2008年7月の映画

Index

  1. ビヨンド the シー ~夢見るように歌えば~
  2. ニュースの天才
  3. 評決
  4. ギャラクシー・クエスト

ビヨンド the シー ~夢見るように歌えば~

ケヴィン・スペイシー監督・主演/2004年/アメリカ、ドイツ、イギリス/BS録画

ビヨンドtheシー ~ 夢見るように歌えば ~ [DVD]

 ケヴィン・スペイシーといえば、オスカーを二度獲得した、当代きっての名優のひとりだけれども、その才能はどうやら演技だけに収まらないらしい。彼は初めてメガホンをとったこの映画において、製作、監督、脚本の三役をこなすのみならず、自ら主人公のボビー・ダーリンを演じて、全編にわたって歌って踊っての大活躍をみせている。それも吹替などではなく、ほぼ全曲を自分で歌って聴かせるというワンマンショー状態。それがちゃんとさまになっているから感心してしまう。
 まあ、歌と踊りに関しては若干、素人っぽい感じもあるけれど、もとより僕はボビー・ダーリンという人については、ビートルズがデビューした頃に活躍していたポップ・シンガーで、ロックの盛隆とともに時代遅れになって姿を消した人、くらいの認識しかなく、どんなヒット曲があるかも知らなかったので、そんな風にやや素人っぽい感じがするところも、その時代の歌手ならばさもありなんという気がして、まるで気にならなかった。変に上手すぎないところが、かえってそれっぽい。
 映画としては、同じ年に公開されたこともあって、 『五線譜のラブレター』 とかなりイメージがダブっていたのだけれど──実在した音楽家を主人公にした、いまどきのミュージカルという点で共通点が多い──、いざ観てみたらかなり印象がちがう。やや内向的でわかりにくいところのあったあちらと比べると、こっちは主役がポップ・シンガーだけあって、話がとても明快。難しいところは皆無なのがいい。ボビー・ダーリンという人の歌も、(少なくてもこの映画でフィーチャーされているものに関しては)しっとりとしたバラード中心ではなく、軽妙でノリのいいナンバーばかりだったので、オールディーズ好きのうちの奥さんにも好評だった。
 あと、芸能界の話にしては最後まで奥さんのサンドラ・ディー(ケイト・ボスワース)と仲睦まじくてハッピーなところがいいねぇ──とか話していたら、あとで調べてみたところ、実はふたりは離婚していて、あまつさえボビー・ダーリンは死ぬ前の年に別の女性と再婚までしていたのだとか。そう知ってみると、ちょっとだけ騙されたような気がしないでもないけれど、でもまあ、そういう興ざめな事実はあえて端折{はしょ}って、気持ちのいい映画に仕立ててみせた点を評価すべきかなという気がした。
 なんにしろ歌って踊れて映画も撮れるオスカー俳優、ケヴィン・スペイシーのマルチ・タレントぶりには、ただひたすら脱帽といった一品だった。ただし邦題のセンスには難あり。
(Jul 10, 2008)

ニュースの天才

ビリー・レイ監督/ヘイデン・クリステンセン、ピーター・サースガード/2004年/アメリカ/BS録画

ニュースの天才 [DVD]

 アメリカの 『ニュー・リパブリック』という雑誌は、大統領専用機エア・フォース・ワンにも常備されているというほどの伝統のある雑誌なのだそうで、そこの若手人気ライターが、事実無根の捏造記事を乱発していたというスキャンダルを映画化したのがこの作品。主演は 『スター・ウォーズ エピソード3』 のヘイデン・クリステンセンで、彼はここでも 『スター・ウォーズ』 同様、欲に流されて道を誤った青年を熱演して、うちの奥さんから「やっぱりアナキンは嫌なやつだった」と、あらぬ非難を浴びていた。
 まあ、うちの奥さんがそんなことを言いたくなるのもわからなくないほど、この映画でクリステンセンが演じるスティーヴン・グラス君は救いようがない。テーマ的には少し前に観た 『クイズ・ショウ』 に近いものがあるのだけれど、あちらがイカサマをした人物の苦悩にフォーカスをあてていたのに対して、こちらの主人公は最後まで反省の色を見せない。自らの保身に汲々としたあげくに、逃げ場がなくなると、べそをかいて落ち込むばかり。頭はいいくせに、精神的には非常に未熟──そんな成長のバランスを欠いた主人公のあり方には、最近の日本の世相にも通じるものがあって、そうとうインパクトを受けた。
 ほんと、彼の嘘が暴かれてゆく過程のいたたまれなさときたら、かなりのものだ。決して気持ちのいい話ではないのだけれど、そのあまりのいたたまれなさ、やるせなさゆえに、一見の価値があると思わせる、これはそんな作品だった。
(Jul 10, 2008)

