2013年1月の映画
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パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉
ロブ・マーシャル監督/ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス/2011年/アメリカ/WOWOW録画
気がつけば、去年は最後の3ヶ月、一本の映画も観ずに終わってしまったので、心機一転、今年はせめて週一くらいで意識的に観ることにしたいとの決意も新たに、正月休みに一本目として選んだのがこれ──ってのが、われながらどうかと思う。うーむ。
僕は別にこのシリーズのファンってほどではないんだけれど、惰性でなんとなくこれまでの三部作はDVDを持っていたりする。でも、自分でもなんで持ってんだろうと思ってしまうくらい、ホントに惰性で買ったものだから(いまの懐具合だったらば、絶対に買ってない)、仕切り直しての再出発となるこの四作目にはあまり興味が持てないでいた。
でも、前作につづきキース・リチャーズが出ているというし、ヒロインはペネロペ・クルスだしなぁ、観ないで済ますのもなんだから、まぁ、機会があったらば観ておこう……くらいのつもりでいたので、あまりヘビーな映画を観る気にもなれない正月休みのだらだら気分にはちょうどいいんじゃないかと思ったんだったが。
これがどうにもつまらない。どっかで観たようなエピソードのオンパレードで、物語としての新鮮味がまったくない。冒頭の投網にひっかかった死体がしゃべったシーンとか、結局ふり返ってみても意味がまるでわからないし、そのあとのジャック・スパロウの初登場シーンとなる裁判での茶番もなんだそりゃって感じだし。ジョニー・デップの珍妙な演技にも飽きがきている。キースも前回と違って、ギターを弾いたりしていないので、言われなかったら、誰だかわからないような役回りで、いまいちおもしろくない(まぁ、キースが普通に演技しているのが見所って見方はあるのかもしれない)。
ジャックが昔の情事をほのめかしてペネロペ・クルスと繰り広げる会話のきわどさとか、凶暴な人魚というコンセプトとか、悪くない部分もあるんだけれど──そういや、あの人魚と牧師の話はどう決着したんだか──、全体としては金にものを言わせて飾り立てただけの、平凡な出来の娯楽作という感じ。キースとペネロペ・クルスが出てこなかったら、この次はもう、よほどひまじゃないと観ないでいいと思う。というか、できればふたりとも、もう出ないで欲しい。
(Jan 06, 2013)
アリス・イン・ワンダーランド
ティム・バートン監督/ジョニー・デップ、ミア・ワシコウスカ/2010年/アメリカ/WOWOW録画
家庭内のささいな事情により、ジョニー・デップ主演のディズニー映画が2本つづいた。
でも、ひとつ前の『パイレーツ』と違って、こちらにはそれなりに期待していたんだった。ティム・バートンの映画だし、『不思議の国のアリス』をどんな風にリアレンジしてみせてくれるのか、楽しみにしていたのに……。
こちらも出来は、残念ながら『パイレーツ』と似たようなもの。大人になったアリスがワンダーランドを再訪する、というアイディアの是非はともかくとして、クライマックスが竜との戦いって月並さが興ざめもいいところ。まー、ディズニーらしいっちゃぁ、ディズニーらしい気もするけれど、なにも『アリス』でそれやらなくたっていいじゃんと思う。
ジョニー・デップもメイクだけが奇天烈なだけで、歩き方とかジャック・スパロウと大差ないし、あれのどこがマッドハッタ―なんだかって役作り。マッドハッタ―の「マッド」たる部分が足りない。もっと危ないやつを嬉々として演じて欲しかったぞ。頭おかしいキャラがコメディで哀れ誘っちゃいかんだろう。
この映画の失敗の一因は、ジョニー・デップを主演に据えるために、本来は単なる脇役のマッドハッタ―を、無理やり全面に押し出したことにもあると思う。まず配役ありきで脚本があとづけなんだから、どだい無理がある。ティム・バートンとジョニー・デップのコラボって、『シザーハンズ』と『エド・ウッド』を頂点にして、どんどん質が下がってゆく気がする。
ティム・バートンの持ち味は、滑稽でダークなビジョンを適度のペーソスを込めて描いて見せる点にあると思うのだけれど、この映画ではその珍妙さもペーソスもあまりいい形で発揮できていない。そもそも、ナンセンスが売りの『アリス』に、ペーソスなんてものは、ひとかけらも必要ない気がする。
