2021年3月の映画
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死霊のはらわた
サム・ライミ監督/ブルース・キャンベル/1981年/アメリカ/WOWOW録画
男二人と女の子三人の五人組が格安で手に入れたおんぼろコテージで一夜を過ごそうとしたところ、そこに残されていた呪いの本やら呪文のテープのせいで死霊が呼び出されて、五人が次々とその犠牲になってゆく……というような話。
その後『スパイダーマン』シリーズでメジャーとなるサム・ライミの監督デビュー作だし、先日読んだ『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』でも絶賛されていたので、スプラッターは苦手だけれど、一度くらい観ておこう……とか思ったのが間違いだった。
やっぱ僕はスプラッターは駄目だ。生理的に受けつけない。
グロテスクな残虐シーンの数々が苦手なだけでなく、この映画の場合は物語にあれこれ破綻も多くて、理屈屋の僕は終始なにそれって思わずにいられなかった。
だって主人公のガールフレンドが鉛筆で足を刺されただけでゾンビ化(死霊化?)しちゃうのに、ゾンビに足をひっかかれたり、血を浴びせかけられたりしている主人公が最後まで大丈夫だなんておかしいでしょう? 女の子が悲鳴をあげているのに、男どもがよっこらしょとか、悠然としていたりするし。主人公のお姉さんが死霊化したのには唖然としたよ。なにそれ突然。とにかくキャラクターの行動がいちいち不自然すぎる。
謎のなにかの視線を表現してハンドカメラが森の中を疾走するシーンとか、死霊の特殊メイクとか、死霊が腐るシーンのクレイアニメ的な手法とか、八十年代冒頭に低予算で作った映画としては画期的なのかもしれないけれど、CGで超絶的な映像があたりまえのように観られるいま現在では目新しくもないので、映像的なあれこれを差し引いてみると、もうしわけないけれど、単なるB級映画としか思えなかった。
もしかしてこのB級感こそが魅力って思う人もいるんでしょうか?
(Mar. 07, 2021)
ショーン・オブ・ザ・デッド
エドガー・ライト監督/サイモン・ペッグ、ニック・フロスト/2004年/イギリス、フランス、アメリカ/Netflix
春のホラー映画特集(小石川家限定)の第二弾は最近注目の映画監督、エドガー・ライトの出世作。
謎のウィルスが蔓延して、ある朝目が覚めたら、まわりがゾンビだらけになっていましたと。そんな世界で冴えない量販店店員の主人公がプータローの親友とともに恋人と母親をピックアップして安全な場所に避難しようと奮闘するというコメディ。
いかにもエドガー・ライトだなぁっていうのが、主人公たちがめざす「安全な避難場所」というのが、お気に入りのパブであること。安息の土地(パブ)をめざして困難(この場合はゾンビの群れ)を乗り越えてゆくって、発想がのちの『ワールズ・エンド』とほとんど一緒じゃん!
ちなみに主演のふたり、サイモン・ペッグとニック・フロストもあの映画と同じ配役。ただしこちらでは性格が反対で、『ワールズ・エンド』ではペッグが困った人で、フロストは堅実な弁護士という役どころだったけれど、今回はフロストがニートで、ペッグが(比較的)まともな社会人。ま、とはいっても、ゾンビからの避難場所になかよくパブを選ぶような人たちなので、どういう性格かは推して知るべし。
とにかく序盤は終始オフビートで、ゾンビはたくさん出てくるけれど、それほど怖くない。迫りくるゾンビをやっつけるのに、アナログ盤コレクションからいらないディスクを選んで投げつけるシーンとか、レコード・コレクターなら失笑モンです。
終盤になって切羽詰まってくると、さすがにスリリングでシリアスなシーンも増えるけれど、でも最後には脱力するようなエンディングが待っている。あれはいちおうハッピー・エンドって思えばいいのかな? なんかちょっと微妙。
とりあえず、若い女性を対象にしてグロテスクなシーンを描かなかったあたりにエドガー・ライトの意外な英国紳士っぷりを見た気が……しないでもない。
(Mar. 21, 2021)
ハッピー・デス・デイ
クリストファー・ランドン監督/ジェシカ・ロース、イズラエル・ブルサード/2017年/アメリカ/Amazon Prime Video
春のホラー映画特集の三本目は、Amazon Primeでプッシュされていたこの映画。
