2009年6月の映画

Index

  1. 魔法にかけられて
  2. つぐない
  3. 奥さまは魔女
  4. あなたが寝てる間に……
  5. クローバーフィールド/HAKAISHA
  6. シングルス
  7. ファクトリー・ガール
  8. ロンリーハート
  9. プレデター
  10. フィフス・エレメント
  11. 恋人のいる時間
  12. マッチポイント
  13. 007/慰めの報酬
  14. デイ・アフター・トゥモロー

魔法にかけられて

ケヴィン・リマ監督/エイミー・アダムス、パトリック・デンプシー/2007年/アメリカ/BS録画

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 古典的ディズニー・アニメのお姫さまが映画のなかでやっていること――動物や鳥たちと一緒に歌ったり、踊ったり、働いたり――をそのまま現実の世界でやらせてみると、こんなにもおかしくて恥ずかしいことになっちゃうんだぞと。これはそういう映画。天下のディズニーがわざわざセルフ・パロディを作ってみせたわけだから、それはそれですごいと思うんだけれど、正直なところ、四十男としては観ている自分が恥ずかしくなってしまうような映画だった。
 このなんともいえない気恥ずかしさの原因は、おそらく主演のエイミー・アダムスに負うところが大きい。彼女を追ってアニメの世界からやってきた残りの三人――なんと女王はスーザン・サランドンだ――は、それぞれにオーバーアクションな役作りでアニメ・キャラクターっぽさを醸し出しているんだけれど、どうにも主演の彼女だけは、アニメの世界から抜け出してきたという感じがしない。普通の人がちょっとあぶない天然な女の子を一生懸命演じている印象で、健気ながら気恥ずかしさが否めない。
 調べてみれば、彼女はこのとき、もう三十代だ。可愛い人だとは思うけれど、やっぱりアニメのプリンセス役を、三十過ぎの女優さんに演じさせるのには無理がある思う。言っちゃ悪いけれど、おでこにしわが寄るところとかも、あまりお姫様っぽくないし……。できればもっと浮世離れした感じの、若い女の子をキャスティングして欲しかった。
 でもまあ、これがもしも作り手の狙った演出だとするならば――わざと若くない女優さんにこういう役をやらせることで、ミスマッチな笑いを誘ったのだとしたら――、こんな見事なキャスティングはないかもしれない。だって、なんだかんだ言って、僕はこの映画でそうとう笑ったから。大半は苦笑いだったけれど、笑ったことには間違いないので、まあよしとしたい。
 とはいっても、いくらなんでもドラゴンが飛べないってのはなしだと思いますが。あと、エンドロールで一家で踊るのもやめて欲しい。本気で恥ずかしいから。
(Jun 03, 2009)

つぐない

ジョー・ライト監督/キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ/2007年/イギリス/BS録画

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 これはお見事。イアン・マキューアンの原作をほぼ完璧に映画化してある。しかも、ただ単に原作に忠実なだけでなく、映画としての出来も素晴らしい。
 緑ゆたかなイギリスの風景をバックに悲劇の発端を描く前半。敗残兵であふれる海岸での壮大なロケシーンが強烈な中盤。そして殺伐とした戦時下で迎えるクライマックスと意外なエンディング。すべての演出がびしっと決まっている。ここまで原作に忠実で、なおかつ映画としての完成度も高い文芸映画には、そうそうお目にかかれないんじゃないかと思う。
 この作品の場合、小説のラスト・シーンが小説という表現形態ならではという終わり方をしているので、映画化にあたってその部分をどうするんだろうと注目していたのだけれど、いざ観てみれば、まったく原作のままだった。それがまた、まったく違和感なしで、きちんと映画らしく終わっていることにも感心した。
 そのシーンに出てくるヴァネッサ・レッドグレーヴというお婆さんの女優さんもいい。真相を語るまなざしの真摯さにぐっときた。ちなみにこの方、僕が最近観たところだと 『オリエント急行殺人事件』 にも出ていたらしいけれど、お粗末ながら記憶にない。
 ヒロイン、キーラ・ナイトレイの相手役をつとめるのは、先日の 『ペネロピ』 でも好印象だったジェームズ・マカヴォイ。今回は第二次大戦のころの話だから、いま風のぼさぼさ頭だったあの映画とは違い、さっぱりした髪をしていて、ずいぶん印象が違った。そうだと知らないでいたら、同じ人だって気がつかなかった気がする。
(Jun 04, 2009)

