・カトリーナの被災者救済チャリティ・コンサートで初共演したコステロとアラン・トゥーサンが、意気投合して作り上げたオリジナル・スタジオ・レコーディング・アルバム。
過半数がトゥーサンの既存曲の(セルフ)カバー。その他が二人がコラボレートした新曲で、コステロが今年の来日公演で弾き語りを披露したアルバム・タイトル・ナンバーのみ、コステロ名義のオリジナル曲という構成になっている。
企画としてはバート・バカラックとの共演した『Painted from Memory』に近いものの、共演者の資質の違いが如実に出ていて、こちらは当然のごとくソウルフルな仕上がりだ。表題作を始めとして『The Sharpest Thorn』や『Freedom For The Stallion』など、素晴らしいバラッドが聴けて、僕のようなポップスよりはブラック・ミュージックを好むリスナーには馴染みやすかった。
ボーナスDVDに収められているレコーディング風景では、トゥーサンがアルバム中、唯一メインボーカルをつとめる『Who's Gonna Help Brother Get Further?』のバックコーラスを、コステロとインポスターズのデイヴィー・ファラガーが肩を並べて歌っているシーンがなんだかとても微笑ましい。
このDVDには、大洪水の傷跡もなまなましいニューオーリンズの街中を、コステロとトゥーサンが肩を並べて見てまわるシーンなども収録されている(ちょっとだけだけれど)。ニューオーリンズに関心がある人は要チェック。
(Sep 03, 2006)
Songs And Other Things
Tom Verlaine / 2006
トム・ヴァーレインのボーカルものとしては、実に16年ぶりとなる新作。同時にインスト曲だけのアルバム『Around』がリリースされていて、歌もののはずのこちらのアルバムも一曲目がインストだったりするので、最初に聴いた時には、間違ってもう一枚の方のディスクが入ってきたのかと思ってしまった。お騒がせな人だ。
音楽的には3ピース・バンドによる、クリアなギターサウンドと暗めのメロディが特徴の作品。基本的にそれほど僕の趣味にはあわない。なんでフォローしているのか、自分でも不思議になってしまう。この人の場合、あまりにテレヴィジョンのファーストのインパクトが大き過ぎたということなんだとは思うけれども。
これらのリリースにあわせて、唯一未入手だった92年のインスト・アルバム『Warm and Cool』も手に入れた。これでトム・ヴァーレインのアルバムはひと通りそろったことになる。まったくちゃんと聴きもしないで……。
(Sep 03, 2006)
Greatest Hits Vol.3
Billy Joel / 1997
『An Innocent Man』以降のヒット曲を集めたビリー・ジョエルのベスト盤第三弾。かれこれ十年前のコンピレーションだけれど、このアルバムにしか収録されていないボブ・ディランのカバー『To Make You Fell My Love』が聴きたくて、いまさらながら入手した。このカバーは本当に素晴らしい出来だと思う。
それにしてもひさしぶりに聴いてみて、あらためてこの人は本当にいい声をしているなあと思った。余裕があったらば、全アルバム集めてもいい気がした──って、余裕なんてぜんぜんないのだけれど。
僕が十何年ぶりでこの人の作品を買ってみたら、その年のうちに来日公演が決まるなんていう、ちょっとだけ不思議な偶然もあったりする。それにしてもこういう人のライブを東京ドームみたいな音響の悪いところで観せてどうしようというのだろう。そもそも、いまさらそんなに観客が入るのかといらぬ心配をしたくなる。
(Sep 03, 2006)
Riot City Blues
Primal Scream / 2006
前作までの過激なダンス・ビートへの偏向が嘘だったかのように、クラシカルなロック・サウンドへと回帰してみせたプライマル・スクリームの新作。時代錯誤に思えるくらい、むちゃくちゃわかり易いロック・アルバムだ。これだからこのバンドはおもしろい。
今回も『Give Out But Don't Give Up』の時みたいに「ストーンズ的な」と形容されることになりそうなアルバムだけれど──『We're Gonna Boogie』なんてびっくりしちゃうくらい、もろストーンズ・タイプのブルースだ──、僕はこのアルバムを聴いて、どちらかというとデビッド・ボウイを思い出した。アルバム3曲目の『Suicide Sally & Johnny Guitar』が『Suffragette City』に似たタイプのロックン・ロールだから、というのもある。けれどそれ以前に、ボビー・ギレスピーという人の姿勢自体にボウイに通じるものがある気がする。音楽性の定まらなさやその質のぶれ方という点で、彼は90年代以降のUKロック・シーンにおけるボウイの後継者と呼ぶにふさわしい存在なんじゃないだろうか。
(Sep 03, 2006)
The Eraser
Thom Yorke / 2006
レディオヘッドのボーカリスト、トム・ヨーク初のソロ・アルバム。楽曲の雰囲気やアレンジの方向性はもろレディオヘッドという感じだけれど、ほぼ全編プログラミングとわかるその音は、とても密室性が高い。これと聴き比べてしまえば、『Hail to the Thief』なんかは、まごうことなきバンド・サウンドだ。この徹底した密室性の高さがソロの証なのだろう。エレクトロニカな音作りではあるけれど、それでいて人肌のぬくもりを感じさせるところが素晴らしい。楽曲もマイナー調の曲ばかりながら、かなりキャッチーだし、僕はこのアルバムがとても好きだ。
(Sep 03, 2006)