2009年8月の映画
Index
- ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
- ザ・シンプソンズMOVIE
- ウォーク・ザ・ライン 君につづく道
- ファーストフード・ネイション
- ミスト
- マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋
- NOセックス、NOライフ!
- ヒズ・ガール・フライデー
- ラブ・アクチュアリー
- ベンジャミン・バトン 数奇な人生
- エリザベスタウン
- ミッション:インポッシブル
- バンテージ・ポイント
- 救命士
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
庵野秀明監督/2009年/日本/新宿バルト9
子供がはじめての林間学校へ出かけていって、この週末は珍しく夫婦水入らずだった。で、せっかくだからなにか珍しいことをしようということになり、ちょうど映画の日だったので、大ヒット中のエヴァ劇場版・第二弾を観に行ってきた。
僕が先日の 『序』 の感想で「続編も観てみたくなった」と書いたのを見たうちの奥さまから「じゃあ行こう」と誘われて、ついついOKしてしまったのだけれど──そういえば旧映画版も同じようにして観にいったんだった──、あとになって冷静に考えてみれば、わざわざ映画館に足を運ぶのならば、スパイク・リーの 『セントアンナの奇跡』 のほうが優先順位は上だったなあと思ったり。そもそもせっかく夫婦水入らずなんだから、もっと大人らしい時間の過ごし方もあるだろうに、よりによってエヴァを観にいってしまうってのも、どんなもんかと思ったり……。
そんな風に感じてしまったのも、この劇場版第二弾が、思っていたほどのインパクトを与えてくれなかったからだ。
ほぼテレビ版の流れを踏襲していた第一作目 『序』 に対して、『破』 と題したこの第二作は、そのタイトルどおりに大幅な変更があるという噂だったので、どれくらい「壊れている」のか楽しみにしていれば、これが思っていたほど壊れていない。たしかに、かなり大胆な変更や衝撃的なシーンは加えてあるけれど、基本的な流れ自体はテレビ版と同じままで、ディテールを大きくいじった感じ。
で、そうした変更によって作品の価値が上がったかといえば、正直なところ疑問だった。単に物語としての質ということでいえば、僕にはテレビ版のほうが高いように思える。とくに今回の話の中心となるのが、エヴァ参号機の悲劇やミサトさんの名セリフ、「使徒を食ってる……」など、テレビ・シリーズの白眉というべきエピソード群だけに、それをアレンジして、似て非なるものにしてしまったことに対しては、そこはかとない失望感が否めなかった。クライマックスの戦闘シーンにおける歌の使いかたなども、個人的には興ざめはなはだしかったし。
でも、じゃあこの映画版がつまらなかったかといえば、そんなこともない。前作同様、格段にグレードアップした映像はやはり刺激的だし、テレビ版との違いも、もちろんそれ自体が見どころだ。つっこみどころ満載で、おもしろかったのはたしかなところ。ただ、単にテレビ版と劇場版を比べて、どちらが好きかと問われれば、僕としてはテレビ版と答えざるを得ないという、そういう作品。おそらく大半のファンにとっては、この画質でもってテレビ版をまるまるリメイクして、ラストだけ作り直しもらったほうが、よほど嬉しかったんじゃないだろうか。
まあ、いろいろ思うところはあったけれど、なにを書いてもネタばれになってしまうので、これだけにしておきます。なんにしろ、僕はそれほどエヴァに対する思い入れが深くないので、これを観終わった時点で、次回作はもう劇場で観なくてもいいやって気分になってしまった。
――とかいいつつ、喉もと過ぎれば熱さを忘れるで、そのころになったらまた、うちの奥さんにそそのかされて、観にいってしまいそうな気もするけれど。
(Aug 03, 2009)