奥さまは魔女

ノーラ・エフロン監督/ニコール・キッドマン、ウィル・フェレル/2005年/アメリカ/BS録画

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 かの有名な同名ドラマをストレートに映画化するのではなく、劇中劇としてそのドラマをリメイクするという話を用意して、主演のサマンサ役に本物の魔女が抜擢されてしまったことからまき起こるドタバタ騒動を描くという、ひねった設定のコメディ映画。
 ネットにある評価がどれもやたらと低いので、どんなにつまらないんだろうと思いながら観てみれば――というか、そう思って観たからこそ?――、これが思ったほどひどくなかった。 『めぐり逢えたら』 や 『ユー・ガット・メール』 のノーラ・エロンの監督作品だといわれて、ああ、なるほどと思うような、いかにもな作品。僕はこれ、決して嫌いじゃない。
 ただ、ニコール・キッドマンの相手役がウィル・フェレルというのは、いまひとつしっくりこなかった。この人が本職がコメディアンだとわかるような演技をするのを見るのは初めてだったので、その点では以前に観たほかの作品よりはまだ好印象だったけれど――やっぱりこういう人は笑いがあってなんぼだ――、それでもこの手のロマンティック・コメディは、やはり主演がもうちょっとハンサムな人でないと盛りあがらない。そもそも二コール・キッドマン自身がこういう明るいばかりのコミカルな役どころはなんとなく不向きな気がする。
 ということで、ロマンティック・コメディであるにもかかわらず、主演のカップルがいまひとつ収まりが悪いのが、不評の原因ではないかと思った。でもまあ、僕はニコール・キッドマンのファンなんで、彼女の演技が観られただけで、ある程度満足できてしまう。シャーリー・マックレーンとマイケル・ケインという大御所ふたりもいい感じで笑わせてくれるし、ジェームズ・リプトン── 『ニコール・キッドマン自らを語る』 などというインタビュー番組でホストを務めている人──がカメオ出演しているのも、ハリウッドが舞台の映画ならではでおもしろかったし、なんだかんだいいつつも個人的にはけっこう楽しめた。
 あ、ただ、コンテンポラリーなロックとサッチモあたりのジャズを節操なくつっこんでみせたサウンドトラックはいかがなものかと思う。この手の映画には、こういうちゃんぽんな音楽のセレクションが多いのはどうしてだろう。
(Jun 07, 2009)

あなたが寝てる間に…

ジョン・タートルトーヴ監督/サンドラ・ブロック、ビル・プルマン/1995年/アメリカ/BS録画

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 主人公が心ならずもついた嘘のせいで苦しい立場に追い込まれ、なおかつその嘘ゆえに愛する人に素直な気持ちを告白できないというパターンはロマンティック・コメディの王道だけれど、この映画のそれはかなり強引だ。昏睡状態に陥った男性のフィアンセだと勘違いされたヒロインが、そのままフィアンセのふりをしつづけてるうちにその人の弟と恋に落ちてしまうなんて話、少なくても僕はすんなりと受け入れられない。
 ただ、それでもなんとか最後まで観ていられたのは、サンドラ・ブロックの飾らない演技の魅力ゆえか、はたまた、まわりを囲む俳優陣のほがらかさに支えられた、能天気なシナリオのせいか。話はかなり不自然だけれど、出てくる人がみんないい人だから、まあいいか、みたいな気分になる映画だった。
 それにこの映画、名前は知らないけれど、顔に見覚えのある俳優さんがやたらと出ている。サンドラ・ブロック演じるルーシーの憧れの人(ピーター・ギャラガー)は 『セックスと嘘とビデオテープ』 に出ていた濃い顔の人だし、 彼の父親役を演じるのは 『X-ファイル』 のベスト・エピソードのひとつ 『休息』(シーズン3)に出演していたピーター・ボイルという人。
 さらにその親友ソール役のジャック・ウォーデンという人は、もしやと思ったらやっぱり。テレビ版の 『がんばれベアーズ』 でバターメイカーを演じた人だった(でもさすがにずいぶん老けている)。ルーシーのアパートの大家(マイケル・リスポリ)は、ソプラノズに出てそうなタイプだなと思ったらば、これまたその通りで、先代のジャッキー・アプリールを演じていた人らしい。あとちょい役で出ている病院の先生はジョン・キューザックのお父さんなんだとか。
 こんなふうに、過去にふとすれ違っただけの俳優さんたちと思わぬところで再会したり、知っている俳優の家族と出くわしたりするのも、映画を見る楽しみのひとつだと思う。
(Jun 07, 2009)

