2004年3月の映画
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17歳のカルテ
ジェームズ・マンゴールド監督/ウィノナ・ライダー、アンジェリーナ・ジョリー/1999年/BS録画
舞台は60年代のアメリカ。高校卒業後に睡眠薬で自殺未遂を冒し、精神病院の思春期少女病棟に入院することになったスザンナ(ウィノナ・ライダー)は、そこで脱走の常習犯リサ(アンジェリーナ・ジョリー)と出逢う。彼女は仲間を引き連れて深夜の病院内を探検して回るような型破りの少女だった。スザンナは境界人格障害との診断を下されつつ、リサたちとの交流に今までにない安らぎを見出し始める。
スザンナ・ケイセンという女性作家の回顧録に惚れこんだウィノナ・ライダーが、自ら製作総指揮をとったという作品。時代設定が近いこともあり、先週見た 『今を生きる』 の少女版みたいな印象だった。どちらも拘束の厳しい環境における若者たちの話、という構造が似通っている上に、仲間の自殺というエピソードが重なる。ただ、こっちは精神病院の話なだけあってその分の重みがある。だからというわけではないけれど、僕はこちらの方が好きだった。
アンジェリーナ・ジョリーの映画を見るのはこれが初めて。なるほど、この作品でアカデミー賞助演女優賞を獲得したというだけあって、なんとも迫力のある演技を見せてくれている。こんな子が近くにいたら結構びびっちゃうかもしれない。なんにしろ、とても格好のいい女の子だった。いずれ 『トゥーム・レイダー』 も見よう。
あとびっくりしたのがブリットニー・マーフィ。ぽっちゃりしちゃって 『8 Mile』 でのスレンダーな印象とはぜんぜん違う。あまりに違うので、不覚にもエンド・クレジットを見るまで出ていたことに気がつかなかった。けっこう重要な役だというのに、なってないなあ。
この二人に劣らず、二十代後半にして十代の役を違和感なく見せてしまうウィノナ・ライダーもある意味すごいと思うし、この三人の女の子が共演しているというだけで十分見る価値のある映画だと思う。ちょっと邦題はひどいけれど。
(Mar 01, 2004)
エビータ
アラン・パーカー監督/マドンナ、アントニオ・バンデラス/1996年/BS録画
アルゼンチン大統領夫人エヴァ・ペロンの生涯を題材にしたブロードウェイ・ミュージカルの映画化。庶子として生まれながら様々な男性遍歴をかさねてのしあがり、ついにはアルゼンチン大統領夫人となって国民の熱狂的な支持を受けつつ、わずか三十三歳にしてこの世を去った伝説の女性をマドンナが熱演している。
それにしても、これほど徹底的に音楽しかないミュージカルは初めてだ。とにかく普通のセリフがほとんどない。全編、音楽が途切れることなく続いている。で、それが交響楽などではなく、普通のロック・ミュージック中心なせいもあって、なんだか超絶的なボリュームのミュージック・クリップを見ているような気分になる映画だった。そういう意味では普通の映画ファンよりもマドンナのファンの人のほうが楽しめそうな気もする。
個人的には全体的に生真面目な印象が強過ぎて、悪くはないと思いつつも、あまり入れ込めなかった。音楽的にもちょっとばかり凡庸。狂言回しの役であちこちに登場するアントニオ・バンデラスのどことなくユーモラスな存在感に救われた。
(Mar 06, 2004)
アニー・ホール
ウディ・アレン監督・主演/ダイアン・キートン/1977年/BS録画
「僕を会員にするようなクラブには入会したくない」と語る離婚歴二回のシニカルなユダヤ人コメディアン、アルビー・シンガー(ウディ・アレン)。彼と恋人アニー・ホール(ダイアン・キートン)との関係を軸に、人生の悲哀(みたいなもの)を、メタ・フィクショナルな演出を差し挟みつつ、独特の饒舌さでもって描いてみせた作品。