ザ・シンプソンズ MOVIE
デヴィッド・シルヴァーマン監督/2007年/アメリカ/DVD
廉価盤のリリースにあわせて、ようやくDVDを手に入れたので、あらためて観てみました、『ザ・シンプソンズMOVIE』。今回はせっかくだから、いわくつきの所ジョージらの劇場版吹替バージョンで鑑賞してみた。そしたらば、これが……。
意外なことに、所ジョージのホーマーがいい。思いのほか、普通に観れてしまった。少なくてもバズ・ライトイヤーなど、これまでに観たこの人の吹替のなかではダントツにマッチしていると思う。すでに大平さんという適任者がいたのでなければ、この起用は正解だったと思う。所さん、けなしてばかりでごめんなさいという感じ。
あとベッキーのリサも思ったほど悪くない。子供っぽくて、あまり個性が強くないところが、優等生のリサにはあっていなくもないかなと思った。気に入ったとまではいかないけれど、許せるレベル。
よくないのはあとのふたり。和田アキ子のマージはオリジナル版のガラガラ声に印象が近いから、意外といけるかもと思っていたけれど、声質以前の問題として、セリフが棒読みでいただけない。もっとひどいのはロンブーの田村淳で、彼のバートは最悪。まったくイメージにあっていない。芸人としてのイメージがいたずらっ子の小学生に近いんで起用されたんだろうけれど、とても小学生のしゃべりには聞こえない。彼の吹替は最後まで、まったく受け入れられなかった。バートのセリフがあるたびに、すごくテンションが下がった。
ということで、所さんらにはまだ同情の余地があるものの、全体としてやはり劇場日本語吹替版は予想通り駄目だってことを確認。まあ、僕らが所ジョージらの吹替に猛反発したのは、話題性優先でオリジナルの声優陣がないがしろにされたことに加えて、所さんらが記者会見の席で 『サ・シンプソンズ』 というアニメに対して、それ相応の敬意を払ってくれなかったことも影響しているので、結局どれくらい所さんがホーマー役にマッチしていたところで、ファンの認知を受けるのは難しかっただろうと思う。
そうそう、おかしかったのは、このDVDの音声選択のデフォルトが大平さんたちのオリジナル声優バージョンになっていること。大騒ぎしたくせに製品化にあたって二番手に追いやられている所ジョージらの吹替って、いったいなんなんだろうと思ってしまった。
それにしても、こうやって改めて見直してみて驚くべきは、この映画の――というか、シンプソンズというアニメの――おもしろさ。
僕はこの一年半のあいだに、この映画を英語版と吹替版二種類で、計三回も観ているのだけれど、これだけ観ても、いまだに笑える。というか、観るたびに新しい発見がある。劇場で観たときには、ちょっと風呂敷を広げすぎかなと思ったストーリーも、繰り返し観ているうちに、これはこれでありって気分になってしまったし、今回、不出来な劇場吹替版で観たにもかかわらず、問題なく楽しめてしまったことで、僕はあらためてシンプソンズってすげえやと思った。
(Aug 03, 2009)
『ザ・シンプソンズMOVIE』 を劇場で観たときの感想はこちら。
ウォーク・ザ・ライン 君につづく道
ジェームズ・マンゴールド監督/ホアキン・フェニックス、リース・ウィザースプーン/2005年/アメリカ/BS録画
僕はこれまでジョニー・キャッシュという人については、ほとんどなにも知らなかった。経歴やヒット曲はもとより、どんな顔をしているかとか、どんな声をしているかさえ認識していなかったので──あとでU2の『ズーロッパ』にゲスト参加していると言われて、ああ、あのラスト・ナンバーの声の……と思った──、この伝記映画を観ても、ホアキン・フェニックスがご本人に似てるかはもとより、演奏シーンでの歌が吹替なのかどうかさえわからなかった。エンド・クレジットでジョニー・キャッシュとジューン・カーター本人どうしのデュエット歌が流れるのを聴いて、初めて、ああ、映画のなかの歌はすべてホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーンが歌っていたんだ、と思ったくらい(ふたりともなかなかお見事)。
