2007年5月の映画
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ザ・ソプラノズ<サード>
デビッド・チェース製作総指揮/ジェームズ・ガンドルフィーニ/2001年/アメリカ/DVD
このサード・シーズンも、シーズンを通じて描かれる中心的なエピソードはふたつ。ひとつは昔からのファミリーの一員という設定で新登場したラルフィ(ジョー・パントリアーノ)が組織のなかでのし上がってゆく過程を描くもので、もうひとつは大学生となったトニーの娘メドウの恋愛話。
メドウの二番目のボーイフレンドとなるのが、トニーの前にファミリーのボスだったジャッキーの息子、ジャッキー・ジュニア(ジェイソン・セルボーン)で、ハンサムだけれど頭の出来はいまひとつというこの青年が、母親(つまりジャッキー・シニア未亡人)の現在の恋人であるラルフィともども、あれこれと事件を起こすことになる。ラルフィの台頭にともない、それまでは磐石だったトニーとポーリー(トニー・シリコ)やクリスのあいだで不協和音が響き始める。
そのほかにも、トニーに新しい愛人ができたり、高校生になった息子のアンソニー(ロバート・アイラー)が思春期らしいトラブルを起こしたり、妻のカメーラが離婚を考え始めたり。トニーのまわりは問題だらけで、なかなか目が離せない感じになってきた。これまでで一番、つづきが気になる。
不幸な話としては、前のシーズン終了後に、トニーの母親リディアを演じていたナンシー・マーチャンドが亡くなってしまったそうで、今回は二話目が彼女のお葬式のエピソードとなっている。その回には彼女の登場シーンもあるけれど、これはおそらく生前に撮影した未公開シーンを流用したものじゃないかと思う。ファースト・シーズンでの存在感が強烈だっただけに、この女性のリタイアはとても残念だ。享年72歳とのこと(失礼ながら見た目の印象よりも若かった)。ご冥福を。
そのお葬式のエピソードなどもそうだけれど、今シーズンはこれまでにくらべて、一話一話、きっちりと起承転結のある話が多いような気がした。たとえばFBIがトニーの屋敷に盗聴器を仕掛ける一話目の『盗聴』や、メルフィ先生がとんでもない目にあう『衝動』、ポーリーとクリスが雪山で遭難しかける『逃亡』など。いちおう、その前後につながりを持ちながらも、話としてはその回だけでも単独で楽しめる内容になっている。
あと、今回は小道具の使い方がよかった。具体的には、FBIがトニー宅に仕掛けた盗聴器入りのライトスタンドと、巷で流行っている歌うサカナの
ゲスト俳優でおやっと思ったのは、トニーの新しい愛人グロリア役のアナベラ・シオラ。顔にはやたらと見覚えがあるのに、どこで見たのか、ぜんぜん思い出せない。調べてみたら、なんと『ジャングル・フィーバー』の主演の人じゃないですか。大好きな映画なのに、十歳ばかり年をとっているせいか、まるで気がつかなかった。
そのほかの俳優陣で有名どころといえば、ラルフィ役のジョー・パントリアーノ。この人は『マトリックス』でサイファーを演じていた人だった。しゃべりかたが独特だから、言われてみて、ああ、なるほどという感じだった。
あと、一話目にはFBI捜査官役で『24』のエドガーこと、ルイス・ロンバルディがゲスト出演している。この人はセカンド・シーズンにも何度か出ていたらしい。
(May 13, 2007)
フェイス/オフ
ジョン・ウー監督/ジョン・トラボルタ、ニコラス・ケイジ/1997年/アメリカ/BS録画
僕は病院が苦手で、注射のシーンは見るのも嫌、生々しい手術のシーンなどはもってのほかという意気地のない男なので、主人公二人が顔の皮を剥いで交換するというこの映画のアイディアは、それだけでもう駄目。ぜんぜん駄目。そのシーンを見せられたときには、思わず目をそむけてしまって、いっそ、そのまま続きを見るのをやめようかと思ったくらいだった。
ただ、そのシーンこそ勘弁してくれって感じだったけれど、映画の出来自体は素晴らしい。いやあ、ほんと、みせる、みせる。生真面目なFBI捜査官と、陽気な残虐テロリストが入れ替わるという脚本はとてもよく書けているし──ややご都合主義が過ぎるかなと思う部分がなくはないけれど──、スローモーションを多用した、けれんみあふれる演出も、そんな物語の雰囲気によくあっている。主演の二人のキャスティングも絶妙だし、アクションもかなりすごい。特にモーターボートのシーンは圧巻だった。
いや、本当にこれはおもしろかった。もしもあの顔剥ぎのシーンがなければ、何度でも繰りかえし観たいと思ったかもしれない。というかすでに、あのシーンを思い出して気持ち悪さに鳥肌を立たせつつも、やっぱりもう一度くらい観なおそうかなと思っている僕がいたりする。ほんと、極上のアクション・スリラーだった。
(May 13, 2007)
ブラック・ダリア
ブライアン・デ・パルマ監督/ジョシュ・ハートネット、アーロン・エッカート、スカーレット・ヨハンソン/2006年/アメリカ/DVD
