2005年11月の映画
Index
- カジノ・ロワイヤル
- ミリオンダラー・ベイビー
- ロード・トゥ・メンフィス
- 或る殺人
- ケイン号の叛乱
- デビルズ・ファイヤー
- ゴッドファーザー&サン
- ダイヤルMを廻せ!
- アマデウス
- 舞台恐怖症
- シザーハンズ
カジノ・ロワイヤル
ジョン・ヒューストン、ケン・ヒューズ、ロバート・パトリッシュ、ジョセフ・マクグラス、ヴァル・ゲスト監督/デイビッド・ニーブン、ピーター・セラーズ、ウディ・アレン/1967年/イギリス/DVD
未読とはいえ、イアン・フレミングの原作がなにゆえこんな映画になっちゃうんだろうと。そのすっとぼけかたに感心してしまうほどふざけた007シリーズのパロディ。
いや、おそらくこれをパロディと呼ぶのは間違っている。だって原作はイアン・フレミングだし、主人公はジェームズ・ボンドだし。単に味付けがそれまでのシリーズとはあまりに違いすぎるというだけだ。でもこの違いは、シリーズのファンにとっては許しがたいのではないかとも思う。それくらいふざけまくっている。ここまでやられると痛快ですらある。
なぜ監督が五人もいるのかとか、どうしてこんなにくだらない映画に、これほどまで豪華な俳優陣が出演しているのかとか──オーソン・ウェルズやジャン=ポール・ベルモンドもちょい役で出演している──、なかなか不思議なことが多い映画だった。バカラックの音楽にサイケデリックなポップ・アート調のビジュアル、そして出し惜しみしてよと言いたくなるほどたくさんの美しいボンド・ガールたち。『オースティン・パワーズ』の原点は間違いなくここにある。
(Nov 12, 2005)
ミリオンダラー・ベイビー
クリント・イーストウッド監督/ヒラリー・スワンク、クリント・イーストウッド、モーガン・フリーマン/2004年/アメリカ/DVD
クリント・イーストウッドの映画には独特のクールさがある。抑制が効いているというのか、冷めているというのか。必要以上に熱くなりきらない感じがする。アカデミー賞を受賞したこの作品からも、僕は感動で涙がとまらない、なんて感動はまったく受けなかった。悲惨な状況が淡々と描かれてゆき、厳しい人生かもしれないけれど、これもまた現実だ、と言われている気がする。
物語的にはそれほど好きなタイプの話じゃないので、あまり入れ込めなかったのだけれど、それでもとりあえず、そうしたイーストウッドの演出と、『ミスティック・リバー』と同じカメラマン、トーマス・スターンの陰影のあるパキパキした映像には好感が持てた。
(Nov 12, 2005)
ロード・トゥ・メンフィス
リチャード・ピアース監督/2003年/アメリカ/DVD
いまはすっかり様変わりしてしまったメンフィスのビール・ストリート(Beale Street)。ここは昔々、多くのブルース・マンたちがしのぎを削った一大黒人歓楽街だった。この街でかつて活躍したミュージシャンたち、B・B・キング、ボビー・ラッシュ、ロスコー・ゴードン、アイク・ターナーらを中心にして、ブルースの今と昔を浮かび上がらせてみせたドキュメンタリー。
この映画では若い頃のB・B・キングの写真や映像がたくさん見られる。年をとってまんまるに太った彼しか知らなかったので、この人が若い頃は痩せていたというのは、ちょっとした驚きだった。生まれた時からあんな体形だったような気になっていた。
『アラジン』に出てくる悪役みたいなルックスのアイク・ターナーの胡散臭さも印象的だ。この人の場合、どれほどのミュージシャンなのかはいざ知らず、どうにもティナ・ターナーとの関係で、やたらと損をしている印象がある。
(Nov 12, 2005)
或る殺人
オットー・プレミンジャー監督/ジェームズ・スチュワート/1959年/アメリカ/DVD
妻をレイプされた軍人が、犯人のバー店主を射殺した。殺人の事実は明白だし、レイプされた奥さんは、旦那が牢屋に入っているのにほかの男と遊び歩いてしまうような尻軽なタイプで、陪審員への印象はよろしくない。そんな不利な状況の中、ジェームズ・スチュワート演じる主人公の弁護士が、いかに裁判を戦ってみせるかを描く傑作法定劇。