そんな状態で観ていたものだから、伝記映画でありながら、まったく先が読めない。いきなりなぜ刑務所でのライブ・シーンで始まるのかわからないし(長い服役歴でもあるのかと思った)、リース・ウィザースプーン演じるジューン・カーターとの関係がどうなるのかとか、まるで見えない(いつまでたっても結ばれないし)。薬物におぼれたときには、そのまま落ちぶれて、過去の人になってしまうのかと思ったくらいだった。ところがどっこい、あとで調べてみたら、落ちぶれるどころか、この人はそのあとでキャリアのピークを迎えている。自分の無知ゆえの勘違いがおかしかった。
とにかくジョニー・キャッシュという人は、55年にデビューしてから2003年に他界するまで、50年近くにわたってコンスタントに活躍をつづけていた人らしい(だからディスコグラフィーにある作品数がはんぱじゃない)。ただし、この映画で描かれるのは、その長いキャリアのうち、デビューからわずか十何年間のみ。なぜかというと、この映画が彼の生涯よりも、彼が二番目の奥さんであるジューン・カーターの心を射止めるまでを描くことにフォーカスを絞っているからだ。要するにこれは、ジョニー・キャッシュという実存する人物を主人公にした、ある種の恋愛映画なのだった。おかげで日本では邦題に 『君につづく道』 なんて気恥ずかしいサブタイトルがついてしまうことになったわけだ。
そうした着想のためか、これを観てもジョニー・キャッシュという人が音楽シーンにおいてどんな貢献をしたのかはよくわからなくて、伝記映画としては、いくぶんもの足りない気もする。それでも作品としては決して悪くない。ラストがあまり伝記映画らしくなく、ちょっとユーモラスで心温まるハッピー・エンドになっているところが好きだ。
キャスティングでおっと思ったのは、キャッシュの父親の役で出演しているロバート・パトリック( 『ターミネーター2』 の悪役というほうが一般的なんだろうけれど、僕にとっては 『Xファイル』 のドゲット捜査官)。ひさしぶりに見たら、けっこう老けていた。
(Aug 07, 2009)
ファーストフード・ネイション
リチャード・リンクレイター監督/グレッグ・キニア、アシュレー・ジョンソン/2006年/アメリカ/BS録画
架空の大手ハンバーガー・チェーンの製造工程の裏舞台を描く社会派の群像劇。
もととなったベストセラーの 『ファストフードが世界を食いつくす』 はファーストフードにまつわる社会問題をさまざまな角度から取り上げて話題となったノンフィクションとのことだけれど、この映画が描くのは、おもにそのうちの精肉工場の裏側。グレッグ・キニア演じる企業幹部が、自社のハンバーガー・パテから大腸菌が検出されたという報告を受けて、調査のためにコロラドの精肉工場へとおもむくところから始まり、その工場で働く密入国者のメキシコ人労働者らや、フランチャイズ店のアルバイトの女の子の日常を平行して描いてゆく。
そのままスパイラルにその三つのシーケンスが混ざり合ってゆくのかと思えば、そうはならない。途中からはグレッグ・キニアの出番がなくなって、メキシコ人たちが主役のようになる。その点、とても構成がいびつ。おかげで焦点がぼやけてしまって、なにを描きたかったんだか、よくわからない。
結局、観終わって印象に残っているのは、不遇をかこつメキシコ人たちの惨めな境遇と、屠殺場での牛の解体シーンのすさまじさばかり。監督のリチャード・リンクレイターは 『ビフォア・サンセット』 や 『スクール・オブ・ロック』 を撮った人だから、もっとユーモアのある映画を期待していたのだけれど、まったく笑えない内容で、期待外れだった。
でもこの映画、脇役のキャスティングはやたらと豪華だ。ブルース・ウィリス、イーサン・ホーク、パトリシア・アークェット、クリス・クリストファーソン、そしてなんとアヴリル・ラヴィーンが、各々ちょい役で出演している。それも「なんでここでこの人を?」と不思議に思ってしまうような端役ばかり。そうした無駄な贅沢さは、ある意味じゃおかしくもある。
