2010年9月の映画
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ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!
ニック・パーク、スティーヴ・ボックス監督/2005年/イギリス/レンタルDVD(吹替)
この映画、アカデミー賞をとった当時から、うちの妻子には「ウサギが可愛い~」と評判で──僕としては「そうかぁ?」って感じだけれど──、長いこと、わが家の観たい映画ベスト10に入っていた。でも、なかなかテレビでは放送されず。いや、もしかしたら民放や有料放送では放送されたのかもしれないけれど、あいにく僕は知らず。今回レンタルでようやく観てみれば、すでに公開から5年も過ぎていた。あらら。まさかそんなにたってしまっていたとは思わなかった。なんか、こういう思わぬ時間の流れの速さにも、自分の年齢を感じる今日このごろだったりする。
なんにしろ、この映画はうちの妻子──というか、正確にはうちの奥さん?──にとっての待望の一作。物語としてはたわいのない話なので、僕自身は特別に気に入ったってこともなかったけれど、でも冷静に考えてみると、1時間半ものクレイ・アニメーションって、それだけでもうすごいことだよなと思う。
そういや、僕は観ているあいだ、これがクレイ・アニメーションだってことをあまり意識していなかった気がする。ウサギが吸引機のなかでぷかぷか浮いているシーンとか、よく考えてみるとすごいよな。風景とかも隅々まできっちり作りこまれているし、あんなに高品質でこの長さのクレイ・アニメーションを作るのにどれくらい労力を要するものか、想像してみてもちょっと見当がつかない。おそらく並大抵の時間じゃ済まないだろう。
それほどまでの労力をつぎ込み、なおかつこれほどまでにたわいのない映画を作ってみせたその情熱には敬意を表したい。ニック・パークに幸あれ。
(Sep 21, 2010)
エイリアンVSヴァネッサ・パラディ
ディディエ・ポワロー監督/ヴァネッサ・パラディ、ジェイソン・フレミング/2004年/フランス/レンタルDVD
ヴァネッサ・パラディがテレキャスターをぶら下げているポスターにひとめ惚れして、ずっと観たいと思っていた作品──なんだけれど。
いやぁ、これは怪作。オープニングあたりにはコーエン兄弟やガイ・リッチーを思わせるオフビートな好感触があるにもかかわらず、そのあとでいきなり部分的にミュージカルになったり、エイリアンが登場してからはスプラッター・ホラー化したり。そういや、仮面ライダー的な怪人アクションもあった。でもって最後は 『2001年宇宙の旅』 か 『猿の惑星』 かって感じのシュールな終わり方をする。
いわばミュージカル入りのB級スプラッタ・ホラー的SFコメディ? とにかく全編とおして、あまりにいろいろやり過ぎ、スタイルに統一感がなさ過ぎの感あり。なんだそりゃな得体の知れない変な映画だった。
まあ、僕自身、こういうのはべつに嫌いじゃないけれど、ちょっとぐちゃぐちゃした気持ち悪いシーンが多すぎ。もうちょっとスプラッタ系の部分を押さえてくれれば、絶賛していたかもしれない。惜しい。
とりあえず、ロバート・ロドリゲスが好きな人にはお薦めできそうな気がする。あと、ヴァネッサ・パラディのセクシーなボーカル・パフォーマンスがたくさん観られるので、一見の価値ありかと。
(Sep 21, 2010)
(500)日のサマー
マーク・ウェブ監督/ズーイー・デシャネル、ジョセフ・ゴードン=レヴィット/2010年/アメリカ/レンタルDVD
このあいだ観た 『イエスマン』 のズーイー・デシャネルがとても可愛かったので、つづけて観ることにした彼女の最新作。
しっかし、この映画は痛いっ! 好きな女の子を失う痛みがこんなにヴィヴィッドに伝わってくる映画はひさしぶりだった。
というか、恋愛映画を観て、こんなに身につまされたのは初めての経験のような気さえする。それというのも、この映画が最近のロマンティック・コメディには珍しく、終始男性目線だから。主人公(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)がオルタナティヴ・ロック・ファンだというのもあって、彼の冴えなさ加減にはどうにも共感せずにはいられないものがあった。若いころの自分のぶざまさを重ねあわせて、居たたまれない気分になってしまった。彼が酔っ払ってピクシーズの『ヒア・カムズ・ユア・マン』 をカラオケで歌っているシーンなんて、わがことのように恥ずかしい。