クローバーフィールド/HAKAISHA

マット・リーヴス監督/マイケル・スタール=デヴィッド、オデット・ユーストマン/2008年/アメリカ/BS録画

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 ニューヨークに謎の巨大生物が上陸したことから巻き起こるパニックを、たまたま友人の送別会のためにホーム・ムービーを撮影していた人たちがフィルムに収めたという設定のもと、ハンディ・カメラによる一人称的映像でもって臨場感たっぷりに描いてみせた話題作。首がもげた自由の女神のポスターが雰囲気抜群だから、けっこう期待していた作品だったのだけれど……。
 いや~、これが駄目だった。ハンディ・カメラの映像が揺れまくりで、気持ち悪いったらない。乗り物酔いをする人がいるという噂は聞いていたけれど、僕は普段、車で酔ったりしないので大丈夫だろうとたかをくくっていたら、いやはや、見事に酔いました。ああ、思い出しただけで気分が悪くなる……。この映像はとてもじゃないけれど、映画として楽しめるレベルじゃないでしょう。いやー、勘弁して欲しかった。
 未曾有{みぞう}の大事件を一市民の視点から描こうというアイディア自体は、スピルバーグの 『宇宙戦争』 と同じで、僕はとても好きだ。でも、この映画はいくらなんでもやりすぎ。いまの時代ならば、実際には本格的なカメラで撮影した安定した映像をうまく処理して、ハンディ・カメラっぽく見せることだってできるだろう。そもそも素人カメラマンが、友達が死にそうになっていたり、自らの命が危ないような場面でもカメラを回しているって展開がすでに嘘くさいんだから、どうせならば演出と割りきって、もっと少し安定した映像で見せて欲しかった。
 でもまあ、それじゃこれが普通の映像だったとしたら気に入ったかというと、それはそれで疑問。なんたって注目の巨大モンスターがゴジラなんかとは違ってまったく魅力的ではないし、そのおまけについてくる巨大な虫みたいなやつも、エイリアンの幼虫の二番煎じみたいで、蛇足の感が否めない。いくつか素晴らしいシーンもあるだけに、もっと魅力的なモンスターを造形して、それ一本で勝負していたら、映像が不快な分を差し引いても、お釣りがきたかもしれないという気がする。
 さじ加減をミスって21世紀のゴジラになりそこねた意欲作──そんな印象の作品だった。
(Jun 11, 2009)

