2013年3月の映画
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テルマエ・ロマエ
武内英樹監督/阿部寛、上戸彩/2012年/日本/WOWOW
原作がおもしろかった上に、阿部寛がローマ人を演じるというミスマッチに興味があって、ひさしぶりに観てみることにした邦画なのだけれど。
これ、映像的にはとてもいいと思う。日本の作品でも、こういう陰影のある絵が撮れるってのには、素直に感心させられた。この出来ならばハリウッド作品にも、そうそう引けは取らない。
ただし、絵はよくっても、シナリオがいまいちすぎる。原作のナンセンスをそのまま映像化している前半は(やや駆け足気味ながら)とてもいい感じなのに、途中から上戸彩をフィーチャーしたお涙頂戴の恋愛ドラマになってしまうあたりから先は、興ざめもいいところ。
原作の通りだと色気が足りず、金がかかる割には、いまいち華やかさにかけるっていう作り手の商業的視点からの変更なんだろうけれど、これはそのナンセンスな設定だけで十分に世界中にアピールできる題材だと思うだけに、もったいないと思わずにいられない。どうせなら最後までお笑いのみに徹して欲しかった。
そう、ナンセンスなタイム・スリップをネタにしたコメディという点では、ひとつ前に観たウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』と近いものがあるんだけれど、その出来は雲泥の差。あちらがあっけらかんと時空を飛び越えていたのに対し、こちらでは下手にその理由を説明しようとしたりする。その姿勢が気に入らない。馬鹿話に理屈なんて必要ないでしょう? 恋愛要素の描き方だって、あちらとこちらでは大人と子供だ。
いかにも日本的なコマーシャリズムと幼稚な合理主義のせいで、世界基準の傑作コメディになりうる素材をみすみすスポイルしてしまったって印象の作品。なんで日本の映画ってこうなんだろう。
(2013, Mar 05)
座頭市
北野武・監督/ビートたけし、浅野忠信/2003年/日本/WOWOW録画
どうせだからということで、もう一本邦画をつづけて観た。北野武の『座頭市』。気がつけば、これももう十年前の作品だ。月日の過ぎるのがはえー。
さて、いまやほとんど日本映画を観ない僕が、北野武の映画だけは特別視しているのは──まぁ、僕ら世代の男の大半はビートたけしを特別視していると思うんだけれど──たんにミーハーだから、というのもあるけれど、それよりも、はじめに見た『その男、凶暴につき』のインパクトが強烈だったのが大きい。
それなりの数の映画を観てきたいま観てなおすごいと思うかはさだかじゃないけれど、少なくても十何年か前にあの映画を初めて見たときのインパクトは絶大だった。救いのないシナリオに斬新な暴力描写。とてもお笑いが本職の素人監督の作品とは思えなかった。日本の実写映画を観てすごいと思わされたのは、高校時代に井筒監督『犬死にせしもの』を観て以来じゃないかと思う(その後の日本映画ってほとんど観てないけれど)。
それ以来、北野武の映画は、機会があればできるだけ観るようにしている。
とはいえ、その作品が好きかって問われると、そうとはいい切れない。どうしてももう一度観たいと思うような映画って一本もない。僕の趣味からすると、暴力描写が痛々しすぎたり、ギャグがべたすぎたり、俳優の演技がいまいちだったりして、いまいち入れ込めない。おかげで、現在の日本映画界にとって唯一無二の存在だと思いながらも、なかなか全作品をフォローしきれない。たまに放送されると録画して、さっさと観なきゃと思いながらも、放っておくというパターンになってしまう。で、気がつけば、観ないうちに何年もたっているという。これはそんなうちの一本。
この映画でたけしが天才的だと思ったのは、ラストのタップ・ダンスのシーン。噂には聞いていたけれど、あれほどまでに見事なものだとは思っていなかった。着物姿の出演者が勢ぞろいして、和太鼓をフィーチャーしたダンス・チューンにあわせて踊るあのシーンには、日本文化の伝統性と現代性がみごとに表現されている。音楽の出来映えも素晴らしい(音楽監督はムーンライダーズの鈴木慶一とのこと。ほー)。
そのほかにも随所で音楽と映像をシンクロさせてみせた演出も印象的だし、時代劇を自分のブランド名を通じて世界に発信するにあたって、単にそのままでは自分らしくないからと、ミュージカル的な視点を加えて、日本文化の独自性と普遍性を同時に世界に知らしめているところが画期的だと思う。
まぁ、あのタップ・ダンスのシーンがこの作品の締めにふさわしいかというとちょっと疑問だし、そのほかにも部分的にはちょっとってところはあったけれど、それでも平凡な映画は撮らないぞという、その姿勢には、おおいに感銘を受けた。
これだから北野武は無視できない。
(Mar 17, 2013)