2012年8月の映画

Index

  1. ブラック・スワン
  2. シャイニング
  3. ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 1

ブラック・スワン

ダーレン・アロノフスキー監督/ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス/2010年/アメリカ/WOWOW録画

ブラック・スワン [DVD]

 気がつけば、また一本も映画を観ないうちに7月が終わってしまっていました。コンスタントに映画を観る生活がなかなか取り戻せない。では、映画を観ない分、なにか有意義なことができているかと言えば、まるでできていない。なんともぐだぐだな最近の俺の生活。……なんて愚痴っていても仕方ないので、さっさと本題に。
 ということで、およそ2ヶ月ぶりに観た映画は、ナタリー・ポートマンがアカデミー主演女優賞を受賞した『ブラック・スワン』。「怖そうで、おもしろそう!」といううちの奥さまのご意見でこれとあいなった。
 でもこの映画、怖いというよりは痛々しかった。
 ナタリー・ポートマン演じる主人公は、バレエに挫折したシングル・マザーの母親に育てられた天才バレリーナで、バレエに対する母親の妄執をプレッシャーに感じながら生きてきたせいか、とても神経的に不安定なところがある。──というか、不安定を通り越して、ほぼ狂気と紙一重という感じの幻覚ばかり見ている。それも自傷的で痛そうなやつを。
 で、この映画は彼女が『白鳥の湖』の主役に抜擢されるものの、難しい役どころをうまくこなせずにプレッシャーに苦しむという展開の中に、そんな彼女の痛々しい幻覚をたっぷりと盛り込んで描いてゆく。どこからが現実でどこからが幻想かわからない、曖昧模糊とした話のなかで、彼女は困った顔をしながら、あちらこちらから血を流したり、痛みをこらえたりしている。
 そんな映画だから、ナタリー・ポートマンは、最初から最後まで、おびえたような、悲しげな表情ばかり見せている。笑顔のシーンって、ドラッグでラリったワン・シーンくらいしかないんじゃないだろうか。その点、この映画は「美女にはコメディがいちばん」という僕の趣味からすると、大きくはずれた作品なのだった。
 あと、けっこうセクシャルなシーンもあって、ナタリー・ポートマンの清純なイメージからすれば体当たりの演技なのだろうけれど、それでいて不思議とセクシーな印象がないのも残念。バレエの舞台監督役のヴァンサン・カッセル──『オーシャンズ12』でフランス人の怪盗役を演じていた人──が彼女の相手役の男性ダンサーに「彼女とやりたいと思うか?」と聞いて苦笑に終わるというシーンがあるけれど、まさしくそんな感じ。せっかく身体を張って、あれやこれや、やっているのに、そんな風に言われてしまうナタリー・ポートマンが不憫だ。
 まぁ、とはいえ、この内容にして、ヌードもなければ、男性とのベッド・シーンもないんだから、その点では身体の張りかたが甘い気がしないでもないんだけれど。
 彼女が1年間ものレッスンを受けて挑んだというバレエのシーンにしろ、やはりプロでない以上、そう大々的にフィーチャーできるものではないので、引きのシーンやクローズアップが多くなって、バレエという舞踏のすごさというか、動きとしてのダイナミズムがいまいち伝わってこない。ラストでオカルトが入ってしまったのも、あまり感心しなかった。
 ということで、バレエ映画にしてなお、サイコ・スリラーと形容される個性的で意欲的な作品なのはよくわかったけれど、僕個人としてはあまり惹かれるところのない作品だった。
(Aug 25, 2012)

シャイニング

スタンリー・キューブリック監督/ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド/1980年/アメリカ/WOWOW録画

シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]