ここへ来てウディ・アレンの作品を二本続けてみたわけだけれど、この人の作品というのはいまひとつ評価しにくい。悪くはないと思うんだけれど、かといって入れ込めもしない。言葉に対する鋭敏さや奇抜な表現手法、シニカルなユーモア・センスなど、僕の普段の趣味からすれば積極的に評価してしかるべきだと思うテイストで溢れているにもかかわらず、いまひとつ入れ込めない。本当になぜだろうと思う。全体的に鮮烈さに欠ける印象の映像のせいだろうか。一旦はまったらのめり込まずにはいられなくなりそうなタイプの人だけに、ちゃんと味わい切れていない感じがして残念だ。
なんにしろウディ・アレンという人には人を見る目があるらしい。この映画にも 『エイリアン』 のシガニー・ウィーバーや 『インデペンデンス・デイ』 のジェフ・ゴールドブラムなど、その後有名になる個性的な俳優たちが多数ちょい役で出演している。そんな中に混じって胡散臭い音楽プロデューサー役でポール・サイモンが出演していることにも驚かされた。
(Mar 07, 2004)
サイダーハウス・ルール
ラッセ・ハルストレム監督/トビー・マグワイア、シャーリーズ・セロン、マイケル・ケイン/1999年/BS録画
産婦人科医のラーチ(マイケル・ケイン)が運営する孤児院で育ったホーマー(トビー・マグワイア)は、その孤児院で最年長の好青年。院長の助手を務めながら成長し、無免許ながらその道では一流の技術を身につけている。けれど非合法の堕胎手術に携わる恩師の行いを快く思っていない彼は、産科医という職業に対して懐疑的だった。ある日、中絶を望んで新たなカップルが到着する。ホーマーは自分と同年代のこの二人、ウォーリー(ポール・ラッド)とキャンディ(シャーリーズ・セロン)とともに孤児院を離れる決意をする。そしてウォーリーの家族が営むリンゴ園に住み込み、季節労働者の黒人たちに混じって働き始めるのだった。
ジョン・アーヴィングが自ら脚本を手がけ、紆余曲折を経て映画化にこぎつけた作品。その辺の顛末は彼のエッセイ集 『マイ・ムービー・ビジネス』 に詳しい。
『マイ・ムービー~』 にも説明があったと思うのだけれど、この映画化に際しては原作の後半部分におけるもっとも重要なエピソードをごっそりと切り落としてある。またメアリー・アグネスがホーマーを追って旅に出るという、これまた結構重要なサイドストーリーも割愛されている。原作者自身が脚本を書いているのだし、それだけ削ってなお二時間を越えているのだから、適切な処置だと言えるんだろう。でも個人的にはそれらがなくなったことで、恋愛映画としての印象が強くなってしまい、アーヴィング作品の持つ、人生を丸ごとパッケージして見せた、みたいなボリューム感が薄れてしまった気がしてちょっとばかり残念だった。
シャーリーズ・セロンが最新作 『モンスター』 でアカデミー賞の主演女優賞を獲得したのは、はからずも僕がこの映画で初めて彼女を見た週のはじめのことだった。話題の女優さんがタイムリーに見られて、ちょっと得をした気分になった。
(Mar 10, 2004)
ウエスト・サイド物語
ロバート・ワイズ&ジェローム・ロビンズ監督/ナタリー・ウッド/1961年/BS録画
ポーランド系(?)の不良グループ、ジェット団の仲間だったトニー(リチャード・ベイマー)が、プエルトリコ系移民からなるシャーク団のボスの妹マリア(ナタリー・ウッド)と唐突で熱烈な恋に落ちる。ニューヨークのバックストリートを舞台に 『ロミオとジュリエット』 的な悲劇を描く超有名ミュージカル。
ここへきて密かにミュージカル好きを自認している僕だけれど、これは駄目だった。今回集中的に見た映画の中でもとりわけ馴染めなかった。ベタベタな恋愛ドラマを、さえない若者たちのダンスと、全体的にたいしてうまいとも思えない歌と、時代遅れのファッションで彩って見せられてもなあ。同じ監督の作品にもかかわらず、 『サウンド・オブ・ミュージック』 とは違って見事に風化していると思う。リアルタイムにこれを観たというのならばともかく、いまどきこの映画が好きだというような若者とは、多分なかよくなれない。
