2006年3月の映画

Index

  1. サボタージュ
  2. ギター弾きの恋
  3. スコルピオンの恋まじない
  4. コンタクト
  5. シェフと素顔と、おいしい時間
  6. 夜の大捜査線
  7. フレンチ・コネクション
  8. ハリウッド・ミューズ
  9. スリーパーズ
  10. X-ファイル ザ・ムービー
  11. さらば冬のかもめ

サボタージュ

アルフレッド・ヒッチコック監督/シルヴィア・シドニー、ジョン・ローダー/1936年/イギリス/BS録画

サボタージュ [DVD]

 主人公シルヴィア・シドニーは幼い弟とともにイギリスに渡ってきたアメリカ人女性。年の離れた映画館経営者(オスカー・ホモルカ)と結婚しているけれど、夫が金で雇われてテロ行為を働いていることを知らない。彼女に好意を寄せる向かいの果物屋の店員(ジョン・ローダー)は、彼女の夫を見張るために身分を偽っている刑事だった。そのことを知って身動きが取れなくなった夫は、自らの使命を果たすため、彼女の弟を騙して爆弾を運ばせる……。
 後半のストーリー展開がどんでん返しの連続。それもヒッチコックらしい、かなりシニカルなものだ。「マジですか?」と問いかけたくなるような展開が続いてびっくりさせられた。ある意味とても現代的な話だと思う。いやはや、一時間半に満たないこんな小品でも、しっかりその持ち味を見せつけるヒッチコックには脱帽だ。
 主演のシルヴィア・シルバーという女性は、どうやら晩年に『マーズ・アタック!』で火星人の撃退法を人類に知らしめるお婆さん役を演じることになるらしい。この映画の茫然自失とした姿からはちょっと想像しにくいけれど。
(Mar 05, 2006)

ギター弾きの恋

ウディ・アレン監督/ショーン・ペン、サマンサ・モートン、ユマ・サーマン/1999年/アメリカ/BS録画

ギター弾きの恋 [DVD]

 ウディ・アレンのこの映画にはやられた。事前情報なしをモットーとする僕は、ドキュメンタリー・タッチの演出に騙されて、観ている間中ずっと、エメット・レイというギタリストは実存の人物だと思っていた。映画を見終わって、インターネットを検索してみて初めて、そんなギタリストは実存しないことがわかった。CDなんてまるで売ってないじゃん……。やれやれ。ウディ・アレンはやはり曲者だ。それとも僕が馬鹿なだけ? 両方とも正解、というところだろうか。ああ、やれやれ。
 でもまあ、そんな風に騙されはしたものの、僕はこの映画が結構気に入っている。ショーン・ペン演じる天才ジャズ・ギタリストの胡散臭いキャラクターはいい味を出しているし、ラスト・シーンで彼が思い切り悲しむシーンもじーんとくる。口のきけないヒロイン、ハッティを演じたサマンサ・モートンもとても魅力的だ。ユマ・サーマンも『キル・ビル』なんかのカジュアルな装いとは雰囲気を一変したゴージャズな美女役が実に板についている。この映画を観て、彼女の人気の理由が初めてわかった気がした。
 なにはともあれ、作品としてもチャーミングなだけではなく、もっとちゃんとギターの練習をしておくんだったと思わされる映画だった。俺もいずれはあんなギターを弾けるようになりたい。
(Mar 09, 2006)

スコルピオンの恋まじない

ウディ・アレン監督/ウディ・アレン、ヘレン・ハント/2001年/アメリカ/BS録画

スコルピオンの恋まじない [DVD]