 夏だ、暑いぞ、納涼だ、納涼ホラーだ──ということで、引きつづき、怖い映画第二弾、『シャイニング』。──って、ひとつ前の『ブラック・スワン』は別にホラーじゃなかったけれど。まぁ、観た理由は似たようなものなので。
 さて、この映画、なにゆえに雪山でジャック・ニコルソンが正気を失ってしまう話なのに、『シャイニング』なんてタイトルなんだろうと思っていたら、いちおうスティーヴン・キング原作ってことで、幼い彼の息子がある種の超能力の持ち主で、「シャイニング」とはその力のことだというのが序盤であきらかにされる。……のだけれど。
 でも観終わっても、僕にはやはりこの映画にその『シャイニング』というタイトルがふさわしいようには思えなかった。僕の中では、いまだその内容とタイトルの意味は乖離したままだ。これはきっと、小説から映画になるあいだに、けっこうなものがはしょられているんだろう。その隙間を埋めるためにも、近いうちにスティーヴン・キングの原作を読まねばならないなぁ……と思ったりした。
 というかこれ、映画自体もおもしろかったけれど、小説はもっとおもしろいんじゃないかとも思ったんだった。そのへんは本好きゆえの{さが}かもしれない。いずれにせよ近いうちに読むことにしよう。うちにあるのに、いまだ読んでいない『ミザリー』ともども。そういや、『IT』も読みたいと思いつつ、何十年も放ったままなんだよなぁ……なんて話はやや脱線。
 この映画、ジャック・ニコルソンの演技のすごさはいつものことながら、彼の奥さんと子供を演じているおふたりも、とてもはまり役だった。とくに奥さん役のシェリー・デュヴァルという人がいい。初登場シーンではずいぶんぱっとしない女優さんが主演だなぁと思ったものだけれど(失礼)、その分、終盤のパニックった演技が抜群だった。彼女の怖がりようなくして、この映画の成功はないだろうって感じ。とても感心しました。
 それにしても、願わくば、あの黒人コック(スキャットマン・クローザース)には幸せになってもらいたかったなぁと。物語としての性格上、あの展開が避けられないのはわかるものの、そこだけは少なからず残念だった。そんな作品。
(Aug 25, 2012)

ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 1

デヴィッド・イェーツ監督/ダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソン、ルパート・グリント/2010年/アメリカ/WOWOW録画

ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1 (2枚組) [Blu-ray]

 ようやく観ました、シリーズ完結編『ハリー・ポッターと死の秘宝』その1。
 それにしても、前作を観てから3年近くたってしまっているので、主要キャラを除くと、誰が誰だかよくわからない。マッドアイって、どういう立場の人でしたっけ? 結婚式を挙げているこのカップルは誰? ドビーって今は誰に仕えているんだっけ? ――みたいな感じで、伏線逃しまくり。なんかとても、もったいない。
 あと、この前半では、学校のシーンがほとんどないのもさびしい。つづけて観た後半では再び学校が主要舞台としてフィーチャーされていたけれど、こちらだけ観ている分には、もうホグワーツなんて存在しないんじゃないかって感じの内容になっている。あぁ、学園ドラマだったのは、はるか遠い昔の思い出……。
 ほんと、それだけに子供たちも大きくなっちゃって、いまやすっかり別人。とくにハーマイオニーを演じるエマ・ワトソンのかわいいこと。最初からリアルタイムで観ていたわけでもない僕でもこんなにかわいいと思うんだから、長年のファンにとっては、なおさらかわいくてたまらないだろう。とはいえ、彼女自身はそんな風に思われることを生涯重荷として背負っていきそうで、やや気がかりではある。
 そういや、そんなかわいい彼女に、ロンの嫉妬心をあおる架空のシーンで、ハリーとの裸でのラブ・シーンを強いた大人たちの趣味の悪さには、ちょっぴり腹が立つ。このシリーズにあんなシーン、いらないだろー。子役上がりの俳優たちには、この作品の中だけでも子供らしい関係のままでいて欲しかったぜ。まったく、大人ってやつは……。
 あともひとつ、これっていいの?と思ったのは、ゴブリンの銀行で竜が暴れるシーン。ハリーたちの行動により、罪もないゴブリンたちが次々と犠牲になってゆくんだけれど、子供向けの映画にしては、ちょっと残酷で罪深くはないかと思った。人間じゃないからいいだろって話じゃないでしょう。
 ――というようなことで、若干クエスチョンマークのつくシーンもあったけれど、全体としては、おもしろかった。残りあと一本でシリーズ完結、という前哨戦としては十分な出来の娯楽大作だと思う。
(Aug 30, 2012)