弁護士ビーグラーが弁護を依頼されてから、裁判が始まるまでは比較的ゆっくりとした展開。で、いざ裁判が始まってからは、ただひたすら法廷の場面ばかりが続く。裁かれる殺人も扇情的ないまどきの映画に慣れた感覚からすると平凡きわまりない。そんな地味な内容ながら、この映画は2時間半以上の長さをまったく感じさせない。それだけ出来が良い証拠だろう。弁護士と検察側の丁々発止のやりとりがおもしろくてたまらない。法廷劇好きには見逃すことのできない、掘り出しものの傑作だった。
(Nov 12, 2005)
ケイン号の叛乱
エドワード・ドミトリク監督/ハンフリー・ボガート/1954年/アメリカ/DVD
新任の艦長(ハンフリー・ボガート)が情緒不安定な危ない人で、危急の際に精神錯乱を起こしてしまったことから、致し方なく指揮権を奪って艦を救った副艦長らが、軍規違反で裁判にかけられることになるという話。
『或る殺人』とのカップリング(ニ枚買うと安くなるというやつ)で、これも法廷劇だと思って買ったのだけれど、裁判の場面はこじんまりとした軍法会議で、あまり盛りあがらなかった。
なにはともあれ、ボガートという人は、『カサブランカ』や『マルタの鷹』のような伊達男だけではなく、『黄金』やこの『ケイン号の叛乱』のように、人好きのしない役を見事に演じ切っているところが素晴らしい。彼の演じる艦長のちょっと哀れを誘う駄目男ぶりが、この映画の苦味のあるあと味を際立たせている。
(Nov 12, 2005)
デビルズ・ファイヤー
チャールズ・バーネット監督/2003年/アメリカ/DVD
『ザ・ブルース』のシリーズ唯一のフィクションだという触れ込みながら、これがもしかしたら一番多くのブルース・マン&ウーマンの姿が見られる作品だったような印象がある。ある男性がブルース・マニアの叔父とふたりで過ごした十一歳の夏の思い出を回想しているという内容で、叔父さんが愛したブルース・アーティストたちの映像がこれでもかと織り込まれている。
それとフィクションだけあって、物語の部分の映像がなかなか綺麗なのが嬉しい。このシリーズはドキュメンタリーゆえ全体的に、あまり絵の美しさを楽しむようなところがない。その中にあってこの作品は、鮮明な色使いのフィクションの部分とドキュメンタリーの白黒映像とのつなぎ方に凝っていたりして、映像作品としての作りに繊細さが感じられた点でとても好感が持てた。
(Nov 12, 2005)
ゴッドファーザー&サン
マーク・レヴィン監督/2003年/アメリカ/DVD
パブリック・エナミーのチャックDは、マディ・ウォーターズの『Electric Mud』を聴いて感銘を受け、初めてブルースに興味を持ったのだそうだ。ところがそのアルバムは一般的に非常に評判が悪かった。自分を感動させた作品の悪評に納得がいかなかったチャックDは、当事者の意見を知りたくて、そのアルバムのプロデューサーであり、チェス・レコードの創始者の息子であるマーシャル・チェスにEメールを送る。
これがきっかけとなり、ふたりの間に交流が生まれ、やがてそれはラップとブルースを融合させたレコードを作ってみようという企画へと到ることになる。この映画は、そのレコーディングの模様を交えながら、ブルースからラップへとつながってゆくブラック・ミュージックの歴史を駆け足でたどってみせたドキュメンタリー。『ザ・ブルース』シリーズのわが家における最後の一本だ。
映画の中で紹介されているシスティーナ礼拝堂の壁画を模したジャケットのアルバム・タイトルが『Fathers and Sons』で、この映画のタイトルはそれを踏まえたもののようだ。なんにしろロック・ファンならば、これを見て『Electric Mud』が聴いてみたくなるのは必至だと思う。かくいう僕はまだ聴いていませんが……。まあいずれ。
(Nov 12, 2005)
ダイヤルMを廻せ!
