2007年6月の映画
Index
- ドント・ルック・バック
- ベッカムに恋して
- ディパーテッド
- ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう
- イングリッシュ・ペイシェント
- ドリームガールズ
- セックスと嘘とビデオテープ
- ボーン・スプレマシー
ドント・ルック・バック
D・A・ペネベイカー監督/ボブ・ディラン/1967年/アメリカ/DVD [デラックス・エディション]
ボブ・ディランにとって最後のアコースティック・ツアーとなったという、65年のUKツアーの模様を追う伝説的なドキュメンタリー映画。今回、僕が観たのは、その公開40周年を記念して、監督のペネベイカー自らが未公開映像を編集して製作した 『ツアー65再訪』 という60分の姉妹編をセットにした限定版のDVDボックスセット。
ボブ・ディランが英単語の書かれた紙を歌詞にあわせてめくってゆく、かの有名な 『サブタレニアン・ホームシック・ブルース』 のプロモーション・ビデオは、この映画のオープニング映像だった。その部分をまるまる抜き出して使用した映画の予告編が、その後、プロモーション・ビデオの元祖として知られるようになったらしい。
DVDにはボーナス映像として、そのシーンの別テイクが二種類、収録されている。そのどちらも、歌詞にあわせて、うまく紙をめくれていないところがおかしい。シンプルなアイディアのビデオ・クリップだけれど、撮影には意外と苦労したみたいだ。
おまけの 『ツアー65再訪』 も、本編と遜色のない仕上がりとなっている。 『くよくよするなよ』 や 『イッツ・オールライト・マ』 など、本編では短めにカットされた演奏シーンが、こちらにはフル収録されているので、コアなファンの人にとっては、見ないで済ますわけにはいかない作品だろうと思う。いずれも若き日のボブ・ディランのカリスマ性に触れることができる上に、当時の音楽業界の裏舞台が覗ける、興味深い内容だった。
DVDのデラックス・エディションは豪華な箱入りのうえ、映画を再現したペイパーバックの復刻版と、 『サブタレニアン~』 の全シーンをパラパラマンガ風に収録した、百円ライターサイズのマメ本がついている。外箱が輸入品仕様のため、日本語の解説書がケースに収納されていないのがネックだけれど、その点を除けば、かなり満足度の高いコレクターズ・アイテムだと思う。
若干、問題があるなあと思ったのは字幕。このDVDでは、歌唱シーンに歌詞の対訳がちゃんと字幕で表示されることを売りのひとつとしていて、そのこと自体は高く評価するのだけれど、この作品の場合、部分的にはそれがあだになって、難儀させられた。
一番いい例が、前述した 『サブタレニアン~』 のシーン。紙に書かれた英単語の日本語訳が画面の下中央に表示され、それとは別に、歌詞の字幕も左側に縦書きで表示される。でもって困ったことに、それらの日本語訳が異なっていたりする。
たとえば、ボブ・ディランが "PAID OFF" という単語カードを持っている場面では、下にその訳語として「精算」という字幕が出ている。でもってそのバックで流れている歌にあわせ、左横には歌詞の訳として「未払いの給料もちゃんと払ってほしいんだってさ」という字幕が出ている。英単語ひとつと日本語ふたつを同時に目で追わなきゃならないことになって、聖徳太子じゃあるまいし、とてもじゃないけれど、ついてゆけない。こういうところは、もう少し気をつかって、どうにかして欲しかった。
そのほかの曲でも、歌いまわしが早すぎて、字幕についてゆけない場面があったし、歌詞の意味が大事だから、きちんと訳してみせようという意欲は買うけれど、普通に読めないんじゃ仕方ない。たまに耳にする、「映画の字幕は直訳すればいいものじゃない」という話を、なるほどなあと思わされた作品だった。
(Jun 02, 2007)
ベッカムに恋して
グリンダ・チャーダ監督/バーミンダ・ナーグラ、キーラ・ナイトレイ/2002年/イギリス、ドイツ、アメリカ/BS録画
イギリスで暮らすインド人サッカー少女の恋と青春を描く異色スポーツ・コメディ。
