2022年7月の映画
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アンブレラ・アカデミー シーズン3
スティーヴ・ブラックマン制作/エリオット・ペイジ/2022年/アメリカ/Netflix(全10話)
前シーズンの結末で現代に戻ってきたはずのアンブレラ・アカデミーの兄弟姉妹は、彼らの父親とベンが生存していて、別の子供たちとスーパーヒーロー・チームを結成しているパラレル・ワールドにたどり着きましたと。
パラレル・ワールドならば、その世界には別の自分たちが存在しているはず――自分と自分が出会ったらどうなってしまうの?――という彼らの心配は杞憂に終わる。
なぜならばその世界には初めから彼らは存在しないから。
なぜって?――というその理由や、なぜハーグリーブズ卿が生きているのかとか、どうして別の子供たちでチームを編成したのかとか、そういう重要な展開においてしっかりと前シーズンの伏線を回収したシナリオがよいです。
ライバルとなるスパロー・アカデミーの存在とともに今シーズンの肝となるのは、アンブレラの面々とともにその世界に現れた、メラメラとオレンジ色に輝く謎の球体。果たしてその球体をめぐり、アンブレラ・アカデミーの面々は今シーズンも新たなる世界の破滅と直面することになる。――それも過去最大の規模で。
現実世界で性別を変更したエレン・ペイジあらためエリオット・ペイジが、このドラマでも満を持してカミングアウト。長髪をばっさり切り落とし、名前をヴァーニャからヴィクターに変えて、トランスジェンダーとしての自分を兄姉たちに受け入れてもらうというのが今シーズンのトピックのひとつ。
あと、クラウスの能力が死者と話ができるだけではなく、もっと重大なものであったことが明らかになるところがブラック・ユーモアたっぷりで個人的にはお気に入り。『ONE PIECE』の能力者の覚醒的な。すげーそれって素直に感心しました。
そのほかだと、ルーサーに新しい恋人ができたり(アリソンとの関係は?)、ライラがすっかりメンバーの一員として認知されていたり。メンバーが隠れ家にするホテルの裏側の世界では日本語が使われているのも、日本人としては要注目。
シリーズきってのキーパーソンであるナンバー・ファイヴがちょっと大人っぽくなってきたから、このままだとあまりこの先長く続けられそうにないのではと思ったら、やはり次のシーズンで完結する運びっぽい。大団円を期待しています。
(Jul. 03, 2022)
ストレンジャー・シングス シーズン4
ザ・ダファー・ブラザーズ制作/ウィノナ・ライダー、デイヴィッド・ハーパー、ミリー・ボビー・ブラウン/2022年/アメリカ/Netflix(全9話)
ウィノナ・ライダー演じるジョイスの一家とともにホーキンスを離れてカリフォルニアに移り住んだエルだけれど、まともな教育を受けてこなかった彼女は、その土地の高校でいじめられっ子になっていた。なぜだか超能力も失っていて(前のシーズンでそんな話がありましたっけ?)いじめられてもなすすべなし。――そんなむかつく展開でこの第四シーズンは幕をあける。
一方、前シーズンで死亡したはずのハーパーは――なんの超常現象でもなく普通に生き延びて――ソ連の捕虜になっていた(泣いて損した)。そのことを知ったジョイスがマレー(ブレット・ゲルマン)の助けを借りて、ハーパーを救出すべくソ連に赴くというのが今シーズンの柱のひとつ。
ホーキンスでは可愛い女子高生が謎の新モンスターのせいで変死を遂げ、その容疑者として、ダスティン(ゲイテン・マタラッツォ)らが所属するカードゲーム部のボス、エディ(ジョセフ・クイン)が警察に追われ、被害者のボーイフレンドからは命を狙われることになる。ダスティンがナンシー(ナタリア・ダイアー)らの助けを借りて、エディ――あと次の犠牲者になりそうなマックス――を助けるためにモンスター退治に乗り出すというのがもうひとつのストーリーライン。