 ウディ・アレン自らが演じる主人公C・W・ブリッグスは保険会社で働く叩き上げの保険調査員。悪い催眠術師に後催眠をかけられて、自分では知らないうちに宝石泥棒を働く羽目になった彼が、犬猿の仲である女性社員(ヘレン・ハント)と巻き起こす騒動を描いた、クライム・ムービー仕立てのロマンティック・コメディがこの作品だ。
 最近見たウディ・アレンの作品はどれもここ10年ばかりの間に撮られた作品だけれど、昔の作品に比べると、ストーリーがはっきりしていて、とてもわかり易い。若い頃よりもシニカルさが抜けて、作風がマイルドになった印象がある。その辺をどう思うかで評価がわかれる気もするけれど、僕は年をとってからのウディ・アレンの作品の方がどちらかというと好きだ。根がB流好みなのかもしれない。
 この映画で犯罪絡みのシーンのBGMとしてかかる、エスニックなギター・カッティングをバックにして滑稽味のあるホーンが主旋律を奏でるジャズ・ナンバーがとても気に入った。で、サントラが欲しくなって検索してみたのだけれど、でもどうやらサントラはないらしい。安く買えるようになったらDVDを買おうかな、なんて思ったり……。
 ヘレン・ハントと不倫をしている保険会社の社長役を演じているのはダン・エイクロイド。この人はやたらと太っていて驚いた。あとシャーリーズ・セロンが、ウディ・アレンを誘惑するファム・ファタールな美女役で出演している。とても綺麗な人だから、こういう役をやると、とても映える。脇役にしておくのがもったいない色っぽさだった。
(Mar 10, 2006)

コンタクト

ロバート・ゼメキス監督/ジョディー・フォスター/1997年/アメリカ/BS録画

コンタクト [Blu-ray]

 子供の頃からアマチュア無線で見知らぬ人々と接することに喜びを見出していた天才少女が、長じて電波天文学者となり、人類で初めて地球外知的生命体とコンタクトをとる役を務めることになるという話。
 ファースト・コンタクトに到るまでの紆余曲折の描き方はなかなか素晴らしい。純粋な情熱の持ち主である一人の女性科学者が、政治や宗教や同業者の私利私欲に妨害されながらも、ついに長年の夢──彼女のみならず、人類全体の夢?──を果たすという展開にはとても見ごたえがあった。
 ただ、クライマックスであるはずのファースト・コンタクトの描き方には拍子抜け。作る側の姿勢として、突拍子のないエイリアンを登場させてしまっては、それまでのドラマで打ち出してきたメッセージ性を裏切るという思いがあったのかもしれないけれど、それにしてもあまりに地味すぎる印象を受けた。おかげで盛り上がりはいまひとつだ。
 なにはともあれ、ひさしぶりに見るジョディー・フォスターはとても綺麗な人だった。世俗の穢れを知らなさそうな凛とした雰囲気が役柄によくマッチしている。そういう意味ではマシュー・マコノヒー演じる神父──どうにも聖職者には見えない──との一夜の関係という伏線は、彼女の性格をぼやかしてしまうようで余計だと思った。
(Mar 13, 2006)

シェフと素顔と、おいしい時間

ダニエル・トンプソン監督/ジャン・レノ、ジュリエット・ビノシュ/2002年/フランス/BS録画

シェフと素顔と、おいしい時間 [DVD]

 ジャン・レノはシェフあがりの冷凍食品会社経営者。ジュリエット・ビノシュは男から逃げ出してアカプルコへ行こうとしているエステシャン。見知らぬこの二人が、ゼネスト中のパリの空港で出会って、出航を待つ一晩のあいだに恋に落ちる、という話。
 ヒロインのローズは公衆電話が混んでいるからと、知りもしない人に携帯電話を貸してくれと頼んだりする。男は男で、空港のベンチで仮眠を取ろうとしている女に哀れを感じたから、同じホテルに泊まるよう彼女を誘ったんだろうに、部屋で食事を始めてから、とつぜん彼女のことをなじり出したりする。なんなのこの人たちはという感じで、僕には二人の言動が不自然きわまりなく思えてしかたなかった。おかげでどちらにも共感できないし、魅力的にも見えない。ほとんど男女二人しか出てこない恋愛映画で、その二人が魅力的に思えないんだから致命的だ。残念ながら、お世辞にもいい出来とは言えないと思う。
 これとか、『オータム・イン・ニューヨーク』とかを観ると、現代においてはいい恋愛映画を作るのも意外と難しいんだなと思う。
(Mar 13, 2006)

夜の大捜査線

ノーマン・ジュイソン監督/シドニー・ポワチエ、ロッド・スタイガー/1967年/アメリカ/BS録画

夜の大捜査線 [Blu-ray]