アルフレッド・ヒッチコック監督/レイ・ミランド、グレイス・ケリー/1954年/アメリカ/DVD
まず先に犯行を描いてから、それが暴かれてゆく過程を描いてゆくという、乱歩先生いうところの倒叙形式ミステリの秀作。リメイクされてもいるし、知名度からしてヒッチコックの代表作のひとつだろう。
この映画のおもしろさのひとつは、奥さんを殺害しようとした旦那(レイ・ミランド)の計画が失敗に終わるにもかかわらず、旦那はその失敗を逆手にとって、見事奥さんを窮地に陥れてしまうという展開にある。そこからさらに二転三転するプロットの巧みさには感心させられた。単なるサスペンスというだけではなく、ミステリならではの謎解きのおもしろさも味わえるし、有名なだけあって、さすがによい作品だと思う。
出演者もなかなか豪華。『失われた週末』のレイ・ミランド、『泥棒成金』のグレイス・ケリー、『逃走迷路』のロバート・カミングスが共演。警部役のジョン・ウィリアムズ(高名な映画作曲家とは別人)も『泥棒成金』や『サブリナ』(運転手のフェアチャイルド役)に出演している人だった。
(Nov 13, 2005)
アマデウス
ミロス・フォアマン監督/F・マーレイ・エイブラハム、トム・ハルス/1984年/アメリカ/DVD
いまさら説明の必要もない、アカデミー賞8冠に輝くモーツァルトの伝記映画。
仰々しくて笑えない映画という先入観を持っていたせいで、僕の趣味からは外れた作品のような気がしていたのだけれど、なぜだか突然、妙に興味をひかれて、観てみようという気になった。そうしたらさすがにアカデミー賞のお墨付きだけあって、やはりこれは傑作だった。モーツァルト(トム・ハルス)の人間性に反発を感じつつ、その圧倒的な才能に惹かれずにはいられない凡人サリアリ(F・マーレイ・エイブラハム)の苦悩が、絢爛豪華な映像の中で、ほの暗い炎のように揺れ動いている。
(Nov 13, 2005)
舞台恐怖症
アルフレッド・ヒッチコック監督/ジェーン・ワイマン、マレーネ・ディートリッヒ/1950年/イギリス/DVD
新米女優のイヴ(ジェーン・ワイマン)は、思いを寄せる男性ジョナサン(リチャード・トッド)が大女優シャーロット(マレーネ・ディートリッヒ)に殺人の濡れ衣を着せられたことに憤慨。彼の無実を証明しようとして、シャーロットのメイドを買収し、代わりに働き始める。ところが事件の担当刑事スミス(マイケル・ワイルディング)と仲良くなってしまい、メイドに化けていることを隠すため、四苦八苦することに。
イヴの父親役、アラステア・シムが頼りになりそうな、ならなさそうな、どちらとも言えない中途半端な感じで、いい味を出している。こういうタイプの父親になるのもいいかなと、ちょっと思ったり……。一児の父の感想でした。
(Nov 23, 2005)
シザーハンズ
ティム・バートン監督/ジョニー・デップ、ウィノナ・ライダー/1990年/アメリカ/DVD
ティム・バートン&ジョニー・デップの出世作。DVDが安くなってついに千円を割ったので購入。ひさしぶりに観た。いや、そうしたらば、これが思っていたよりも感動的で、つい涙しそうになっている僕がいたりした。
昔からティム・バートンは好きだけれど、ちょっと幼稚すぎやしないかと思わされることもしばしばだった。この作品も「手がハサミ」という荒唐無稽なアイディアに、以前はちょっとばかり絶賛するのをためらってしまうところがあった。でも、年をとった分、そうした子供っぽさを素直に受け入れられるようになったような気がする。おもしろかった。
キャスティングで意外だったのが、母親役が『ハンナとその姉妹』で妹の片方を演じたダイアン・ウィーストだったこと。年をとって随分と雰囲気が変わっているので、まったく気がつかなかった。その他におもしろいところだと、隣人の役で『Xファイル』にゲスト出演していた女優さんが二人も出演している。『呪文』(セカンド・シーズン)のスーザン・ブロムマートと、『整形』(シーズン4)のオーラン・ジョーンズ。
(Nov 23, 2005)