ちょっとビッチな女子大生ツリー(ジェシカ・ロース――Jessica Rothe――配信先のユニバーサルのサイトではロースだけれど、Wikipediaではローテになっている)が男子寮の名前も知らない男の子の部屋で目を覚ますところからこの映画は始まる。
その日は彼女の誕生日。二日酔いの頭痛とともに始まった冴えない一日は、彼女が不気味なベイビーマスクをつけた謎の殺人鬼の刃にかかって殺されるところで終わる……かと思いきや。
なぜだか彼女はふたたび男子寮のベッドで目を覚まして、前と同じ一日を過ごすことになる。殺されたのは悪夢だったのかと、デジャブだらけの一日に困惑しながらも、前回とは違う行動をとることで、悪夢の再現を避けようとした彼女だったけれど、謎の殺人鬼はふたたび彼女の前に現れて……。
ということで、みたび男子寮のベッドで目を覚ました彼女は、なぜだか自分が死の無限ループに陥っている状況を受けとめ、いかにしたらこの苦境から脱出することができるのかを模索し始める。そして何度も何度も殺されつづける……。
そう。要するにこれは『恋はデジャ・ブ』や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』と同じ主題をホラー映画のフォーマットで描いてみせた作品だ(実際に映画の最後には『恋はデジャ・ブ』に関するセリフがある)。でもって、あれらの映画と同様、とてもおもしろかったりする。主人公が殺されるその瞬間で終わるからグロいシーンも少ないし、ホラーというほどには怖くない――というか、これはホラー映画ではないのでは?という気もする。これで解決!――と思ったところでどんでん返しがあるパターンが二度、三度ってシナリオもなかなかだった。
この映画でなによりいいのは主人公の性格が変化してゆくところ。何度も殺されることで彼女は自分がいかに無力かを知り、まわりの人々の存在がいかに重要かを思い知る。そうやって自分本位だった彼女が、父親との不和を乗り越え、冴えない男の子の優しさを知って、新しい自分を発見してゆく。
第一印象で「この子が主演で大丈夫なの?」って思わせたジェシカ・ロースが(失礼)、終わりごろにはすっかり可愛く見えるようになっていた。その一点だけ取っても、この映画が成功している証拠としては十分だと思う。
(Mar. 21, 2021)
ハッピー・デス・デイ 2U
クリストファー・ランドン監督/ジェシカ・ロース、イズラエル・ブルサード/2019年/アメリカ/Amazon Prime Video
引きつづき『ハッピー・デス・デイ』の続編。
前作では原因不明のまま死の無限ループに陥っていたツリーだったけれど、それにはじつは空想科学的な要因があったことが判明。そのせいでふたたびあの悪夢の朝に連れ戻され、しかも今度はいままでとは似て非なるパラレル・ワールドに紛れ込んでしまったことで、前回の何倍もの死を体験することになるという話。
これはもはやホラーではなく、SFブラック・コメディだろって感じの第二弾。ありがちなSF的設定を導入したせいで、原因不明なままに同じ日が繰り返されるがゆえのミステリアスな不気味さがすっかりなくなってしまい、なおさらホラー映画らしくなくなった。コメディ要素もより増えて、ずいぶんとあっけらかんとした感じになっている。
前作には『恋はデジャ・ブ』みたいだってセリフがあったけれど、今回にも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に関する言及がある。そうそう、まさにそれ。もしもこの映画が過去の名画に対するオマージュなんだとしたら、その対象は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だろうなって仕上がりだと思う。エンド・クレジットのあとに続編をほのめかずマーベルっぽいシーケンスもあるのもSFっぽさを助長している。
まぁでも、これはこれなにり楽しめた。内容としては前作のほうがおもしろかった気がするけれど、続編ということもあって、ガイ・リッチーの『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』を観たときと近い感覚がある。やや安直でチープな部分もあるから絶賛はしないけれど、続編であるがゆえに憎めないって感じの作品。
とりあえず、ふたたびあの朝に戻ったツリーの「こんちくしょー」って感じには同情まじりの苦笑を禁じえません。
(Mar. 21, 2021)
ゾンビランド:ダブルタップ