それと、牛の屠殺シーンは本当にすさまじい。首を切って血がどばどば流れ出るところとか、びりびりと皮をはぐところとか、いくら相手が動物とはいえ、直視しているのがつらいくらいの残酷さ。これを見るとベジタリアンになる人の気持ちもわかる。肉なんか食ってちゃいけないんじゃないかって気分になってしまう。
……といいつつ、次の日にはなにごともなかったかのように食っていたりするんですが。
(Aug 07, 2009)
ミスト
マイケル・ダラボン監督/トーマス・ジェーン、マーシャ・ゲイ・ハーデン/2007年/アメリカ/BS録画
突然発生した濃い霧とともにやってきた未知のなにかが人間を襲うという、スティーヴン・キング原作のホラー映画。原作は扶桑社ミステリー(文庫)の 『スケルトン・クルー(1)骸骨乗組員』 という本に収録されている 『霧』 という中篇とのこと。
この映画、霧のなかに潜んでいる「なにか」というのが、僕としてはまったく予想外のものだったりしたけれど──それもいまとなると、かなりありきたりな気がする──、まあ、それはそれ。ポイントはおそらく恐怖の正体なんかではない。
未知のなにかに襲われてスーパーマーケットに閉じ込められた人々が、精神的に追い詰められて徐々に正気を失ってゆくその展開、これがすごい。恐怖に飲み込まれ、われを忘れてしまう人々の醜さをあからさまに描いた点こそが見どころだと思う。ホラーをホラーたらしめるのは、モンスターの存在などじゃなくて、むしろ人間の弱さやおろかさなんだぞと。スティーヴン・キングという人は、いつでもそこをきっちりと見切ってエンターテイメントに仕立てている気がする。
いやあ、それにしてもエンディングのシニカルさはかなりなもの。もうちょっと救いがあってもいいんじゃないでしょうか。同じスティーヴン・キング原作、マイケル・ダラボン監督でも、 『ショーシャンクの空に』 や 『グリーン・マイル』 といった感動作とはまったく違う、これぞスティーヴン・キングの本領発揮かというような作品だった。まいった。
重要な役どころを果たす狂信的なユダヤ教徒のおばさん役を好演しているのは、マーシャ・ゲイ・ハーデン。ほんと、この人は演技上手だ。
(Aug 07, 2009)
マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋
ザック・ヘルム監督/ダスティン・ホフマン、ナタリー・ポートマン/2007年/アメリカ/BS録画
『ピンクパンサー』 風のおしゃれなオープニング・アニメーションに、舞台となる魔法のおもちゃ屋のにぎやかな風景。この映画の映像は――演出でおもちゃ屋がグレーになってしまう部分を除けば──最初から最後まで、とてもカラフルで楽しげだ。
でも残念ながら、映画としてはただそれだけという感じ。主要な役どころを演じるのはおもちゃ屋のオーナー役のダスティン・ホフマン(自称243歳)と雇われ店長役のナタリー・ポートマン、会計士役のジェイソン・ベイトマンという男優に狂言まわしのザック・ミルズという少年、この四人だけ。で、彼(彼女)らの演技には、とくに問題はないと思うので――まあ、ナタリー・ポートマンが芽の出ない天才ピアニストの役ってのは、先日のキルスティン・ダンストのプロ・テニス・プレーヤー役と同じくらい説得力がなかったけれど――、これはやはり演出に問題があるんだろう。
監督のザック・ヘルムという人は 『主人公は僕だった』 の脚本家として注目を集めた人なのだそうで、この作品では脚本のみならず監督までつとめている。でも初監督作の出来がこれってのはちょっと……。そちらの方面の才能がないのか、単に時期尚早だったのか、これだけで判断はできないけれど、いずれにせよカラフルな映像の楽しさと、物語的な見どころのなさが釣りあわない、少なからず残念な出来の映画だった。
(Aug 16, 2009)
NOセックス、NOライフ!
