2005年3月の映画
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ドラムライン
チャールズ・ストーン三世監督/ニック・キャノン/2002年/アメリカ/DVD
TLCやジャネット・ジャクソンのプロデュースで有名な売れっ子プロデューサー、ダラス・オースティンが、自らの経験をもとにして映画化の企画を持ち込んだことから生まれたという作品。才能ある青年が挫折を乗り越えて成長してゆき、ライバルに打ち勝つまでを描くという、典型的な青春映画だ。
舞台となるのは大学のマーチング・バンド部。これが音楽部にもかかわらず、完璧に体育会系なところにこの映画のおもしろさがある。アメフトのハーフタイム・ショーなんかで観客をにぎわすのが役目の人たちだから、単に演奏ができるだけではなく、見た目でも観客にアピールできなければならない。チーム全体で意思統一の取れたパフォーマンスを実現するべく、彼らは運動部と変わらない過酷な練習の日々を送っている。新入生として入学してきた主人公デヴォン(ニック・キャノン)は、最初のうちはまったくドラムに触らせてさえもらえない。この作品で描かれる大学のマーチング・バンドという馴染みのない世界のあり方には、なかなか興味深いものがあった。
ジャンル分けをすると音楽映画の部類に入るにしては、基本的に音楽自体にはそれほど感動的ではない。マーチング・バンドの演奏というものは実際に見てなんぼ、というものだと思うし(家にいてレコードで演奏を聞きたいと思う人はあまりいないだろう)、それゆえにクライマックスのパフォーマンスに到っても怒濤の感動が押し寄せてきたりはしない。「あれ、こんなもの?」という感じで、純粋な音楽的な感動を求めてしまうと肩透かしを食う感がある。こと演奏シーンの盛り上がりにかけては、似たようなタイプの映画で言うならば、 『天使にラブソングを2』 の方が上だと思う。これはどちらかというと音楽映画というより、スポ根・青春映画として見るべき作品だ。ま、ごちゃごちゃとジャンル分けを考えたりせず、一人の天才黒人ドラマーの青春の一ページを楽しめればそれでいいんだろう。僕は基本的にこの手の映画は大好きなので、十分に楽しませてもらった。
(Mar 06, 2005)
黄金
ジョン・ヒューストン監督/ハンフリー・ボガート、ウォルター・ヒューストン、ティム・ホルト/1948年/アメリカ/DVD
ダンディという言葉が「お洒落な」という意味ならば、僕はハンフリー・ボガートをぜんぜんダンディだとは思わない。当時はどうだったか知らないけれど、今の僕にとっては特別おしゃれだったり、格好良かったりは感じられない。ただし、それはダンディだの、格好いいだのと言った言葉がその人のイメージにマッチしないというだけであって、かの人に魅力を感じないということではない。どちらかというと僕はハンフリー・ボガートという俳優さんが好きだ。どこがどうと上手く説明できないんだけれど、この人っていいなあと思わせる魅力が確かにあると思う。
そんなハンフリー・ボガートを主演に、砂金探しに身を滅ぼす男たちの姿を描くこの作品は、いまでならばタランティーノやコーエン兄弟に通じる無常感のあふれる好作品だった。映像や演出は古いし、欲望に流されるキャラクターの造形も一本調子かなという気はするけれど、それらを補ってあまりある現代的なやる瀬なさを僕はこのドラマに感じた。
すでに 『マルタの鷹』 や 『カサブランカ』 でゆるぎない名声を築き上げたあとのボガートが、この映画みたいな救いようのない役を買って出たというのもすごい。ボガート演じるドブズのあまりに意外な最後にはあっけにとられてしまった。メインキャストに女性が一人もいないというのも珍しいし、なんとも硬派な怪作だった。
(Mar 06, 2005)
あなたに降る夢
アンドリュー・バーグマン監督/ニコラス・ケイジ、ブリジット・フォンダ/1994年/アメリカ/BS録画