結局、ティム・バートンとジョニー・デップというゴールデン・コンビの起用が、この映画の失敗のいちばんの原因なんじゃないだろうか。企画倒れとはこのことかと思うような映画だった。楽しみにしていただけに残念。
(Jan 06, 2013)
クロスファイアー・ハリケーン
ブレット・モーゲン監督/ローリング・ストーンズ/2012年/イギリス、アメリカ/BD
ローリング・ストーンズのデビュー50周年を記念して製作されたドキュメンタリー。
マーティン・スコセッシが制作しているってんで、ボブ・ディランの『ノー・ディレクション・ホーム』みたいなボリュームたっぷりのやつを期待して、ついつい予約オーダーしてしまったんだけれど、いざ開けてみれば、スコセッシは制作者としてちょろっと名を連ねているだけで、監督はべつの人。本編も2時間足らずで、ロニーが加入した直後の『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』ツアーのところで、さくっと終わってしまう。ビル・ワイマンの脱退なんて、ひとことも話題にのぼらない。おかげで、どうにも消化不良の感が否めない。どうせならば、90年代以降のストーンズもきっちりと盛り込んで欲しかった。50周年記念っていいながら、最初の20年足らずだけで終わるってのは、どんなものかと。
内容的にも、ストーンズの音楽的な側面よりも、スキャンダラスな面ばかりに焦点があたっている感がある。ストーンズを描く上でゴシップ・ネタは欠かせないのはわかるんだけれど、もっと違った描き方もできるだろうに。基本、テレビ放送用に制作されたもののようなので、2時間枠に収める必要があったのかもしれないけれど、それにしてもいまいち感が否めなくて残念だった。これだったら『12×5』のほうが、よほど見ごたえがありそうな気がする。どうせならば、あれもさっさとBD化して欲しい。
きょうのところは時間がなくて、BDのボーナス映像まで観ていないんだけれど、観たらまた印象が変わるんでしょうか? そうならいいけどなぁ。いまのままでは、わざわざ高いBD版を買った甲斐がない。でもあまり、期待できそうにない。
(Jan 14, 2013)
シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム
ガイ・リッチ―監督/ロバート・ダウニー・ジュニア、ジュード・ロウ/2011年/アメリカ、イギリス/WOWOW録画
ガイ・リッチー監督、ロバート・ダウニー・ジュニア主演による異端シャーロック・ホームズ・シリーズの第二弾。これも前作に負けず、おもしろかった。
まぁ、続編ということで、なにもかもが新鮮だった前作に比べると、いくぶん分は悪いけれど、それでも続編だからこそという演出が随所でちゃんと生きているところがいい。
具体的にいえば、前回は完ぺきだった(と思われる)ホームズの瞬間推理が、今回はけっこう外れる。偶発的な横やりが入ったり、敵が一枚上手だったり(なんたって今回の悪役は宿敵モリアーティ教授ですけん)。世界一頭がいいんじゃないかってホームズが自らミステイクに茫然とする、そのリアクションがとてもおかしい。
もうひとつ、笑えるシーンで好きだったのが、見張り塔から狙撃を受けたワトソン(ジュード・ロウ)が、思わぬ反撃をしてみせるシーン。あそこであんな切り返しとは、恐れ入った。ダイ・ハードかと思った。
でも、今回なによりも感銘を受けたのは、やはり結末。ド派手なアクション・アドベンチャーと化して、原作から遠いイメージになってしまっている本シリーズだけれど、この映画で事件が決着をみせる場面では、「あー、そうだ、これはコナン・ドイル原作だったんだ!」と思わせてくれる。そこには、なまじ原作からかけ離れているだけに有効な、原作を読んでない人にはわからないだろうって感銘がちゃんとある。それが素晴らしいと思った。
前作同様、ホームズに推理を言葉で語らせず、フラッシュバックの映像のみで説明してみせる手法は見事だし、ミステリならではって伏線の張り方も気が効いているしで、今回もとてもおもしろい映画に仕上がっていると思う。これでヒロイン──スウェーデン版『ドラゴン・タトゥーの女』の主演を演じたというノオミ・ラパスという人──がもっと可愛ければ、いうことないのに……って作品(失礼)。僕はこのシリーズ、大好きです。
(Jan 26, 2013)