シングルス

キャメロン・クロウ監督/キャンベル・スコット、キーラ・セジウィック、ブリジット・フォンダ、マット・ディロン/1992年/アメリカ/BS録画

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 キャメロン・クロウという人はローリング・ストーン誌のライターだったという経歴ゆえに、ロック・ファンの僕としては無視できない存在なのだけれど、そのくせ、これまでに一度もその作品で盛りあがったことがない。初めて観た 『セイ・エニシング』 で、オルタナティヴな側面のまったくない80年代の青春像を臆面もなく描いているのを観て、こりゃ違うだろうと思って以来、どうにもネガティヴなバイアスがかかったままになってしまっている。なので、あれの次回作で、なおかつ一般的な評価が平均的なこの作品は、初めからほとんど期待しないで観始めた。
 ところが意外や意外(失礼)、今回はけっこういい。冒頭こそ、またもやアメリカン・ハード・ロックであふれかえっていたので、「うわー、またこんなだよぉ」とか思って引いてしまったけれど、観ているうちに、「おや?」っと思うようになる。だんだんと使われる音楽がいい感じになってゆくからだ。なぜか?
 それはこの映画が、グランジの発祥の地とされるシアトルを舞台に、あの時代の空気を映しこんだ作品だからだ。最初はなんだかなあと思っていたBGMが、途中から徐々にピクシーズやスマパンなどといった、僕になじみのオルタナティヴなものへと変化してゆく。マット・ディロン演じる長髪のバンド・マンが「ディープ・パープルやレインボーのロック魂はどこへ行ったんだ!」みたいなことを言って嘆くシーンがあるけれど、まさにそういう時代の空気をきちんと取り入れているからこそ、僕にはこの映画はとても好ましかった。時代遅れのハード・ロック男の姿をペーソスをもって描ける批評性があることがわかって、ようやくキャメロン・クロウという人の感覚が腑に落ちるようになった。
 思い返してみれば、 『セイ・エニシング』 は80年代、 『あの頃、ペニー・レインと』 は70年代を舞台にした、その時代ならではの空気を色濃く映し出した作品だった。でもって、この 『シングルス』 が90年代。おそらくキャメロン・クロウという人は、それぞれの時代を、その時代の音楽とともに素直に生きてきた人なんだろう。だからあとから振り返って、それぞれの時代の青春像をその時代の音楽とともにわけ隔てなく描ける。愛情をもって描ける。そういう意味では、この人はとてもいい人なんだろうなと、この映画を観て思った。
 あと、この作品の場合、主人公をひとりに固定せずに、群像劇としたところもよかった。この人の映画はいつでも主人公がやたらと情けなくて、僕としては身につまされるものがありすぎて、いまいち笑って済ませられない感があったのだけれどれど、この作品は主人公がひとりでない分、その情けなさがうまい具合に分散して、すんなりとコメディとしてまとまっている印象を受けた。ヒロインのひとり、ブリジット・フォンダもとても魅力的だし、まあ、なんだかなあってギャグもけっこうあったけれど、それでもこの映画はとてもよかった。キャメロン・クロウ、見直しました。
(Jun 14, 2009)

