2010年10月の映画

Index

  1. メメント
  2. フォロウイング
  3. 羊たちの沈黙
  4. ナイト ミュージアム2
  5. パニック・ルーム
  6. デッドマン・ウォーキング
  7. パイレーツ・ロック
  8. チャーリーズ・エンジェル

メメント

クリストファー・ノーラン監督/ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス/2000年/アメリカ/BS録画

メメント [DVD]

 最新作 『インセプション』 も好評なクリストファー・ノーランの出世作。ずっと気になっていたこの映画をようやく観た。
 記憶が10分しか続かないという障害を持った男の話とは聞いていたけれど、なるほど、そのモチーフをとことん生かしてみせた演出が見事。短時間しか記憶が持たない主人公の体験をなぞるように、僕ら観客も細切れにされたシーケンスを時間軸をいったりきたりしながら見せられる。
 ただ、この映画の主人公とはちがって、僕らにはちゃんと記憶力がある。だから最初は漠然としてた物語が、シーンが積み重なってゆくにつれて、徐々にはっきりしてくる。まるでジグソーパズルのパーツが埋まっていくかのように事件の真相が明らかになってゆく。
 とはいっても、ピースがすべて集まれば全体の絵が見てとれるジグソーパズルとはちがって、これは映画。すべて観終わったからといって、全体像をひと目で眺めることはできない。クリストファー・ノーランも一度見せたシーンを必要以上に繰り返すことをせず、見せるものはすべて見せたとばかりに、あっさりと話を締めくくる。結果、僕らは頭のなかであのシーンがどこにつながるんだと思い出しながら、物語を自分なりに再構成してやるしかない。おかげで一度観ただけで満足、というわけにはいかない。もう一度観なおして、事件の全体像をしっかりとらえたくなる。
 主要なキャスト──主役のガイ・ピアース、謎の女性キャリー=アン・モス(『マトリックス』 の人)、あやしげな小男ジョー・パントリアーノ(『ソプラノズ』 のラルフ役の人だそうだ。なるほど)――もそれぞれハマっているし、いやぁ、着想といい、脚本といい、演出といい、これはもう見事のひとことでしょう。噂にたがわぬ素晴らしい出来だった。
 ほんと、これはいずれまた観なおさないといけない。
(Oct 05, 2010)

フォロウイング

クリストファー・ノーラン監督/ジェレミー・セオボルド/1998年/アメリカ/レンタルDVD

フォロウィング [DVD]

 『メメント』 につづけてクリストファー・ノーランのデビュー作、『フォロウイング』 も観た。
 こちらはわずか70分の白黒映画ながら、内容的には 『メメント』 の習作とでもいえそうな作品。
 作家志望の失業者が、おもしろ半分に見知らぬ人々のあとを尾行して歩いていたら、たまたまそのうちのひとりが泥棒だったために尾行を見破られ、悪の道に引きずり込まれて……というような話を、『メメント』 と同じように時間軸を前後させながら描いてゆく。
 出演している俳優は名前の売れていない人ばかりだし、主人公が途中から髪形を変えてガラッとイメチェンするので、若干、誰が誰だか、わかりにくい部分もあったけれど、短いながらも意外性のある作品に仕上がっていて、おもしろかった。
 クリストファー・ノーランの作品には、どれも人の心の弱い部分を見つめる視点があるように思う。それでいてあまり文学的なほうへは流れて行かず、ぐっと踏みとどまってエンターテイメントに徹してみせるところがおもしろい。
 とりあえずこれでこの人の監督作品はすべて観たことになるけれど、一作たりともはずれがなかったし、いまさら僕がつべこべいうまでもなく、いま現在もっとも目が離せない映画監督のひとり。
(Oct 05, 2010)

羊たちの沈黙

ジョナサン・デミ監督/ジョディー・フォスター、アンソニー・ホプキンス/1990年/アメリカ/BS録画

羊たちの沈黙 [Blu-ray]

 ようやく観ました、アカデミー賞5部門に輝く傑作サイコ・スリラー。
 ん、なるほど、これはいい。ミステリとしての意外性も、スリラーとしての迫力も申し分なし。レクター博士が脱走する場面やクラリスが犯人の屋敷にたどり着く部分には上質なミステリならではの驚きがあるし、クライマックスの緊迫感は息を呑むほど。ジョディー・フォスターの初々しさ、アンソニー・ホプキンスのもの静かで不気味な迫力ともに、キャスティングもずばりとハマっている。アカデミー賞も納得の出来。
 サイコ・スリラーならではの血生臭い描写がどぎつすぎないところもいい。ぎりぎり悪趣味に堕さないところで踏みとどまっている感があって、好印象だった。グロテスクさを売りにしないでも十分に観客をひきつけられるという自信が作り手にあったのではないかと思う。
 『羊たちの沈黙』 というタイトルで表現されたところには、けっこう文学的な奥行きもあるし、ほんといまさらだけれど、これはとてもよかった。
(Oct 11, 2010)

