2022年4月の映画
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パワー・オブ・ザ・ドッグ
ジェーン・カンピオン監督/ベネディクト・カンバーバッチ、キルスティン・ダンスト/2021年/ニュージーランド、イギリス、アメリカ、ギリシャ、オーストラリア/Netflix
前の作品からずいぶんあいだが開いてしまったけれど、ネットフリックスで今年のアカデミー賞候補作を観ようシリーズ第三弾は、ジェーン・カンピオンが最優秀監督賞を受賞した『パワー・オブ・ザ・ドッグ』。ジェーン・カンピオンってずいぶんひさしぶりだなと思ったら、この映画が十二年ぶりの監督作なのだそうだ。
主演のカンバーバッチが馬に乗ってカウボーイ・ハットをかぶっているから西部劇だと思っていたけれど、これを西部劇と呼ぶのはおそらく違うんだろう。舞台となっているのは1925年のモンタナ州だそうだから、もう第一次大戦後。さすがにその時代ではもうドンパチの銃撃戦はない。
カンバーバッチ演じる主役のフィル・バーバンクは大牧場主の長男で、ゲイの傾向がある男性。でも牧場という男の世界のボスの地位にあるので、そのことを隠している。
彼には気のあわないジョージ(ジェシー・プレモンス)という弟がいて、この人がキルスティン・ダンスト演じる未亡人のローズと結婚したことから――というか、彼女に美男のひとり息子がいたことから?――バーバンク一家にさまざまなトラブルが巻き起こる。
ローズの息子ピーター役のコディ・スミット=マクフィーという人は『X-MEN』新シリーズでナイトクローラー(真っ黒な悪魔みたいなミュータント)の役を演じているそうだ。ちょっと目が離れ気味のそのエキセントリックなルックスを見て、なるほどと思った。
『ドント・ルック・アップ』のジェニファー・ローレンスはミスティーク役だし、『チック、チック…ブーン!』のアレクサンドラ・シップはストーム役だというし。今回のアカデミー賞関係者は『X-MEN』絡みの俳優だらけなのがおもしろい。
なんにしろ、この映画で意外な存在感を発揮しているのがこのコディ君。彼のなにを考えているんだかよくわからない感じがこの映画の味を決定していると思った。
そうそう、全体的な雰囲気が『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』っぽいから、もしやと思ったら、音楽はやはりあれと同じくジョニー・グリーンウッドだった。彼の音楽って意外と記名性が高いかもしれない。
(Apr. 03, 2022)
余命10年
藤井道人・監督/小松菜奈、坂口健太郎/2022年/日本/ユナイテッド・シネマとしまえん
生まれてこの方、この手の映画を観たいと思ったことがない。どちらかというと観ないで済ませたい。なぜわざわざ金を払ってまで人が死ぬところを見て涙を流さなきゃならないんだと思う。泣きたくて映画を観る人の気持ちがわからない。
そんな男がめったにゆかない映画館に足を運んでまでこの映画を観たのは、当然その音楽を手がけたのがRADWIMPSだったがゆえ。主題歌一曲だけとかならばともかく、サウンドトラック全部を手がけているとなると、やはりファンとしては一度は劇場で観ておくべきだろうって気になる。『君の名は。』も『天気の子』も映画館で観たし、これだけ例外ってのもなぁって。RADが好きなうちの娘も観たいというので、ではせっかくだからとふたりで観てきた(僕と同じくこの手の映画が苦手なうちの奥さんにはガン無視された)。
ということで、いまいち気乗りのしないまま、ある種の義務感にしたがって観た映画だったけれど、これが意外と悪くなかった。日本の映画によくあるような浮ついたギャグは皆無だったし――まぁテーマ的に笑えるような要素がないって話だけれど――なによりキャスティングが豪華で、出演者は有名で芸達者な人たちばかり。
小松菜奈、坂口健太郎の主演のふたりはもとより、脇をかためる俳優陣も、小松の演じる
演出も過度にお涙頂戴なところがなくて、余命十年を宣告されたヒロインの残された日々を日本の四季の美しさを背景に淡々と描いてゆく感じに好感が持てた。まぁ、告白シーンなどは飾らないにもほどがあるのではってくらいセリフが平凡に思えたけれど、その平凡さゆえ自然体のリアリティがあった……気がしなくもない。
注目のRADWIMPSの音楽については、新海誠のアニメと違って、歌ものがエンディングでかかる主題歌『うるうびと』だけで、あとはすべてインストなので、これまでではもっとも地味というか、これぞまさしく映画のサントラって感じだった。
(Apr. 30, 2022)