実話を題材にして制作されたという、フランク・キャプラ・タッチのロマンティック・コメディ。
金より愛と正義だという底抜けにお人よしの主人公といい、主人公たちの奇行を報じる新聞の一面記事を小道具として使ってみせる演出といい、まさにキャプラのスタイルを真正面から踏襲した作品なのだと思う。出来に関しては若干雑な感じを受けてしまう部分もあったけれど、まあいい。基本的に僕はこういう作品が大好きだ。
それにしてもこの作品、ひとつ前に見た 『黄金』 とは見事に好対照。かたや黄金に目がくらんで正気を失う男の話で、かたや大金を投げうって愛に生きるカップルの話。どちらが健全かは疑うまでもないのだけれど、それでいて現代では後者の方が奇特なことに映ってしまうような……。いずれにせよ映画の評価の上では前者が圧勝だ。それもまあ致し方ない。僕はどちらかというとこっちの方が好きだけれど。
それにしても 『あなたに降る夢』 という邦題は勘弁して欲しかった。意味はわからなくはないし、原題が "It Could Happen to You" ではすんなりとタイトルをつけにくいのはわかるけれども。これではちょっとばかり気恥ずかしくていけない。
(Mar 08, 2005)
ウェディング・シンガー
フランク・コラチ監督/アダム・サンドラー、ドリュー・バリモア/1998年/アメリカ/BS録画
きたきたきた~。またもや80年代を舞台にしたロマンティック・コメディだ。しかも主人公が結婚式でのアトラクションを専門とするボーカリストということで、全編に音楽が満載だ。あの時代にヒット・チャートを賑わした懐かしいポップ・ミュージックが延々と鳴り続ける。主人公のバンドにはボーイ・ジョージのパロディみたいなメンバーまでいて笑いを誘う。
最初はくどい映画だなあ、勘弁して欲しいなあと思って見ていたのだけれど、そのうちにそのくどさがだんだん気持ち良くなってきてしまった。おおっ、次はなにを聞かせてくれるんだ、みたいな。でもってクライマックスに登場するのはビリー・アイドルご本人だ。十歳以上サバを読んで自分自身の役でご登場だ。いいなあ、この人。普通出ないぞ、こんな映画。自分で自分をパロディにしちゃう思い切りの良さが素晴らしい。
主演のアダム・サンドラーという人は 『サタデー・ナイト・ライブ』 出身のコメディアンだとのことで、まあだから全編通して深刻な雰囲気はほとんどない。彼の
とか思って調べたらこの映画のDVD、廉価盤が出ていなくて、5年前にリリースされたものが今でも定価6,300円で売っている。いくらDVDが普及し始める前だからって、こんな作品にその価格設定っていったい……。あまりに吹っかけ過ぎていて、ある意味じゃ映画本編よりも笑える気がする。
(Mar 08, 2005)
理由
アーネ・グリムシャー監督/ショーン・コネリー、ローレンス・フィッシュバーン/1995年/アメリカ/BS録画
この映画、無実を主張する黒人死刑囚を救うために乗り出した大学教授役のショーン・コネリーが、レクター博士みたいな服役中のシリアル・キラー(エド・ハリス)と渡り合ったりしつつ、事件の謎を追ってゆく中盤までは結構いい感じだったりする。
ところがそのあとに思わぬどんでん返しが仕掛けてあって、その仕掛けがそれまでに築いてきた作品の世界観をだいなしにしてしまっている。前半はミステリタッチのリーガル・サスペンスという感じなのだけれど、終盤はサイコ・ホラーか、バイオレンス・アクションかといった調子で、全体としてなにを描こうとしていたのかかさっぱりわからない。
言ってみれば、 『羊たちの沈黙』 や 『セブン』 を髣髴とさせるモチーフを扱いながら、変に欲張って余計なひねりを加えた上に、商業主義に流されて、収拾がつかなくなってしまったという印象の作品だ。観る価値がないというほどひどくはないけれど、観てよかったとも思えない。差別問題を含んだ重いテーマを扱いながら、終盤それを放り出して安直なハリウッド的娯楽路線に走ってしまったシナリオは、考えようによっては最低だとも言える。死刑囚の祖母役で出演したルビー・ディーが泣いているよ、きっと。
