2005年5月の映画
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ターミナル
スティーヴン・スピルバーグ監督/トム・ハンクス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ/2004年/アメリカ/DVD
とある理由で東欧のクラコウジアからニューヨークにやってきたビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス)は、祖国がクーデターにより消滅してしまったため、アメリカへの入国を拒否され、それどころか、なんと帰る国もなくなってしまう。おかげで彼はJFK国際空港の乗り換えロビーに閉じ込められたまま、いつ来るかわからない自由の日を待ち続けることになる。
この映画の一番の失敗は、ジャズを重要な小道具として使っているにもかかわらず、映画音楽としていない点にあると思う。エンドクレジットを見ながら、なんでここでジャズがかからないんだろうと、僕は残念でならなかった。あそこで普通に交響楽を聞かされてもなあ……。こういう映画はどうせならばイーストウッドかウディ・アレンに監督して欲しかった。二人ともあまり撮りたがりそうにないけれど。
物語的にも、終盤になって
まあ、トム・ハンクスの演技はあいかわらず見事だし、キャサリン・ゼタ=ジョーンズはとても綺麗だ。彼らを見るための作品だと割り切れば、そんなに悪い映画じゃないかもしれない。
(May 01, 2005)
ア・グレイト・デイ・イン・ハーレム ~57人のジャズミュージシャンの肖像~
ジーン・バック監督/1994年/アメリカ/DVD
スピルバーグの 『ターミナル』 で注目を浴びたジャズ・ミュージシャンたちの集合写真がいかにして撮られたかを回顧しつつ、当時のミュージシャンたちの人となりを紹介するドキュメンタリー・フィルム。編集も洒落ているし、なにより多くのミュージシャンの演奏を映像つきで見られるのがいい。ジャズは門外漢の僕でもとても楽しむことができた。いや、もしかしたら門外漢だからこそ楽しめたのかもしれない。大好きな人だったらば、ひとりひとりの持ち時間の短さに欲求不満がたまったりするかもしれないから。そうした意味で残念なのが60分という短さ。この倍の長さがあってもよかったと思う。だからDVDに45分のメイキングがついているのはとても嬉しい。
(May 08, 2005)
バード
クリント・イーストウッド監督/フォレスト・ウィテカー、ダイアン・ベノラ/1988年/アメリカ/DVD
酒とドラッグで身を持ち崩し、34歳で
このところそれなりにジャズを聴くようになった僕だけれど、なぜかチャーリー・パーカーとは縁がない。ビバップの中心人物ともいうべき人のようだし、関心がないわけではないのだけれど、この人の場合はディスコグラフィを見ても「これを聴け!」みたいな決定打となるようなアルバムはないみたいなので、なにから聴いていいのかもわからないまま、聴きそびれている。そういう意味ではこの映画で使われている音源はすべてオリジナルなのだろうから、これが僕のチャーリー・パーカー初体験となったわけだ。でもまあ、映画ですからね。物語や映像に気を奪われる分、音楽自体に対してこれといった強い印象は受けなかった。
ロック・ファンの僕にとって、この映画でもっとも興味深かったのは、最後の方の、チャーリー・パーカーがロックン・ロールと初めて接するシーン。すっかりジャズがすたれ、かつてのクラブではロックン・ロールなる新しい音楽(ここでのロックン・ロールはロックというよりR&Bだけれど)が演奏されているのを見たパーカーの、「いったいなんなんだ、この単純な音楽と熱狂は」とでもいうような愕然とした表情が印象的だ。ロックは好きになれないと言い切るイーストウッド自身の思いが見てとれる。
実際、僕もここのところずっとジャズを聴いていて、これと比べるとロックって随分とシンプルな音楽だなあと思うことがある。だからといって、それじゃ駄目だとは思わないし、そう思ってもなお──というか、だからこそ──僕はロックが大好きなのだけれど。
(May 10, 2005)
ソウル・オブ・マン
ヴィム・ヴェンダース監督/2003年/アメリカ/DVD