主人公のジェス(バーミンダ・ナーグラ)は、ベッカムに憧れるサッカー好きの少女。男ともだちに混じってサッカーボールを蹴っているうちに非凡な才能を身につけた彼女は、それをキーラ・ナイトレイ演じるジュールズに見そめられ、彼女の所属する女子サッカーチームに誘われる。ところが彼女の両親は、伝統を重んじる厳格なインド人。娘が短パン姿で素足をさらしてボールを追いかけるサッカーなんてスポーツをやることを許すはずがない。それでも当然、ジェスはサッカーがしたい。というわけで彼女は親に隠れてチームに加わり、頭角をあらわしてゆくことになる。物語はそんなジェスの家族内でのトラブルや、チームの監督ジョー(ジョナサン・リス=マイヤーズ)をめぐるジュールズとの三角関係などをコミカルに描きながら、テンポよく進んでゆく。
イギリスには植民地だったインドから移民してきたインド人のコミュニティがあるらしく、この映画ではそんなイギリス在住のインド人たちの
イギリスの最近の映画なので、音楽はUKシーンならではのダンス・ビートやカーティス・メイフィールドの "Move On Up" など、ダンス系のサウンド中心。そこにインドの現代ポップ・ミュージックみたいなものが加わり、エスニック色を添えている。
とにかく現代のイングランドを舞台に、在英インド人の風俗と女子サッカーのシーンをたっぷりと詰め込み、若干のロマンティック・コメディ色を加えて、最新のダンス・ミュージックで飾ってみせたという、なんとも不思議な味わいの作品だった。当時はまだ十七歳だったという、若き日のキーラ・ナイトレイの飾らない演技がたっぷりと見られるのもポイント。
(Jun 02, 2007)
ディパーテッド
マーティン・スコセッシ監督/レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソン/2006年/アメリカ/DVD
この映画、インターネットで見ると、一部ではあまり評判がよくない。どうやらオリジナルの香港映画 『インファナル・アフェア』 がかなりの傑作らしくて、それをしのげていない、これじゃリメイクした意味がないという意見が多いみたいだ。
でも、これは決して酷評されるべき映画じゃないと思う。マーティン・スコセッシほどのキャリアのある人のもとに、ジャック・ニコルソン、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、マーティン・シーン、マーク・ウォールバーグ、アレック・ボールドウィンという実力ある俳優たちが集まって、そうそうひどい映画ができるはずがない。豪華男優陣にくらべると知名度が低い紅一点のヴェラ・ファーミガも、派手さこそないけれど、その分、演技が自然でチャーミングだし。タランティーノを思い出させるドミノ倒しみたいな結末も、殺伐とした中に不思議な解放感があっていい。僕はこの映画、とてもおもしろいと思う。
要するにこれはリメイクであるのが問題なのであって、僕のようにそんなことを知らないで観る分には、この手のジャンルの映画として上出来の部類に入るんじゃないだろうか。リメイク権がハリウッド史上最高額で落札されたという話でもわかるように、とにかくプロットのアイディアは抜群だ。これがスコセッシに初のオスカーをもたらしたのも、アメリカ人にとっては字幕や吹替で見る香港映画より、英語で、それも慣れ親しんだ一流の俳優たちの演技で観る方が、楽しかったということだろう。
個人的には終始、逃げ腰なディカプリオの演技が思いのほか、好きだった。なにかといっちゃ、デイパックに荷物を詰めて、空港に向かっちゃうところがおかしくていい。
(Jun 12, 2007)
ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう
ウディ・アレン監督/1972年/アメリカ/DVD
性をテーマにした短編7編をあつめたウディ・アレン初期のオムニバス・コメディ。
収録作は、 『媚薬に効用ありや?』 『ソドミーとは何か?』 『達しにくい女性がいるのはなぜか』 『女装趣味はゲイか否か』 『変態とは何か』 『セックスの研究 実験による結論は正しいか否か』 『射精のメカニズム』 の7本。DVDではオリジナルの英語の題とほぼ同じタイトルに訳されているけれど、以前の字幕では、『SFボイン・パニック』 や 『ミクロの精子圏』 など、内容を踏まえて、よりつっこんだタイトルがつけられていたらしい。 『ミクロの精子圏』 という邦題はなかなかの傑作だと思う。
