2008年5月の映画

Index

  1. サンキュー・スモーキング
  2. 恋人たちの予感
  3. ダーク・エンジェルⅡ
  4. ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ
  5. ユージュアル・サスペクツ

サンキュー・スモーキング

ジェイソン・ライトマン監督/アーロン・エッカート、ケイティ・ホームズ/2006年/アメリカ/DVD

サンキュー・スモーキング (特別編) [DVD]

 タバコのパッケージに見立てた宣伝ポスター──アメリカではラッキーストライクをイメージした白いパッケージだったようだけれど、ラッキーストライクがあまりメジャーではない日本では、マルボロを思わせる赤に変更されている──が気に入って、公開当時からぜひ観たいと思っていた作品。気が利いているのはポスターだけではなく、オープニングも、さまざまなタバコのパッケージのロゴや注意書きをアレンジして、キャスティングやスタッフ名に置き換えてみせたスタイリッシュなもので、この辺のセンスはとてもいい。
 内容はといえば、タバコ業界のロビイスト(要するにPRマン?)を主人公にして、喫煙は悪という昨今の風潮に一矢報いようという意欲作──ではあるんだけれど、結果として喫煙者を救うほどの出来ではないかなという感じ。喫煙に対する過剰な愛情のようなものは、観ていてもそれほど伝わってこない。どちらかというと、職業上、世間の嫌われものであることもやむなしと割りきって一生懸命働いている父親と、その息子の心の交流を描いたささやかな感動作という印象だった。シニカルで毒のある物語を期待しているとやや肩透かしを食う。毒が少ないという意味では、タバコの毒も実はこれくらいのものですよと、そういう映画かもしれない。それでもいまどきの映画にしては珍しく、コンパクトにまとまっているところに好感が持てたし、個人的にはまあまあ気に入っている。
 そうそう、ケイティ・ホームズがそのあどけないルックスに似合わないセクシャルな汚れ役を演じているのも見どころのひとつ。そのほか、ロバート・デュバルがタバコ業界の大御所を演じていたりして、なにげに脇役も個性的だ。
(May 11, 2008)

恋人たちの予感

ロブ・ライナー監督/メグ・ライアン、ビリー・クリスタル/1989年/アメリカ/DVD

恋人たちの予感 [Blu-ray]

 うちの奥さんには評判が悪いこの映画──「メグ・ライアンの髪型が嫌い」だとか──、メグ・ライアンがレストランで絶頂のふりをしてみせる有名なシーン、あれを笑えるか、笑えないかで好き嫌いが分かれるのだろう、くらいに思っていたら、そうでもないようで。
 ひさしぶりに観てみてびっくりしたのは、この映画がほとんど全編、セックスにまつわる会話ばかりで成り立っていること。最初から最後まで、とにかくあからさまにセックスについて語っていて、上品な人の眉をひそめさせるには十分。そのあからさまさを是とするか非とするかがポイントのような気がした。僕がどう思うかはとりあえず秘密です。まあ、ラストシーンはそれなりにじーんときたし、「添えるだけ」ってあっさり終わるところは気に入っている。
 そういえばこれも忘れていたけれど、この映画にはシーンの合間に、何組ものの老夫婦が自分たちの出会いを語るインタビューが差し挟まれている。その点で、同じロブ・ライナー監督の十年後の作品 『ストーリー・オブ・ラブ』 を思い出した。こちらが恋人たちの出会いの映画ならば、あちらは離婚の危機に瀕した夫婦の話で、両者はあきらかに{つい}になっているのだと思う。まあ、人気のほどには大きく差があるようだけれども。
 そうそう、あとひとつびっくりしたのが、メグ・ライアンの親友役で出演しているのが、キャリー・フィッシャーだったこと。ショートカットだったせいもあって、エンド・クレジットを見るまで、まったく気がつかなかった。こんなところでレイヤ姫と再会するとは思いませんでした。
(May 11, 2008)