バート・フレインドリッチ監督/デイヴィッド・ドゥカヴニー、ジュリアン・ムーア/2005年/アメリカ/BS録画
『Xファイル』 のデイヴィッド・ドゥカヴニー主演のコメディ・ドラマ。監督のバート・フレインドリッチという人はジュリアン・ムーアの旦那さんだとのこと。
物語はジュリアン・ムーア演じる人気女優を妻に持ち、自らはハウス・ハズバンドとして幼い子供ふたりの面倒をみながら暮らしているセックス依存症の旦那が──毎日のセックスだけでは飽きたらず、ポルノ雑誌を買ったり、ハードコア・サイトを閲覧したりと、かなりしょうもない──、ついには浮気に走って、結婚生活の危機を迎えるというもの。これと平行して、彼らとなかよしの義理の弟カップル(ビリー・クラダップとマギー・ギレンホール)の別れ話が描かれる。こちらは子供を欲しがる女性が、甲斐性なしの男に愛想をつかすという、最近よくあるパターンのもの。
要するにいまどきのカップル二組の痴話喧嘩を描いただけの、下ネタだらけのB級コメディなのだけれど(ただしヌード・シーンは皆無)、そのいっぽうで飲みかけの水を吹き出したり、子供が投げたスプーンが母親の顔にあたったり、ドゥカヴニーが子供のパンチを股間にくらったりといった、最近では珍しいくらいにベタなギャグが満載で、本題以外のところでけっこう受けてしまった。うちの奥さんも「ギャグがシンプソンズみたい」といって、おもしろがっていた。
まあ、デイヴィッド・ドゥカヴニーがのちに本当にセックス依存症で入院してしまったと聞くと、笑っていいような、いけないような……という作品。彼がどういうつもりでこの映画に出ていたんだか、ちょっとばかり興味がある。
(Aug 17, 2009)
ヒズ・ガール・フライデー
ハワード・ホークス監督/ケイリー・グラント、ロザリンド・ラッセル/1940年/アメリカ/BS録画
別れた奥さんから再婚話を聞かされた有力紙の編集長が、有能な女性記者だった彼女の再婚を阻止しようと、あの手この手を使って彼女を仕事に引きずり込もうとするスクリューボール・コメディ──30~40年代に撮られたこの手のロマンティック・コメディをそう呼ぶのだそうだ──の代表的作品。
いやあ、これくらいけたたましい映画も珍しいんじゃないでしょうか。主演のふたりが最初から最後まで、べらべらべらべらと早口でしゃべりまくりで、騒々しいいったらありゃしない。ほんとセリフの多さはかなりなものだ。セリフの量を上映時間で割ったパーセンテージで歴代の映画ベストテンを決めたなら、かなりの上位に食い込みそうな気がする。
そんなけたたましさと
それにしてもこの映画、明石家さんまみたいに口から先に生まれてきたようなタレントが主演だっていうんならば、さもありなんだけれど、そうじゃないところがすごい。主演のケイリー・グラントとロザリンド・ラッセルは、おそらく当代きっての美男美女。それでもこういうコメディが撮れてしまうところに、アメリカ映画の実力を感じる。
(Aug 21, 2009)
ラブ・アクチュアリー
リチャード・カーティス監督/ヒュー・グラント、リーアム・ニーソン/2004年/イギリス、アメリカ/DVD
クリスマス・シーズンのイングランドを舞台に、さまざまな人たちの恋愛劇を積み上げてみせた、幕の内弁当状態のロマンティック・コメディ。
監督のリチャード・カーティスという人は 『ノッティングヒルの恋人』 や 『ブリジット・ジョーンズの日記』 の脚本家だそうで、これが初監督作品(とうぜん脚本も本人が手がけている)。そう言われてみると、なるほどという感じ。どの作品も、純然たるロマンティック・コメディを作っておきながら、なんとなくそんな自分に照れくささを覚えている、みたいな印象がある。この映画では、ナンパのためにアメリカに飛ぶ青年の話とか、ポルノ俳優どうしが恋に落ちる話とか、入れない方が作品の格が上がるんじゃないかってエピソードをわざわざ盛りこんでみせるあたりに、そういう傾向をとくに感じる。僕自身はどっちのエピソードもなくていいと思ったけれど、そういうものを加えずにはいられない性格って、決して嫌いじゃない。
なんにしても、これだけ多くの恋愛劇──首相の恋、小学生の初恋、言葉が通じない者どうし、親友の花嫁への片想い、夫の浮気、家族愛ゆえに叶わない想い、プラトニックな同性愛などなど――を2時間ちょっとにまとめてみせたのは見事。主要な男性キャストがヒュー・グラント、リーアム・ニーソン、コリン・ファース、アラン・リックマンと超豪華なのに対して、女性陣にはエマ・トンプソンとキーラ・ナイトレイくらいしか有名どころがいないってのは、男性目線からするとややもの足りない感があるけれど、それでもちょい役でローワン・アトキンソン(『ミスター・ビーン』)やビリー・ボブ・ソーントン、エリシャ・カスバート(『24』 のキム)なども出ていたりするし、これで配役にケチをつけたら罰があたるってもの。映画ファンへのクリスマス・プレゼントにはもってこいって感じの一品だった(でも真夏に観てしまった)。