(Mar 10, 2004)
恋におちたシェイクスピア
ジョン・マッデン監督/ジョセフ・ファインズ、グウィネス・パルトロウ/1998年/BS録画
舞台は十六世紀のイギリス。風紀を乱すという理由で女性が舞台に立つことが禁止されていたこの時代に、演劇に憧れる貴族令嬢のヴァイオラ(グウィネス・パルトロウ)は大胆にも、男性に扮してシェイクスピアの劇団のオーディションを受けにゆく。折りしもシェイクスピア(ジョセフ・ファインズ)は最新“喜劇” 『ロミオと海賊の娘エセル』 の筆が進まないで困っていた。物語の展開として当然の如く、彼らは熱烈な恋に落ちる。けれども身分違いの関係が実るはずもなく、二人が出逢ったのとほぼ時を同じくしてヴァイオラの結婚が決まってしまう。作者自らの想いを反映したシェイクスピアの新作は、これを機に喜劇から記念碑的悲劇へと姿を変えてゆくのだった。
これも実にいい映画だった。コミカルでセクシャルでサスペンスフル。重厚でいて軽妙。なんとも滋味溢れる見事な作品だと思う。 『ピアノ・レッスン』 といい、この作品といい、こうした優れた作品を見当違いの先入観で敬遠していたなんて、もったいないことをしたもんだ。やはり名立たる賞を取るような映画はおもしろい(まあ中には 『ウエスト・サイド物語』 のように、個人的にまるで駄目という例外的なケースもあるけれど)。これに懲りて評判のいい映画は変な先入観を持たずに見ることにしようと思った。
作品の最後に、ヴァイオラというのは 『十二夜』 の登場人物の名前だというエピソードが紹介されるけれど、そのキャラクターというのが男装の女性なのだそうだ。(おそらく)そこからこの映画のプロットを思いついたのだろう脚本家のアイディアには脱帽もの。グウィネス・パルトロウは男装のショートカットの時の方が可愛いと思う。
(Mar 10, 2004)
AKIRA
大友克洋監督/岩田光央、小山茉美/1988年/DVD
謎の大爆発により東京が崩壊してから三十年。急速な復興を遂げつつあるネオ東京では健康優良不良少年金田をリーダーとする暴走族が夜ごと街を騒がせていた。
ある夜、対立グループとの抗争中に、仲間のひとり、鉄男がしわくちゃ顔の妙な子供を轢きそうになって事故を起こす。慌てる金田たちの前に現れ、子供と負傷した鉄男を引き取っていったのはアーミーだった。
この事件を機に、金田たちはアーミーの最高機密“アキラ”を巡る未曾有の騒動に巻き込まれてゆく。
日本マンガ史上に残る傑作SFコミックを原作とする、作者自身の監督による長編アニメーション映画。この映画を初めて観たのがどういうシチュエーションだったか、ぜんぜん覚えていないけれど、大学生の時のことだから、多分劇場へ観に行ったんだろう。少なくてもリアルタイムでは観ているはずだ。ただそれ以降に見直したことがあるかどうか記憶にないから、もしかしたら今回DVDで観たのが実に15年ぶりかもしれない。
映画が公開された当時はまだマンガの方は完結していなかった。こうしてマンガが完結してから十年もたって見直してみると、やはりナウシカ同様にマンガ版の圧倒的なスケールの前では映画は分が悪いように思える。また、両方ともマンガの緻密な線の魅力がアニメという表現の上で再現しきれていない点も同じだ。まあその分、色彩と動きや音響にどれだけ付加価値を見いだすかというのが、マンガとアニメの勝負の分かれ目になるんだろう。いずれにせよ本好きの僕にとって、もとよりアニメは分が悪いのだけれども。
僕がマンガと比べてこのアニメ版があまり好きになれないのは、多くのキャラクターがマンガより没個性になってしまっている上に、とにかく全編的に殺伐感が強いせいだ。マンガでは退廃的な空気の中にも、そんなものは笑い飛ばしてしおうとするユーモアがあふれていて、それが作品の大きな魅力のひとつとなっている。ところがこのアニメ版ではそのユーモアの部分がすっぽりと抜け落ちてしまっている。それがとても残念だ。
