2007年9月の映画

Index

  1. ザ・ソプラノズ<フィフス>
  2. ブルース・オールマイティ
  3. アバウト・ア・ボーイ
  4. アフター・アワーズ
  5. グラディエーター

ザ・ソプラノズ<フィフス>

デヴィッド・チェイス総指揮/ジェームズ・ガンドルフィーニ/2004年/アメリカ/DVD

ザ・ソプラノズ<フィフス>セット(DISC1~4) [DVD]

 地獄絵図ふうの強烈なデザインのパッケージに、「かつてない残酷な展開が待ち受ける」という宣伝文句。『ザ・ソプラノズ』 のシーズン5はいったい、どんな大変なことになっちゃているのかと心配しながら観始めてみたところ、これが意外とあっさりとした内容だった。少なくても僕が勝手に想像していたような、ファミリー内の摩擦が頂点に達して、次々と仲間うちでの殺し合いが始まったり、ニューヨークとの抗争が泥沼化して、死体が山積みになる、といったような悲惨さはなかった。ある重要キャラクターが命を落しはするものの、全体的な雰囲気としては、前の二つのシーズンよりもおとなしめな印象さえ受けた。まあ、そんな風に思うのも、単に僕がこのドラマの滑稽かつ悲惨な語り口に慣れちゃったからなのかもしれないけれど。
 このシーズンの一番の目玉は、 『ファーゴ』 の「変な顔の男」として有名なスティーヴ・ブシェミが、トニーの従兄弟の役でレギュラー出演していること。もとより個性的な俳優さんではあるけれど、このドラマのなかでも異色のキャラとして、存分に存在感を発揮している。当然のごとく、この人が今回のシーズンのキーマンだ。
 大物俳優といえば、十一話目でトニーが見ている夢のシーンには、アネット・ベニングが登場して、トニーを罵倒していたりする。彼女の役柄はなんと、メドウのフィアンセの母親──と見せかけておきながら、実はその役を演じているアネット・ベニング自身というひねった役どころ。そう言えば、このドラマには以前にも、ジャニーン・ガロファローやダイアン・アボット、ジョン・ファヴローといった渋めの俳優たちが、カメオ出演していた。こうしたゲストの豪華さは、このドラマが業界内でも高い評価を得ている証拠なのだろう。
 ささやかなところでは、前のシーズンの終盤でバカラにアプローチをかけていたジャニスが、このシーズンが始まったとたん、いきなりバカラ夫人の座に収まっていたりするのには、ちょっとびっくりした。
(Sep 11, 2007)

ブルース・オールマイティ

トム・シャドヤック監督/ジム・キャリー、ジェニファー・アニストン、モーガン・フリーマン/2003年/アメリカ/BS録画

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 ジム・キャリー演じる自己中心的なテレビ・リポーターが、ある日突然、神様(モーガン・フリーマン)から代役を命じられて、全知全能の力を授かり、その力のせいで大騒動を巻き起こしたあげくに、恋人に逃げられて反省し、博愛主義に目覚めるという話──なんとも身も蓋もない、下手な要約で恐縮。
 作品としては平均的な出来のコメディだと思うけれど、基本的に僕はこの手の映画が好きなので、十分に楽しめた。ひさしぶりに見るジム・キャリーのオーバーな演技が、お気楽な設定にマッチしていて、とてもいい。彼がくどい分、モーガン・フリーマンやジェニファー・アニストン──たまに名前を聞くなと思っていたら、テレビドラマ 『フレンズ』 でブレイクした人だそうだ──の演技が実にあっさりして見える。ほぼ全編、ジム・キャリーの独壇場という印象の作品。
 なんでもこの映画には、同じ監督── 『エース・ベンチュラ』 や 『ライアー ライアー』 でもジム・キャリーとコンビを組んでいる人とのこと──が手がけた 『エヴァン・オールマイティ』 という続編があるそうで、そこでもモーガン・フリーマンが同じ神様の役を演じているらしい。ただし主演はジム・キャリーではなく、この作品でジム・キャリーのライバル役を演じたスティーヴ・カレル。この人はつい最近、 『40歳の童貞男』 という作品でも話題になっていたけれど、この映画での役柄があまりよくないせいか、どちらにもあまり惹かれない。
(Sep 11, 2007)