ルーベン・フライシャー監督/ジェシー・アイゼンバーグ、ウディ・ハレルソン、エマ・ストーン、アビゲイル・ブリスリン/2019年/アメリカ/WOWOW録画
もう一本、コメディ・タッチのホラー映画の続編。
『ゾンビランド』の主演四人がそのまま続投して、あの映画の後日談を描いた新作なのだけれども――。
この作品に関しては、前作から十年が過ぎてしまっているのが最大の問題だと思う。話の流れ的にはあのあとすぐって感じなのだけれど、実際には十年がたっているせいで、前作では十二、三歳だったアビゲイル・ブリスリンがすっかり大人になってしまっている。その違和感が正直なところ残念。
あとの人たちはそれほど変わっていないけれど、とにかくアビゲイルちゃんは育ちすぎ。あくまでも主演四人のキャスティングにこだわるならば、十年という歳月を踏まえたシナリオにするべきだったのではと思うし、そうでないならば、アビゲイル・ブリスリン演じるリトルロックの配役は変えるべきだったと思う。コロンバスとウィチタの関係からすれば、前作からそんなに長い時間がたったとは思えないのに、リトルロックだけすっかり大人になっているという点がどうにもしっくりとこなかった。
――まぁ、とかいいつつ、僕はジェシー・アイゼンバーグとエマ・ストーンがカップルになったことも忘れていたような観客なので、なにを偉そうにって話ですが。
それにしても『キック・アス』の続編でも思ったことだけれど、ハリウッドの脚本家たちはなぜに一作目で美女を射止めたオタクな主人公に二作目で浮気をさせたがるかな。納得がいかない。もてない男はもっと純情であって欲しいよ。
ということで、そこそこ笑えはしたけれど、この内容ならば、べつになくてもよかったかなって続編だった。
そういや、ウディ・ハレルソンといい仲になるタフな黒人女性を演じているのはロザリオ・ドーソンですって。『デス・プルーフ』を観てからすでに十年以上もたつので、まったく気がつかなかった。
(Mar. 21, 2021)
ミッドサマー
アリ・アスター監督/フローレンス・ビュー、ジャック・レイナー/2019年/アメリカ、スウェーデン/WOWOW録画
短期集中・春のホラー映画特集の最後の一本は、去年公開されて一部の人たちに熱狂的に支持されたらしいエキセントリックなホラー映画。
フローレンス・ビューという小柄でぽっちゃりとした女の子が演じる主人公のダニーは精神的に問題をかかえた女子大生。物語の冒頭でいきなり妹が両親を道連れにして無理心中をはかったことで、心に深い傷を負うことになる。
そんな彼女が恋人に誘われて、彼の友達ら三人とともに欧州旅行にでかける。目的地は仲間のひとりであるスウェーデン人の故郷である山奥の村。そこは古代から連綿とつづく独自のルールに従って暮らす人々が集まったコミューンだった。全員が白い衣装をまとい、自然とともに穏やかに暮らすその共同体には、現代人の価値観とは相容れない、ある特異な風習があったことから、旅人たちは思いもしない事態に巻き込まれてゆく……。
いやはや、ホラー映画といっても、いろいろだなぁと思う。この映画にはゾンビもスーパーナチュラルな殺人鬼も出てこない。超常的なことはいっさい起こらない。でもこれがホラー映画に分類されるのは、そこで起こる殺人が殺人として裁かれないから――なんだろうなと思った。
要するに、法律で裁くことのできない殺人を描く映画こそがホラー映画ということなんだろう。そういう意味ではこれはまさにホラー映画だ。残酷シーンはそれほどないけれど、人の命が(僕らの感覚からすると)不条理な形で奪われる。
いずれにせよ、この映画はここ最近観てきた他の作品とは根本的に性格が違う。まぁ、今月僕が観た映画は最初の一本以外はどれもあまりホラー映画っぽくない作品ばっかりだったけれど、でもこれは確実に異質。
そもそもホラー映画って、びっくり要素が必要だからか、どれも短いところがいいなと思っていたのに、この映画は長い。今月観た映画が軒並み一時間半ちょいだったのに対して、この映画は二時間半近い。最初から最後まで、ひとつひとつの描写がゆっくりと静かで不気味。終始不安感をかきたてるような空気が漂っていて、それが絶えずつづくという……。
なんかじわじわと不快感を煽られるようで、なんともいえないあと味の残る映画だった。怖いというよりは、おぞましいって感じ。確かに個性的でインパクトのある作品ではあるけれど、正直なところあまり好きとはいえません。
とりあえず、日本を舞台にしてもまったく違和感のないリメイクが作れそうな話だと思った。
(Mar. 21, 2021)