あと、この作品で一番ひっかかるのが声優で、とにかく僕は金田くんの声が駄目。もっと生命力あふれる、すっとぼけたしゃべり方のできる声優を使って欲しかった。26号たちの声にもかなり違和感を感じる。顔は年とってんのに声は変わらないってのはどうなのか。ちゃんと声もしわがれないと不自然な気がする(まあ基本的には彼らの存在自体が不自然なのだけれど)。
(Mar 21, 2004)
12モンキーズ
テリー・ギリアム監督/ブルース・ウィリス、マデリーン・ストウ/1995年/DVD
1997年、謎のウィルスによりおよそ50億人が死亡。わずか1%の生存者のみが地下に潜ってこの災厄を生き延びた。犯罪者ジェイムズ・コール(ブルース・ウィリス)は特赦を交換条件にウィルスの発生元を探る危険な任務を託され、タイムトラベルで最初の発病が伝えられる96年のフィラデルフィアへと飛ぶことになる。ところが間違って90年に飛ばされた彼は、未来から来たという発言から正気を疑われ、精神病院へ入れられてしまうはめに。コールはそこでのちに重要な関係を持つ二人の人物、精神分析医のキャサリン・ライリー(マデリーン・ストウ)と、精神病患者ジェフリー・ゴインズ(ブラッド・ピット)と出逢うことになる。
廉価版がリリースされたのを知って、なんとなく観たくなってしまい、再鑑賞することになった作品。キリンなんかがハイウェイを闊歩している映像以外はほとんど内容を覚えていなかったので、二度目に見るにしてはかなり新鮮だった。話も思っていたより複雑だったし。しかもストーリーを取り違えていて、エンディングを見誤っていたことを発見。このところの映画鑑賞ではそんなことが何度かあり、鑑賞眼のなさを露呈しているようでなんだか情けない。
それにしても最終的にコールを信じるようになったライリー博士だけれど、彼女のその後の人生は悲惨なことになりそうな終わり方をしていて、真剣に考えるとちょっとばかりあと味が悪いかもしれないと思った。
(Mar 28, 2004)
ウィズアウト・ユー
フィル・ジョアノー監督/スティーヴン・ドーフ、ジュディット・ゴドレーシュ/1999年/BS録画
U2のミュージック・ビデオなどを手がけてきた映画監督のジェイク(スティーヴン・ドーフ)は、劇場版デビュー作の製作を開始すると同時に、モデルのステラ(ジュディット・ゴドレーシュ)と熱烈な恋に落ちる。ところが撮影ではプロデューサーたちとの衝突してばかり、ステラとの関係も彼女の妊娠がきっかけとなって破局へ向かってしまう。
監督自らの実体験を下敷きにしたという恋愛映画。監督のフィル・ジョアノーという人は 『U2魂の叫び』 の監督をした人なのだそうだ。ということでU2のボノを始めとしたメンバーがそのまま本人として出演している。しかもただ出演しているだけではなく、物語のなかでU2のライブが大きな役割を果たしているのが意表を突いていてとてもおもしろい。ここでのライブは 『ポップマート・ツアー』 の時のもので、音がやたらとダンサブルなのに驚かされた。あの頃のU2ってこんな音だったのか。すっかり忘れてしまっている自分の記憶力のなさが悲しい。
なにはともあれこの映画、舞台はショービズ業界で、主人公のカップルは映画監督とファッションモデルと、道具仕立てはまるでひと昔前のトレンディードラマみたいだ。でもそのわりにはまったくちゃらちゃらしたところのない(そんなことないって思う人もいるのかもしれないけれど)、意外なほど真っ当な恋愛映画だった。僕としてはかなり気に入った。いずれまた観たいと思う。
ちなみにこの映画、原題は 『エントロピー』 という。あいかわらず邦題のつけ方は嫌になるほどイージーだ。
(Mar 31, 2004)