いやしかし、それらのタイトルを見てもわかるように、SEXのすべてについて教えると言いながら、この作品が扱っている内容はアブノーマルなものばかりだ。ヒツジとの情事に溺れて破滅しちゃう内科医(ジーン・ワイルダー)の話とか、人のいるところじゃないと興奮しない女性の話とか、娘婿の家で女装していて見つかっちゃう父親とか、マッド・サイエンティストの発明した全長数メーターの超巨大バストに襲われる話とか。とにかく見ていて困ってしまうようなエピソードのオンパレード。笑えることは笑えるのだけれど、どちらかというと苦笑を誘うタイプのユーモアが中心となっている。
そんな中、ごく普通のセックスを、まったく普通じゃない発想で描いてみせたのが、ラストの 『ミクロの精子圏』 改め 『射精のメカニズム』。
これはとびきりの傑作だった。女性をデートに誘って一発やろうと思っている男性の体内での生理現象を擬人化したもので、宇宙船のコントロール・センターみたいな頭脳室のオペレーターたちが、ご本人を射精に到らせるために、真面目な顔をして、てんやわんやの騒ぎを繰りひろげているさまが、むちゃくちゃおかしい。ウディ・アレン本人が精子の役で出ていたり、バート・レイノルズが頭脳室のいちオペレーター役で出ていたり。B級フィーリングあふれるところまで含め、本当にこれは掛け値なしの傑作だと思う。いやはや、下世話な内容ながら、最高でした。
(Jun 16, 2007)
イングリッシュ・ペイシェント
アンソニー・ミンゲラ監督/レイフ・ファインズ、クリスティン・スコット・トーマス、ジュリエット・ビノシュ、ウィレム・デフォー/1996年/アメリカ/BS録画
この映画の原作を読んだときには、よくもこんな小説を映画化する気になったものだと感心した。マイケル・オンダーチェの原作 『イギリス人の患者』 は、文体に癖のある、なかなか読みにくい小説で、ストーリー的にもとらえどころがなく、いったいこれがどういう映画になるんだか、いまいちぴんとこなかった。それが八年前の話。
今回、公開から十年以上遅れて、ようやくこの映画を観ることになったわけだけれど、そんな小説だけあって、さすがに八年もたつと、すっかりストーリーは忘れてしまっている。ただ、漠然とした印象では、映画は小説とかなり違っていた。過去に謎のある重症患者が、看護婦とともに、どこかの廃屋で生活するようになるという話だった記憶はあるけれど、はて、そのほかはこんな話だったっけ、と不思議に思った。
観終わってから、文庫本(いまや絶版)を取り出して、内容を確認してみた。するとやはり、ずいぶんと印象が違っている。原作のハナは二十歳の女の子だった。恋人になるキップも同世代の青年だし、カラヴァッジョももっと癖のある親父だった。この映画のメインとなるアルマシーの悲恋は、原作においては、そんな三人の話と平行して描かれる、四分の一のエピソードに過ぎない。僕にとっては、どちらかというと若い二人の恋愛を描いた部分のほうが印象的だった。
監督で脚本家のアンソニー・ミンゲラは、そこからアルマシーとキャサリンの物語を取り出してふくらませ、作品の中心に据えてみせた (まあ、タイトルを考えると、そうした読み方が正攻法で、僕のほうがずれているのかもしれないけれど)。その結果、この作品は壮大なスケールの正統派恋愛悲劇に姿を変え、アカデミー賞9部門に輝くという華々しい成績で、映画史に名前を残すことになったわけだ。これはもうお見事というしかない。好き嫌いは別として、とてもよくできた映画だと思う。ちょっと長すぎる嫌いはあったとしても。
ちなみに、キャサリン役を演じてアカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされたクリスティン・スコット・トーマスのデビュー作は、われらがプリンス監督・主演の 『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』です。