ナイト ミュージアム2

ショーン・レヴィ監督/ベン・スティラー、エイミー・アダムス/2009年/アメリカ/BS録画

ナイト ミュージアム2 ブルーレイ&DVDセット 〔初回生産限定〕 [Blu-ray]

 博物館の展示物が動き出すという前作のアイディアを、そのまま世界最大規模のスミソニアン博物館に移して再現してみせたシリーズ第二作。
 これはまあ、続編によくあるパターンで、派手になった分、なおさらリアリティを欠いてしまって、印象はいまいち。前作はとりあえず小さな博物館の夜ごとの騒動ということで、あり得ないながらも楽しい話で済んでいたけれど、今回はスミソニアンを舞台にしてしまったために、絵空事度が許容値を超えてしまった感がある。スミソニアンぶっ壊しちゃいかんでしょう。リンカーン像が動き出したら誰だって気づくだろうって。
 冷静に考えるとロウ人形とのラブ・ロマンスってのもどうかと思うし──それにしてもエイミー・アダムスって、なんでこういう能天気な役どころが好きなんでしょう──、エジプトの王子さまが地獄への扉を開いてうんぬんというシナリオも、とってつけたようでいただけない。
 ということで全体的にやりすぎの感が強くて、まだ前作のほうがおもしろかったけれど、それでも、楽観的でハッピーな結末だけはそこそこ好きだった。というか、この結末を描きたかったがために、わざわざ続編を作ったんじゃないかという気さえする。終わりよければすべてよしで、まあこれはこれでありかなという気分になった。
(Oct 11, 2010)

パニック・ルーム

デヴィッド・フィンチャー監督/ジョディ・フォスター、フォレスト・ウィテカー/2002年/アメリカ/レンタルDVD

パニック・ルーム [DVD]

 デヴィッド・フィンチャーという人もクリストファー・ノーランと同じように、人の心のダークサイドを覗き込みながら極上のエンターテイメントを撮ってみせる監督だという印象がある。というか、僕はいつの間にかこのふたりのことを同系列の先輩・後輩だと思い込んでいるところがある。なもんで、このたびノーランの作品をコンプリートしたのにあわせて、フィンチャーについても唯一見逃していたこの 『パニック・ルーム』 を観ておくことにした。
 この映画はジョディ・フォスター演じる主人公が、旦那と別れてマンハッタンの豪邸で娘とふたり暮らしを始めたその夜に、泥棒に入られて大変な目にあうという話。タイトルの「パニック・ルーム」はその豪邸に備え付けられていたモニター完備の緊急避難部屋のことで、泥棒のお目当ての品がその部屋に隠されていたことから、そこに逃げ込んだフォスター親子と泥棒たちとのあいだでスリリングな駆け引きが始まる。
 舞台はほぼ全編その屋敷のなかだけなのだけれど、クレーンやCGを使って、そのなかを縦横無尽に駆け巡るカメラ・アングルの多彩さには、ヒッチコックの 『ロープ』 などに通じる遊び心を感じた。泥棒に入ったほうと入られたほう、両者ともにひょんなことからのっぴきならない状況に追い込まれてゆくという展開もまたヒッチコックっぽいと言えば言える気がする。
 まあ、全体的なイメージはあまりヒッチコックに似ている気がしないけれど、その手法やコンセプトという点においては、意識的に巨匠の路線を継承したのではないかなぁと。そんな気のする二十一世紀版のヒッチコック風サスペンスの秀作。
(Oct 18, 2010)

デッドマン・ウォーキング

ティム・ロビンス監督/スーザン・サランドン、ショーン・ペン/1995年/アメリカ/BS録画

デッドマン・ウォーキング [DVD]

