2005年12月の音楽

Index

  1. Wildflower / Sheryl Crow
  2. Song for My Father / Horace Silver
  3. キラーストリート / サザンオールスターズ
  4. Prairie Wind / Neil Young
  5. Extraordinary Machine / Fiona Apple
  6. You Could Have It So Much Better / Franz Ferdinand
  7. Somebody's Miracle / Liz Phair
  8. Throw Down Your Arms / Sinead O'Connor
  9. supernova/カルマ [Single] / バンプ・オブ・チキン

Wildflower

Sheryl Crow / 2005 / CD

Wildflower

 どうもセカンド以降のシェリル・クロウには力が入り過ぎていた感があった。この新作はファーストに近い力の抜け具合がいい。適度な気怠{けだる}さゆえに、ひさびさに共感のできる作品に仕上がっている。やっぱ、この手の人はあまり張り切っちゃいけない気がする(失礼)。
 収録曲の中では、シングルの "Good Is Good" と、アルバム中、唯一のアップなナンバー "Live It Up" が好きだ。
(Dec 25, 2005)

Song for My Father

Horace Silver / 1964 / CD

Song for My Father

 ひさしぶりのジャズは、村上春樹氏が高校生の時に買って、ガールフレンドから「素敵なジャケットね」と言われたという、ホレス・シルヴァーの代表作。僕もアマゾンでジャケットに惹かれて買おうと思った口だった。けれど、残念ながら音楽的にはあまり趣味じゃないかなと……。
  『ア・グレート・デイ・イン・ハーレム』 で見た、陽気そうなおじさんの顔と、このアルバムの憂いを含んだメロディーの印象がどうもうまくマッチしない。
(Dec 25, 2005)

キラーストリート

サザンオールスターズ / 2005 / 2CD

キラーストリート (初回限定盤DVD付)

 サザンの7年ぶりの新作は、CD2枚組30曲という冗談みたいなボリューム、それだけでもうすべてを許したくなってしまう大作だ。うち11曲はシングルとそのカップリング曲だとはいえ、それらを除いた分だけで普通のアルバム一枚分以上あるんだから、ベテラン・バンドが長いこと新作を発表していなかったことの帳尻合わせと考えても余りある。
 まあ、個人的には、これといって強く引きつけられた曲がない点で、過去のどの作品にも及ばないかもしれないと思う部分もあるし、桑田自身の手によるライナーノートを読むと、半数はサザンの曲というよりも、桑田のソロなんじゃないかという印象も受けてしまう。音響的にサザンほどのキャリアを誇るバンドがこれくらいのレベルでいいのかという不満もある。
 しかし、それらの不満や疑問を差し引いてなお、このアルバムには、そのボリュームだけでも十分な価値があると僕は思う。やはりこの量的な過剰さはそれだけでロックじゃないだろうか。
 楽曲でどれかひとつを取り上げるならば、ニール・ヤング&クレイジー・ホース調のギター・サウンドに乗せて、ディズニーランドに遊びに行ったサラリーマンの憤りを歌う 『愛と魔法の国』。こんな切実に格好悪い曲を書けるのは桑田佳祐しかいない気がする。
 ただしこの曲、なまじニール・ヤングを意識させるだけに、その抜けの悪い音響のせいで、レコーディング上の不満をもっとも強く感じさせもするのだけれど。
(Dec 25, 2005)

Prairie Wind

Neil Young / 2005 / CD

Prairie Wind

 ニール・ヤングの新作はまたもやアコースティック系の作品。最近のアルバムでいうと "Silver and Gold" と同じ感触だけれど、あちらには "Razor Love" という、とてつもなく美しいナンバーがあったのに比べ、こちらにはそこまでの楽曲はない(と僕は思う)。
 ということでどちらかというと、"Far From Home" あたりのバンド色豊かな曲の方に強く惹かれた。ゴスペル調(というかゴスペルそのもの?)のラスト・ナンバー、"When God Made Me" もいい。家族や神についての歌が多いのも、このところのニール・ヤングの傾向だろう。いや、もしかして昔から、なのかな? 胡乱{うろん}な僕にはなんともいえない。
(Dec 31, 2005)

