2018年5月の映画

Index

  1. LOGAN/ローガン
  2. 茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~
  3. ONCE ダブリンの街角で
  4. シャイラク

LOGAN/ローガン

ジェームズ・マンゴールド監督/ヒュー・ジャックマン、パトリック・スチュワート、ダフネ・キーン/2017年/アメリカ/WOWOW録画

LOGAN/ローガン (字幕版)

 X-MENシリーズのスピンオフ、ウルヴァリン三部作の完結編。
 この作品、とても評判がいいので、前作『ウルヴァリン:SAMURAI』を観ていないのに、まぁいいかと観てしまったのが失敗だったかもしれない。
 なんだかいろいろ設定に謎が多かった。なぜかミュータントはほとんど絶滅しているし──『ファイナル・ディシジョン』のあとの世界だから?──、プロフェッサーXは介護老人と化している(アルツハイマー症らしいです)。そしてなにより、不死身のはずのウルヴァリンが不死身でなくなっている(なぜだ?)。
 まぁ、そんなわけで、今回の話はアル中気味でやたらとよれよれになったウルヴァリンことローガンがハイヤーの運転手なんかをしてを糊口をしのぎつつ、プロフェッサーXを介護しながら隠遁生活を送っているところへ、ローガンのDNAを継いだ少女ローラ(ダフネ・キーン)が登場。彼女を仲間のミュータントたちと再会させるために旅に出るというもの。いってみればX-MEN版の『ペーパームーン』とか、そんな感じのロードムービー風の作品。
 やっぱこの映画のポイントはチビ・ウルヴァリン少女がやったらめったら強いところだ。しかもまだ善悪の観念もない少女だから見境なし。彼女とローガンとのあいだの親子の絆が泣かせどころかのは確かなのだけれど、そんな幼い少女の曇りのない凶暴さがなんともいえない味わいをこの作品に与えている。
 ウルヴァリン三部作の完結編と書いたけれど、これにて初代X-MENシリーズの主要キャラが全員お役御免となる点では、旧シリーズの完結編ともいえる作品。シリーズ最重要作のひとつなのは間違いなし。
(May 02, 2018)

茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~

熊坂出・監督/宮治淳一、中沢新一、神木隆之介、野村修平/2017年/日本/BD

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 桑田佳祐と中学の同級生だったという音楽プロデューサーの宮治淳一という人がみずからの故郷・茅ヶ崎がなにゆえ桑田や加山雄三らの突出した音楽家を輩出したのかを考察する本を書こうと思いたち、その取材内容を映像化。さらにそこにプラスして、桑田佳祐が彼のプロデュースで初めて人前で歌った高校時代の思い出を再現ドラマとしてつけ加えた変則的なドキュメンタリー・フィルム。
 前半は宮治氏が茅ヶ崎ゆかりの人々の話を聞いてまわり、人類学者の中沢新一が当地の民族学的な分析を語り聞かせるという内容で、非常にNHKドキュメンタリーっぽいつくり。で、後半は神木隆之介演じる高校時代の宮治氏が文化祭でライブハウスをやろうと思い立ち、中学時代の友人である桑田佳祐──演じるのは野村周平(桑田役にしてはカッコよすぎるけど)──をかつぎだして、桑田に音楽家としての第一歩を踏み出させるまでをフィクションとして描いている。
 ノンフィクションの前半は民俗学的な考察が多いせいでポップミュージック視点だと生真面目すぎるし──桑田佳祐がいちども登場しないのも残念だ──、後半のドラマはいかにも日本映画的な演出が多くて僕にはいまいちだった(男子高生の桑田が共学高校の文化祭にきて興奮のあまり勃起が収まらないなんて描写はいらない)。主演のふたりに加え、宮治氏の担任役で安田顕が出ていたり、高橋優が高校生役で弾き語りを披露していたりと、キャストが豪華なだけにもったいない。
 それでも最後の最後、桑田が初めてのステージでその後の天才の片鱗を見せたところから、烏帽子岩{えぼしいわ}での桑田ご本人の最新のライブパフォーマンスへとつながってゆくところにはちょっとばかりじんときた。
(May 13, 2018)

ONCE ダブリンの街角で

ジョン・カーニー監督/グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ/2007年/アイルランド/Netflix

ONCE ダブリンの街角で (字幕版)