評決

シドニー・ルメット監督/ポール・ニューマン/1982年/アメリカ/DVD

評決 [DVD]

 アル中の弁護士が主人公だと聞いたときから、酒飲みで法廷劇好きな僕としては、ずっと気になっていた作品。
 でもこれ、残念ながら個人的にはいまいちだった。正義感がわざわいして落ちぶれた元エリート弁護士が、医療ミスで植物人間になってしまった女性のため、あえて難しい裁判に挑むという話だけれど、ポール・ニューマン演じる主人公の弁護士があまりに冴えなくて、いまひとつ盛りあがれない。最初のうちは落ちぶれたアル中の役どころだから、しょぼいのも当然だと思っていたけれど、最後まで観ても、しょぼい印象は変わらない。彼の最終弁論のシーンが見どころだって意見もあるみたいだけれど、僕には胸を揺さぶるほどの熱弁だとは思えなかった。
 どちらかというと、ニューマンの弁護士としての活躍がうんぬんよりも、彼が陥る四面楚歌な状況、それ自体のほうがインパクトがあると思う。ここまで徹底して主役が劣勢に立たされるドラマも珍しい。被告側が提示してきた高額の示談話をはねつけて裁判に打って出たはいいけれど、相手は大人数の弁護団をかかえる大手弁護士事務所だから、アル中の個人弁護士なんて、まるで歯が立たない。頼みの証人は相手側にまるめこまれて行方不明になっちゃうし、示談を拒否したことで依頼人は怒らせちゃうし。おまけに中立であるはずの判事は、あからさまに被告寄りだし。
 そう、この映画で一番すごいのは、ミオ・オーシャという人の演じるこの悪徳判事かもしれない。映画に出てくる判事ってのは、大抵いい人なのに、この映画の判事は勘弁してよってくらい嫌なやつで、ある意味、貴重。こんな不公平な人に裁かれたんじゃ、たまったもんじゃない。
 ──って、ああ、なるほど、だからこの映画は 『評決』 というタイトルなんですね。『十二人の怒れる男』 と同じ監督の作品だとは聞いていたけれど、これまたあれと同じく、陪審員制度というものの価値を知らしめんがため作品であり、それゆえのあの判事の存在なわけだ。同じ理由で、弁護士も別にすごくなくていいんだ。
 判事がどれだけいやなやつであれ、弁護士がいかに駄目なやつであれ、陪審員さえしっかりしていれば、正義は果たされるぞと。これはそういう映画なんだろう。だからポール・ニューマンは最後まであんなに冴えないのか……。書いていて、すごく納得してしまった。
(Jul 28, 2008)

ギャラクシー・クエスト

ディーン・パリソット監督/ティム・アレン、シガニー・ウィーバー/1999年/アメリカ/BS録画

ギャラクシー★クエスト [DVD]

 宇宙のかなたに、高度な科学力を持っているにもかかわらず、ドラマというものを知らない友好的なエイリアンがいて、地球で放送されている 『スタートレック』 (のようなテレビドラマ)を観て、それを実話だと思い込み、凶悪な敵と戦うために、地球に救いを求めてやってくる、という設定のSFパロディ映画。
 『スタートレック』 にのめり込んだ人たちをトレッキアンというけれど、この映画は宇宙の果てにも自然発生的なトレッキアンがいましたと、つまりそういうふざけた話なわけだ。正直なところ、うちの奥さんが 『スタートレック』 好きじゃなかったら、おそらく観ていなかっただろうと思う。
 でもこの映画、意外なことに、そんなお気楽な発想のわりには、かなり出来がいい。というか、お気楽な発想だからこそ、だろうか。なんたってドリームワークスの配給なわけで、SFXはとても本格的だし、もとよりオタク文化をバックボーンにしている分、ギャグが吹っ切れている。エンタープライズ号ならぬプロテクター号の艦長を演じるティム・アレン──これまたお気楽なクリスマス映画 『サンタクロース』 の主役の人──が、エイリアンに本物の宇宙船を提供してもらって、「こんな体験またとできない」と大喜びしちゃう展開など、全体的にギャグに少年ジャンプ的なポジティブさがあって、やたらと楽しかった。いやあ、恥ずかしながら、僕はこの映画は好きです。バカにできない。
 出演者でおもしろかったのは、『ダイ・ハード』 のハンス・グルーバーこと、アラン・リックマン。この人、ついこのあいだ観た 『スウィーニー・トッド』 でジョニー・デップに首を切られていたと思ったら、こちらではミスター・スポックまがいの役柄を、じつに嫌そうに好演している。どちらもじつに味のある役作りでよかった。なんでもこの人はハリー・ポッター・シリーズのレギュラーらしいですね。そうと知ったら、あのシリーズもちょっと観てみたくなった。
(Jul 28, 2008)