 平和なアメリカ南部の田舎町で殺人事件が発生、見知らぬ一人の黒人が容疑者として逮捕される。ところが実は彼は、乗り継ぎの列車を待っていたフィラデルフィア警察殺人課の敏腕刑事だった。黒人に対する差別意識の根強い南部の田舎町を舞台に、切れ者の黒人刑事、バージル・ティッブスの活躍を描く傑作ミステリ・ドラマ。
 警察署長ギレスピーを演じるロッド・スタイガーの主演男優賞を始め、アカデミー賞5部門受賞も納得の出来だった。なんだか地味そうな映画だから、見るまではやや敬遠気味だったのだけれど、さすがに映画史上に名前を残すだけの作品だ。あなどれない。
 音楽がクインシー・ジョーンズ、主題歌がレイ・チャールズというのも音楽ファンとしては見逃せないポイントだ。
(Mar 14, 2006)

フレンチ・コネクション

ウィリアム・フリードキン監督/ジーン・ハックマン、ロイ・シャイダー/1971年/アメリカ/BS録画

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 『夜の大捜査線』と同じくアカデミー賞5部門に輝く刑事ドラマ。フランスから持ち込まれた大量のドラッグが売買されるいう噂を聞きつけた刑事、ポパイことジミー・ドイルが、病的な執念で犯人を追ってゆく。
 最初のうちは話が見えなくて退屈だったのだけれど、フェルナンド・レイ演じるフランス人シャルニエを、ジーン・ハックマンが仲間と連係して尾行し始めたあたりから、がぜんおもしろくなった。その後は唐突な狙撃シーンや有名なカーチェイス、こっけいな車解体のエピソードなど、退屈どころではない。これまたアカデミー賞も納得の作品だった。あまり気分がすっきりとするタイプのおもしろさではないけれど。
 ジーン・ハックマンの相棒役で『オール・ザット・ジャズ』のロイ・シャイダーが出演。全然知らなかったけれど、この人は『ジョーズ』でも主演を務めている。
 あと、監督のウィリアム・フリードキンがこの作品の次に撮ったのが『エクソシスト』なのだそうで。困ってしまうような傑作映画を作る人らしい。
(Mar 15, 2006)

ハリウッド・ミューズ

アルバート・ブルックス監督/アルバート・ブルックス、シャロン・ストーン、アンディ・マクダウェル/2000年/アメリカ/BS録画

ハリウッド・ミューズ [DVD]

 落ち目の脚本家スティーヴン・フィリップス(アルバート・ブルックス)が、ジェフ・ブリッジス演じる親友から、幸運を呼ぶ女神だといってサラ(シャロン・ストーン)を紹介されて、さんざん振りまわされる、という話。
 現代に甦った女神のもとに、アイディアにつまったロブ・ライナー、ジェームズ・キャメロン、マーティン・スコセッシといった大御所たち本人が足を運んでくるという設定はとても楽しいのだけれども。残念ながらこの映画のシャロン・ストーンには、偉大な女神という役柄に説得力をもたせるだけの神秘性が感じられない。彼女が単にティファニー好きのわがまま女にしか見えないのが、この映画の一番の欠点だと思う。
 ちなみに主人公の奥さん(アンディ・マクドウェル)がクッキー屋を開いて大成功するという展開は同時期に作られた『おいしい生活』と同じ。この頃のアメリカにはクッキーで一旗あげたいと夢見ている主婦がよほど多かったんだろうか。
(Mar 19, 2006)

スリーパーズ

バリー・レビンソン監督/ジェイソン・パトリック、ブラッド・ピット/1996年/アメリカ/BS録画

スリーパーズ [Blu-ray]