さらには、先の変死事件をエルのせいではないかと疑った軍関係者や、新たな脅威と戦うにはエルの復活が不可欠と考えた研究者たちによって、エルがふたたび事件に巻き込まれることになり、そんな彼女を救うべくジョナサン(チャーリー・ヒートン)とウィルの兄弟とマイク(フィン・ウルフハード)が、ジョナサンの新しい友人で長髪さらさらなアーガイル(エドゥアルド・フランコ)が運転するピザの配達トラックに乗りこんで追跡に乗り出すことになる。
以上三つのストーリーを交互に描きながら今シーズンは怒涛の結末へと進んでゆく。いささか残念なのはその三つのラインが最後の最後になるまで交わらない――つまり仲良しグループや家族やカップルが一堂に会するシーンがとても少ない――こと。
あと、ところどころにご都合主義がすぎやしないかって思うところがあったり――とくに軍関係者が遠慮なく人を殺しまくる展開は違和感がすごい(どんな国だアメリカ)――意図的なのかもしれないけれど、全体的にエルのファッションがあんまり過ぎて、ミリー・ボビー・ブラウンが気の毒になってしまったりもした。でもまぁ、おもしろいか、おもしろくないかと問われれば、そりゃまちがいなくおもしろかった。
これも次が最終シーズンと聞いているので、文句なしの大団円を期待してます。
(Jul. 03, 2022)
キャラクター
永井聡・監督/菅田将暉、Fukase、高畑充希/2021年/日本/Amazon Prime
ずとまよが巻き起こしたマイブーム――もはや洋楽より邦楽のほうがおもしろいのでは?――が映画にも波及。春先に観た『余命10年』も悪くなかったし、マーベルやDCのヒーロー映画ばかり観ているくらいならば、日本の映画にもすこしは時間を割いてもいいんじゃんって気がしてきた。
ということで、ひさびさの邦画――といいつつ、結局はこれも(次のも)ずとまよ絡み。世間的にはセカオワFukaseの怪演が注目の的なんだろうけれど、個人的にはずとまよのACAねが初めて個人名で参加した主題歌『Character』が要注目のサイコホラー。
それなりの話題作なので、内容はいまさら僕が書くまでもない気がする。
画力は抜群なのにキャラ作りの才能がなくて芽が出ない漫画家アシスタントが、偶然猟奇殺人事件の現場と犯人を目撃して、その事件をマンガ化したところ大ヒット。ついには彼が描いた話のつづきがそのまま犯人に模倣されて、窮地に陥るというような話。
主人公が菅田将暉、彼の奥さんが高畑充希、事件を追う刑事役が小栗旬と中村獅童で、注目のサイコパス犯人役が映画初出演のFukaseというのが主なキャスティング。
正直なところ、シナリオはそんなにすごくない。菅田くんが最初に殺人現場を目撃することになる展開はいささか不自然だと思うし――灯が消えた見ず知らずの他人の家に靴を脱いで上がり込む人なんていないよね?――クライマックスで意外な四人家族が襲われる事になる展開も――着想は素晴らしいと思うのだけれど――やや説得力に欠けた。犯人がレクター博士のような高学歴の天才サイコパスだという設定ならばともかく、ここでFukaseが演じる犯人は、不幸な生い立ちで満足に教育も受けてないだろうってキャラだ。それが主人公自身も知らないプライベートな個人情報を熟知しているのはおかしいでしょう? どんな情報収集能力だ。
演出も昔ながらの日本映画って感じで特には惹かれなかったし、ジャンル的に『羊たちの沈黙』や『セブン』などに近い作品だと思うけれど、さすがにあれらの傑作には及ばない出来映えだと思う。
でもつまらないというには迫力満点過ぎた。四人家族連続殺人事件という煽情的なネタは下世話な興味を引くし、注目されるだけあってフカセくんの不気味さが強烈だった。彼を映画に担ぎ出した人たちの勝ちでしょう。原案と脚本が、浦沢直樹の『MONSTER』などで共作者を努めている長崎尚志という人だと知って、なるほどと思った。まさにあれに通じる世界観の作品。
まぁ、なにより個人的には、やはり主題歌の『Character』が最高だった。冒頭の事件のあとでタイトルクレジットにイントロだけ使ったのも効果的。あそこはカッコいい。この映画にジャストフィットかというとやや疑問だけれど、とにかくこの曲はよいです。ACAねのパートがなにしろ最高。ずとまよでは書かないタイプの歌詞が新鮮だ。ずとまよナンバー同様、これもヘビロテせずにはいられない。