(Jun 16, 2007)
ドリームガールズ
ビリー・コンドン監督/ジェイミー・フォックス、ビヨンセ、ジェニファー・ハドソン/2006年/アメリカ/DVD
今年のアカデミー賞授賞式を見ていて、この映画について、意外に思ったことが二つあった。
ひとつはビヨンセとジェニファー・ハドソンのライブ・パフォーマンスで、圧倒的に後者のほうが歌が上手かったこと。ビヨンセが下手なわけじゃないのだけれど、ジェニファー・ハドソンのほうが声量がある分、続けて聴くと、はるかにインパクトがあった。歌だけとったら、どうしたってハドソンが主役に思えた。
でも、そんな彼女はこの映画で助演女優賞にノミネートされている。つまり主演はビヨンセということになる。これはどういうことなんだろうと、不思議に思った。
そうしたらば、この映画はまさにそういう二人の関係、そのままの内容の映画なのだった。三人組の女性コーラス・グループが、レコード・デビューするにあたって、歌唱力よりもルックスを優先して、リード・ボーカルを交替するというもの。ビヨンセ演じるディーナは、グループのブレイクとともに時代の寵児となり、ジェニファー・ハドソン演じるエフィは、リード・ボーカルの座を奪われたことに不満をつのらせた挙句、メンバーやスタッフから総すかんを食って、グループを追われてしまう。
この映画のオリジナルはシュープリームスをモデルとした傑作ブロードウェイ・ミュージカルだそうで、その舞台ではエフィ役を演じたジェニファー・ホリデイという人が一世を風靡したらしい。実際に Wikipedia を見ても、この女性の名前がキャスティングの一番最初にクレジットされている。つまり、舞台で中心となるのは、どちらかというとエフィなのだろう。
この映画でも、やはり主役を張るビヨンセよりも、ジェニファー・ハドソンのほうが存在感がある。ただ、ネーム・ヴァリューはどう考えたって、これがデビュー作のハドソンよりも、プラチナ・レコードを何枚も残しているビヨンセのほうが上だし、そもそもシュープリームスをモデルにしている以上、ダイアナ・ロスがモデルであるディーナが主役だとしたほうが一般的に通りがいい。なのであくまでジェニファー・ハドソンは助演ということになっていて、演出の上でも、主役としては描かれていない。
ただ、じゃあ主役はビヨンセかというと、そういう風にも見えなかった。彼女に成功をもたらすカーティス・テイラー・ジュニア──この人は名前までもろに、モータウン・レコードの創始者ベリー・ゴーディ・ジュニアにあやかっている──役のジェイミー・フォックスが主役かというと、やっぱりそういう感じではない。基本的に僕にはこの二人のカップルが、主役というほど魅力的な人物には思えなかった。
そういう風に誰が話の中心なんだかわからない曖昧な構造が、この映画の印象を少なからず、散漫なものにしてしまっている気がする。いい映画だとは思うんだけれど、おそらくオリジナルの舞台はもっとおもしろいんだろうなと思わせてるところがあって、映画として完全に成功したとは言いきれないんだろうという印象を受けた。
それでもまあ、いち洋楽ファンとしては、この映画のなかで繰りひろげられるパラレルワールド的な擬似モータウン・ヒストリーはとても興味深かった。特にエディ・マーフィとキース・ロビンソンの二人が、スモーキー・ロビンソンやマーヴィン・ゲイ、D=H=Dらのイメージをまぜこぜにして二人で適度に分担しました、みたいな役どころを演じているのがおもしろい。ジャクソン5そっくりのグループも出てくるし、あの辺の音楽が好きな人間ならば、思わずニヤリとしてしまうようなシーンが満載。60年前後の黒人音楽史を再現してみせたエンターテイメント映画という点では、同じジェイミー・フォックス主演のレイ・チャールズの伝記映画 『Ray』 とともに、音楽ファンならば、ぜひ観ておいたほうがいい映画だと思う。
アカデミー賞を見ていて意外に思ったことのもうひとつは、この映画から三曲が歌曲賞にノミネートされていたにもかかわらず、すべて受賞を逃したこと。受賞したのは メリッサ・エスリッジが歌う 『不都合な真実』 の主題歌だった。これも悪い曲じゃないとは思うけれど、僕にはこちらの三曲のほうが、どれをとっても上に思えた。