ファクトリー・ガール

ジョージ・ヒッケンルーパー監督/シエナ・ミラー、ガイ・ピアーズ、ヘイデン・クリステンセン/2006年/アメリカ

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 アンディ・ウォーホルのガールフレンドとして、またボブ・ディランの恋人として、60年代に一世を風靡したファッション・モデル、イーディ・セジウィックの{はかな}い生涯を描く伝記映画。
 ストーンズ・ファンの僕にとっては、『ファクトリー・ガール』 といえば、まずは名盤 『ベガーズ・バンケット』 に収録されている曲名ということになるのだけれど、この映画のタイトルは、アンディ・ウォーホルが自らのスタジオを「ファクトリー」と称していたことに由来する。もちろん、映画の製作者がストーンズの曲を念頭においてこのタイトルをつけたのは間違いないところだろう。ストーンズの曲がカントリー風なだけに、同時代のポップ・カルチャーの旗手、ウォーホルのガールフレンドを主人公にしたこの映画にそのタイトルを流用したミスマッチはとても効果的だと思う。
 ただし、この映画とストーンズとのかかわりは、ほぼこのタイトルだけ。ウォーホルが 『スティッキー・フィンガーズ』 のジャケットのデザインを手がけていたりもするから、いくらかストーンズ絡みのエピソードがあるのかと思っていたけれど、ストーンズへの言及はたぶん一度きりだった。それも部屋へ入ってくるミック・ジャガー(役の俳優)のうしろ姿をカメラがとらえて、出迎えたイーディかウォーホルが「やあ、ミック」とかいうシーンだけ。
 一方で同じミュージシャンでも、ボブ・ディランは一時期イーディ・セジウィックとつきあっていたということもあって、非常に存在感のある描き方をされている。演じるのは 『スター・ウォーズ』 のアナキン・スカイウォーカー役でおなじみのヘイデン・クリステンセン。この人が見事な演技でディランを演じきっている。本人より身体がひと回りほど大きいし、ややハンサムすぎる嫌いはあるけれど、それでもあの独特なしゃべりかたや身のこなしを真似て、これぞディランという雰囲気を醸し出している。その芸達者ぶりにはなかなか感心させられた。 『アイム・ノット・ゼア』 に出ていないのが残念なくらい。
 ただしこの映画にはボブ・ディランという名前はいっさい出てこない。なんでもふたりの関係がイーディの転落のきっかけになったような描き方をされていることにディラン側から抗議があったとかで、実名を避けたらしく、クリステンセンはこの映画では「ビリー」と呼ばれている。インターネットでキャスティングを見ると、彼の役名はサイトによって「ミュージシャン」とか「ロック・スター」などとなっている。おかげで僕はいざ観るまで、彼がボブ・ディランの役を演じているなんて、まるで知らずにいた。
 伝記映画であるにもかかわらず、そんな風に本名を隠しているあたりが、この映画の弱さかなと思う。そういえば、イーディとウォーホルとのあいだにキス・シーンひとつない点も、いまひとつ説明不足で不自然だと思った(ディランとは濃厚なベッド・シーンがある)。実際にふたりの間に性的な関係がなかったのか、それともあったかどうかを誰も知らないがために、あえて映像化しなかったのかはわからないけれど、いずれにせよ、ふたりの関係がもっとちゃんとわかるよう演出してほしかった。
 そのほか、シエナ・ミラーが思いきりよく素肌をさらして主人公のイーディを熱演しているにもかかわらず、終盤に彼女が陥るみじめな境遇があまり同情を誘わなかったり、ウォーホルも、どれくらい本人に似ているのか知らないけれど、うじうじしてばかりで、あまり才能ある魅力的な人物には見えなかったりと――演じているのは 『L.A.コンフィデンシャル』 のガイ・ピアーズ――、素材はとても興味深いのに、演出が淡白でいまいち盛りあがりに欠けた印象だった。惜しい。
(Jun 14, 2009)

ロンリーハート

トッド・ロビンソン監督/ジョン・トラボルタ、ジェームズ・ガンドルフィーニ/2006年/アメリカ、ドイツ/BS録画

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 ジョン・トラボルタと 『ザ・ソプラノズ』 のジェームズ・ガンドルフィーニが共演していると聞いて、そりゃ観なきゃと思った作品。
 40年代に実際にあった連続殺人事件の映画化だというので、どちらが犯人を演じているんだろうと思っていたら、あにはからんや、二人とも刑事の役でした(しかも相棒同士)。僕はこの手のドラマでこの人たちが善玉を演じるのを観るのは、どちらも初めてのような気がする。
 物語のメインとなるのは、悪質な結婚詐欺を働いていた男が、カモにしようとした女性のひとりと共犯関係に陥り、やがてドロドロの愛憎劇の果てに凄惨な殺人を犯すようになってしまう、というもの。犯人のカップルを演じるのは、ジャレッド・レトーという人と 『デスパレード』 のヒロイン、サルマ・ハエック。
 トラボルタが演じるのは、妻の自殺にショックを受けて、すっかり仕事への意欲を失ってしまった敏腕刑事。彼はこの性悪カップルに騙されて自殺を遂げた被害者のひとりに深く同情したことから、ふたたびやる気を取り戻し、精力的に事件を追いかけてゆく。
 そんな彼の相棒を務めるのがガンドルフィーニ(ふたりともひさしぶりに姿を見たら、どちらもさらに恰幅がよくなっていた)。彼らが出ている映画にしては珍しく、まったく笑いはないし、ともにどちらかというと地味な役どころだけれども、それでもこのふたりがタッグを組んでいるのを観ているだけでも、けっこう楽しめる。映像もシックできれいだ。
 惜しむらくは、殺人カップルのあいだに結ばれた絆の深さが、いまひとつ伝わってこなかったこと。とくに男のほうはそれほど相手を深く愛していたようには見えなかった。だから彼による殺人のシーンには、いまひとつ説得力がない。彼らを残酷な殺人に向かわしめた、お互いへの愛憎なかばする思いをもっと濃厚に描けていたらば、さらに深みのある素晴らしい映画になっていたんではないかと思う。その点、やや残念かなと思った。
(Jun 16, 2009)