この映画、ボクサー上がりの刑事二人のなれそめから語り始めるオープニングからして、かなり原作に忠実な内容になっている。真相があきらかになる部分では、映画的なけれんみのある演出がなされていたりはするものの、基本的なあらすじは原作とほぼ同じだと思う(読んだのが8年も前だから、かなり記憶があやしい)。
実際に起こった未解決の猟奇殺人事件が題材ということで、予告編などを見ても、その部分ばかりがクローズアップされてしまっているけれど、ジェイムズ・エルロイの原作はどちらかというと、その事件にとり憑かれてしまったふたりの刑事と、彼らと深いかかわりを持つひとりの女性との微妙な三角関係を描くのが主体で、その点はこの映画版も同じ。ただ、かなりボリュームのある原作を忠実に再現してみせた分、描写が説明的になって、やや奥行きがたりなくなってしまったかなというところがある。
特にアーロン・エッカート演じるリー・ブランチャードの存在感がいまいち。彼がブラック・ダリア事件にのめり込む姿は、もっと鬼気迫るものとして描いて欲しかった。原作のポイントは、才能ある主人公の男性二人が、それぞれ生活が破綻するほどブラック・ダリアに執着してしまう部分にあると思うのだけれど、この映画からはそうしたエルロイならではの偏執的な傾倒の仕方が感じられない。その点はやや残念だった。
でもまあ、決して読みやすいとは言えないエルロイの原作にくらべると、この映画版は圧倒的に物語がわかりやすくていい。あれ、『ブラック・ダリア』って、こんなにわかりやすい話だったっけと思ってしまった。この映画を観てから原作を読むといいかもしれない。ストーリーがわかっている分、小説家としてのエルロイのすごみを堪能できそうな気がする。
あとは、スカーレット・ヨハンソン、ヒラリー・スワンク、ミア・カーシュナー──『24』で美人テロリストを演じていた人──といった美女たちがそろいもそろって汚れ役に挑んでいる点や、終盤に登場する大富豪一家の奇妙にゆがんだ家族像などが印象に残った。
ちなみに『ブラック・ダリア』は暗黒のLA四部作と呼ばれる小説群のうちの第一作目で、その三作目にあたる『LAコンフィデンシャル』とは一部のキャラクターが重複している。とはいっても重複するのは端役ばかりで、主要キャラクターはまったく別だし、その他の配役や作品の雰囲気もかなり違うので、この二本はまったく連作という感じがしない。あちらとくらべると、こちらは生真面目すぎて、ややユーモアがたりないかなという気がする。でも作品の性格の違いを考えると、それも致し方ないかなとも思う。
(May 26, 2007)
フォーン・ブース
ジョエル・シューマカー監督/コリン・ファレル、フォレスト・ウィテカー/2002年/アメリカ/DVD
コリン・ファレル演じるショービズ界のやり手プロデューサーが、いつも同じ電話ボックスから浮気相手の女の子── 『バットマン・ビギンズ』 のケイティ・ホームズ──に電話をかけるのを習慣にしていたところ、ある日、その電話ボックスに謎の狙撃犯から電話がかかってきて、浮気していることを奥さんに告白しないと殺すぞと脅迫され、電話ボックスに閉じ込められたまま、大変な目にあうという話。
この映画、いまどき珍しく81分しかない。主人公はそのうちのほとんどの時間、電話ボックスのなかに閉じ込められている。犯人も電話を通して聞こえてくる声だけの存在。物語はほぼ全編、この二人が電話で交わす会話だけを中心に展開してゆく。このアイディアのシンプルさは素晴らしいと思う。まあ設定にやや強引なところはあるし、決着のつけかたにはあまり感心しなかったけれど、それでも不用意に長い映画が多い昨今、秀逸なワン・アイディアを無理に引き伸ばすことなく、コンパクトにまとめてみせた点には拍手を送りたい。ちなみに監督のジョエル・シューマカーは、個人的に大好きであるにもかかわらず、世間的にはいまひとつ評判が悪い『バットマン・フォーエヴァー』を撮った人だった。
あと、この映画で注目すべきなのが、ほぼ全編、声だけの出演という犯人役の俳優さん。観ているときにはまったく気がつかなかったけれど、それというのが実はここ数年大人気で、僕らにとってもおなじみの、あの人だった。見なおしてみれば、ああ、この声はまさしくって感じ。気がつかないたあ、不覚だった。
(May 26, 2007)
28日後...
ダニー・ボイル監督/キリアン・マーフィ、ナオミ・ハリス/2002年/イギリス/DVD
『トレインスポッティング』のダニー・ボイル監督が放つ、衝撃のサバイバル・ホラー──そんなキャッチコピーと、雰囲気満点の赤いポスターのデザインに惹かれて観てみることにした作品。一適の血から感染して人間を凶暴化させてしまうウィルスが蔓延、ほとんどの国民が国外脱出して無人化したイングランドで、主人公のキリアン・マーフィら、取り残された少数の人々が、生き延びるために死闘を繰りひろげる姿を描いてゆく。
普段、あまりホラー映画は観たいと思わないのだけれど、これは 『トレインスポッティング』 を撮った人の作品だし、今年は続編の『28週間後...』(邦題未定、監督は別)が公開されるとのことなので、さぞや出来がいいんだろう、もしかしたら気にいるんじゃないかと思って観てみたのだけれど……。残念ながら、いまひとつぴんときませんでした。
(May 26, 2007)