最初は、それらがブロードウェイでは30年前から歌われていた楽曲だから、いまさら最優秀賞でもないだろうという判断なのかなと思ったのだけれど、さすがにそういう曲がノミネートされるわけもなく、楽曲はどれも映画版のために新しく作曲されたもののようで、そうなるとなおさらわからない。
結局、アカデミー賞の審査員というのは、かつてスプリングスティーンの 『ストリート・オブ・フィラデルフィア』 みたいな地味な曲を選んだくらいだから、保守的な白人層が中心で、『ドリームガールズ』 の楽曲がいいとか悪いとか以前に、メリッサ・エスリッジのあの歌は、まさにそんな彼らのツボだったのかもしれない。
(Jun 27, 2007)
セックスと嘘とビデオテープ
スティーヴン・ソダーバーグ監督/アンディ・マクドウェル、ジェームズ・スペイダー/1989年/アメリカ/DVD
デビュー作でカンヌのパルム・ドールを獲得して、世間をあっと言わせたスティーヴン・ソダーバーグのデビュー作。こうして十数年ぶりに観てみると、その後の 『オーシャンズ11』 などのエンターテイメント路線の作品からは想像ができないほど、内省的な作品に仕上がっていた。
この映画、セックスをテーマにしながら、性描写自体は少ない。ピーター・ギャラガーとローラ・サン・ジャコモのベッドシーンが何度かあるけれど、描写は控えめだし、そもそも全編通して、ヌードを見せているのは男優二人だけだ──と思う、たしか。それでいて、十分すぎるほどのセクシャリティを感じさせるのは、やっぱり脚本と演出が見事だからだろう。
なんといっても見事なのはやはり、ジェームズ・スペイダーによるビデオ撮影のシーン。撮影というか、撮影している彼と女性たちとの会話のシーンというか。ただの会話だけで、あそこまで性的な緊張感を高めて見せるというのは秀逸だ。
あと、上手いのが省略の仕方。この映画では、重要なシーンやプロットをわざと省略しまくっている。グレハムの過去に何があったとか、現在の彼がどのように生計を立てているかとか。ビデオ撮影後に彼女たちはどうしたとか。ある部分はあえて語らなくても物語に影響がないからとばっかりと切り捨て、ある部分はわざと描かないことによる効果を狙って、さらりと切り捨てている。そもそも登場人物だって、必要最低限という感じで、主要な四人だけみたいなものだし。音楽だって、ほとんど使われていない。
そうやって、あちらこちらで余計な贅肉や、贅肉ばかりじゃない部分までをそぎ落とすことにより、この映画はシンプルながら絶妙の造形美を誇る逸品となった。好き嫌いは分かれるのかもしれないけれど、本当にこれはとても見事な映画だと思う。二十代なかばの青年がこんな映画を撮れちゃうなんて、ひたすら脱帽もの。
(Jun 25, 2007)
ボーン・スプレマシー
ポール・グリーングラス監督/マット・デイモン/2004年/アメリカ/DVD
『ボーン・アイデンティティー』 につづく、ジェイソン・ボーン三部作の第二弾。
物語は、謎のロシア人がCIAの工作資金を掠めとって、その罪をジェイソンになすりつけ、なおかつ、その事実を隠蔽するため、マリー(フランカ・ポテンテ)とともにインドで潜伏生活を送っていた彼のもとに刺客を送り込むというところから始まる。
主演は引き続きマット・デイモンで、前作でジェイソンの上司コンクリン役だったクリス・クーパーに代わり、 『フェイス/オフ』 でトラボルタの奥さん役をつとめたジョーン・アレンが、CIA高官として彼を追う役目を果たしている。陰の立役者ブライアン・コックスも引き続き登場して、意外な役回りを演じている。
一作目の監督ダグ・リーマンは製作にまわり、『ユナイテッド93』 のポール・グリーングラスがあとを引き継いだ。監督が代わったので、若干雰囲気は変わっているけれど、基本的な部分は前作をしっかりと踏襲していて、違和感がない。ジェイソンの超人ぶりは健在だし、カーチェイス・シーンもすごい。
いやほんと、この映画のカーチェイスはかなりなものだと思う。やたらと衝突シーンが多くて、迫力満点。見ているだけで、観客のこちらも十回くらいムチ打ちになりそうだ。
(Jun 26, 2007)