 ちょっとしたいたずらから傷害事件を起こして少年院に入ることになった仲良し四人組が、そこで看守たちに性的虐待を与えられて心に深い傷を負い、大人になってからそれぞれのやりかたで復讐を果たすという話。原作はロレンツォ・カルカテラという人による「実話」なのだそうだけれど、エンド・クレジットには「ニューヨーク当局はこの映画で描かれたような事実はなかったとコメントしている」等という但し書きがつけられている。
 この映画、せこい権力を笠に着て子供たちをおもちゃにした卑劣な野郎たちが制裁を受けるのだから、もっと痛快な思いができそうなものなのだけれど、残念ながらそうはならない。とにかく虐待を受けた子供たちが哀れで、あんな目にあわされたら、たとえ相手がなんらかの形で裁かれたところで、きちんと救済されることはないだろうと思えてしまう。扱うテーマが重過ぎて、最後までやりきれなさを払拭できない。幼児虐待というテーマが映画というエンターテイメントで扱うには向かないのだと思う。なかでももっとも憎らしい敵役であるケヴィン・ベーコン──すごい汚れ役を演じている──が、あまり苦しむこともなしに、最初にやられてしまったのにも拍子抜けさせられた。まあこれは原作がそういう話なのだから仕方ないという部分があったのかもしれないけれど。
 四人組の中で一番の切れ者であり、検事となって法を遵守しながら復讐を果たすための綿密なる計画を立てるマイケル役を演じるのはブラッド・ピット。マイケルの少年時代を演じたブラッド・レンフローという子とはいまひとつ印象が異なって、やや違和感がある。四人組のうち、一番目立たない役柄のトミーを演じているのが『ビッグ・フィッシュ』や『あの頃ペニー・レインと』のビリー・クラダップだった。
 彼らに加えてロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンという超大物俳優が脇を固めている。こうした超がつくほど豪華な男優陣のキャスティングと比べてしまうと、女性としては唯一の主要キャラクター、キャロル役がミニー・ドライヴァーというのは、残念ながらかなり見劣りがする。あまりに男優陣のギャラが高過ぎて、脇役の女性にまで金が回らなかったんじゃないだろうか、などと余計な推測をしたくなる映画だった。
(Mar 20, 2006)

Xファイル ザ・ムービー

ロブ・ボウマン監督/デイヴィッド・ドゥカヴニー、ジリアン・アンダーソン/1998年/DVD

x-ファイル ザ・ムービー 劇場版 スペシャル・エディション [DVD]

 シーズン5と6の間に公開された劇場版。
 この映画は古代の氷原の洞窟で、原始人と凶暴なエイリアンが死闘をくりひろげるという、思いがけないシーンから始まる。
 その後、物語は一気に現代に飛び、原始人とエイリアンが戦っていたのと同じ洞窟で、一人の少年がブラック・オイルに感染。さらに場面は変わって、テロリストの爆破予告を受けたビルディングへ。そこでFBIの調査班のメンバーとして、ようやくモルダーとスカリーが登場する。
 結局テロは防げず、映画版ならではの派手な爆破シーンがあったあとで、実はその爆破がブラック・オイルに感染して死亡した少年たちの死体を隠蔽しようとする政府の工作であったことが判明する。濡れ衣を着せられたモルダーたちは、暴走気味に事件の真相を追ってアメリカ中を飛び回り、ついには北極の地下で大変なものを発見して、大変な目にあうことになるのだった。
 劇場版だからというので、はりきり過ぎてしまった感がある。『Xファイル』は普段から4話入りのDVD、3時間分を一気に見てしまうことがままあるけれど、この約2時間ちょうどの映画には、その3時間よりも余計に疲れさせられた。そんなのありかよという突込みどころも満載だし(最後にどうやって北極から帰ってきたのやら……)、派手なシーンが多くて見応えがある分、キャラクターの魅力に欠ける印象の強い作品だった。
(Mar 24, 2006)

さらば冬のかもめ

ハル・アシュビー監督/ジャック・ニコルソン、オーティス・ヤング、ランディ・クエイド/1973年/アメリカ/BS録画

さらば冬のかもめ [DVD]

 海兵バッドアス(ジャック・ニコルソン)とミュール(オーティス・ヤング)の二人は、わずか40ドルを盗もうとして捕まり、8年の禁固刑を言い渡された青年兵メドウズ(ランディ・クエイド)を刑務所まで護送する任務を命ぜられる。わずか2日で済むその旅路にご祝儀的に1週間の猶予をもらった二人は、十代の終わりから二十代のなかばまでを刑務所で過ごすことになるこの若者に同情して、先輩としてできる限りのことをしてやろうとする。酒を教え、女を教え……。
 あまりおもしろそうじゃないなと思いつつも、アメリカン・ニュー・シネマの秀作だというので見てみることにした作品。ただ集中力を欠いていたので、結局どうのこうの言えない。エンディングに漂う脱力感が、アメリカン・ニュー・シネマたる所以{ゆえん}だろう。とりあえず悪くはなかった。
 ちなみにこの映画の監督は、のちにストーンズの『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』を撮ることになる人だったりする。
(Mar 28, 2006)