アバウト・ア・ボーイ

クリス・ウェイツ、ポール・ウェイツ監督/ヒュー・グラント、ニコラス・ホルト/2002年/アメリカ/BS録画

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 音楽好きでサッカー・フリークのイギリス人作家──つまり僕にとってはかなり親近感の湧く存在であり、それゆえに近親憎悪的な思いを否定できない──、ニック・ホーンビイの 『ハイ・フィデリティ』 につぐベストセラーの映画化作品。サントラを当時のUK若手アーティストのなかでは、もっとも注目していたバッドリー・ドローン・ボーイが手がけているということもあって、僕にとっては前々からとても気になる作品だった。
 物語としては、基本的には原作のプロットを踏襲した上で、いかにも映画的なクライマックスを加えてみせたという感じ。親の遺産で遊んで暮らしている38歳の独身主義の男性ウィル(ヒュー・グラント)が、ひょんなことから、いじめられっ子の少年マーカス(ニコラス・ホルト)となかよくなるというプロットは、ほぼ原作どおり。その後、ウィルがレイチェル・ワイズ──聞いた名前だと思ったら、2年前に『ナイロビの蜂』という作品でアカデミー助演女優賞をとった人だった──演じるレイチェルのことを好きになり、マーカスにもエリーというガールフレンドができるあたりまでも、だいたい似たようなものなのだけれど、映画のクライマックスとなるシーンは思いっきりハリウッドぽくアレンジされている。
 大人こどものウィルと純真無垢ないじめられっ子のマーカスがお互いの交流を通じて、それぞれに欠けていた社会性を獲得するまでを描くという点は原作も映画も同じ。ただし、原作ではヒッピーあがりの母親の影響でジョニ・ミッチェルなどの歌が好きだったマーカスが、最後にはちゃんと自分たちの時代に即したニルヴァーナあたりの音楽を聴くようになるというのがポイントだった。その点、マーカスが『やさしく歌って』を熱唱(?)しちゃうこの映画のクライマックスは、見事に原作と正反対のものになっている。
 また、小説ではマーカスの初恋にからめて、90年代ロック史における歴史的悲劇が、効果的に物語のなかに盛り込まれていた。個人的にはそれがどう映画化されているかを楽しみにしていたのだけれど、この映画ではその部分がごっそり、はしょられている。そもそもマーカスが好きになるのは、ロックじゃなくてラップだったりするし。ロックファンとしてはちょっとばかり残念だった。
 ということで、映画自体としてはとてもおもしろいと思うのだけれど──特に原作に忠実な前半のどうしようもなさは出色で、マーカス親子が『やさしく歌って』を歌うあたりは苦笑を禁じえない──、ロックファン的視点から見ると「改悪」と呼びたくなるところがあって、その点ではやや期待はずれな作品だった。
(Sep 29, 2007)

アフター・アワーズ

マーティン・スコセッシ監督/グリフィン・ダン/1985年/アメリカ/DVD

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 この映画を観て思い出したのは、スタンリー・キューブリックの遺作 『アイズ・ワイド・シャット』 。あれの主人公をしがないサラリーマンにして、セクシャルな要素を割り引いて、コメディにしたような感じの映画だと思った。
 最近読んだばかりのカズオ・イシグロの 『充たされざる者』 と似たように、これもカフカ的な不条理感であふれかえっている。特別、意識しているわけでもないのに、なんで同じ時期にこの手の作品ばかりに接することになるんだか、われながら不思議。
 この作品は、DVD収録のメイキングで紹介されている製作の裏舞台がおもしろい。
 『ミーン・ストリート』 に出演していたエイミー・ロビンソンという女性が脚本をみそめ、主演のグリフィン・ダンに話を持ちかけて、共同で製作を手がけることになったのだそうで、二人はまずスコセッシに監督を打診するのだけれど、スコセッシは当時、『最後の誘惑』の製作中だったために断わられてしまう。それで次の候補として白羽の矢を立てたのが、まだ長編デビュー前のティム・バートンだったのだそうだ。
 結局、『最後の誘惑』の製作がいったん頓挫してしまい、この大作に並々ならぬ情熱を注いでいたスコセッシは意気消沈。気分転換になりそうだということで、こちらの映画の監督に興味を示すようになり、それを知ったティム・バートンが潔く身を引いて、いまの形とあいなったのだとか。つまり『最後の誘惑』が予定通りに撮られていれば、もしかしたらこの映画がティム・バートンの長編デビュー作になっていたかもしれないわけだ。
 ティム・バートン監督の 『アフター・アワーズ』──それはそれで、とても観てみたかった気がする。
(Sep 29, 2007)

グラディエーター

リドリー・スコット監督/ラッセル・クロウ、ホアキン・フェニックス、コニー・ニールセン/2000年/アメリカ/BS録画

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 『ベン・ハー』 にしろ 『スパルタカス』 にしろ、ローマを舞台にした映画にはなぜか興味が持てないでいるのだけれど、これは監督がリドリー・スコットだというし、友人たちもおもしろいと言うので、じゃあ観てみようという気になった。
 そうしたら最初の15分でもう目が釘付け。大規模なロケによる戦闘シーンの壮大さには、思わず目をみはってしまった。本当に山火事が起こってんじゃないのかという──地球に優しくない──、すさまじいスケールの大きさのみならず、ディテールでも、火矢が飛んできて腹にささったり、剣で頭がぶっ飛んだり。最近の特撮技術における戦闘の描写の生々しさはものすごい。完成したばかりのコロシアムをCGで再現してみせたシーンにしろ、ふつうでは観られないものを観られることが映画の醍醐味のひとつとするならば、ここにはまさしくそれがある。なにも特撮の活躍の場は、SFやファンタジーだけじゃないんだということを、あらためて教えてくれる作品だった。
 ただし妻子を殺された主人公の復讐の物語としては、ちょっとばかりカタルシスが足りない感じがした。冒頭の戦闘シーンのすごさからすると、クライマックスはやや拍子抜け。もっとエンターテイメントに徹して、テンポよく盛りあげて欲しかった。
 そもそもラッセル・クロウが最強の戦士という設定には、ちょっとばかり無理がある気がする。まあ、ラッセル・クロウを起用したというのは、格闘シーンの説得力よりもドラマとしての深みを重視したためなのだろうから、そう考えるならば、この映画に僕が感じるもの足りなさは、製作者側に、権力闘争の虚しさを表現したいという意図があったがゆえで、ある意味、予定調和的なものなのかなという気がしなくもない。
 まあ、なんだかんだいっても、基本的にはとてもよくできた、おもしろい映画だった。毛嫌いしていないで、 『ベン・ハー』 や 『スパルタカス』 も観たほうがよさそうだ。
(Sep 29, 2007)