『ザ・ブルース』 その3。ブラインド・ウィリー・ジョンソン、スキップ・ジェイムズ、J.B.ルノアーという、僕なんかにはまるで馴染みのない三人のブルース・マンにスポットをあてつつ、彼らの楽曲をルー・リード、ボニー・レイット、ベック、ニック・ケイヴ、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン、ルシンダ・ウィリアムス、カサンドラ・ウィルソンらのミュージシャンたちにカバーしてもらうという、贅沢きわまりない秀作ドキュメンタリー。
ヴィム・ヴェンダース、だてにロック・ミュージシャンと親交を温めちゃいない。最初の二人の体験を再現した映像もいいし──ブルースが宇宙へ打ち上げられたという導入部から最後まで引っぱる衛星のCG映像はちょっとチープかなと思うけれど──、とにかく話の筋道がはっきりしている分、これまでの三作の中では一番おもしろかった。
(May 10, 2005)
失はれた地平線
フランク・キャプラ監督/ロナルド・コールマン、ジェーン・ワイアット/1937年/アメリカ/DVD
第二次大戦中の中国から民間人を退去させる任を担ったイギリス外交官ロバート・コンウェイ(ロナルド・コールマン)。彼と数人の乗客を乗せて飛び立った飛行機が、謎の中国人パイロットにハイジャックされる。機は目的地の上海とは反対の方向へと向かい、結局燃料を切らして吹雪の山中へと不時着。絶体絶命と思われた一行の前に現れたのは、秘境シャングリラの住人たちだった。
この作品、壮大な戦場シーンや雪山ロケが敢行されているだけでなく、主要な登場人物を除くと、その他のほとんどがアジア人であるため、フランク・キャプラの作品としては、かなりの異色作という印象がある。それでもキャプラはキャプラ。舞台や設定はイレギュラーでも、底辺を流れる人道主義的なメッセージは変わらない。今回もとても楽しませてもらえた。
このDVDでおかしいのが、オリジナル版から失われたシーンを静止画で再現した部分。いきなり場ちがいな静止画が表示されて、セリフだけで物語がすすんでゆくのはちょっと滑稽だ。オリジナル版をできる限り忠実に再現しようという姿勢は素晴らしいけれど、できればオプションで静止画のシーンを飛ばしたバージョンでも見られるようにしておいて欲しかった。
それはそうとこのDVD、パッケージが変。これを見たら誰だって、表紙の二人──おそらくジョン・ハワードとマーゴという人たち──が主人公だと思うだろう(実際には両方とも脇役)。主役でもない二人をこんなにどーんと前面に出したパッケージというのはかなり珍しい。どういう人がどういうつもりでデザインしたのか不思議に思う。まあ、ソニー・ピクチャーズのこの手のシリーズのパッケージは、どれも「とってつけたような」という形容の具体例みたいなものだから、どうしてと問うだけ無駄な気もするけれど。
(May 15, 2005)
キンダガートン・コップ
アイヴァン・ライトマン監督/アーノルド・シュワルツェネッガー、ペネロープ・アン・ミラー/1990年/アメリカ/BS録画
ピーター・ラヴゼイの作品のタイトルにもなったキーストン・コップは、無声映画時代のドタバタ・コメディに出てくる警官隊のことだそうだ。この映画のタイトルはどう考えてもその語呂合わせ。警官がキンダガートン(=幼稚園)の先生になったらおもしろかろうというワン・アイディアをただ膨らませただけという内容の作品で、物語には意外性というものがあまりないし、ご都合主義であふれかえっている。
ただこの手の映画に対してそんなことについてケチをつけるのは野暮ってもの。物語は意外性がないからこそ安心して楽しめるし、主演のシュワルツェネッガーはマッチョな印象に反してさわやかなハンサムマンでそれなりに魅力的だ(でも悪役の時ほどの存在感がないのが本人も不本意なんじゃないだろうか)。
子供に軍隊的教育を施しちゃう先生ってのはどうなんだとか、息子の前で実の父親を射殺しちゃうのはまずくないかとか。そういう教育的見地からすると微妙な問題を棚上げして楽しんでしまえる人向けの娯楽作品だと思う。2、3ヶ月前まで幼稚園児の父親だった僕としては、笑いつつも若干の引っかかりが残る部分もなくはなかったけれど、それでもまあ、それなりに楽しめる映画ではあった。
(May 23, 2005)