プレデター

ジョン・マクティアナン監督/アーノルド・シュワルツェネッガー/1987年/アメリカ/BS録画

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 『エイリアンズVS.プレデター』 のプレデターがあまりに強かったので、こんなの相手にシュワルツェネッガーはいかに戦ってみせたのか気になって観てみたこの映画だったけれども……。
 これって、コメディの一歩手前じゃないですか?
 中南米のジャングルでの軍事作戦に駆り出されたシュワルツェネッガーは、登場するなり 『ロッキー』 でアポロを演じていた黒人さん相手に筋肉自慢。ゲリラの陣地に人質を解放に行けば行ったで、いきなりど派手な銃撃・爆破シーンが炸裂して、それじゃ人質も死ぬだろうよって勢いだし、なんだかもう最初から、笑っちゃうくらいにマッチョ全開(よくいえば痛快)。
 その後、プレデターと遭遇して仲間が次々とやられていくあたりは、けっこう悲惨なので笑えやしないのだけれど――時代が古いせいか、残虐シーンを過度にあおらず、さらりと流すあたりは好印象だった――、最後にシュワルツェネッガーひとりが残ったとたん、おいおいって展開になる。
 だってガトリングガンで何百発撃たれても平気だったプレデター相手に、手作りの弓矢と槍で挑むんですよ? 身体を泥でコーティングしただけで、赤外線レーダーに映んなくなっちゃうんだよ? 樹にしがみついたシュワルツェネッガーの背後をプレデターが通り過ぎるシーンなんて、もう爆笑もんでしょう。
 それまで百発百中ってくらいの精度だった敵のレーザー光線も、相手がシュワルツェネッガーになったとたん、まったく当たらなくなっちゃうし。乱射しまくりで、すっかりディズニーランドの花火状態(まあ、きれい)。うちの奥さんはあれを見て「花火師?」って言ってました。
 でもってついには、武器が使えなくなったんだか、なんだかわからないけれど、プレデター自らマスクをはずしてのタイマン勝負だ。わざわざ自分に有利な条件を放棄して、フェアプレーを仕掛けるハンターなんて、どこの世界にもいないと思います。
 いやはや、なんともすごかった。誰だこんな映画撮ったのは、と思ったら、監督は 『ダイ・ハード』 のジョン・マクティアナンだった。うーん、そうですか。 『ダイ・ハード』 は大好きなんだけれどなあ……。まあ、あまりにつっこみどころが多すぎて、ちがった意味でおもしろかった。
(Jun 16, 2009)

フィフス・エレメント

リュック・ベッソン監督/ブルース・ウィリス、ミラ・ジョヴォヴィッチ/1997年/フランス/BS録画

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 リュック・ベッソンがブルース・ウィリス、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ゲイリー・オールドマンほかの豪華キャストを迎えて 『レオン』 の次に撮った、CGたっぷりのSFアクション・ムービー。
 この映画でなにが意外だったかって、リュック・ベッソンがとにかく笑いばっか狙っていること。ちょっとユーモアを利かせたとかいうレベルではなく、最初から最後まで受け狙いだらけ。なんだ、これってコメディじゃないですか。もっとシリアスな内容かと思っていた。とんだ勘ちがいだ。こんな映画を撮る人だとは思わなかった。
 でもこの映画、CGは 『スター・ウォーズ エピソード1』 に近い感じの、さぞや金がかかってんだろうなぁと思わせる、本格的なもの。調べてみたらあれのわずか2年前の作品だから、もしかしたらスタッフが重なっているのかもしれない。
 とにかく、そんな風に金をかけておきながら、真正面から本格的なSF映画に仕上げることなく、コメディ・タッチにした時点で、この作品は初めからB級ムービーになる運命にあったような気がする。悪くはないけれど、かなりチープな印象の否めない一作。
 あえて好き嫌いで言うならば、クリス・タッカーという人の演じるゲイ風のカリスマDJのけたたましい演技がけっこう好きだった。この人、『ラッシュ・アワー』 の人なんですね。この前みた 『僕らのミライへ逆回転』 でも、その映画のシリーズ第二弾が取り上げられていたし、いずれ機会があったらその映画も観てみようかなという気になった。
(Jun 20, 2009)