 『はじまりのうた』『シングストリート 未来へのうた』の監督、ジョン・カーニーの出世作。
 父親の掃除機修理店を手伝いながらストリートで弾き語りをつづける中年ミュージシャンが、彼の歌を聴きとめた移民の女の子との出逢いをきっかけに、本気で歌手デビューをめざして旅立つことになるまでを描いた恋愛映画。
 観ていて主演ふたりの年齢差がいまいちよくわからなかったのだけれど、調べてみたらグレン・ハンサードが1970年生まれ、女の子のマルケタ・イルグロヴァが1988年生まれだった。つまり映画公開当時で35歳と19歳(えっ!)。つまりその差は16歳。ひとまわり以上違う。
 『はじまりのうた』のキーラ・ナイトレイとマーク・ラファロも18歳違いだったし、ジョン・カーニーという人には年の離れた女の子になにかトラウマでもあるんだろうか──とか勘ぐりたくなる。
 まぁ、なんにしろこの年齢差が物語のひとつのポイント。さすがにひとまわりも違う女の子にはそう簡単には手は出せない(いや、正確には出そうとするんだけれど、早々に失敗する)。その後は女の子の側がわけありなこともあって、おたがいに想いをよせながらも素直になれないという、もどかしい関係がたっぷりの音楽とともに切なく描かれてゆく。
 映像的にはいかにも低予算って印象の映画ではあるけれど、主演ふたりの微妙な関係や音楽制作にまつわる喜びがとてもビビッドにつたわってくる良作。ジョン・カーニーの作品って悪人が出てこないところがいいと思う。
(May 13, 2018)

シャイラク

スパイク・リー監督/ニック・キャノン、ウェズリー・スナイプ、テヨナ・パリス/2016年/アメリカ/Amazon Prime Video

シャイラク (字幕版)

 日本ではいまいち人気がないスパイク・リー監督のおそらく現時点での最新作。
 劇場公開されなかったので観る機会はないかと思っていたこの作品、なんとAmazonの制作だとのことで、ふつうにプライム・ビデオに上がっていました。ラッキー。
 とはいえこれ、出来はいまいちだと思う。
 タイトルの『シャイラク』は原題だと CHI-RAQ という綴りで、シカゴの「CHI」にイラクの「RAQ」をつなげた造語とのこと。もともとシカゴのことを CHI-TOWN と呼ぶスラングがあるとのことで、これを受けて、銃器による死者がイラク戦争のときの戦死者並だというシカゴの深刻な犯罪事情を揶揄した、わりと新しいスラングらしい。でもってこの映画では登場人物のひとりの名前でもある。
 ということで、冒頭からそうしたシカゴの悲惨な現実をライムに込めたラップ・ナンバー──歌っているのはシャライク役のニック・キャノンとのこと──を流しながら、真っ黒い画面にその歌詞を引用したシンプルな映像とともにこの映画は始まる。
 スパイク・リーの映画にしては地味で飾り気のないこのオープニングがその後のシリアスな内容を予感させる。そして冒頭から満員のライブハウスでの銃撃戦や、五歳の少女がギャング団の抗争に巻き込まれて死亡するという悲惨な事件がつづけざまに起こるって、やっぱ重い映画だと思わせる──のだけれど。
 こうした状況を前に、対立する黒人ギャング団の片方のボス、シャイラクの恋人であるリシストラタ(テヨナ・パリス)が、殺された少女の母親(『ドリーム・ガール』でアカデミー賞を受賞したジェニファー・ハドソン)の悲しみに心を打たれて、男たちに無益な抗争をやめさせるべく、仲間の女性たちとともに「争いごとをやめないならば、もうセックスはさせない」というストライキを始める……というところから、なんだか雲行きがあやしくなる。
 ここからのメイン・テーマとなるセックス・ストライキというアイディアはスパイク・リーのオリジナルではなく、なんでも『女の平和』というギリシャ喜劇を下敷きしたものなのだそうだ。
 そう、なんとこの作品のベースとなるのは喜劇なのだった。
 そこがおそらくいちばんの問題なのだと思う。序盤で展開されるシリアスな状況と、いざストが始まってからの、ある意味お気楽とさえいいたくなる展開とのギャップが僕にはどうにもしっくりこなかった。事態の収拾をはかった主人公カップルが公開セックスでどっちが先にイクか勝負するなんて展開はふざけるにもほどがある。
 この映画ではシカゴで始まったストが世界中の女性のあいだに広がってゆくというくだりがあって、アメリカの女性たちがストの際に連呼するスローガンの No Peace, No Pussy が字幕では「ノー・ピース、ノー・セックス」と意訳されていたので、さて、日本に来たらどうするんだろうと思っていたら、終盤になって注目の日本のシーンもあり。そこでは日本の女性たちが「平和がなければ、エッチもなし」とか連呼してました。その訳はちょっといいなと思った。
 そのほか、シャイ・ライツの『オー・ガール』にあわせて官能的なダンスを踊るシーンとかおもしろかったけれど――タランティーノも使っていたし、この世代の映画関係者ってあの曲が大好きだよね――でもあれにしたって序盤の重さと対比させてしまうと、浮きまくっている感が否めない。
 カメラ目線で観客に語りかける謎の役どころのサミュエル・L・ジャクソンとか、少女の葬儀で熱烈なスピーチを行う牧師(だか神父)役のジョン・キューザックとか、配役も豪華で見どころも多いだけに、なんだかいろいろと残念な作品だった。
(May 27, 2018)