 自らの死刑判決は不当だと訴える死刑囚と、彼を救おうと誠意をつくす尼僧との交流を、死刑制度の是非を問いながら描いたビターなヒューマン・ドラマ。
 この映画のポイントのひとつは、ショーン・ペン演じる死刑囚のマシューがけっこう嫌なやつであること。嫌なやつというか、困ったやつというか。自分は無実だと訴える一方で、黒人差別をしたり、ヒットラーを礼賛{らいさん}してみたりして、世間の不評を買っている。思わず「あんた、バカ?」って言いたくなるような、あまり同情心の湧かないキャラクターなんだった。
 だからスーザン・サランドン演じる主人公のヘレン──この人の属する教会は衣服にこだわらない宗派なのだそうで、彼女はいわゆる「シスター」の制服みたいなやつを着ていない──も、彼を助けようとしつつも、つねに自らの行動に疑問を抱かずにはいられない。私は本当にこんな人を助けるべきなんだろうかと。
 この映画はそんなヘレンの葛藤と、マシューが実際に殺人を犯したのかという謎を軸にしつつ、同時に被害者の悲しみを大きくクローズアップしながら、死刑制度の是非を観るものに問うてくる。
 ちなみに僕自身は、しばらく前までは漠然と死刑擁護派だった。目には目を、歯には歯をの精神で、人を殺したものは自らの死をもってその罪を償うべきだろうと思っていた。
 ところが四十を超えたあたりで──たぶん、9.11の報復にアフガンと醜悪な戦争を始めたアメリカを見たあたりから?──、考えが変わった。要するに死刑というのは殺人なわけだ。人を殺しちゃいけないといいつつ、悪いやつは例外だといって、殺していいものかと疑問をおぼえるようになった。暴力に暴力で報復していたら、いつまでたっても不幸の連鎖は断ち切れないだろう。いまの僕は死刑は廃止すべきだと思っている。
 ただ、そうはいっても、この映画で描かれる被害者の家族のように、愛する者にむごたらしい死をもたらした者たちへの復讐を望む心もわからなくはない。実際に自分の愛する人がレイプされて殺されるなんて悲劇にあったとき、僕自身が死刑反対を唱えられるかというと、どうにも心許ない。どうなんだろうなぁ……と思ったまま、思考停止に陥ってしまう。
 この映画はそういうことを考えるともなく考えさせてしまうという点をとっても、十分に価値のある映画だと思う。
(Oct 19, 2010)

パイレーツ・ロック

リチャード・カーティス監督/フィリップ・シーモア・ホフマン、ビル・ナイ/2009年/イギリス/BS録画

パイレーツ・ロック 【VALUE PRICE 1500円】 [DVD]

 どうも根が単純なもので、ロックにかかわりのある映画は、たいていそれだけで観る前から好意的になってしまう。これもそんな一本。60年代のイギリスで一世を風靡{ふうび}したという海賊ラジオ局を舞台にしたポップなコメディ。
 まあ、この映画の場合、序盤からギャグの半分がエロ話って感じで、かなり下世話な内容だったので、これはハズレかもと思ったんだけれど、ある程度たって登場人物たちの性格がつかめるようになってからは、とても楽しく観られるようになり、最後には思いがけず派手な一大クライマックスが待ち構えていたこともあって、終わってみれば大満足。これもブルーレイが出たら買わないといけないと思うに至ったのだった。
 海賊ラジオがなんたるかを知らない僕は、海賊盤を海賊盤と呼ぶのと同じように、単に違法であることを意味するために「海賊」という枕言葉を使っているんだと思っていたけれど、この映画を見るかぎり、どうも放送法の穴をついて、海上無線を使って放送していたってのが「海賊」って言葉の由来っぽい。
 まあ、いまは調べものをするパワーがなくて、本当のところはわからないけれど、とにかくこの映画に関しては、海賊ラジオ局がその名の通り船の上にあるってのが最大のポイント。浮世から隔離された船の上で、毎日ロックンロールをかけて暮らしていられりゃ、そりゃハッピーだろうよと思う(まあ、そんな幸せは長くつづかないわけだけれど)。DJたちの陽気な馬鹿騒ぎにのせられて、こちらまでハッピーな気分になってしまう。
 いまだロックンロールが敗北を知らなかった時代を舞台にしたがゆえに徹底して楽観的であり得た──そんな感じの、愛すべきロック・ムービーだった。
(Oct 24, 2010)

チャーリーズ・エンジェル

マック・G監督/キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リュー/2000年/アメリカ/BS録画

チャーリーズ・エンジェル [Blu-ray]

 キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リューの美女三人──と書きつつ、ルーシー・リューを美女にカウントする感覚が、日本人の僕からするといまいちわからなかったりする──が体あたりのアクションを見せる、往年の人気海外ドラマの劇場版リメイク。
 序盤から主演の三人がこれでもかとお色気を振りまきつつ、『マトリックス』 ばりのワイアー・アクションを見せる展開に、「これっていまの気分じゃないなぁ……」と思いつつ観ていたのだけれど。
 そのうち、いつにない役どころを嬉々として演じる彼女たちの姿になごんで、「ま、いいか」という気分になり、途中からはサム・ロックウェルの憎めない小悪党ぶりもいいアクセントになって──それにしてもこの人の顔もなかなか覚えられない──、最後には「ああ、思ったより楽しかった」で終わったという。そういう作品。
 つづけて続編の 『フルスロットル』 も観たんだけれど、そちらはあまりに二番煎じの感が強く、途中でうつらうつらしてしまったので、感想は割愛 (このところ調子が悪くて、言葉も思うように出てこないので)。でも、ビル・マーレイも降板してしまっているし、正直いって一本目だけでやめておいた方がよかったんじゃないかという気がした。
(Oct 25, 2010)