2021年9月の映画

Index

  1. リチャード・ジュエル
  2. シン・エヴァンゲリオン劇場版
  3. 宇宙人ポール

リチャード・ジュエル

クリント・イーストウッド監督/ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル/2019年/アメリカ/Netflix

リチャード・ジュエル(字幕版)

 1996年のアトランタ・オリンピックで発生した爆破テロ。警備員のリチャード・ジュエルは事前に爆破物を見つけて被害者が増えることを防いだことにより、当初は英雄として称えられるものの、その後FBIから自作自演の容疑者ではとして疑われ、これがマスコミにリークされたことから、一転して世間の非難の的に……。
 そんな実話を映像化したクリント・イーストウッド作品。『ハドソン川の奇跡』もそうだったけれど、晩年のイーストウッドの関心は、もっぱら正しいことをしたにもかかわらず、その正義が報われなかった人を描くことに向いているらしい。
 イーストウッドの演出の常で、この映画も過剰に感動的な話にはなっていない。実話ベースなので、主人公のリチャード・ジュエルを演じるポール・ウォルター・ハウザーは太り過ぎでぱっとしないタイプだし、正義漢ではあるけれど、銃器マニアのちょっぴりあぶなそうなところのある人として描かれている。
 そんな彼を救う弁護士の役がサム・ロックウェル。もとよりうさん臭い役どころを演じさせたら抜群の人だけれど、ここでのうだつのあがらない弁護士役はまさに適役。あと、ジュエルの母親役がキャシー・ベイツ。このふたりのキャスティングがこの映画のいちばんのセールス・ポイントだと思う。
 うん、でもほんとサム・ロックウェルがいいです。最近のこの人の出演作はどれもいい役ばかり。マイ・フェイバリット俳優ランキング急上昇中。
(Sep. 05, 2021)

シン・ヱヴァンゲリヲン劇場版

庵野秀明・総監督/2021年/日本/Amazon Prime Video

シン・エヴァンゲリオン劇場版

 ついに完結したエヴァンゲリオン新劇場版の最終章。
 世間的に好評を博しているようだけれど、それはひとえにこの作品がいちおう完結したから、に尽きるのではないでしょうか。僕はこの映画、いまいち好きになれなかった。
 前作『Q』で予想外の方向へシフトした物語に、庵野秀明は今回とりあえずきちんとけじめをつけている。
 あいかわらずわけのわからないことだらけだし、エヴァ初号機と十三号機をお茶の間で戦わせたり、絵コンテをそのまま映像化したりという、テレビ版の最終回や旧劇場版のエンディングに通じる楽屋落ち的なシーンもあって、そういうところは変わらないのねって思わせたけれど、でもまぁ、いいか悪いかは別として、今回は物語をちゃんと最後まで描いてみせた。1995年のテレビ版から始まる二十五年の歴史に幕を閉じてみせた。そのことを単純に祝福すべきなのかもしれない。
 でもなー。この新劇場版四部作は、画質の向上と引き換えに、物語的な劣化を許してしまっているように僕には思える。テレビ版の綾波の危ういミステリアスさや、アスカの生き生きとした魅力が平坦になってしまい、その分を補うかのように導入された真希波マリという新キャラが、本来ならば彼女たちがいるべき場所を奪い去ってしまった感があるのが、なんとも残念だ。マリさんも可愛いと思うんだけれどねぇ……。
 『Q』以降のバトルが対・使徒ではなく、エヴァ対エヴァになってしまったことや、サード・インパクト以降の世界の赤く染まった風景がビジュアル的にあまり好きになれないことなども否定的な気分に拍車をかけている。あ、でも前作での十四年のインターバルは碇ゲンドウを「ゲンドウくん」呼ばわりする真希波の存在を説明するために必要だったのか!――って、そこんところは目から鱗でした。
 とにかく四部作の後半二本がずっとカタストロフ後の世界ってのが個人的には残念。テレビ版のストーリーを三部作で描いて、そのあとに濃厚なその後のカタストロフを二時間でみせるような形だったらどれほどよかったか……。
 最後の最後までエヴァンゲリオンという作品にはないものねだりをさせられて終わってしまった気がする。
(Sep. 05, 2021)

宇宙人ポール

グレッグ・モットーラ監督/サイモン・ペッグ、ニック・フロスト/2011年/イギリス、アメリカ/iTunes Store

宇宙人ポール (字幕版)

 前から気になっていたタイトルなのだけれど、エドガー・ライト監督の『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』で主演を務めているサイモン・ペッグとニック・フロストのコンビの出演作だと知って、そりゃやっぱ観ておくべきだろうと思った作品。
 とかいいつつ、エドガー・ライト監督の二作品は好きかと問われるとちょっと困ってしまうような作品だったので、これも同じような出来だったらどうしようとやや不安だったのだけれど、こちらはいい意味でも悪い意味でもエドガー・ライト作品ほどぶっ飛んでいなくて、安心して観られる内容だった。まぁ、その分、平凡っちゃぁ平凡な出来映えって気がするけれど、あさってにぶっ飛んでいて評価に困ることもないので、これはこれでありだと思う。
 内容はアメリカ政府に捕らわれていたエイリアンがエリア51から逃げ出し、アメリカ旅行中のイギリス人のSFオタク二人とともに逃避行を繰り広げるというもの。
 過去のSF映画やエイリアンねたへのオマージュで笑わせるB級テイストたっぷりの映画だけれど、その一方でスピルバーグ本人が声の出演をしていたり、エイリアン映画といえばやっぱこの人でしょうって女優さんがクライマックスに華を添えていたりするあたり、なかなか馬鹿にできないなと思う。そんなのありですかって末路をたどる気の毒な人が三人ほどいるけれど、被害者はそれだけだし、あとはシンプルに笑えるギャグ満載の楽しい映画だった。
 個人的にツボだったのは主役のふたりがコミコン会場を散策している楽しげなオープニングでかかるのが『アナザー・ガール・アナザー・プラネット』だったこと。
 まぁ、僕が好きなのはここでかかるオンリー・ワンズのオリジナルではなく、マイティ・レモン・ドロップスがカバーしたーバージョンなんだけれども。それでも大好きなこの曲がオープニングのBGMでかかった時点で、この映画はもう余程のことがないかぎり嫌いようがないなって感じだった。
(Sep. 24, 2021)