ダーク・エンジェルⅡ

ジェームズ・キャメロン製作総指揮/ジェシカ・アルバ、マイケル・ウェザリー/2001-2002年/アメリカ/DVD

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 このドラマ、セカンド・シーズンになって、ずいぶんとたくさんの方向転換を行っている。というよりも、前シーズンで築きあげた世界観をいったん反故にした上で、さらに派手なSFドラマに仕立て上げようとして力及ばず、失敗してしまいましたとでもいうような内容になっている。
 ファースト・シーズンには、ふたつの柱があった。一つめはマックス(ジェシカ・アルバ)とローガン(マイケル・ウェザリー)の恋の行方で、二つめはマックスと、離れ離れになった仲間のジェネティック(遺伝子操作で生み出された超人兵士)たちの逃亡劇。セカンド・シーズンでは驚いたことに、このふたつを両方とも放棄してしまっている。
 マックスとローガンのカップルについては、ファースト・シーズンの最後でいったんは結ばれたのだから、セカンドではもっと親密でホットな関係になるかと思えば、さにあらず。ローガンと再会したマックスは、アイズ・オンリー(テレビ放送をジャックして社会の不正を告発するローガンの通り名)の暗殺を謀る政府により、彼の遺伝子だけに作用する特別なウィルスに感染させられていて、二人は手をつなぐことさえできないという、あらたな展開が待っている。
 ラブ・ロマンスにはカップルの邪魔をする障害がつきもだとはいえ、この設定はかなり強引だ。おかげで二人の関係はファースト・シーズンのとき以上に煮え切らないものになってしまった。またローガンに関しては、あらたにアレック(ジェンセン・アクレス)という二枚目キャラがレギュラーとして加わった分だけ、影が薄くなってしまった感が否めない。結果、恋愛ドラマとしての側面は、かなりおざなりな印象になってしまっている。
 一方でジェネティックに関する描き方については、それどころじゃない変化がある。
 身体能力の点でのみ超常的だったファースト・シーズンとは一転して、セカンドでのジェネティックは半人半獣、超能力者、サイボーグなど、フリーキーなキャラクターが百花繚乱。もはやマックスの昔の仲間なんてどうでもいいと言わんばかりの状況を呈している。特に半人半獣タイプのキャラの導入は、シリーズ終盤で大きな意味を持ってくる。
 彼らを追う側にも大きな変化がある。前シーズンの最重要人物だったライデッカー(ジョン・サヴェージ)は、研究所の崩壊とともになし崩し的にお役ご免となり、マックスらを追跡する役目は、なんの説明もないまま登場したエイムズ・ホワイト(マーティン・カミンズ)という男に引き継がれるのだけれど、実はこの人が単なる捜査官などではなく、何千年もの歴史を誇る超人系秘密結社の一員で、ジェネティックの研究はその組織に絡んだなんらかの陰謀であったという、あらたなる大風呂敷が広げられる。
 これらの大胆な設定変更により、SFドラマとしてはファースト・シーズンよりも格段に派手になったとは思う。ただ、それでドラマがその分おもしろくなったかというと話は別。不用意に広げた風呂敷が大きすぎて、収まりがつかなくなってしまっている。たとえばマックスたちの生みの親として、あらたにサンドマンなる科学者の名前が取りざたされるようになるのに、この人の正体は結局最後まで観てもあきらかにならない。そのほかにも、さまざまな伏線のほとんどが解決しないまま、宙ぶらりんで終わってしまっている。おかげで観終わってもすっきりした気分になれず、もの足りなさが残ってしまった。
 1作目には登場しなかったミュータントや超能力者を登場させ、SFっぽさを強調したあげくに、収まりがつかなくなってB級感が生じてしまっている点において、この 『ダーク・エンジェル』 のセカンド・シーズンは 『猿の惑星』 シリーズの2作目以降に通じるものがあると思う。話の派手さやスケール感からすると、こちらのほうが、よりジェームズ・キャメロンっぽい気はするし、なかにはおもしろいエピソードもそれなりにはあったけれど、シーズン通じての全体の出来は、ファースト・シーズンのほうがよかった気がする。
(May 18, 2008)

ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ

ガイ・リッチー監督/ニック・モラン、ジェイソン・フレミング/1998年/イギリス/DVD

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 マドンナの旦那、ガイ・リッチーの映画監督デビュー作で、いかさまカードゲームに負けて巨額の借金を背負った若者四人組がドラッグの売上金横取りをたくらんだことから巻き起こるどたばた騒動をクールに描くクライム・コメディ。
 よくできた脚本、テンポのいい演出、きめの粗いスタイリッシュな映像、いかにもUKモノらしい音楽とユーモア──これはもう三拍子も四拍子もそろった秀作だと思う(それなりにふざけた映画なので、傑作とまでは言いにくい)。見るのはこれが二度目だけれど、やはりとてもおもしろかった。ラストシーンでストーン・ローゼズの 『フールズ・ゴールド』 がかかるのもいいです。あのシーンにはテーマ的にもベストマッチだし、なによりローゼズのファンとして、ぐっとくる。
 なにげなく出演しているスティングのこわもて親父ぶりもなかなかじゃないかと。
(May 25, 2008)

ユージュアル・サスペクツ

ブライアン・シンガー監督/ケヴィン・スペイシー、ガブリエル・バーン/1995年/アメリカ/DVD

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 驚いたことにこの映画、IMDb の本日時点での人気作品ランキングで20位につけている。上下にあるのが 『ロード・オブ・ザ・リング』 の一作目と、ヒッチコックの 『サイコ』 なのだから、いかに高く評価されているか、わかろうってものだ(ちなみに1位は 『ゴッドファーザー』)。
 ただ、といいつつも僕個人はどうしてこの作品がそこまで人気があるのか、よくわからなかったりする。初めて見たときにあまりおもしろいと思わなかったのは、ケヴィン・スペイシーがアカデミー賞主演男優賞を受賞したことで、結末がなんとなく予想できてしまったせいかと思っていたけれど、今回あらためて見直してみても、やはりそれほどいい印象は受けなかった。僕はかなり理屈っぽい人間なので(本人がとくにそう思っているわけではないけれど、はたからはそう見えるだろうと思う)、この映画のクライマックスにおける「藪の中」的な大どんでん返しには、物語が収まるところにきちっと収まらない感じを受けてしまって、どうにも気持ちがよくないのだと思う。
 でも、そういう玉虫色なところゆえに、本当のことを知りたくて、僕らはこの映画は二度、三度とくり返して見なおすことになる。そうやって見る回数が増えれば、それにより愛着も沸いてくるだろうし、まだ僕にはわからないけれど、ディテールをきっちりと理解することができたら、もっともっと興奮できるのかもしれないなと──そんな風に思わないでもない。
(May 31, 2008)