(Jul. 23, 2022)
さんかく窓の外側は夜
森ガキ侑大・監督/岡田将生、志尊淳、平手友梨奈/2021年/日本/WOWOW録画
これも主題歌がずとまよだから観ようと思った作品。
マンガが原作の場合、いつもは先にマンガが読みたいと思うのだけれど、これは絵がそれほど趣味ではなかったので、まぁいいかと映画を観てしまった(原作者の方、すみません)。
内容は、志尊淳演じる霊が見えてしまう青年が、岡田将生演じる霊媒師かなにかの助手として雇われ、滝藤賢一演じる刑事に協力して、平手友梨奈演じる女子高生が加担する新興宗教団による呪い絡みのオカルト事件に巻き込まれゆく、というようなもの。
この映画、前半はけっこういい感じだった。特にずとまよの『過眠』を使ったタイトル・バックが素晴らしい。この曲が使われていることを知らなかったので(名曲!)、そのスタイリッシュな演出にぐいっと引き込まれた。前半戦だけならば、演出的には『キャラクター』よりもこちらのほうが好きだった。
ただ正直後半は尻つぼみ。呪いが転じて異世界みたいな空間に入り込むあたりの展開は、なんだか劣化版の『ストレンジャー・シングス』を見せられているみたいな感じで、いまいち盛り上がれなかった。事件の謎も解けたんだかなんだかわからなかったし、呪いの話だけに憑き物が落ちない感が残ってもやもやする。
出演している俳優さんたちはみな魅力的なのだから、できれば中途半端にCGにたよらずに、オカルトを絡めつつ人間どうしのドラマを丁寧に描いてくれていたら、もっといい映画になったのではないかと思う。惜しい。
主題歌の『暗く黒く』が素晴らしいだけになおさら惜しい。
(Jul. 23, 2022)
ドライブ・マイ・カー
濱口竜介・監督/西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生/2021年/日本/WOWOW録画
村上春樹の短編小説を映画化して、アカデミー賞の作品賞にノミネート!
そんなこといわれたら、いくら邦画が苦手な僕でも観たくなる。このところ日本の映画を観ているのは、この映画の存在に影響されたところも少なからずある。これを観るんだったら、あわせてほかのも観ておこうかと。
当初は映画館で観ようかとか、先行配信版を買おうかとも思ったのだけれど、過去にほとんど邦画を観てきていない身としては、気に入らない可能性もあると思ったので、結局WOWOWで放送されるのを待った。
そしたら、やはり。
嫌いとまではいわないけれど、繰り返し観たくなるほどには惹かれず。
高評価を受ける理由はわかる。表題作をはじめとした村上春樹の短編三編を組み合わせ、そこに劇中劇としてチェーホフの『ワーニャ伯父さん』を多国語劇として取り込んでみせた脚本は見事だと思う。舞台俳優として外国人のみならず、手話を話す韓国人女性まで出てくるという点はいかにもボーダーレスで――その劇が実際におもしろいのかはわからないけれど――とても現代的だ。
でもこの作品は僕の趣味からすると生真面目すぎる。
村上春樹の作品に通底しているユーモアの感覚や心地よいモラトリアム感はほぼゼロ。結果、『シェエラザード』から転用してきた同級生の男の子の家に空き巣に入る話とか、『木野』を下敷きにした奥さんの浮気現場の目撃シーン――あまりに自然に組み込まれているので、僕はあの短篇からの引用だということに気がつかなかった――とか、いささか陰湿で気持ち悪い印象になってしまっている。
まぁ、かつて一緒の会社で働いていた若い女の子が「村上春樹は気持ち悪い」といっていたので、もともとの短編からして、そう思われる要素を大いに含んだ作品なのかもしれないけれど、でも僕自身はまったく嫌悪感を感じずに読んだ作品群だったので、その短編からもってきたエピソードがこの映画のなかで語られることで、ある種の気持ちの悪さを掻き立ててきたのが予想外だった。
村上春樹の世界を映像化するのは、思ったより大変なことなのかもしれない。
(Jul. 30, 2022)