とりあえず今や格好いい老人の代表という風格のあるショーン・コネリーはいい感じだし、エド・ハリス(って誰だったっけって感じだけれど)演じるサイコ・キラーもなかなかの迫力だ。 『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』 でヒロインを演じたスピルバーグの奥さんケイト・キャプショーが、ここではショーン・コネリーの奥さん役で出演している。
(Mar 09, 2005)
第三の男
キャロル・リード監督/ジョセフ・コットン、オーソン・ウェルズ/1949年/イギリス/BS録画
調べてみればグレアム・グリーンの原作を読んでから、はや三年。ようやくこの白黒映画の古典を見る機会を得た。
とはいっても記憶力がないので、小説の方は既に内容をほとんどおぼえていなかったりする。ペニシリンと地下水道にまつわるエピソードがおぼろげに記憶の隅にあるくらいで、ストーリーなんてまるでおぼえがない。今回この映画を観て、初めてタイトルの意味がわかったくらいのおトボケぶりだ。本を読んでいる意味がない気がする。やれやれ。
この映画で一番感心したのは、人になつかないというヒロインの飼い猫が、暗闇に潜む謎の人物の足元にたわむれるシーン。この場面の演出は完璧だと思った。「第三の男」の正体を知らないで観ていたら、お、これはと思うだろうし、知っているならいるで、お、いよいよ出てくるぞというワクワク感をかきたてられる。実に見事だ。
その直後のオーソン・ウェルズが初めてスクリーンに姿をあらわす場面もすごくいい。真っ暗闇の中を照らし出すサーチライトの中に、彼の顔だけがくっきりと浮かび上がる。ひゃー、こりゃ格好いい。光の使い方が絶妙だと言われる
それはそうと、僕はオーソン・ウェルズという人とはまったく馴染みがなく、知っているのは昔、英語教材の新聞広告に使われていた髭面のおじさんの顔だけだったから、この映画の彼の若い姿にはびっくりしてしまった。それと主演が 『疑惑の影』 のあやしい叔父さん役のジョセフ・コットンだったのも、ちょっと意外だった (失礼ながら、この人が主演を任されるタイプの俳優さんだとは思っていなかったので)。個人的にはこの二人よりも警察のキャロウェイ少佐を演じるトレヴァー・ハワードという人の演技が好きだったりした。
(Mar 12, 2005)
トレインスポッティング
ダニー・ボイル監督/ユアン・マクレガー/1996年/イギリス/LD
僕は注射が大嫌いで、自分が打たれるのはもとより、人が打っているのを見るのも嫌という意気地のない人間なので、ヘロインをやる人間の気持ちがまったく理解できない。どんなに気持ちがよかろうと、注射が関与する時点で僕はノーサンキュー。やりたいやつは勝手にやってくれと思う。
とにかくそんな僕にとっては、ユアン・マクレガーがヘロインを打つシーンだらけのこの映画は、出来がどうとかいう以前に、生理的に楽しめない類いのものだった。ロック・ファンとして気になっていた作品だけに、楽しめなくて残念だ。映像や演出には昨今のイギリスらしさのようなものが感じられて、印象は悪くなかったので、とりあえず次はこの監督の、ジャンキーが主人公じゃない作品に期待したいと思う。
それはそうと、この映画には主人公のレントンがそうと知らずに高校生と寝てしまって、「しまった犯罪だ」と青くなるエピソードがある。アメリカの物語にもよくある話だけれど、英米には未成年との性交渉が罰せられるという法令があるんだろう。日本も援助交際なんかを問題にするのならば、ちゃんとそういう法律を作るべきじゃないんだろうか (追記:その後、できたんでしたっけ?)。
(Mar 12, 2005)