とにかくこれくらいフットワークの軽い演出で、こんなに胸が痛くなった恋愛映画は珍しい。ズーイー・デシャネルも期待どおり可愛いし(彼女はあまり僕の趣味って気がしないんだけれど、なぜだか不思議と可愛いと思う)、これはとてもいい映画だった。まあ、とりあえず痛すぎて、いますぐ観かえしたいとは思わないけれど。
(Sep 21, 2010)
キャデラック・レコード
ダーネル・マーティン監督/エイドリアン・ブロディ、ジェフリー・ライト/2008年/アメリカ/BS録画
アメリカのブルース・レーベルの草分け、チェス・レコードの誕生から衰退までを描く伝記映画。
この映画、『キャデラック・レコード』 なんていうタイトルだから、 『ドリームガール』 と同じような、黒人音楽史を下敷きにしたフィクションかと思っていたら、そうではなかった。マディ・ウォーターズほか、主要なキャラクターはみんな実名で出てくる。要するに、一応ちゃんとした伝記映画なのだった。
ただ、純然たるノンフィクションかというと、そうでもないみたいだ。チェス・レコードはチェス兄弟が創設したレーベルだと聞いているけれど、この映画ではレナード・チェスに兄弟がいるなんて話はこれっぽっちも出てこない。レナードの最期──レーベル売却の数ヶ月後に心臓麻痺でなくなったそうだ──についても、いかにも映画らしい演出が施してある。いちおう史実には基づいているけれど、部分的には適度にいじらせてもらいましたという感じ。
ただ、そのわりには物語的にはそれほどドラマチックではなく、印象はかなり淡白。レナード・チェスの家庭にまつわる描写とか、その最たるもので、いまいち人間関係に奥行きが感じられない。その点はやや残念かなと思う。
そうした淡白な印象を強めているのは、物語を彩る音楽が、僕らにはあまり耳に馴染みのないブルース・ナンバーばかりのせいって気もする。この点は、ほぼ同じ時代を描いているはずの 『RAY』 と比べると、その差が歴然。両者を見比べると、同じ黒人音楽とはいっても、レイ・チャールズの音楽がいかにキャッチーでヴァラエティに富んでいたかがよくわかる。
とかいうと、まるでこの映画がいまいちだったようだけれど、そんなことはない。絶賛するまでには到らなくとも、この映画は十分におもしろい。マディ・ウォーターズ、リトル・ウォルター、チャック・ベリー、ハウリング・ウルフ、エタ・ジェームズ、ウィリー・ディクソンといった、ブルース界の伝説的存在たちが織りなすドラマがつまらないはずがないのだった(とくに個人的にヒットだったのは、モス・デフのチャック・ベリー役)。
なんにしろ、洋楽好きならば絶対に観ておかないといけない映画だと思う。少なくても僕はちゃんとDVDかブルーレイを手元に置いておきたい。
(Sep 22, 2010)
グレムリン2 新・種・誕・生
ジョー・ダンテ監督/ザック・ギャリガン、フィービー・ケイツ/1990年/アメリカ/DVD
去年、前作を観たときにも「しょうがない映画だなぁ」と思ったけれど、この続編も輪をかけてひどい。なんか、グレムリンの種類が増えた分、パワーアップしておもしろくなったような気がしていたんだけれど、ひさしぶりに観たら、その脚本のいい加減なこと……。これをおもしろいと思った若いころの自分が本気で情けなくなってしまった。
そもそも直射日光要注意のギズモが真昼間に逃げ出してしまうオープニングからしていい加減。なんで死なないんだよぉ。主人公とギズモの再会にしたって、郵便屋が吹いてた口笛聞いて「あ、それは!」っても、なんだそりゃ。そのあと人のオフィスに勝手に入り込んでギズモを盗み出し、そのせいで大パニックを引き起こしておきながら、そのことに対する反省ゼロの主人公(とギズモ)の無邪気さには、あきれてものが言えないぜ。悪いのは君たちでしょうが。
まあ、オープニングとエンディングにルーニー・チューンズが引用されているし、好意的に観るならば、これはあの手の子供向けアニメの荒唐無稽な世界観を実写で再現したものだから、そういういい加減なシナリオはすべてわざとなのかもしれない。あえて「あり得ないだろう!」ってつっこみたくなるような話にしてあるのかもしれない。
要するに「わはは、バカな映画」って笑って済ませるのがこの映画の正しい見方なのかもしれないけれど、心に余裕のない今の僕にはとてもそんな見方はできないのだった。いやはや、修行が足りません。
(Sep 22, 2010)