恋人のいる時間

ジャン=リュック・ゴダール監督/マーシャ・メリル/1964年/フランス/DVD

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 なんでゴダールの映画を観るのかと問われると、僕はちょっと困る。たいていの作品は物語なんてあってなきがごとしだし、単にストーリーだけとっておもしろいかと問われれば、正直なところ、おもしろいとは答えられないからだ。
 この映画にしても、内容は不倫中の女性が、夫と愛人、それぞれと一緒に過ごす時間を、哲学的な会話をさしはさみつつ描いてみせるというもの。物語としては特別おもしろくもない。
 でも、それでは映画としてつまらないかというと、そんなことはないわけで。
 物語にはそれほど見るべきものはないのに、映画として興味深く観られるというのは、そこに映像作家としてのゴダールの文体{スタイル}がきちんとあるからだ。「映画とは単なる動画版の物語なんかじゃない。もっと特別な表現たり得るんだ」という、映画人ならではの矜持を強く感じさせてくれる。そこがいい。
 おまけに、この人は女性を撮らせるとぴかいちだ。僕はゴダールほど女性を艶めかしく見せることのできる映画監督をほかに知らない。この映画では、ヒロインのマーシャ・メリルの裸を撮りまくっているけれど、彼女は服を着ている姿も裸でいるときと負けないくらいにセクシーだ。アンナ・カリーナにしろ、この人にしろ、決して僕の好みのタイプというわけではないのに、やたらと艶めかしくて魅力的だと思わせるのもすごい。
 こんな風に女性を美しく撮れるだけでも、ゴダールは充分、尊敬に値すると思う。
(Jun 23, 2009)

マッチポイント

ウディ・アレン監督/ジョナサン・リース・マイヤーズ、スカーレット・ヨハンソン、エミリー・モーティマー/2005年/イギリス/DVD

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 プロとしてのキャリアを見限って第二の人生を模索していた貧乏なテニス・プレーヤーが、ちょっとしたコネから逆玉に乗って、セレブな暮しを満喫するようになるものの、スカーレット・ヨハンソン演じるファム・ファタールな美女の色気にまよって浮気に走り、やがて裕福な暮らしをとるか、セクシーな恋人をとるかの選択を迫られることになって……、という話。
 ウディ・アレンの作品にしては珍しく、ぜんぜん笑いがないなと思いながら観ていたのだけれど、途中でうちの奥さんにそういったらば、「でも、たまに笑ってるよね」と突っ込まれた。「えっ?」と思って、そのあとは気にしながら観ていたら、なるほど、僕はたまに笑っていた。物語自体は笑えるようなものではないんだけれど、保身に走り、汲々としている主人公のどうしようもなさに苦笑を誘われる、そういうタイプの作品だった。
 さらにこの映画、終盤はかなり深刻な展開になるにもかかわらず、クライマックスの展開がややコメディ・タッチだったりする。そのうえ、結末はかなり意表をついている。そんなのあり?って感じなので、その部分をどう観るかで評価が分かれるかもしれない。
 僕はさすがウディ・アレン、うまいなと思った。序盤に主人公がドストエフスキーの 『罪と罰』 を読んでいるけれど、それが結末の見事な伏線になっている。というか、あそこに 『罪と罰』 があればこそ、このエンディングが許されるのだと思う。良識からすればNGのハッピーエンドながら、じつはそのままハッピーには暮らせないんですよ、というのがしっかり匂わせてある。そこがうまい。やはりウディ・アレンはただものじゃない。
 それにしてもウディ・アレンという人は、ジャズ・マニアとして有名であるがゆえか、映画の音響に関しては非常に保守的だ。このDVDの音声は、驚いたことにモノラルのみだった。21世紀に入ってから制作された映画なのに、サラウンドどころか、ステレオでさえなく、しかもセンター・スピーカーからしか音が出ないという……。
 わが家のセンター・スピーカーは貧弱なので、なんだかちょっと損をした気分になりました。
(Jun 28, 2009)