Extraordinary Machine

Fiona Apple / 2005 / CD

Extraordinary Machine

 フィオナ・アップル嬢の6年ぶりとなるサード・アルバム。年齢を重ねた分だけ、生きることに余裕を持てるようになったのか、今までで一番リラックスした音を聴かせてくれている。とはいっても、だからといって弛緩してしまったということではなく、きちんと締まるところの締まった、とても素晴らしい作品に仕上がっていると思う。ラストひとつ前の "Not About Love" には、どことなくジョン・レノンを彷彿させるようなところもあるし、女性にしてレノンを連想させるという時点で、もう特筆ものだ。今年のマイ・ベスト5入りは確実の作品。
(Dec 31, 2005)

You Could Have It So Much Better

Franz Ferdinand / 2005 / CD

You Could Have It So Much Better

 デビューから2作目にして、来日公演は武道館。しかも既に完売という人気を誇るフランツ・フェルディナンド。前作は期待した割にはやや単調な印象がして、ものたりなかったのだけれど、今回はいい。ギターの音がより前面に出ている分だけ、説得力が増した。これならば武道館でもいけるだろう。とても気に入った。
(Dec 31, 2005)

Somebody's Miracle

Liz Phair / 2005 / CD

Somebodys Miracle

 フィメール・ポップの最前線へと方向転換したせいで、やたらと印象の悪かった前作から2年。まあ若干修正はされたものの、それでもやはりおもしろくはないぞ、というリズ・フェアーの新作。
 彼女の場合、音がどうした以前に、ポップを目指すならば、もうちょっと楽曲が良くないとつらくはないだろうか。ぜんぜん引っかかってこない。オルタナの女王と言われていた時の方が曲がいいと思ってしまうのは僕だけじゃないと思うのだけれど。
(Dec 31, 2005)

Throw Down Your Arms

Sinead O'Connor / 2005 / CD

Throw Down Your Arms (Dig)

 引退表明からわずかニ、三年での復帰第一弾となったシンニード・オコーナーの新作。
 これが何の前情報もなしに聴いたらば、全編レゲエでびっくりという内容だった。クレジットをみるとスライ&ロビーの完全プロデュースによる、古典的レゲエ・ナンバーのカバー集。なんでこういう作品を作ることになっちゃったんだろう? 復帰を祝う気持ちより、戸惑いの方が先になってしまう謎の一枚。まあ悪くはないけれど。
(Dec 31, 2005)

supernova/カルマ [Single]

バンプ・オブ・チキン / 2005 / CD

supernova / カルマ

 今年は iPod と iTunes Music Store のブレイクによってインターネット経由の音楽配信が一般化した上で、音楽業界にとってはターニング・ポイントとなる一年だったと言われている。ネットではシングル1曲が150~200円で買えてしまうという状況だ。今後はCDシングルを買わせようと思えば、それなりの戦略が必要になってゆくのだろう。
 そうした目で見た場合、バンプ・オブ・チキンというバンドは、模範的な存在だといえる。デビュー当時からずっと飽きずに、すべての作品にユーモラスなボーナス・トラックを収録することで、ひとつの答えを示してくれているのだから。おそらく音楽配信するにしたって、ボーナス・トラックは対象にならないだろうし、のみならず、CDケースにまでおまけを隠してある──CDケースを分解すると、その裏からボーナス・トラックの歌詞やイラストや写真が出てくる──というその遊び心は、シングルを買わないといけないと思わせるに充分すぎるくらいだ。わが家では今年になって、ようやくそのことに気づいて、あわてて全シングルを揃えることになった(入手不可の二枚が残念)。
 何度も聴きたいと思わせる素晴らしい楽曲を、遊び心のあるパッケージングで提供する。音楽ビジネスにおける前向きな姿勢の、この上ないお手本のようなシングルだと思う。いやあ、素晴らしい。
 アルバムのリリースがなかったにもかかわらず、これと 『プラネタリウム』 の二枚のシングル──そして 『プラネタリウム』 のカップリングだった、 『銀河鉄道』 という実にバンプらしい珠玉のバラード──のみで、今年のバンプは十分すぎる存在感を持っていた。わが家の一年の締めを飾るにふさわしいのはやはりこのバンドだと思う。
(Dec 31, 2005)