(Aug 23, 2009)
ベンジャミン・バトン 数奇な人生
デヴィッド・フィンチャー監督/ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット/2008年/アメリカ/DVD
フィッツジェラルドの原作を読んだときに、「きっと映画は小説とはまったく別物だな」と思ったけれど、まさしくそのとおり。「老人として生まれた男が年とともに若返ってゆく」というプロット以外、原作とは似ても似つかない物語になっている。これをフィッツジェラルド原作といって売り出すのは詐欺なんじゃないだろうか。せいぜい原案というくらいにしておいた方が正しい気がする。
でもまあ、換骨奪胎されてできた新しい物語は、これはこれでおもしろいし、それになによりこの映画は映像がすごくいい。陰影の深いシャープな画像は、そのだけで十分に映画を観る喜びを与えてくれた。特殊メイク(とCG合成?)で十代から老後までを演じきったブラット・ピットとケイト・ブランシェットの演技も見事だし、ところどころではユーモアも効いているし――特に「わしは雷に七回打たれたことがある」とうそぶく老人のフラッシュバック映像は見るたびに笑えた──、いや、これはいい映画だった。さすがアカデミー賞のノミネート作品。
そういえば、観終わったあとでうちの奥さんが「なんだかフォレスト・ガンプみたいだった」といっていたけれど、調べてみたら、この映画の脚本家のエリック・ロスは、まさしくあの映画の脚本家だった。意外とあなどれません、うちの妻。
(Aug 23, 2009)
エリザベスタウン
キャメロン・クロウ監督/オーランド・ブルーム、キルスティン・ダンスト、スーザン・サランドン/2005年/アメリカ/DVD
『ウィンブルドン』 でのキルスティン・ダンストがとても可愛かったので、つづけて観ることにしたキャメロン・クロウ監督の最新作。
この映画、僕にはメインとなるストーリーがしっくりとこない。大手スニーカー・メイカーで新製品の開発を手がけている若手のホープが、大失敗して会社に10億ドルもの損益を与えたって……。たかが新製品ひとつが失敗したくらいでそこまでの損益を出して、なおかつ倒産してしまうような企業ってありですか? でもってそれがたった一人のデザイナーのせいにされてしまうって話の流れもなぁ。僕はこれらに納得がゆかない。
物語は、オーランド・ブルーム演じる主人公がそうした大失敗に打ちひしがれて自殺を考えているところへ父親が死んだという知らせがあり、葬儀のために赴いたケンタッキーで、たまたま知りあったフライト・アテンダントや陽気な南部人たちに影響されて、生きる気力を取り戻すというもの――なのだけれど。どうにもオーランド・ブルームの演技からは、人生に失敗して自殺せずにはいられないというほどの挫折感や絶望感が感じられない。もともとのプロットがあやしいところにさらにそれだから、物語のおさまりが悪く、キルスティン・ダンストの存在もいまいち映えない。いきなり乗客を逆ナンしちゃうフライト・アテンダントってのもねぇ……。
唯一、とても魅力的だったのは、最後に主人公がヒロインの勧めで、アメリカン・ミュージックをBGMに南部を旅して回るシーン。音楽好きな身としては──それまでがいまひとつだった反動も手伝って──、この部分の開放感はとても心地よかった。ロック・フリークであるキャメロン・クロウの面目躍如といった感のある、素晴らしいシーケンスだった。終わりよければすべてよしで、この部分があるおかげで、かなり救われた気分になった。
(Aug 23, 2009)
ミッション:インポッシブル
ブライアン・デ・パルマ監督/トム・クルーズ、エマニュエル・ベアール/1996年/アメリカ/BS録画
新生007シリーズやジェイソン・ボーン・シリーズなど、ここのところおもしろいスパイ映画が多いので、こうなるとやはり、これも観ておかないといけない気になる。往年の人気海外ドラマ 『スパイ大作戦』 の映画版というよりは、いまとなるとこちらのタイトルの方がメジャーになってしまった感がある、トム・クルーズ主演の人気スパイ・アクションの第一弾。