007/慰めの報酬

マーク・フォースター監督/ダニエル・クレイグ、オルガ・キュリレンコ/2008年/イギリス、アメリカ/DVD

007 / 慰めの報酬 (2枚組特別編) 〔初回生産限定〕 [DVD]

 ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる007シリーズの第二弾。
 今回もアクションはものすごい。まるでテレビゲームを観ているみたいなスタイリッシュな映像によるカーチェイスから始まり、またもや普通の人ならば骨折しまくりって感じの追跡劇、さらにはボートに飛行機にと、アクション・シーンは陸・海・空を網羅していて、見どころ満載。ほんと、前作同様にアクションは笑っちゃうくらいに派手だ。『007は二度死ぬ』 じゃないけれど、普通の人ならば何度でも死にそうなくらい。
 ただ、その一方で、物語はややわかりにくい。よくは知らないけれど、これくらい続編としての色彩の強いボンド・シリーズも珍しいんじゃないだろうか。前作のディテールをぜんぜん覚えていなかった僕には――それこそヴェスパーとかマティスって誰?って感じだったので――、なにがなんやらという感があった。できれば前作の内容をしっかり踏まえた上で観たほうがいい。
 あと、ボンドとボンド・ガールとの絡みがないのも意外。ボンドとベッドをともにしないボンド・ガールがこれまでにもいたのかどうかも知らないけれど、ボンドと寝る寝ないは別にしても、この映画でオルガ・キュリレンコという人が演じるキャラクターはボンドとの関係性が薄くて、いまいち目立ってない。ボンド・ガールの華やかさもこのシリーズの魅力のひとつなのだろうから――そして前作ではエヴァ・グリーンがとても魅力的だっただけに――、この作品はその点でも前作よりやや落ちるかなという気がした。
 いやでも、アクションはマジですごいです。それだけでも一見の価値あり。
(Jun 28, 2009)

デイ・アフター・トゥモロー

ローランド・エメリッヒ監督/デニス・クエイド、ジェイク・ギレンホール、エミー・ロッサム/2004年/アメリカ/BS録画

デイ・アフター・トゥモロー [DVD]

 地球温暖化によって巻き起こった天変地異で、北半球の半分以上が氷におおわれてしまうというパニック映画。
 『インディペンデンス・デイ』 『GODZILLA』 などのローランド・エメリッヒ監督作品ということで、映像の派手さ加減は保証書つき。LAの街中で巨大なトルネードが何本も荒れ狂い、ハリウッド名物の看板をなぎ払ったり、自由の女神が津波に飲まれ、マンハッタンが水没するあたりの映像のスペクタクルは、はんぱじゃない。とりあえず、そういうあり得ない映像がたっぷり観られるという点では、すごい映画だと思う。
 ただ、最近の映画のつねで、この作品も演出があざとい。唐突に氷河期が訪れるという展開だけで十分すごいんだから、そこにさらなるサスペンスを盛り込まなくったってよさそうなものだ。主人公の仲間が不慮の死を遂げるところとか、逃げ出した狼にまつわるエピソードとか、僕はぜんぜんなくてもいいと思った。どうにも近頃のパニック映画は、どれも必要以上にスリリングな展開を盛り込みすぎて、失敗している気がする。
 物語のメインとなるのはデニス・クエイド演じる気象学者が、ニューヨークで吹雪に閉じこめられた息子の救出に向かうという話だけれども、これもちょっとばかり説得力がない(当時23歳前後のジェイク・ギレンホールが高校生の役ってのも説得力がない)。あの強烈な吹雪のなか、ワシントンDCから車で出発して──なおかつ途中からは徒歩で──ニューヨークまで無事にたどり着けるとは、とても思えないんだけれど……。
 とにかく映像はものすごいと思うし、決してつまらない映画ではないけれど、物語的に不自然な展開が目立ちすぎて、いまひとつ素直に楽しみきれなかった。まあ、とりあえずヒロインのエミー・ロッサムという女の子がかわいかったから、よしとしようかと思ったら、なんと彼女の最新作は、悪名高い実写版の 『ドラゴン・ボール』 なんだそうで……(ブルマの役)。それってかなりマイナス・イメージな気が。
(Jun 30, 2009)