しかし、これはちょっと物語がチープじゃないでしょうか。最初の十五分くらいの展開がキャスティングの豪華さとそぐわないため、その後の話の流れがみえみえだ(もしかしてすごいひねりがあるのかと思ったら、まったくない)。ディテールの作り込みもかなり安直で、とくに米国スパイの総本山、CIA本部に潜入するのに消防士に化けるって展開の馬鹿らしさなどは、どこまでマジなんだって感じだった。どんだけセキュリティ甘いんだ、CIA。
昔の007シリーズのように、そうしたシナリオの甘さがユーモアとして受け取れるのならばいいのだけれど、この映画の場合、その辺の味つけが中途半端で、笑わそうとしているのか、単にはずしているのかわからない。もともとあまりトム・クルーズが好きではない僕としては、おかげで盛りあがりはいまいちだった。
まあ、ジョン・ヴォイト、エマニュエル・ベアール、クリスティン・スコット・トーマス、ジャン・レノら、キャスティングは豪華だし──黒人ハッカー役のヴィング・レイムスという人は、『パルプ・フィクション』 に出ていた人らしいです(ああ、あの……って感じの)──、TGVの車外でのアクション・シーンなどは、けっこうな迫力だったので、プラマイゼロといったところかなと。
とりあえず、続編の監督がジョン・ウーとJ・J・エイブラムスだと聞くと、それだけでつづきも観ないとという気になる。
(Aug 26, 2009)
バンテージ・ポイント
ピート・トラヴィス監督/デニス・クエイド、フォレスト・ウィテカー/2008年/アメリカ/BS録画
スペインで起こった架空のアメリカ大統領狙撃事件+爆破テロの顛末を、複数の登場人物の視点から多角的に描いてみせたサスペンス・スリラー。 『LOST』 のマシュー・フォックスが出演しているというんで、観てみる気になった。競演はデニス・クエイド、フォレスト・ウィテカー、ウィリアム・ハート、シガニー・ウィーバーなど。なかなか豪華だ。
同じ場面を複数のちがった視点から描くという手法はいまとなるとさして珍しくない気がするけれど、この映画の場合は映像を巻き戻してみせる演出が個性的。物語があるところまで進んだところで、いきなり映像がキュルキュルと逆回転で急速リワインドして始まりにもどり、再び同じ物語がちがうキャラを中心に展開する、というのが何度も繰り返される。最初に観たときには、おおっこりゃ斬新な、と思ったけれど、そういうのは一度ならばともかく、何度も繰り返されると、けっこううんざりするもので。途中からはもういいよって感じになってしまった。
まあ、それでも回を重ねるごとにちょっとずつ物語の全体像があきらかになってゆく展開自体は悪くない。そしてひと通りの視点ですべてを描き終わり、物語がひとつに集結して、さあこれからクライマックスってところで……。
この映画はむちゃくちゃな偶然にたよって、力づくでいきなり終わるのだった。なんすかそりゃって感じのあっけなさ。1時間半と短いのは結構だけれど、ちょっとばかりあっけなさ過ぎ。それなりにおもしろかったので、願わくば、あとひとひねり欲しかった。
(Aug 30, 2009)
救命士
マーティン・スコセッシ監督/ニコラス・ケイジ、パトリシア・アークウェット/1999年/アメリカ/BS録画
『タクシードライバー』 の主人公を救急車のドライバーに代えて、『アフター・アワーズ』 を水で薄めたような不条理劇に放り込んでみせたような――つまり、かなりスコセッシらしい――作品。
この映画はオープニングが最高にかっこいい。ヴァン・モリソンの 『T.B.シーツ』 をBGMにして、夜のニューヨークを救急車が駆けまわるシーケンスは雰囲気たっぷりで、その部分だけならば 『タクシードライバー』 に引けを取らないと思う。こりゃさすがスコセッシだと思った。
ただ、作品全体の出来となるとぼちぼち。物語がいまひとつ散漫で、焦点が定まっていない感じがする。主人公もあまり魅力的だと思えない。少なくても 『タクシー・ドライバー』には遠く及ばない。僕が個人的にニコラス・ケイジが特別好きではないせいかもしれないけれど、彼はデ・ニーロのようにニューヨークの夜景に溶け込んでいない気がした。
それはそうと、ニコラス・ケイジとコンビを組んで救急車を乗りまわす救急士のひとりで、ファンキーな黒人役の人は、先日 『ミッション・インポッシブル』 にも出ていたヴィング・レイムスだったらしい。あまりにイメージが違うので、ぜんぜん気がつかなかった。本当かちょっと疑いたくなるくらいの違いよう。この人も俳優としてなにげにすごいかもしれない(でも名前がおぼえられない)。
(Aug 30, 2009)